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症状の切り分け:LEDライトバーを交換すべきタイミング
業務用刺繍の現場で、照明は「見やすさ」ではなく「検品のための情報」です。糸の通り、糸切れ、ほつれ、鳥の巣、針折れの兆候は、まず目で拾います。多針ヘッドの左側LEDが消えると、単に暗いだけでなく、縫製中の異常をその場で見抜く力が落ちます。
動画の症状は典型例で、左側だけが点灯しない一方、右側は正常という状態でした。こうした「点く/点かない」の二択に近い故障は、LEDそのものの劣化というより、ライトバー基板(PCB)の不良、またはコネクタの接触不良(振動で緩む)が原因になりやすいです。交換は修理というより、現場の品質基準を元に戻す作業です。

このガイドでできるようになること
この手順を最後まで実施すると、起動時の噛み込みを防ぐ「ルーズカバー方式」を含め、次を再現性高く行えるようになります。
- 診断:左右どちらのライト不良かを確認し、作業側を決める
- 安全停止:通電状態での抜き差しを避ける(Eストップだけに頼らない)
- 交換作業:基板とハーネスを傷めずにライトバーを入れ替える
- 再組立て:針ケースの自己位置合わせを使ってカバー干渉を防ぐ
現場のコツ(コメントの雰囲気より)
この作業は「電子修理」というより、日常メンテナンスの延長として捉えると進めやすいです。ネジを無理に回さず、抵抗感を感じたら止めて原因を探す——その“機械への気遣い”が失敗を減らします。
必要な工具と部品(部品番号:31062-04)
部品の取り違えは、そのままダウンタイムに直結します。動画では部品番号が明示されていますが、改版(-05など)で置き換わる可能性があるため、購入時は必ず供給元情報と突き合わせてください。
交換部品
- LEDライトバー:部品番号 31062-04(供給元や機種により改版が出る場合あり)


動画で使用している工具
- 3mm 六角レンチ(ヘックスキー):左側カバーの固定ネジ/ライトバー固定ネジに使用
- 2.5mm 六角レンチ:右側作業時に必要になる小ネジ用
- 操作パネル(キー操作):針ケースを針番号位置へ移動するため
事前準備(落とし穴になりやすいポイント)
作業そのものより、準備不足がトラブルを呼びます。最低限、次を揃えてから始めると安全です。
- 小物入れ(ネジ・ワッシャー管理用):ワッシャーは落下しやすいので、外した瞬間にまとめる
- 独立した照明:ライト交換中は機械側が暗くなるため、手元灯があると作業性が上がる
- テープ(配線固定の復旧用):動画では既存テープを剥がして、最後に戻して固定しています
注意:通電リスク。 多くの業務用機では、Eストップは駆動を止めても、ライトや基板系の電源が完全に落ちない場合があります。必ず主電源をOFFにしてから、コネクタの抜き差しを行ってください。
作業のついでに見直す(設備面のボトルネック)
メンテナンスで機械が止まっている時こそ、現場の詰まりを見直すタイミングです。稼働台数に余裕がない現場では、故障がそのまま生産停止になります。増設を検討している場合は、業務用 刺繍ミシン 販売の情報収集を始めておくと、いざという時の判断が早くなります。
安全手順:EMT16Xの作業準備
ここでの考え方はEMT16Xに限らず、同系統のモジュール式ヘッドに共通します。目的は「ネジに安全にアクセスできる位置」を作ることです。
手順1 — 左右どちらを作業するか決める
針ケース(移動するヘッド)が、カバー固定ネジの位置を塞ぎます。
- 左側のライト不良:針ケースを 針番号16 へ移動
- 右側のライト不良:針ケースを 針番号1 へ移動

手順2 — 左側作業:針ケースを針番号16へ移動
操作パネルで移動します。 作業: 針番号16へ移動 チェックポイント: 左側カバーのネジ4本が見える位置まで、針ケースが完全に寄っていること
手順3 — 主電源を完全にOFFにする
作業: 背面の主電源スイッチをOFF チェックポイント: ライトが消灯していること(Eストップでは消えない場合があるため)
なぜ重要か(現場目線の補足)
通電中にコネクタを抜き差しすると、基板側に負担がかかります。複数台運用(例:melco emt16x 刺繍ミシンを含む)では、こうした基本動作を標準化するだけで故障率が下がります。
左側カバーの取り外し手順
手順4 — 左側カバーを外す(ネジ4本)
工具: 3mm 六角レンチ 作業:
- 六角レンチを奥まで差し込み、ナメりを防ぐ
- 最初はしっかり力をかけて緩め、緩んだら手で回して落下を防ぐ

チェックポイント: カバーが無理なく外れること。引っかかる場合は、ネジの取り残しがないか確認し、こじらない。
カバーを外すと内部の基板やライトバー周辺にアクセスできます。

ネジ管理(作業品質を上げる習慣)
外装ネジと内部ネジは、長さがわずかに違うことがあります。混ぜると、配線を傷つけたり、樹脂部品を割る原因になります。外した順に分けて保管してください。
ライトバー(PCB)の交換:電子部品の扱い方
ここが一番繊細な工程です。配線にテンションをかけず、コネクタを正しい持ち方で抜き差しします。
手順5 — 配線固定テープを剥がして、ハーネスに遊びを作る
作業: 配線を押さえているテープを必要な範囲だけ剥がす チェックポイント: コネクタに手が届き、配線が突っ張らない状態になっていること

手順6 — 旧ライトバーを外す(ネジ2本+ワッシャー)
工具: 3mm 六角レンチ 作業: 固定ネジ2本を外す

チェックポイント: ネジ2本・ワッシャー2枚をその場で回収できていること
手順7 — コネクタは“配線”ではなく“ハウジング”を持って抜く
作業: 小さな白いコネクタを探す やり方: 樹脂の差し込み部(ハウジング)を指でつまみ、左右に軽く揺すりながら抜く 禁止: 配線を引っ張らない

チェックポイント: 旧基板が完全にフリーになったこと
手順8 — 新ライトバーを接続して固定する
作業:
- 接続: ハーネスを新基板に差し込む(奥まで確実に)
- 位置合わせ: 取付穴を合わせる(動画では前後の向き指定はなし)
- 固定: ワッシャー付きネジを入れて締める


注意:基板割れ(締めすぎ) 基板はたわみません。締めすぎると割れます。動画でも「しっかり、でも締めすぎない(snug)」が強調されています。
補足:配線はテープで戻して振動対策
固定後、配線が動く状態のままだと振動で緩みやすくなります。動画同様、テープで配線を押さえて復旧してください。複数台(例:melco 刺繍ミシン)を運用している場合は、同じ取り回しになっているか点検する良い機会です。
起動時ジャムを防ぐ「ルーズカバー方式」(最重要)
ここで失敗するケースが多いです。カバーを先にガチ締めすると、起動時に針ケースがカバーに当たって噛み込みやすくなります。
手順9 — カバーは“ネジを緩めた状態”で仮止めする
作業:
- カバーを戻す
- ネジ4本を入れる
- 締め切らず、動く程度に緩めておく
チェックポイント: 手で軽く叩くと、カバーに“遊び”があること

手順10 — そのまま電源ONして初期動作させる
作業: 主電源をONし、起動シーケンスを最後まで待つ 観察: 針ケースは起動時に針番号1へ戻ろうとします。カバーが緩いことで、万一当たっても逃げができ、噛み込みを防げます。

チェックポイント: 針番号1へ問題なく戻る/異音(擦れ・ガリガリ音)がない/ライトが点灯する
手順11 — 針番号16へ戻してから、カバーを本締めする
作業:
- 操作パネルで針番号16へ移動(左側ネジにアクセスしやすい位置)
- ネジを本締めする(奥まったネジは工具をまっすぐ入れて慎重に)

結果: カバーが自然な位置に収まり、針ケースの移動に干渉しない状態になります。
ルーズカバー方式が効く理由(考え方)
カバー側の取り付け穴にはわずかな遊びがあります。先に固定位置を決め打ちするのではなく、機械の初期動作で“当たりのない位置”に自己位置合わせさせてから締めるのがポイントです。
右側ライト交換(概要)
基本は左側と同じ流れで、準備位置とネジが一部異なります。
- 準備: 針ケースを 針番号1 へ移動してから主電源OFF
- 工具: カバーの一部に 2.5mm 六角レンチが必要
- 手順: カバー取り外し → 基板交換 → ルーズ仮止め → 電源ONで初期動作 → 本締め

現場運用の小技(オーナー向け)
機種が違っても手順が共通なら、工具と予備部品をセット化すると復旧が早くなります。melco bravo 刺繍ミシンでも同様に、六角レンチとライトバーをまとめて保管しておくと、探し物の時間が消えます。
事前チェックリスト(準備完了)
- 症状確認: 左右どちらが不点灯か確認し、移動する針番号(16または1)を決めた
- 安全: 主電源をOFFにした(Eストップでは代用しない)
- 作業環境: 小物入れと手元灯を用意した
- 部品: 部品番号 31062-04(または互換の現行版)を確認した
セットアップチェックリスト(分解まで)
- アクセス: 針ケースを端(16または1)まで移動した
- 分解: カバーネジを回収し、紛失しない状態にした
- 配線: テープを剥がし、コネクタに無理なく触れる
作業チェックリスト(交換〜復旧)
- 接続: 新基板のコネクタが奥まで確実に刺さっている
- 固定: ネジは「しっかり、締めすぎない」範囲で固定した
- 配線固定: テープで配線を戻し、振動で動かないようにした
- 位置合わせ: カバーはルーズ仮止めにした
- 動作確認: 電源ON → 初期動作完了 → 針ケース移動後に本締めした
トラブルシューティング
問題が起きても、落ち着いて原因を切り分けます。
| 症状 | 可能性が高い原因 | 確認ポイント | 対処 |
|---|---|---|---|
| ライトが点かない | コネクタの刺さり不良 | ハウジングを持って抜き差ししたか | 主電源OFF → カバーを外す → 白いコネクタを抜き直して確実に挿し込む |
| 針ケースが擦れる/異音 | カバー干渉(早締め) | 起動前にカバーを本締めしていないか | すぐ主電源OFF → ネジを緩める → ルーズ状態で再起動し自己位置合わせ → その後本締め |
| 新基板が動く | 締め不足 | 基板がぐらつくか | 1/4回転ずつ追加で締める(締めすぎ注意) |
| ネジが入らない | 位置ズレ/斜め噛み | 無理に回していないか | いったん戻す → カバーを少し動かす → 手でまっすぐ入れてから工具で締める |
メンテナンス後の見直し:スタビライザーと枠張りの改善
ライトが復旧しても、停止時間の原因が別にあることは珍しくありません。メンテナンスのついでに、刺繍枠や枠張りの負担も棚卸ししておくと改善点が見えます。
スタート:いま困っていることを選ぶ
A:『手首がつらい/枠張りに時間がかかる』
- 課題: ネジ式フープは締め付け作業が反復になり、疲労とサイクルタイム増につながる
- 対策: マグネット刺繍枠の導入
- 理由: ネジ締めが不要で、固定が速い
B:『ポロシャツなどで枠跡が出る』
- 課題: 強く締めて保持しようとして、生地表面を潰してしまう
- 対策: MaggieFrameなどのマグネット方式
- 理由: 圧力が面で分散しやすい
注意:マグネットの取り扱い。 強力磁石は挟み込みの危険があります。医療機器(ペースメーカー等)や磁気媒体には近づけないでください。
C:『帽子や背中など大きいものを縫いたい』
- 課題: 標準枠では形状・面積が合わない
- 対策: 専用枠の準備
- 帽子: ドライバーと melco 帽子用 刺繍枠 を用意し、テンション管理を徹底
- 背中: melco xl 刺繍枠 など大判枠で安定させる
D:『とにかく枠を見直したい』
- 対策: melco 用 刺繍枠 の選定を進め、用途別に最適化する
修理完了の目安(成功状態)
次の条件が揃えば、作業は良好です。
- 見た目: 左右のLEDが同等に点灯している
- 音: 起動時に擦れ・引っかかり音がない
- 動き: 針番号1〜16の移動がスムーズ
- 固定: カバーが面一で、ガタつきがない
この手順は「ライト交換」以上に、業務用刺繍機を安定稼働させるための基本動作(安全停止・部品の扱い・自己位置合わせ)を身につける訓練になります。稼働率は偶然ではなく、段取りとメンテナンスで作れます。
機械が安定してきたら、次は枠張り工程(枠固定台や刺繍枠)の改善がボトルネックになりやすい点も意識しておくと、現場全体のスループットが上がります。
