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Brother Luminaireで始める枠内キルティング(QITH)の考え方
枠内キルティング(QITH)は、家庭用クラスの刺繍機でも「ロングアーム風」の立体感あるテクスチャを作れる強力な手法です。外部ソフトに頼らず、機械側の画面操作だけで背景キルト(ステップル/フィル)を入れられるのが最大の魅力。
特に、今回のようにプリント柄のモチーフ(例:アライグマの顔)がある生地では、モチーフの上を縫って潰すのではなく、“周りだけ”にキルトを入れて引き立てるのが狙いになります。
このチュートリアルでは Brother Luminaire Innov-is XP1 の My Design Center(本体内蔵の編集機能) を使い、 1) 枠内をスキャンして現物を画面に取り込み 2) 縫い目(ブロック境界)に合わせた外枠を作り 3) モチーフを守る内側の保護ライン(Keep-Out)を手描きで閉じ 4) 塗りつぶしパターン024(ハニカム/チキンワイヤー) を「外枠と内側ラインの間」にだけ流し込み 5) そのまま刺繍として縫い出します。

ただし、画面で形ができても「縫える状態」とは限りません。ここでは、仕上がりを安定させるための“見えない段取り”(層構成、枠張りの張力、スキャン時の注意、線の閉じ確認)を、動画の流れに沿って補強します。

生地と刺繍枠の準備:ここで8割決まる
動画では、Tula Pinkの動物モチーフ入りテーブルランナーを、ブロックごとに枠張りして進めています。素材の積層は Cherrywood Cotton(起毛感のある高密度コットン) + 80/20 Warm & Naturalのキルト綿。この組み合わせは、
- 厚み(ロフト)がある
- 枠で押さえると潰れるが、外すと戻ろうとする
という特性があり、外枠(四角)の精度や、塗りつぶしの均一さに影響します。
見落としがちな“裏方アイテム”
作業前に、最低限ここを揃えると失敗率が下がります。
- 針:厚みのあるサンドには、刺繍針の細番手よりも、貫通性に余裕のある針が有利です(動画内では針番手の指定はありませんが、厚物での糸切れ・目飛びは「針の相性」で起きやすい点は押さえてください)。
- 糸色:動画でもトーン・オン・トーン(同系色)で進めています。背景キルトは移動や継ぎが出やすいので、同系色は仕上がりが安定します。
- 糸端処理用のハサミ:キルト綿に引っかけず、糸だけを切れるもの。
注意:安全 スキャン時は枠が自動で前後左右に動きます。指・袖・道具を可動域に入れないでください(動画でも「枠が動くので離れて」と表示が出ます)。
キルトサンドの枠張りは「太鼓張り」にしない
キルトサンドは、平織りコットン単体と違い、強く締めるほど歪みが出やすくなります。
- 触感チェック:表面は「しっかり支えられている」程度でOK。弾くと高い音が鳴るほど張ると、外したときに波打ちやすくなります。
- 裏布チェック:裏布がたるむと、縫製中にバタつき(旗振り)を起こし、裏の糸調子が乱れやすくなります。
スタビライザー(安定紙)の考え方
キルトサンドでは、キルト綿自体が“安定層”として働くため、必ずしも追加のスタビライザーが必要とは限りません(動画もスキャン→描画→塗りつぶし→縫い出しの流れで進行)。
| 生地/プロジェクト | 推奨の考え方 | 枠張りの方針 |
|---|---|---|
| 通常のコットンブロック | 薄手の安定紙を検討 | 通常枠張り/必要に応じて浮かせ貼り |
| キルトサンド(綿入り) | 追加なしでも進めやすい | 厚みを潰しすぎない枠張り |
| 伸びやすい素材 | 伸び止めを優先 | 引っ張らず固定する |
作業前チェック(6項目)
画面操作に入る前に、ここだけは確認してください。
- ボビン残量:塗りつぶしは糸量が多く、途中で切れると補修が難しくなります。
- 作業台の上:定規・クリップ等を可動域から退避。
- 針板まわり:キルト綿は糸くずが増えやすいので、事前清掃が有利です。
- 枠の噛み合わせ:内枠・外枠が均一に入っているか。
- ブロック位置:縫い目(境界)が枠内で見やすい位置か。
- 手元の視認性:スキャン後の編集線が見える明るさか(次章で調整)。
My Design Centerで枠内をスキャンする
Luminaireの強みは、枠内をスキャンして「現物の位置」を画面上で見ながら編集できる点です。

手順1 — スキャン開始
- My Design Center を開きます。
- 上部メニューから Image Scan(花のアイコン)を選択。
- Scan を押します。
- 枠が動くので、手を離して待ちます。
チェックポイント:スキャン中に指が枠付近にあると、画像に写り込むことがあります(動画でも指が写りました)。
手順2 — 画像の濃さ(見え方)を調整
スキャン直後は画像が薄く表示されます。スライダーで少し濃くして、縫い目やモチーフが見える状態にします。
現場のコツ:濃くしすぎ(スライダー最右)にすると、これから描く編集線が見えにくくなります。動画でも「一番右にすると編集が見えない」と注意しています。
よくある異常:指が写り込んだ
- 判断:ブロック境界やモチーフの近くを隠していなければ、そのまま進めても支障が少ないです。
- 対処:縫い目の確認に邪魔なら、撮り直し(再スキャン)します。
スタイラスで境界線を作る(外枠+内側の保護ライン)
ここからは「塗りつぶしが漏れない壁」を作る工程です。必要なのは2つ。
- 外枠(Outer):ブロックの境界(縫い目)に合わせる
- 内側(Inner):モチーフを守るKeep-Outゾーン(閉じた線)

手順3 — 外枠(ブロック境界)を作る
- Shapes(図形) を開きます。
- 四角(Square) を選択。
- Size で四角を長方形に伸ばし、ブロックの縫い目に近づけます。
- 重要:最後の微調整は、ドラッグではなく 方向キー(矢印) で行います(動画でも矢印で追い込み)。
- 必要なら Rotate でわずかに回転して、縫い目に平行に合わせます(動画でもごく小さな回転で合わせています)。

チェックポイント:赤い外枠線が、縫い目の境界(いわゆる“溝”)に沿って見えること。
手順4 — 内側のKeep-Outゾーンを手描きする
モチーフ周りは、手描きで「塗りつぶし禁止エリア」を作ります。
- Pencil(鉛筆) を選択。
- Zoom 200%〜400% で描き始め、必要に応じて拡大します(動画では200%→400%→800%)。
- Hand(手のひら) で画面を移動しながら、モチーフの周囲をなぞります。
- 最後は必ず線をつなげて閉じる(これが最重要)。

チェックポイント:急がないこと。線がガタつくと、塗りつぶし境界が荒れて見えます。
手順5 — 800%で「閉じ忘れ(微小ギャップ)」を潰す
塗りつぶしは“バケツ”のロジックなので、線が1ピクセルでも開いていると漏れます。
- Zoom 800% にします。
- 線のスタート地点〜終点を中心に、ぐるっと一周確認します。
- はみ出しは Eraser(消しゴム) で消し、切れた箇所は Pencil でつなぎ直します(動画でも消してから描き足して閉じています)。
補足:枠張りが波打っていると、スキャン画像も歪んで見え、トレース精度が落ちます。繰り返しブロックを安定させたい場合、保持力が一定になりやすい brother luminaire 用 マグネット刺繍枠 のような選択肢が話題に上がるのは、この「スキャン→トレース」の精度に直結するためです。
ハニカム(パターン024)を塗りつぶす
壁ができたら、あとは“流し込む”だけです。

手順6 — フィルを選んで、負の空間だけを塗る
- 背景(Background) のフィル設定に入ります。
- フィル一覧から 024(ハニカム/チキンワイヤー) を選択(動画でも024を使用)。
- Paint Bucket(塗りつぶし) を選びます。
- 外枠と内側ラインの間(負の空間)をタップします。

チェックポイント:タップした領域がすぐ赤く変わること。
- 画面全体が赤くなる → 外枠に隙間がある可能性
- モチーフ側が赤くなる → Keep-Outラインが閉じていない可能性
いずれも、戻って800%でギャップを探し、閉じてから再度塗りつぶします。
手順7 — 属性画面で「アウトラインOFF」を確認
「Next」画面で、角度やアウトライン等を設定できます。動画では OutlineをOFF にしています。
- 作業:アウトラインは OFF にして、テクスチャだけを出します。

縫い出し(刺繍として実行)と仕上がり確認
デジタルの設計を、糸で現物化します。

手順8 — 縫い出し
- 枠をアームに装着します。
- スタート(緑ボタン)で縫い出します(動画でもそのまま縫い出し)。

チェックポイント(最初の数十〜100針)
- 上糸が毛羽立つ/切れそう → 厚みと摩擦が強いサイン。いったん停止して原因を確認。
- 異音がする → 針先や糸絡みの可能性。無理に続行しない。
- 枠が強く振動する → 枠の固定や布のたるみを再確認。

生産上のボトルネック:枠張りの疲労と再現性
動画では、標準枠のレバーを解除して外しています。

1ブロックなら問題になりにくいですが、テーブルランナーのように複数ブロックを繰り返すと、枠張りの負担が効いてきます。
- 枠跡(枠の圧痕)
- 手首への負担(レバー操作)
- 毎回の位置合わせに時間がかかる
こうした背景から、効率と再現性を重視する現場では マグネット刺繍枠 のようなマグネット式が選択肢になります。
注意:磁力の取り扱い 強力なネオジム磁石を使うタイプは吸着力が非常に強いです。ペースメーカー等の医療機器に近づけないでください。また、磁石同士を勢いよく吸着させると指を挟む危険があります。
仕上げ前チェック(外す前に)
- 距離確認:塗りつぶしがモチーフから狙い通り離れているか。
- 裏面確認:下糸(ボビン糸)が極端に引き出されていないか。
- 波打ち確認:大きなうねりが出ていないか(小さなものは後でスチームで整えやすい)。

トラブルシューティング:現場の「即復旧」表
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 塗りつぶしが入らない/思った領域に入らない | 線が閉じていない(微小ギャップ) | 800%で隙間を探して閉じる | 描き始めと描き終わりを重ねる意識を持つ |
| モチーフ側まで赤く塗られる | Keep-Outゾーンが開いている | Undo→拡大→線をつなぐ→再塗り | 指よりスタイラスの方が安定しやすい |
| スキャン画像に指が写る | スキャン中に枠付近へ手が入った | 邪魔なら再スキャン | スキャン開始後は手を離す |
| 枠の脱着が固い/手が疲れる | 標準枠のレバー操作が負担 | レバーの解除手順を落ち着いて行う | 繰り返し作業なら brother 用 マグネット刺繍枠 を検討 |
仕上がりと次の一手
うまくいくと、ハニカムのテクスチャがキルト綿を程よく押さえ、モチーフ周りはKeep-Outで縫い潰さないため、プリント柄が立って見えます。動画でも、ブロックごとに同じ流れで進め、最後にアライグマの顔の周りを手描きで保護してから塗りつぶしています。
次にやるなら:
- 端切れのキルトサンドで、スキャン→外枠→Keep-Out→塗りつぶしを反復して手順を体に入れる
- 繰り返しブロックが多い場合は、段取り(枠張り・位置合わせ)を見直し、必要に応じて 枠固定台 などの作業環境も検討する
この1ブロックを通せたなら、Luminaireのスキャン機能とMy Design Centerの強みを、実制作に落とし込めています。あとは“負の空間”を、気持ちよく埋めていくだけです。
