Table of Contents
1 プロジェクトの概要
ベルベット風刺繍は、刺繍で“切るための道筋”を作ってから、表層の布を選択的にカットし、ループ状の繊維や下に隠れた糸束を起こす手法です。安全に美しく仕上げるには、切る前の下地づくりが8割。ジグザグの幅・連続性、そして裏面の安定化が鍵となります。
この手法が特に映えるのは、花弁のように面と線が交錯するモチーフ。サテンステッチの面がつやを生み、切り起こした部分が柔らかな影を作ります。金糸の葉とボーダーを最後に加えることで、立体感がさらに強調されます。
適用範囲は広いものの、切り起こしを伴うため、極端に薄くて脆い布や、熱・圧に極端に弱い素材は不向きです。動画の作者はコットン系の白地を使用しています(コメント情報)。ここでは同様の安定した織物を想定します。
2 準備するもの
- ミシン刺繍用のデザインデータ(バラのボーダー)
- 刺繍用の糸:ピンク、レッド、ゴールド(コメントではレーヨン糸 SAKURA を使用)
- 布:安定した白系の織物(コメントでコットン使用の言及あり)
- 熱接着タイプの接着芯(裏面安定化用)
- アイロン(温度は接着芯の指示に従う)
- 保護ガード付きのカッティングツール(シームリッパーに似た専用ツール)
- 小さめのブラシ(カット粉の除去・起毛)、先細のハサミ(余分糸のトリム)
- しっかりフーピングできる枠と安定した作業面
材料と糸の色は映像の通りですが、正確な番手・密度・速度は明示されていません。密度や速度は手持ちの機種と布でテストし、糸切れが少なく面が埋まる設定を見つけてください。

加えて、フーピングの安定性が仕上がりを大きく左右します。もし枠が緩くなりがちなら、マグネット刺繍枠 を使って均一なテンションを確保すると、後工程のカット時にも布ずれが起きにくくなります。
2.1 道具ごとの役割
- 接着芯:切り起こし時に下地を保護し、刺繍面の歪みを抑制
- カッティングツール:ジグザグが作る“谷”に沿って表層のみを開く
- ブラシ:カット粉の除去とパイルの立ち上げ
- ハサミ:仕上げの飛び糸・毛羽を個別に整える
2.2 クイックチェック
- 布はしっかりフーピングできるか
- 接着芯は布と相性が良いか(テスト片で圧着テスト)
- カッティングツールのガードは安定して機能するか
3 セットアップのポイント
刺繍機の型番や詳細設定は動画で明示されていませんが、最初に小さなジグザグで“切るための溝”を作り、その後サテンで面を満たす構成です。コメントによれば、作者は工業用のジグザグミシン(SINGER 20u)を自由運動(フリーモーション)で使用しています。家庭の刺繍機でも同様の工程は可能です。
フーピングは“ずれゼロ”を目指します。裏面に接着芯を貼る前提なので、刺繍前の布のたるみはこの段階で解消しておきましょう。もし枠入れが苦手なら、刺繍用 枠固定台 を使って水平・直角を一気に揃えると、長尺のボーダーでも位置ずれを防ぎやすくなります。
3.1 送りとジグザグ幅
ジグザグの幅・送りは具体数値の公開がありません。大切なのは“途切れない溝”を作ること。幅が狭すぎると切る時にツールが乗らず、広すぎるとサテン下地として弱くなります。
3.2 コメントからの補足(テーパー)
ジグザグの先細り(テーパー)について、作者は「膝で幅をコントロール」と回答しています。家庭機での再現は機種に依存しますが、要は“花弁の先端ほど狭い溝”を提供できれば、後のカットでも自然に先端が細く立ち上がります。
3.3 セットアップのチェックリスト
- 枠のテンションが均一
- 針・糸通し・上糸・下糸の状態が良好
- テスト片でジグザグが連続して縫える
4 手順:バラをベルベット風に仕上げる
本章は動画の時系列に沿って進めます。各段階で「狙い」「注意」「期待される中間結果」を明示します。
4.1 ジグザグの下地を作る(00:09–01:29)
狙い:花弁を形づくる小さなジグザグで“切るためのチャネル”を全周に作ること。
手順: 1) 布を枠に張り、ピンク糸でジグザグを開始。 2) 花弁の各セクションを、隙間なく連続で縫い進める。 3) 1輪分の内側花弁がすべて埋まるまで繰り返す。
注意:密度がまばらだと、カット時に刃先が逸れやすくなります。

期待される中間結果:1輪分の花弁に浅い谷ができ、次工程に進める状態。

フーピング時に布が滑る環境では、刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 の保持力が有効で、微細なジグザグでも目飛びを抑えやすくなります。
4.2 接着芯を貼る(01:36–01:47)
狙い:裏面から面全体を安定化し、後のサテン・カットに耐える基盤を確保すること。
手順: 1) 刺繍面の裏側に接着芯を当てる。 2) アイロンで圧着(温度・時間は使用芯の指示に従う)。
クイックチェック:気泡やシワがなく全面が密着しているか。軽く引っ張って安定しているか。

注意:熱による生地ダメージを避けるため、当て布を併用するのが安全です。ここでの圧着が甘いと、カット時に下地が裂けやすくなります。
4.3 サテンステッチで花弁を満たす(01:52–02:50)
狙い:濃淡のサテンで花弁の面を形成し、最終的な色表現を作ること。
手順: 1) レッド糸で1輪のサテン面を刺繍。 2) ピンク糸へ交換し、他の花弁も同様に埋める。 3) すべての花弁が面で覆われるまで繰り返す。
期待される中間結果:すべての花がサテンで満たされ、下地のジグザグは覆われている。


裏面の状態も確認し、接着芯が支えていることを視認。

長尺の連続縫いでは、マグネット刺繍枠 brother 用 のように保持力が一定の枠だと、サテンの面に“波”が出にくく仕上がりが安定します。
4.4 金の葉とボーダーを加える(02:51–03:13)
狙い:金色の葉で陰影を強調し、上下のボーダーで図案をフレーミングすること。
手順: 1) 金糸に交換し、花の周りに小さな葉を刺繍。 2) デザイン帯の上下にボーダーラインを追加。
期待される中間結果:金の葉が要所に入り、上下のラインが一直線。


金糸は摩擦に繊細です。糸調子が厳しい機種では、試し縫いでテンションを整えるとトラブルが減ります。ここまでの工程は通常の刺繍と同じ考え方でOK。安定したフーピングのために hoopmaster 枠固定台 を併用すれば、長いボーダーでも位置ずれを抑えやすくなります。
4.5 ベルベット化:上層を切り開く(03:14–04:05)
狙い:ジグザグの“溝”に沿って表層布だけをカットし、起毛感・立体感を引き出すこと。
手順: 1) ガード付きカッティングツールを溝に添えて滑らせる。

2) 押し込み過ぎない力加減で、サテンや下地を傷めないように進める。

3) ブラシでカット粉を払い、起毛を確認。

クイックチェック:溝の中だけが均一に開いているか、境界のサテンが無傷か。
注意:深く切り過ぎると基布を破損します。はじめては端材で習熟しましょう。
この工程で布の安定が甘いと破断リスクが上がります。保持力を底上げしたいときは、mighty hoop マグネット刺繍枠 のような強磁力で面圧を均一化できる枠が有効です。
4.6 余分糸のトリム(04:06–04:29)
狙い:飛び糸や毛羽を整え、仕上がりをクリーンにすること。
手順: 1) 先細の小バサミで、はみ出しや絡みを一点ずつ切る。
期待される中間結果:面の乱れがなく、触れて引っかかる糸がない状態。
この工程を終えると、ベルベット風の起毛が際立ち、金の葉・ボーダーとの対比が美しくなります。

4.7 参考:完成像(04:30–05:17)
最終仕上がりは、花弁がふわりと立ち上がり、金の葉と直線のボーダーで引き締まったボーダーデザイン。全景でも質感の差がはっきり読み取れます。

5 仕上がりチェック
- カットライン:溝の内側だけが均一に開いている。
- サテン面:隙間や荒れがなく、色の面が連続している。
- 起毛:ブラシで掃いたあとも自然に立ち、薄い“影”が出ている。
- 裏面:接着芯とステッチが健全で、裂けや過度な波打ちがない。
プロのコツ:カット→ブラシ→再カットの小刻みループで仕上げると、過切断を防ぎやすい。途中で躊躇したら、一度ブラシで“現状の立ち上がり”を見てから次に進みます。
6 完成イメージと扱い方
- ベルベット風の花弁に触れると、柔らかな凹凸が感じられる。
- 金の葉とボーダーは、面と質感のコントラストをつくる飾り。
- 取り扱い:起毛を潰さないよう、保管は平置き推奨。埃が気になれば柔らかいブラシで軽く払うだけで十分です。
長尺のボーダーでも、均一なテンションで刺繍できていれば、最終の見た目が整います。たるみが出やすい布なら、マグネット刺繍枠 と当て布+接着芯の併用で安定感を高めましょう。
7 トラブルシューティングと復旧
症状:カットが深く、基布まで傷ついた
- 原因:押圧が強すぎる/溝が浅い
- 復旧:作業を止め、周囲に補強の接着芯を追加。以降は極軽圧で再開。次回はジグザグの連続性を高め、テスト片で“力加減”を習熟。
症状:サテン面に隙間や段差
- 原因:布のたるみ/枠のテンション不足
- 復旧:枠を張り直し、面が均一になるように再縫い。テンション問題には マグネット刺繍枠 のような保持力が助けになります。
症状:金糸で糸切れ・毛羽立ち
- 原因:テンション過多/針摩耗
- 復旧:テンションを弱め、予備で試し縫い。針交換。
症状:切ったのに毛足が立たない
- 原因:ブラッシング不足/切れていない箇所が点在
- 復旧:ブラシで全体を均し、立ち上がらない箇所は溝の内側だけを軽く再カット。
症状:布が送られず溝が乱れる
- 原因:摩擦・送り量の不一致
- 復旧:押さえ圧・送り設定を見直し。端材で“連続性”の出る設定を再確認。
8 コメントから
- どんな機械?作者は工業用ジグザグミシン SINGER 20u を自由運動で使用(コメント回答)。家庭機でも工程の思想は同じです。
- テーパー(先細り)はどう作る?作者は“膝でジグザグ幅をコントロール”と回答。機種によっては代替操作になります。
- 布は?コメントでコットン使用の回答。
- 接着芯とは?“アイロンで貼る裏地(lining fabric ironed)”と説明されています。役割は裏からの安定化です。
- 糸は?レーヨン糸 SAKURA を使用との回答。
実際の操作感は機種差が出ます。例えば brother ミシン など家庭機では、刺繍ユニットの仕様に合わせ、同様の“溝→接着芯→サテン→カット”の順序を厳守してください。
プロのコツ:長尺フレームワークでは マグネット刺繍枠 と hoopmaster 枠固定台 の併用で位置合わせと保持力を両立しやすく、後工程のカットでもズレにくくなります。
注意:メーカー・モデル固有の数値(密度・速度など)は動画で明示されていません。設定はテスト片で必ず合わせ込み、溝の連続性・面の埋まり・カット時の安全性で評価しましょう。
—
チェックリスト(作業前の最終確認)
- データ:ジグザグ下地→サテン→装飾(金糸)の順で構成
- 布と接着芯:テスト片で圧着と耐カット性を確認
- 枠:均一テンション(必要なら マグネット刺繍枠 使い方 を確認し、正しく装着)
- ツール:カッティングツールのガードが機能すること、ブラシ・小バサミを手元に
作業中の合言葉は“浅く・連続・整える”。浅い溝を連続で刻み、切ったら必ず整える。このリズムが、失敗を最小化しながら立体感を最大化する近道です。
