目次
埋め込み動画に関する注記: この記事は、チャンネル「Sew Cutesy」の動画「Unique Machine Embroidery with Yarn: DIY Romper Tutorial」をもとに構成しています。動画を見なくても作業できるよう、刺繍機の前でそのまま使える手順書としてまとめ直しました。
通常の刺繍ミシンでも、ヤーン(毛糸)を縫い留める「カウチング」を使うと、専用のカウチング押さえがなくても意外なほど“高級感のある立体表現”が出せます。ポイントは、速度を最小まで落とすことと、縫い方向に合わせてヤーンを正しくガイドすること。本記事では、短い実演内容を「再現性のある工程」に変換し、チェックポイント、よくある失敗、復旧手順まで含めて整理します。
この記事でできるようになること
- 先に前身頃を裁断してから刺繍位置を決め、ズレを減らす方法
- スプレーのりでスタビライザー上に生地を貼る「フローティング」手順
- USB でデータを読み込み、機械側の枠設定(フープ設定)を合わせる要点
- ヤーンを手でガイドするために“最低速”が必須な理由と安全な手元
- 1文字ごとに止まるフォントの「停止→カット→整える→再開」をきれいに回すコツ
ヤーン刺繍(カウチング)に必要なもの
道具の数は多くなくても構いませんが、ヤーンを確実に縫い留めるための安定性と、手元の作業性が揃っていることが重要です。
この作業は「ミシンの縫い経路」と「手でヤーンを送る動作」を同時に成立させます。つまり、完璧に生地を枠に挟むことよりも、ズレない固定と見えやすさが優先です。厚手ニットで柄が流れた経験がある方ほど、前身頃で フローティング用 刺繍枠 の考え方が効いてきます。

動画で使用している主な道具
- 刺繍ミシン(動画:Poolin EOC06)
- 標準刺繍枠(動画内では標準 4x4 または 5x7 相当の枠に言及)
- ティアウェイ(tear-away)スタビライザー
- プラスチックのグリッド(中心出し用)
- ロータリーカッター+カッティングマット
- アクリル定規
- 水で消えるペン
- USB メモリ
- カーブ刺繍はさみ
- スプレーのり(動画:SpraynBond)
- ヤーン(動画:黒)
- 刺繍糸(動画:黒)


ヤーン+糸の組み合わせ(仕上がりのイメージ)
動画では、前面は黒ヤーンで立体感を出し、背面は黒糸で控えめな刺繍にしています。実務的には、ヤーンを押さえる縫い(縫い留め糸)は、
- 目立たせない(ヤーンの質感を主役にする)
- あえてコントラストを付ける(輪郭を見せる)
のどちらかが扱いやすいです。初めてなら動画のように“控えめ”が安全で、手元のブレが目立ちにくくなります。

見落としがちな消耗品&事前チェック
最初の成功率を左右しやすい「地味だけど効く」ポイントです。
- 下糸(ボビン糸)の考え方(一般論): 下糸が安定して出ないと、上糸側の縫い留めが不安定になり、ヤーンを拾い損ねたり押さえが弱く見えたりします。推奨がある場合は機種マニュアルに従ってください。
- 針の選び方(一般論): 生地(スウェット系ニット)に合う針を優先します。動画では針種の明記がないため、まずは機種推奨の刺繍針/ニット対応の考え方に沿って選定し、引っ掛かりや穴が出たら即停止して見直します。
- スタビライザー+トッピング(一般論): リブや凹凸のあるニットは沈みやすいので、必要に応じて表面押さえ(トッピング)で沈みを抑える考え方があります。動画はティアウェイ+フローティングで進めています。
- 小物と清掃: ヤーンやスウェットは毛羽が出やすいので、カット用のはさみを手元に固定し、作業後は簡単に糸くず/毛羽を除去する習慣があると安定します。
注意: 手でヤーンをガイドする工程では、針周り・可動枠に指/髪/袖が近づきやすくなります。最低速で運転し、カットや位置調整は必ず停止してから行ってください。
生地の準備
この作例の良い点は、先に前身頃を裁断してから刺繍することです。縫製後の「だいたい中心」を当てにせず、実際に縫い合わせるパーツ基準で位置決めできるため、再現性が上がります。
先に裁断して、位置決めを確実にする
ロンパースの前身頃(または刺繍したい前身頃パーツ)を先に裁断します。動画でも「刺繍位置を完璧にするため」に先にカットしています。

チェックポイント: 裁断したパーツは、引っ張らずに自然に平らに置きます。丸まりやすい場合は、軽くならして“落ち着かせる”だけにし、無理に四角く伸ばして印を付けないようにします。
裏面に中心線を引く
生地を裏返し、水で消えるペンで中心線を引きます。次に定規で、デザインを置きたい位置の目安線も入れます。

期待する状態: 枠中心と突き合わせられる、はっきりした基準線があること。フローティング後に見えにくい場合は、(水で消える範囲で)少しだけ見やすくしてからスプレー工程に入ります。
スタビライザーを枠張り→生地をフローティング
スタビライザーをしっかり枠張りします。プラスチックのグリッドでスタビライザー側の中心を取り、仮止めスプレーを吹いてから、生地を上に置いて印を合わせます。動画内でもこの方法を「フローティング」と呼んでいます。


この順番が効く理由: リブのあるスウェット生地をそのまま枠に挟むと、歪みやすく、後でズレの原因になります。フローティングなら生地はリラックスした状態を保ち、スタビライザー側で剛性を確保できます。
注意: スプレーが少ないと縫製中に生地が“じわっ”と動きます。多すぎるとベタつきや針への付着、毛羽の付着が増えます。狙いは「濡れ」ではなく軽いタック(半乾きの粘着)です。
準備チェックリスト(ミシンへ行く前)
- 前身頃パーツは裁断済みで、引っ張らずに平置きできる
- 裏面の中心線/配置印が見える
- スタビライザーはドラムのようにピンと枠張りされ、中心が取れている
- 生地はフローティングで貼り付いており、印が合っていてシワがない
- ヤーン/はさみ/印付け道具が手の届く位置にある
カウチング向けのミシン設定
動画では Poolin の画面操作で、USB 読み込み→枠設定→速度を最小にしています。画面構成が違う機種でも、考え方は同じです。実物の枠サイズを機械側に認識させること、そして最低速に落として手作業を成立させること。
poolin 刺繍枠 を使う場合も、基本は「機械の枠設定=実際に付いている枠」を一致させ、画面上の配置と実縫い範囲のズレを防ぎます。
USB でデザインを読み込む
USB メモリを挿し、データを呼び出して選択します。

よくある質問(コメントより要約): 「デザインをどうやってダウンロードするの?」という質問がありました。動画では USB で読み込んでいるので、実務としては 購入したデータをいったんPCにダウンロード→USBにコピー→刺繍機で読み込みという流れになります。対応ファイル形式やフォルダ構成は機種ごとに異なるため、そこは機種マニュアルの“対応形式”に合わせてください。
枠設定(フープ設定)を実物の枠に合わせる
動画では「configuration(設定)」から枠サイズを小さい枠に変更し、機械側に認識させています。


チェックポイント: 画面上で、デザインの回転が意図せず変わっていないか、中心に対して想定位置にあるかを確認します。
速度は最小まで落とす
ヤーンを手でガイドするため、動画では速度を最小まで下げています。

最低速が必須な理由: ヤーンは縫い方向に合わせて“先回り”して置いていく必要があります。速度が高いと、拾い損ね(ヤーンが外れる)か、針に近づきすぎ(危険)のどちらかになりやすいです。
ヤーンで縫う(カウチング工程)
ここが本題です。動画では、フォントが最初に「トレース(なぞり)ステッチ」を作り、その縫いに合わせてヤーンをガイドして縫い留めています。制作者は「穴に通さなくてもいいけれど、通した方がガイドしやすいのでそうしている」と説明しています。
考え方としては、ヤーンを“引っ張って通す”のではなく、縫い経路に対してヤーンを“差し出す(プレゼンする)”イメージです。
トレース縫いに合わせてヤーンをセットする
縫い始めます。トレースステッチが出たら、押さえの開口部の下(または穴を使う場合はそこ)にヤーンを通し、ミシンが縫っていく方向に合わせてヤーンを動かします。

期待する状態: 縫いがヤーンを一定に拾い、ヤーンが飛び出さず、文字の輪郭に沿って“コード状の立体感”が出ます。
注意: 針を追いかけるような手の動きになったら一度止めてください。速度が速すぎる/手元が近すぎる/ヤーンの取り回しが安定していない、のいずれかです。
文字ごとの停止→カット→整え→再開
動画のフォントは、1文字ごとに止まります。止まるたびにヤーンを少し引き出してカットし、余りを整えてから次の文字へ進みます。

よくある質問(コメントより要約): 「どうやってトレースステッチが出るの?」という質問に対し、制作者は「このデザインに必要なフォントを購入すると、最初にトレースステッチが出るようにプログラムされている。Etsy のヤーン刺繍用フォントを使っている」と回答しています。
現場のコツ: ヤーンの“尻尾”処理を毎回同じ手順にします。長く残すと押さえに引っ掛かったり、次の区間に巻き込まれて縫い込まれたりしやすくなります。
縫いながらの品質チェック
停止ポイント(文字の切れ目)ごとに、次を確認します。
- 拾いの均一性: ヤーンを拾えていない“抜け”がないか
- 手のテンション: ヤーンを引っ張っていないか(引っ張ると歪みやすい)
- 生地の安定: フローティングした生地が端から浮いてきていないか
量産寄りで「中心合わせを毎回同じにしたい」場合、ここで 刺繍用 枠固定台 を導入すると、サイズ違いでも基準合わせが作りやすくなります。今回の技法に必須ではありませんが、やり直し(枠の掛け直し)を減らす方向で効きます。
運用チェックリスト(ヤーン・カウチング用)
- デザインは読み込み済みで、画面上の位置が想定どおり
- 枠設定(フープ設定)が実物の枠と一致している
- 速度は最小
- 縫い始め前に、ヤーンが押さえ下(または穴)にセットされている
- カットや整えは“停止してから”行っている
- 各文字の終わりで、ヤーンが確実に拾われていることを確認している
仕上げ
前面のヤーン刺繍の後、動画では背面に2つ目のデザインを通常刺繍で入れています。黒糸×黒生地で、見えるけれど主張しすぎない“トーン・オン・トーン”の仕上げです。

背面はトーン・オン・トーンで控えめに
黒糸を暗色生地に入れることで、さりげない文字が出ます。前面の立体感を邪魔せず、タグのような雰囲気を足せるのが利点です。
チェックポイント: 明るい場所で腕の長さ程度に離して読めない場合は、次回は糸色の差を少しだけ上げる(黒でも濃淡を変える等)か、配置を見直します。
縫製(動画では詳細なし)
動画では枠から外してロンパースを組み立てていますが、縫製手順の詳細は扱っていません。刺繍済みパネルとして扱い、組み立て中に強く引っ張らないこと、プレスはヤーンの立体感を潰さないように控えめにします。
厚手ニットの枠張りでズレや歪みに悩む場合は、マグネット刺繍枠 を検討すると、位置合わせが楽になり、生地の歪みも抑えやすくなります(特にフローティングで中心印を合わせる運用と相性が良いです)。
注意: マグネット枠は強く挟み込みます。磁石は“引っ張る”のではなくスライドして外す、電子機器や磁気媒体に近づけない、装着時は指を挟まないようにしてください。
トラブルシューティング
ここでは 症状 → 原因候補 → すぐできる確認 → 対処 → 代替案 の順で、現場で戻れる形に整理します。
1) ヤーンが外れる(縫いだけが見えてヤーンが乗っていない)
- 原因候補: ヤーンを縫い経路に出せていない/角で方向転換が遅れた
- すぐできる確認: 文字の切れ目で止め、ヤーンの尻尾を軽く引く。縫いの下をスルッと動くなら拾えていません。
- 対処: 機械に戻し縫い(数針戻る)がある場合は少し戻し、最低速のまま縫い方向に合わせてヤーンをより意識してガイドして縫い直します。
- 代替案: 動画のように、文字ごと/コーナーごとに止まりやすいヤーン刺繍用フォントを選ぶと、手のリセット回数が増えて安定します。
2) カーブでヤーンがダブつく/ループになる
- 原因候補: 短い縫い距離に対してヤーンを入れすぎ/“押し込む”動きになっている
- すぐできる確認: 停止状態で手を少し浮かせ、ヤーンが自然に落ち着くかを見る。輪が残るなら入れすぎです。
- 対処: 最低速で再開し、ヤーンが寝る程度の軽いテンションで“置いていく”ようにガイドします。
- 代替案: 最初は大きめ文字・カーブ少なめのデザインで手のタイミングを作ってから難しい形に進みます。
3) 縫っている途中で生地がスタビライザー上を動く
- 原因候補: スプレーのタック不足/貼るときに十分ならしていない
- すぐできる確認: 枠が止まっている状態で生地端を軽く触り、スッと滑るなら粘着不足です。
- 対処: 早い段階なら停止して、タックが残っているうちに位置を戻してならします(動画でも“タックのうちに戻せる”旨の流れ)。すでに縫いが入っている場合は無理に剥がさず、支えながら最低速で進めてズレの拡大を防ぎます。
- 代替案: 次回は固定の再現性を上げる(貼り方の見直し)+作業の基準化(位置合わせの手順を固定)を優先します。
4) トレースステッチにならない(最初の“なぞり”が出ない/止まらない)
- 原因候補: データ/フォントがヤーン刺繍向けにデジタイズされていない
- すぐできる確認: 画面の縫い順プレビューで、最初にガイド(トレース)工程があるか、文字ごとに停止する設計かを確認します。
- 対処: ヤーン刺繍用として販売されているフォント/データを使用します(制作者も「購入フォントがトレースを自動で出す」と回答)。
- 代替案: 機種によっては低速で手ガイド自体は可能ですが、結果はデータ次第なので、必ず端切れで試します。
5) 手元が怖い(指が近い/カットがやりにくい)
- 原因候補: 速度が高い/停止せずに手を入れようとしている
- すぐできる確認: 「針の近くに手を置かずにガイドできるか?」を自問し、無理なら条件が合っていません。
- 対処: 速度は最小、カットは必ず停止、はさみは常に同じ位置に置いて迷わないようにします。
- 代替案: この技法を継続するなら、作業台の配置や手元導線の改善が、機械性能と同じくらい効きます。
判断の目安:スタビライザー+作業フローの選び方
- 生地が厚手/嵩高ニットで枠に挟みにくい → スタビライザーだけ枠張りしてスプレーでフローティング
- 生地が伸びやすく歪みやすい → 先に裁断→裏面中心線→フローティングで印合わせ
- デザインが手ガイド前提のヤーン → 最低速+トレース&停止が入るデータを選ぶ
- 同じ物を複数枚で位置を揃えたい → 位置決め手順の固定化+治具/補助の検討
- 枠ズレや枠跡、挟み込みのストレスが大きい → 生産量と機種の枠方式に合わせてマグネット枠も選択肢
ミシン選びについて(コメントより)
コメントで「この機種と Brother PE800 ならどちらがおすすめ?」という質問があり、制作者は「比較できるほどもう一方を所有していないが、この機種は気に入っていておすすめ。初心者にも使いやすく、本体内の編集機能が多い」と回答しています。
ヤーン・カウチング目的で機種を比較するなら、最低速のコントロール性、押さえ周りの手元スペース、画面上での配置確認/編集のしやすさを優先し、予算とサポート体制に合わせて選ぶのが現実的です。
仕上がりの目標と引き渡し
成功の目標は、動画のように「文字の主体はヤーンで、縫い留めは整っているが主張しすぎない」状態です。枠から外すときは、フローティング部分を支えながら扱い、引っ張って伸ばさないようにします。
完成品を販売・ギフトにする場合は、素材に合わせた取り扱い注意(一般論としては、優しい洗い方と、立体ヤーン部分への強い摩擦を避ける)を添えるとクレーム予防になります。量産目線では、時短の鍵は“手順の固定化”です。位置合わせとカットのリズムが固まると、ヤーン・カウチングは安定した差別化加工になります。
次の改善点を探すなら、まずは自分の 刺繍ミシン 用 枠入れ のどこで時間が溶けているかを観察してください。中心合わせのやり直し、ならし直し、枠の掛け直しが多いなら、データのせいにする前に、固定方法と段取りの改善が最短ルートです。
