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Smartstitch 糸掛けマスター:理屈・手応え・作業フローで迷いを消す
正直なところ、15本針 刺繍ミシン の糸立て(スレッドツリー)を初めて見ると、「工場の人が考えたスパゲッティ」みたいに見えます。複雑で、どこか1か所でも間違えたら、糸が絡んで止まる・針が折れる・段取りが崩れてダウンタイム……そんな不安が出て当然です。
でも現場で分かったのは、糸掛けは魔法ではなく、「摩擦をコントロールする再現可能な通り道」だということです。
このガイドでは、Smartstitch(S1501など)向けに、業務現場で使われる2つの糸掛け方法を分かりやすく整理します。さらに、マニュアルに書かれにくい「正しく通っているときの手応え(感覚チェック)」も入れます。
扱う内容は次の3つです:
- 「結び替え(タイオン)」:色替えを最速化する方法
- 「フル再糸掛け(手動)」:不調時のリセット&基準作り
- 「作業フロー」:機械とケンカせず、安定して回す考え方

現場のコツ(最初にひとこと): 動画のコーン色と、糸立てに置く順番を「色まで完全一致」させる必要はありません。実際の現場では、糸立てに合わせて画面上の色割り当てを調整して運用します。大事なのは色よりも、糸の通り道(ルート)です。
方法1:結び替え(タイオン)手順(量産スピード重視)
「結び替え(タイオン/引き込み)」は、量産現場で標準的に使われる色替え手順です。理由はシンプルで、15本をゼロから通すより、結び替えのほうが圧倒的に速いからです。
この方法は、既に通っている糸を“ガイド”として使い、新しい糸をテンション系一式に引き込むのがポイントです。
使ってよい条件(GO / NO-GO)
次の条件を満たすときに使います:
- ✅ ルートが正しいと分かっている:直前の色が問題なく縫えていた(テンション良好、毛羽立ち・糸切れなし)
- ✅ 糸種が近い:例)ポリエステル→ポリエステルなど
- ✅ 色替えを急ぐ:途中工程で素早く色を入れ替えたい
次に当てはまるなら、迷わず方法2へ切り替えます:
- ❌ 原因不明の糸切れが続いていた:そもそもルートや摩擦が怪しい
- ❌ 糸種を大きく変える:例)レーヨン→メタリックなど(結び目が抵抗になりやすい)
- ❌ 上部チューブ内で交差していそう:隣の糸と絡む疑いがある
手順:結び替え(タイオン)プロトコル
ステップ1 — コーンの置き替え(00:15–00:23)
- 古いコーンを外します(この時点では、糸を機械から抜かない)。
- 新しいコーンを糸立てのピンにしっかり差し込みます。
- チェックポイント: 指で軽く回して、スムーズに回るか確認します。ガタつく場合は、座りが悪い可能性があります。

ステップ2 — 糸同士を結ぶ(00:24–00:38)
- 既存糸の端をほどき、古い糸と新しい糸を対応する組み合わせで結びます(1本ずつ確実に)。
- 結び終えたら、色替えする本数分を同じ要領で進めます。

ステップ3 — ゆっくり引き込む(00:39–01:00)
- 針棒側(針周り)へ移動します。
- 針側の古い糸を、ゆっくり引きます。結び目がガイドチューブやテンション部を通過しながら、新しい糸が引き込まれます。
- チェックポイント: 引きが重くなったら速度を落とし、引っ掛かり感が強い場合は無理に引かないで止めます。

注意: 糸を指に巻き付けて強く引っ張らないでください。急に切れたときに手を傷める恐れがあり、また機械側の繊細な部品に負担がかかります。引くときは「ゆっくり・一定」で。
ステップ4 — 針穴の処理(01:42–02:14)
- 結び目が針穴付近まで来たら止めます。
- 結び目が針穴を通らない場合は、結び目を切り落としてから、針穴に手で通します(前→後)。
- 糸端は、針棒付近の保持バネ/クリップへ入れて整理します。

方法2:手動でのフル再糸掛け(「システムリセット」)
smartstitch s1501 を初めてセットアップするとき、または方法1で引き込みが「引っ掛かる/抵抗が強い」と感じたときは、方法2が確実です。テンション系の基準を作り直せます。
準備:糸掛けで差が出る道具
素手だけでやると時間がかかります。先に用意します:
- 刺繍糸(普段使う糸)
- フレキシブルワイヤー(糸通し工具)
- 糸切り(ハサミ)
- ピンセット(針裏の糸端をつかむ用)
考え方: 糸を穴に通す作業ではなく、テンション(摩擦)を組み立てる作業です。巻きが1回足りない/方向が逆、だけで糸が滑り、下糸側に大きなループが出たり停止原因になります。

事前チェック(作業前のつまずき防止)
- コーンの座り:コーンがしっかり乗り、糸が台座に噛んでいない
- 工具の状態:ワイヤーが曲がり過ぎていない/糸切りが使える
- 透明チューブ:折れ・潰れ・亀裂がない
- テンション部の異物:糸くずが噛んでいない
- 機械の状態:誤作動防止のため、電源OFFまたはロック状態
ステップ1 — ガイドチューブへ通す(02:16–02:57)
- 糸を糸立て上部の穴(アイレット)へ通します。
- 透明ガイドチューブをテンションブロックから外します。
- ワイヤー工具をチューブの下側から上へ通します。
- 上側で糸を引っ掛け、ワイヤーを下へ引いてチューブ内に糸を通します。

ステップ2 — テンションブロック入口へ導く(02:58–03:15)
- ワイヤー工具で、テンションユニット上部の接続穴へ糸を通し、機械前面側へ引き出します。
- チェックポイント: 隣の糸とねじれたり交差していないこと。糸は基本的に平行に並びます。

ステップ3 — 最重要:テンション&センサー周り(03:26–03:56)
ここが一番の要点です。巻き方向と回数を動画どおりに合わせます。
- 上側ガイド:指定のガイドの下を通す
- テンションディスク:指定の位置を通す
- 上側の糸クランプ:時計回りに2回巻く
- 糸切れセンサーホイール:右→左方向で1.5周巻く


チェックポイント: 糸を軽く引いたとき、ホイールが糸と一緒にスムーズに回ること。回らずに糸だけが滑る場合は、巻きが甘い/方向が違う可能性があります。
ステップ4 — チェックスプリング&下側クランプ(03:57–04:16)
- チェックスプリング(L字のバネ)に糸を掛け、軽く下へ引いて掛かりを確認します。
- 下側の糸クランプ:時計回りに2回巻きます。


ステップ5 — 天秤(テイクアップレバー)〜針まで(04:28–05:00)
- 天秤(上下する金属アーム)の穴へ通します。
- 外側の穴に通したあと、内側の穴へ戻すように通します。
- そのまま下方向へ、樹脂ガイド→金属部(押さえ側のガイド)を通し、針穴へ通します。



仕上げ:針穴通し&糸端の処理
ルートが完璧でも、糸端処理が雑だと最初の一針でトラブルになります。
最後の固定(01:42–02:14 / 05:00+)
- 針穴へ 前→後 で糸を通します。
- 糸端を少し引き出します。
- 糸端は保持バネ/クリップへ入れて、余りを整えます。
補足: 糸端がぶら下がったままだと、最初の縫い始めで巻き込みやすく、停止や詰まりの原因になります。
作業フロー:どちらを選ぶべきか(判断と最適化)
糸掛け自体ができても、段取りは「選択」で差が出ます。
判断表:どの方法を使う?
| シーン | 状態 | 推奨 |
|---|---|---|
| 初回セットアップ | まだ糸が通っていない/初めて触る | 方法2(手動) |
| 色替え | 同じ糸種で入れ替え | 方法1(結び替え) |
| 不調の切り分け | 糸切れが続く/引きが重い | 方法2(手動) |
| 特殊糸へ変更 | メタリック等に切り替え | 方法2(手動) |
生産効率:糸掛け以外のボトルネック
糸掛けが5分でも、枠張りに10分かかってやり直しが出るなら、詰まっているのは機械ではなく段取りです。
現場では、位置合わせを安定させるために 刺繍用 枠固定台 を使い、毎回のセット誤差を減らす運用もあります。
また、枠跡(枠のリング痕)が出やすい素材や、厚手と薄手を同じラインで回す場合は、保持方法の見直しが効きます。作業性の面で マグネット刺繍枠 を検討する人がいるのは、ネジ調整なしで着脱でき、保持が安定しやすいからです。
注意:磁力製品の安全
マグネット刺繍枠は強力な磁石を使用します。
* 挟み込み注意: 指を近づけたまま着脱しない(挟まれます)。
* 医療機器: ペースメーカー等を使用している場合は近づけない。
混在案件(帽子・バッグ・シャツなど)を回すほど、治具や枠の互換性・段取りの統一が重要になります。たとえば mighty hoop smartstitch 用 のようなキーワードが話題になるのも、機械側のブラケットに合うかどうかが運用の前提になるためです。
トラブルシューティング:症状→原因→対処
縫いが不安定なとき、機械故障より先に「糸掛け」を疑うのが近道です。
| 症状 | ありがちな物理原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 糸切れ検知が誤作動する | 糸は動いているが、センサーホイールが回っていない | ホイールを巻き直す。 右→左で1.5周、糸と一緒に回ることを確認 |
| 下側にループ(絡み)が出る | 上糸テンションが効いていない | テンション部を通し直す。 指定位置にしっかり入っているか確認 |
| 針から糸が抜ける | 縫い始めの糸端処理が甘い | 糸端をクリップへ。 糸端を保持してスタート |
| 糸が毛羽立つ/切れる | どこかで引っ掛かり(結び目・通しミス)がある | ルートを再確認。 結び替えの結び目が途中で引っ掛かっていないか確認 |
最終チェック(スタート前の確認)
- 方法選択:糸種・状況に合う方法を選んだ
- テンション部:指定ルートに入り、引きに違和感がない
- クランプ:上=時計回り2回/下=時計回り2回
- センサー:1.5周で巻けており、糸と一緒に回る
- 天秤:外→内の順で通っている
- 針:前→後で通し、糸端をクリップへ
- 作業台:ハサミ等の工具を置きっぱなしにしていない
メンテナンスの考え方
smart stitch 刺繍ミシン 1501 を安定稼働させる基本は、糸掛けと清掃です。ここが整うと、機械は驚くほど素直に動きます。
段取りのストレスを減らすほど、生産時間が増えます。色替えは結び替えでスピードを取り、不調時はフル再糸掛けで基準を作り直す。そして、段取り時間の差が大きいなら マグネット刺繍枠 のような保持方法も含めて、工程全体で最適化していきましょう。
