目次
準備:糸立て(スプールピン)とスプールキャップの選び方
均一に巻けたボビンは、縫い目品質の「心臓部」です。パッチワークでも、brother 刺繍機能付きミシンで刺繍データを走らせる場合でも、1針ごとに下糸が土台になります。ここが不安定だと、仕上がりも不安定になります。
このセクションでは「とりあえず巻ければOK」から一歩進めて、テンション(糸の抵抗)とスプール形状の相性に注目し、Brother SA156ボビンをスムーズに糸が出る状態で巻くための手順に落とし込みます。

まず押さえる:ここで身につくこと(なぜ重要か)
ボビンがゆるく巻けてスポンジ状になったり、逆に締まりすぎて変形したりすると、「鳥の巣(針板下で糸が団子になる)」の大きな原因になります。ここでは手元の感覚と見た目の基準を揃えて、次を安定させます。
- 糸のほどけ方を制御する:引っ掛かりを作らない。
- キャップサイズを合わせる:振動と摩擦のムラを減らす。
- プレテンションを効かせる:形が崩れない“硬い”巻き上がりにする。
見落としがちな消耗品&事前チェック(省略しない)
糸に触る前に、最低限ここを揃えます。初心者ほど飛ばしがちですが、現場では時短に直結します。
- 正しいボビン規格:Brother SA156(Class 15)の透明プラボビンを使用します。
- 糸くず対策:小さめのナイロンブラシ(エアダスターは糸くずをセンサー側へ押し込みやすいので避けます)。
- 精密ピンセット:短い糸端をつまむ用(無理に指で奥を触らない)。
- スタビライザーの段取り:裏打ち(スタビライザー)も近くに。ボビンが完璧でも、生地の固定が弱いと仕上がりは崩れます。
注意: 機械的な安全。 巻き取り中は、指・髪・アクセサリー・ひも類をはずみ車や可動部に近づけないでください。回転中のボビンを指で止めようとせず、必ず停止操作で止めます。
スプールの向きとキャップ選び(糸切れの“静かな原因”)
動画では、水平ピンにスプールをセットし、糸が下側から手前方向へほどける向きにするよう説明しています。次に、スプールキャップはスプール外径に近いサイズを選びます。
なぜ重要か(スプールの挙動): 糸がスプールからほどけるとき、糸がふくらむように動きます。キャップが小さすぎると、スプール端の切り欠き(スリット)に毎回引っ掛かり、回転ごとに抵抗が跳ねます。
- 感覚チェック: 巻き取り中や縫製中に一定間隔の「カチッ…カチッ…」というリズム音が出たら、スプール端で引っ掛かっているサインです。すぐ止めて、キャップを大きいものに替えます。


準備チェックリスト(このセクションの終わり)
- 部材確認: Brother SA156の透明プラボビンを用意した。
- 清掃: ボビンワインダー軸に糸絡みがない(ブラシで除去)。
- 向き: スプールは糸が下→手前にほどける向きでセット。
- キャップ密着: キャップとスプールの間にすき間がない。
- 引っ掛かりテスト: 手で糸を少し引き出して、引っ掛かりなくスムーズ。
ボビン巻きのための糸掛け(プレテンション)
ここは「適度な抵抗(プレテンション)」を作る工程です。brother ミシンでは、糸がボビンに入る前にねじれを整え、均一に巻けるような経路になっています。
手順1 — ボビンをワインダー軸に確実に装着する
- 溝を探す: 透明ボビンの内側リムにある小さな溝(切り欠き)を見つけます。
- 位置合わせ: ボビンを軸に差し込み、溝が軸の金属バネ(スプリングクリップ)に合う位置までゆっくり回します。
- 押し込み: しっかり下まで押し込みます。
- 感覚の目安: 「コトッ」「カチッ」と座る感触が出ます。手でボビンだけが空回りして軸が動かない場合は、噛み合っていません。
期待される状態:ボビンが水平に座り、軸と一体で回転します。

チェックポイント:指で軽く回したとき、銀色の軸も一緒に回りますか? 回るならOKです。
手順2 — 巻き取り経路に糸を通す(ここで巻きの硬さが決まる)
- 糸の張りを作る: 右手でスプール付近の糸を持ち、ピンと張ります(フロスのように)。
- 糸案内フック: 左手で、番号付きの糸案内(多くは#1)のフックに下から掛けて通します。
- プレテンションディスク: 丸いガイドカバーの後ろを通し、最後にプレテンションディスクの間に確実に入るよう強めに引いて通します。
- 感覚の目安: ボビン側へ引くときに抵抗が出ます。抵抗ゼロでスルスル動くなら、ディスクの間に入っていません。
期待される状態:糸がプレテンションディスクに挟まれているのが目視でも分かります。


補足:ここが甘いと、巻き上がりが柔らかくなります。柔らかいボビンは高速運転時に糸が沈み、縫い目が乱れる原因になります。
巻き取り実行:SA156ボビンをきれいに巻くコツ
狙いは「工場出荷レベルの巻き」—均一で、端面がそろい、立ち上がりで絡みにくい状態です。brother 刺繍ミシン 初心者向けでも失敗しにくくなります。
手順3 — 手巻きで糸端を固定する(5〜6回)
- 手巻き: 糸を張ったまま、ボビンに時計回りで5〜6回手で巻き付けます。
- 理由: モーターが回り出した瞬間に糸端がほどけて暴れるのを防ぎます。
- カッターへ: 余った糸を、ワインダー台座の内蔵糸切りのスリットに入れます。
- 切る: 右方向へ強めに引いてカットします。
- 成功基準: 長い糸端が残らないこと。糸端が長いと軸に絡みやすくなります。
期待される状態:糸端が整理され、巻き取り開始の準備が整っています。


チェックポイント:プレテンションディスクからボビンまで、糸がまっすぐ通っていますか? 途中で外れていないか確認します。
手順4 — ワインダーを噛ませて自動停止まで巻く
- 噛み合わせ: ワインダー軸を右へスライドし、カチッと音がするまで入れます。
- 回す: スタート/ストップボタン(またはフットコントローラー)で巻き取り開始。
- 現場のコツ: 最初から踏み込まず、中速で最初の層がきれいに乗るのを確認してから安定速度にします。
- 停止: 満巻きになると自動で減速・停止します。無理に追加で巻かないでください。
期待される状態:上下が平らで、樽形や円すい形になっていない巻き上がり。


品質目安:巻いた糸を爪で押して、フワフワせず“しっかり硬い”感触なら良好です。
手順5 — 安全にボビンを外す
- 解除: ワインダー軸を左へ戻します。
- 糸を切って引き抜く: 糸を切り、ボビン本体を持って真上に引き抜きます(軸やホルダー側を引っ張らない)。
チェックポイント:固いときは工具でこじらず、軽く左右に揺すりながら上へ抜きます。
ドロップイン式ボビンの正しいセット方法
ドロップイン(上から落とす)タイプは便利ですが、糸の出る向きにシビアです。brother コンピューター刺繍ミシンでは、向き違いが下糸テンション不良の典型原因になります。
手順6 — ボビン周りを開ける(押さえは上げる)
- 押さえ上げ: 押さえ金を上げます。
- ラッチ操作: 黒いラッチを右へスライドし、透明カバーを外します。
- 点検: ボビンケース周辺(黒い円形部)に糸くずがあれば、ここでブラシ清掃します。
期待される状態:ボビンケースに手が届き、内部が確認できる。

手順7 — 「P」の向きで入れる(糸は左から出る)
- 向き確認: ボビンを持ったとき、糸が左側から垂れる向きにします。
- 見た目の合図: 糸端が「P」の形に見える向きが正解です(逆向きは不可)。
- セット: その向きのままボビンケースに落とし込みます。
期待される状態:糸を引くとボビンが反時計回りに回転します。

チェックポイント:糸を軽く引いて反時計回りに回るならOK。時計回りなら裏返して入れ直します。
手順8 — 下糸をテンション経路に収める
- 指で押さえる: 右手の人差し指でボビン上面を軽く押さえ、空回りを防ぎます。
- 溝へ入れる: 左手で糸を手前の溝(スリット)に入れます。
- テンションに通す: 左方向へ引きながら、ガイド溝に沿わせて通します。
- 感覚の目安: ケース内部の金属バネ(テンションスプリング)をくぐると、わずかな抵抗が出ます。
- 内蔵カッターで切る: カッター位置まで回して、強めに引いてカットします。
期待される状態:短い糸端が残り、針が拾える状態になります。


補足:指で押さえずに引くと、ボビンが回るだけでテンションスプリングの下に糸が入らないことがあります。その場合、下糸テンションが効きません。
手順9 — カバーを正しく戻す
- 左タブから: 透明カバーの左側タブを先に差し込みます。
- 右側を押して固定: 右側を押し下げ、カチッと嵌めます。
動画の補足:クイックセット機では、基本的に下糸を手で引き上げる必要はありません(特殊な手法・糸を使う場合は取扱説明書の指示に従います)。
期待される状態:カバーが針板とツライチで浮きがない。

縫い目品質を落とす「よくあるミス」
手順を覚えたら、次は判断力です。単純縫いからBrother 刺繍ミシンでの刺繍に移ると、許容範囲が一気に狭くなります。
ミス1 — スプールキャップを「だいたい」で選ぶ
小さいキャップを大きいスプールに使うと段差ができ、糸が跳ねてテンションが乱れます。
- 結果: 糸切れ、糸の毛羽立ち、縫い乱れ。
- 対策: キャップはスプール外径と同等〜わずかに大きめを選びます。
ミス2 — プレテンションに入っていないのに巻く(“幽霊テンション”)
手順2でプレテンションディスクに糸が挟まっていないまま巻くケース。
- 結果: 柔らかい巻き上がりになり、縫製中に糸が沈んで乱れやすい。
- 対策: 抵抗が出るまで、しっかりディスクの間に通します。
ミス3 — ボビンの向き違い(逆向きセット)
ボビンを逆向きに入れると、下糸テンションがかかりません。
- 結果: 上糸が下側へ引き込まれ、裏面に大きなループが出ます。
判断の分岐:素材/案件 → スタビライザーと段取り
ボビンが完璧でも、それだけで完成しません。もう半分は「生地の保持」です。
素材:標準的なコットン/織物
- ボビン: SA156。
- スタビライザー: ティアアウェイ。
- 枠: 標準の樹脂枠。
素材:ニット/伸縮素材/Tシャツ
- ボビン: SA156。
- スタビライザー: 伸び止め目的でカットアウェイ(メッシュ系)を優先。
- 枠: 標準枠は伸ばしやすく、シワ(パッカリング)のリスクが上がります。
- 改善案: マグネット刺繍枠(Magnetic Hoop)は生地を引っ張らずにクランプでき、枠張りのストレスを減らします。
案件:反復ロゴなどの量産
- ボトルネック: 2分縫うのに枠張りが5分かかると、段取り負けになります。
- 改善案: 刺繍用 枠固定台のような枠固定台の導入や、マグネット枠で枠張り時間を短縮します。
ツールのアップグレード判断(状況別)
- きっかけ: デリケート素材で枠跡(テカりのリング)が頻発する。
- 原因: 標準枠の内外枠の摩擦で繊維がつぶれる。
- 対策(段階1): 枠巻き(テープ等)で当たりを弱める。
- アップグレード(段階2): マグネット刺繍枠。横方向の摩擦ではなく、上下のクランプ力で固定するため枠跡を抑えやすい。
- きっかけ: 単針機で多色デザインの糸替えが負担になってきた。
- 原因: 単針は学習には良いが、色数が増えるほど段取り時間が増える。
- 改善案: 量が増えたら多針刺繍機の検討(色を同時に保持でき、作業が監視中心になる)。
注意: マグネットの安全。 マグネット刺繍枠は強力な磁石を使用します。指を挟むと強い痛みや内出血のリスクがあります。ペースメーカー等の医療機器、磁気媒体には近づけないでください。保管時は互いに吸着しないよう離して置きます。
トラブルシュート:症状 → 原因 → 対処
まずは低コスト・短時間で切り分けます。
| 症状 | 可能性が高い原因 | まずやる対処(低コスト) | 次の対処(中コスト) |
|---|---|---|---|
| ボビンの巻きがデコボコ | プレテンションディスクに糸が入っていない | 糸を掛け直し、ディスクに“挟む”感触を確認して巻き直す | ディスク周りの糸くず清掃/変形ボビンは交換 |
| 裏面にループが出る | 下糸テンションが効いていない(向き違い) | 「P」の向き(反時計回り)で入れ直す | ボビンケースの調整(上級者向け) |
| 巻き取り中にカチカチ音 | キャップが小さく、スプール端に引っ掛かり | キャップを大きいものへ | 別置き糸立ての使用 |
| ボビンカバーが閉まらない | 糸端の噛み込み/タブの入れ方違い | 糸くず除去、左タブから入れ直す | カバー破損なら交換 |
セットアップチェックリスト(このセクションの終わり)
- ボビン規格: SA156/Class 15(透明プラ)を使用。
- 装着: 溝が軸のスプリングに噛み、確実に座っている。
- プレテンション: ディスクに糸が挟まって抵抗がある。
- 向き: 「P」の向きでセットし、反時計回りに回る。
- 経路: ケースのテンション経路に通し、内蔵カッターでカットした。
運用チェックリスト(このセクションの終わり)
- 噛み合わせ: ワインダー軸を右へ入れてクリックした。
- 速度: 最初は中速で層を確認し、その後安定速度。
- 停止: 自動停止に任せ、満巻きに追い巻きしない。
- テスト: 本番前に端切れで直線縫い(バランス確認)。
- 清掃: ボビン3〜4個ごとにボビンケース周りをブラシ清掃。
まとめ
これで、ミスの少ない「下糸の標準手順」を手元で再現できるようになりました。Brother SA156ボビンは、①確実な装着、②プレテンションを効かせた巻き、③反時計回り(「P」)でのセット、の3点を守るだけでトラブルが大幅に減ります。
理想は、ボビンの存在を意識しないことです。もし常に機械と格闘している感覚があるなら、一度立ち止まって段取りを見直してください。糸の品質、枠の選択、そして刺繍ミシン 用 枠入れのような枠張りの基本が揃うと、「きれいに縫える」が標準になります。
