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Ricoma 8-in-1 Device(8 in 1 枠セット)入門:難しい位置への刺繍を「再現できる作業」に変える現場ガイド
Ricoma 1501 のような多針刺繍機を使っていて、袖・パンツ裾・厚手トート・キャップ後ろ(アジャスター付近)を前にして「これ、どうやって枠張りするのが正解?」と手が止まった経験はありませんか。これは誰でも通る“枠張り迷子”のタイミングです。
本記事は、Creative Appliques の Dawn による開封動画をもとに 8-in-1 Fast Frames セットを「部品紹介」で終わらせず、現場で迷わないための運用手順として整理します。
扱う内容:
- 構成部品の全体像:マスターブラケットと各フレームの見分け方
- 「合わない」問題:中古購入(特にネット購入)前の適合チェック
- 「トレースが変」問題:画面設定の選び方で起きるズレ/拡大の回避
- 段取り替えの考え方:手締め治具のまま行くか、マグネット化で速度を取るか

マスターブラケット:システムの土台
最初に出てくる重要部品が マスターブラケットです。U字形の金属アームで、黒いノブ(固定部)が付いています。ここが「機械側のドライバ」と「各フレーム」をつなぐ橋渡しになります。


考え方:これは「刺繍枠」ではなく「アダプター(ドック)」
これを刺繍枠だと思うと混乱します。マスターブラケットは 共通の取付け土台(ドッキング部)で、作業内容に合わせて“窓(フレーム)”を付け替えて使う仕組みです。
この理解が効くポイント
- 位置合わせの基準が揃う:一度基準が出ると、付け替えても軸が揃いやすい
- 段取り替えが読みやすい:毎回「枠を組む」より、治具交換の発想に近づく
適合チェック(中古購入の落とし穴)
コメントでも多いのが「安く見つけたけど、自分の Ricoma MT/1501 に付く?」という悩みです。Dawn も注意喚起していますが、現場目線で言うと 腕(アーム)の幅だけ見ても不十分です。
- 見るべきは“ブラケットの形状(差し込み部の寸法/形)”
- Dawn からも「別機種(12針機)では、アームに差し込むブラケット側面のサイズが違う」旨の注意があります。
中古で買う前の最低限
- 機種名を確定:Ricoma 1501 なのか、MT 系なのかを明確にする
- メーカーに確認:機種ごとの対応寸法は販売元/メーカーのカスタマーサービスに確認する(中古出品者の“たぶん付く”は危険)
- “アーム幅+差し込み部”の両方:アーム幅だけでなく、ブラケットが座る部分の形状差も確認する
段取り替えの発想(どこで効率化するか)
このシステムは汎用性が高い一方、フレーム交換は基本的にノブ固定の手作業になります。
- 少量/多品種:8-in-1 のままでも十分回る
- 同一アイテム連続(例:ポケット大量):交換作業がボトルネックになりやすい
- 速度を取りたい場合:段取り替え時間を削るなら、工具側(枠側)の見直しが効きます

注意:開封と金属エッジの安全
開封時はカッターの刃を体の外側へ向けて作業してください。加えて、新品フレームは加工エッジが鋭い場合があります。指で触れる際は慎重に行い、引っ掛かりを感じたら使用前に確認してください。
袖・パンツ裾向けフレーム(細長い2本)
Dawn が紹介している 細長いフレームが2本あります。名称は袖用ですが、現場ではパンツ裾など「筒物」に幅広く使われます。

筒物で起きやすい“歪み”を減らす考え方
筒物を小さな丸枠に無理に入れると、周方向に引っ張りがかかりやすく、仕上がりで歪みが出ることがあります。細長いフレームは、必要な範囲だけを安定させやすいのが利点です。
現場のコツ:貼り付け(フローティング)前提で考える
このタイプは、一般的な内枠・外枠で強くテンションを掛ける発想より、スタビライザー側で保持して位置合わせする運用になりがちです。
- 貼り付けるときは、筒物を引っ張って“ピン張り”にしない
- 置く→押さえる、の順で「自然な状態」を保つ
バッグ/ポケット周りに使うフレーム(幅広の2枚)
次は バッグ用フレームが2枚。幅が違う2サイズで、トートやバッグ本体、バッグのポケット部などを想定した形です。


厚み段差(ファスナー/パイピング/縫い代)の扱い
バッグ類は、縫い代や段差が近い位置に来やすく、押さえや針周りで引っ掛かりの原因になります。
- チェックポイント:刺繍予定位置を指でなぞり、急な段差(“崖”のような厚み変化)がないか確認
- 対策の基本:段差を避けて平坦部をフレーム窓に収める(無理に段差上を走らせない)
枠跡(枠跡/押さえ跡)と対策の考え方
クランプで強く挟むと、素材によっては跡が残りやすくなります。跡が問題になる素材では、保持方法の見直しが有効です。
- デリケート素材や厚物で「挟む力」がネックになる場合、選択肢として 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 があります。
注意:マグネットの取り扱い
強力マグネットは指挟みの危険があります。着脱時は指を挟まない位置を確保し、周囲の機器や医療機器への影響にも配慮してください。
キャップ後頭部(バック)用の半円フレーム
Dawn が強調しているのが 半円(アーチ)形のフレームです。これは一般的なキャップドライバ(回転する筒状の治具)とは別物で、キャップ後ろの開口部付近に刺繍したいときのためのフレームです。


運用上の注意:浮き(バタつき)を抑える
キャップ後ろは曲面で、フレームは平面寄りになるため、条件によっては生地が安定しにくいことがあります。
- チェックポイント:縫製中に生地が上下に跳ねるような挙動がないか
- 対策の基本:下側の支持を強める(スタビライザーの選び方/当て方を見直す)
ポケットフレーム3サイズの比較(Small/Medium/Large)
セットには ポケットフレームが3サイズ入っています。Dawn の目視ベースの説明では、幅の目安は Small 約2.5インチ、Medium 約3インチ、Large 約4〜4.5インチです(※動画内で「後で要確認」とも述べています)。





最重要:トレース不良/拡大の回避(コメント由来の実務ポイント)
ここはコメントで実際に困っている人が出ているポイントです。
起きがちな問題
- フレームを付けたのに、機械画面で枠を「Other(その他)」のような汎用設定にしてトレース
- その結果、トレースがうまくいかない/位置が合わない/デザインが大きく見える
- 最悪、金属フレームに当たりそうになり針折れリスクが上がる
Dawn の対処(現場で使える形に整理)
- 「Other」を選ばない:汎用枠設定は避ける
- 物理フレームのサイズ感を基準にする(例:4x3 相当など)
- 機械のプリセット枠から“近いサイズ”を選ぶ:Dawn の例では、4x3 の Fast Frame 使用時に Ricoma 側で Frame D 170x170 を選択
- 必ずトレースして目視確認:機械の枠認識に頼り切らず、針落ち/押さえ/金属窓の干渉を自分の目で確認する
開封で終わらせない:生産に乗せるための前提
このセットは、一般的な刺繍枠のように「枠テンションで生地を保持する」より、スタビライザーと固定方法で安定を作る発想が重要になります。つまり、段取り(準備)が品質を決めます。
準備:見えない消耗品が勝負を決める
フレーム本体だけでは作業が成立しません。枠張り前に、必要な資材を揃えておきます。
消耗品チェックリスト
- 仮止めスプレー:スタビライザーへの仮固定に使用
- 粘着タイプのスタビライザー:ポケットなど“枠に入れにくい”部位の位置保持に有効
- 水溶性トッピング:タオル/フリースなど沈みやすい素材の表面押さえに
- クリップ/テープ:余り生地を巻き込まないための退避固定
スタビライザー選定フロー(迷いを減らす)
- 素材が伸びる/不安定?(ニット等)
- YES: しっかり支えるタイプを優先(恒久的な安定が必要)
- NO: 次へ
- 枠張りしにくい形状?(バッグ/キャップ後ろ等)
- YES: 粘着タイプでズレ止めを優先
- 裏面が見える/仕上がり重視?
- YES: 仕上げ方法(剥がし/洗い)も含めて選ぶ
セットアップ:機械側での確認ポイント
セットアップチェックリスト
- エッジ確認:フレーム端に引っ掛かりがないか(触るときは慎重に)
- ノブ固定:マスターブラケットのノブを確実に締める(緩みはブレの原因)
- 針落ち確認:手回しで針が窓内に落ちるか、干渉がないか確認
- 画面の枠選択:Dawn の助言どおり、近いプリセット枠を選ぶ(「Other」を避ける)
運用:安全に回すための基本シーケンス
Step 1:貼り付け固定(フローティング)
- 作業:粘着スタビライザー等で保持面を作り、アイテムを置いて押さえる
- チェックポイント:張りすぎず、自然な状態でフラットに乗っているか
Step 2:トレース(干渉確認)
- 作業:トレースを実行し、金属窓/クランプ/押さえの干渉を目視確認
- チェックポイント:危ないと感じたら即停止できる位置に手を置く
Step 3:最初の縫いで安定を確認
- 作業:下縫い/最初の数十針で生地が動かないか確認
- チェックポイント:波打ちや引きずりが出たら、固定方法(粘着/仮止め/当て材)を見直す
品質チェック(仕上がり判定)
- 位置合わせ:アウトラインとフィルがズレていない(ズレるなら固定/締結を疑う)
- ポケットの文字が曲がらない:引きずりがあると“笑った”ように湾曲しやすい
- 粘着残りの処理:必要に応じてリントローラー等で清掃
トラブル早見表
| 症状 | ありがちな原因 | まず試す対策 |
|---|---|---|
| 縫いが不安定/生地が跳ねる | 生地の浮き(固定不足) | 固定方法とスタビライザーを見直し、トレースを再実行 |
| デザインが大きく見える/トレースがうまくいかない | 画面で「Other」を選択 | 近いプリセット枠を選び、必ずトレースで目視確認 |
| アウトラインがガタつく | ブラケット/ノブの緩み | ノブを確実に締め直す |
| 針折れが起きる/起きそう | 金属フレームに干渉 | デザイン位置を内窓基準で再確認し、トレースをやり直す |
| 枠跡が残る | クランプ圧が強い/素材が弱い | 固定方法の見直し、必要ならマグネット枠の検討 |
まとめ:セット内容と現場での位置づけ
Ricoma 対応 8-in-1 セットの構成(動画で確認できる範囲):
- 1 マスターブラケット
- 2 袖/裾用フレーム
- 2 バッグ用フレーム
- 1 キャップ後頭部用フレーム
- 3 ポケットフレーム(Small/Medium/Large)
結論 このセットは「難しい位置の仕事を受けられる」ための問題解決ツールです。一方で、中古購入時の適合確認と、機械画面の枠選択(「Other」を避ける+トレース目視)が安全運用の要になります。

