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ITH準備を“迷わず”回す:寸法ミスを潰す精密裁断プロトコル
Role: 刺繍教育担当(現場目線) Subject: 精密ツールでITH(枠内)ワークフローを最適化する
ITH(In-The-Hoop/枠内)作品は、仕上がりがきれいな反面、最初の「寸法を読んで、測って、切る」工程でつまずきやすいのが現実です。2回測って1回切ったのに、キルト綿がほんの少し足りず、最後のサテン縫いで端が決まらない——この手のミスは“あるある”です。
業務用刺繍の考え方では、準備(Prep)=面倒な下ごしらえではなく、品質保証(QA)そのものです。布の形状(ジオメトリ)が崩れていれば、どんな刺繍機でも後から帳尻は合わせられません。
ここでは、OML EmbroideryのSueが紹介しているSweet Peaのアクリル定規の使い方を、作業手順として再構成します。さらに、家庭作業でも再現しやすいように「確認の順番」「ズレを起こす原因」「まとめ裁断の段取り」まで、現場の手順書(SOP)として落とし込みます。

核となる考え方:メジャーより“型”が強い理由
Sweet Peaのアクリル定規は、言ってしまえば「人の測り間違い」を減らすためのテンプレート(型)です。
従来の流れは、PDFで寸法を読む→メジャーで測る→印を付ける→ハサミで切る、という複数工程になりがちで、そのたびに誤差が入り込みます。
この定規を使うと、基本は 置く→切る に圧縮できます。
最大のメリットは再現性です。表布・裏布・キルト綿を“同じ型”で切れると、後工程(刺繍枠へのセット)で迷いが減り、ズレやすい人ほど効果が出ます。
また、透明アクリルなので、布の柄を見ながら中心を狙う柄合わせ(ファジーカット)がしやすいのも強みです。単に四角を切るのではなく、「この花柄を中央に入れる」という“見せたい位置”を狙って切れます。
「寸法の読み違い」を防ぐ:フープサイズと裁断サイズは別物
この作業の土台は、感覚ではなく手順書の数値です。よくあるミスは「フープサイズ=裁断サイズ」だと思い込むこと。これは違います。
必ず、先にPDFの指示(カットリスト)を見ます。フープを見て判断しないのがコツです。
Step 1:手順書(Instruction)を読む
動画の例では、4x4フープのマグラグで、指示は次の通りです。
- Fabric A(表): 6" x 6"
- Fabric D(裏): 6" x 6"
- Batting(キルト綿): 6" x 6"
チェックポイント: 4x4フープに対して6インチ角を切るのは、余裕(マージン)を確保するためです。ギリギリに切ると、枠にセットしたときに端が不安定になりやすく、縫製中の引っ掛かりやズレの原因になります。

Step 2:定規の表示を必ず確認する
形だけで定規を取らず、Sueがやっているように刻印(エッチング)を読むのが安全です。
各定規には、少なくとも次の情報が入っています。
- 対応フープサイズ(例:4x4)
- 裁断サイズ(例:6" x 6")

動画で示された対応(フープ別の裁断サイズ)
Sueが紹介している組み合わせは次の通りです。
| フープクラス | 定規の裁断サイズ | 使いどころ(動画の範囲) |
|---|---|---|
| 4x4 フープ | 6" x 6" | 表・裏・キルト綿を同寸で準備 |
| 5x7 フープ | 7" x 9" | 同上 |
| 6x10 フープ | 8" x 12" | 同上 |
| 7x12 フープ | 9" x 14" | 同上 |
刺繍ミシン 6x10 刺繍枠 の準備では、動画で示された 8" x 12" が基準になります。布をさらに小さくできそうに見えても、余裕を削ると安定性が落ちやすいので、まずは指示通りに切って“再現性”を優先するのが安全です。

必要な道具:きれいに切るための“組み合わせ”
Sueのセットはシンプルですが、役割が分かれています。
裁断スタック(重ね方)の考え方
- 上: カッティングマット(裁断面)
- 下: フープマット(滑り止め/摩擦を増やす)
- 刃: ロータリーカッター
- 固定: 吸盤ハンドル(任意だが便利)

「フープマット」とは?(コメントの疑問に対応)
コメントで「フープマットって何?」という質問がありました。Sueの流れでは、ピンクのカッティングマットの“下”に、フープマット(滑り止めになるマット)を敷いています。
目的は滑り止め(摩擦)です。ロータリーカッターで押し切るとき、机の上でマットが動くと、定規がズレたり、角が甘くなったりします。
注意:作業面を守る
動画でも強調されていますが、フープマット自体は「裁断面」ではありません。ロータリー刃は簡単にマットを傷つけます。必ずカッティングマットを上に重ねて使います。

吸盤ハンドルの価値(任意→実務では推奨)
Sueは「手で押さえてもOK」としていますが、作業としては吸盤ハンドルがあると安定します。
- 安全面: 指が刃の進行方向に入りにくい
- 安定面: 定規の“中央”に力をかけやすく、端だけ押して反対側が浮く事故を減らせる
量産寄りの作業で段取りを組むなら、枠固定台 のように「手の疲れとブレを減らす道具」は、そのまま生産性に直結します。
手順(SOP):四角を“毎回同じ”に切る
ここからは、Sueの流れをそのまま作業手順に落とします。

フェーズ1:準備(切る前の整備)
刃を出す前に、環境を安定させます。
チェックポイント(切る前):
- PDF手順書を開き、必要な裁断サイズを確認した
- カッティングマットが机上で滑らない(フープマットを下に敷く)
- ロータリーカッターの安全ロックが使える
現場のコツ: Sueも「ムダを減らしたい」と話しています。机の上に端切れやゴミが残っていると、定規がわずかに浮いてズレの原因になります。裁断前に作業面をクリアにします。
フェーズ2:段取り(折って一気に切る)
- 作業面を作る: 机の上にカッティングマットを置く(下にフープマット)。
- 効率化の折り: Sueは布を半分に折って、表・裏を一度に切っています。
- 狙い: 同寸のパーツを同時に作る
- チェック: 折りが雑だと、2枚が微妙にズレたまま切れてしまいます。折り目を丁寧に合わせます。

フェーズ3:裁断(置く→狙う→切る)
- 吸盤ハンドルを固定: 定規の中央に吸盤を押し当てて固定します。

- 柄合わせ(ファジーカット): 透明定規越しに柄を見て、中心に入れたいモチーフを狙います。
- チェックポイント: 布端ではなく“柄”を基準に合わせる(透明の強みを使う)
- 切る: 定規のエッジにロータリー刃を当て、一定の力で切ります。
- 注意: 刃が鈍いと布を引きちぎるようになり、端が荒れます。Sueも「刃はよく切れる状態で」と言っています。

注意:ロータリーカッターの安全
切り終わったら、すぐに刃を収納(ガード/ロック)します。机から落ちたカッターは危険です。
- 確認: 定規を上げ、同じサイズのパーツが2枚取れていることを確認します。

裁断後チェック(最低限):
- 角が直角に見える
- 端がガタついていない
- (キルト綿も切った場合)布と同寸になっている
まとめ裁断で“切る日”を作る:作業の分離が効く
一枚切って一枚縫う、を繰り返すと、裁断台と刺繍機の往復が増えて非効率です。Sueも「たくさん作るなら短時間で準備できる」と話しています。

バッチング(まとめ裁断)の組み方
例として、同じサイズを複数作る場合は次の順がスムーズです。
- brother 4x4 刺繍枠 の作品の手順書で裁断サイズを確認
- 表布を必要枚数まとめて切る
- 裏布を必要枚数まとめて切る
- キルト綿も同様に切る


裁断(糸くず・綿ぼこりが出る工程)と、刺繍(清潔に保ちたい工程)を分けると、作業が安定します。
収納:すぐ手に取れる状態にする
Sueは、定規に穴があり吊るして保管できる点にも触れています。使う場所(裁断台)に近いところに掛けておくと、探す時間が減ります。刺繍用 枠固定台 の考え方と同じで、「取り出しやすさ」はそのまま作業効率になります。

コメントで出た疑問を整理(要点のみ)
Q:定規で切ると“まだ大きい”気がする
- コメントに「もっと小さく切れた」という意見がありました。
- ただし、動画内では手順書の指示寸法に合わせて切る運用です。まずは指示通りで再現性を確保し、慣れてから自己責任で調整するのが安全です。
Q:セット全部は必要?
- 「自分のフープに合う3枚だけ買った」というコメントもあり、必要サイズだけ揃える運用が現実的です。
Q:海外送料が高い/関税が不安
- ヨーロッパへの送料や関税負担のコメントがありました。まずは使用頻度の高いフープサイズ分だけに絞る、という考え方が取りやすいです。
トラブルシュート:症状→原因→対策
| 症状 | ありがちな原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 布端がギザギザ | 刃が鈍い | 刃を交換する(Sueも“刃はよく切れる状態で”と注意) |
| 定規が滑る/ズレる | 下が滑る、押さえが偏る | フープマット+カッティングマットの重ねを見直す。吸盤ハンドルで中央を押さえる |
| ムダが多い | 目分量で大きめに切っている | 手順書の寸法→該当定規で“必要分だけ”切る |
まとめ
Sueの方法は、定規を買う話というより、作業を“型”で標準化する話です。
- 読む(PDFのカットリスト)
- 確認する(定規の刻印)
- 安定させる(マット+吸盤+ロータリー)
- まとめる(バッチング)
この流れが固まると、最初の一刀の怖さが消え、ITHの準備が“毎回同じ”になります。
