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PE Design Nextのオートパンチ(Auto Punch)とは
Brother「PE-Design Next」のオートパンチ(Auto Punch)は、一見すると「画像を読み込んでウィザードを回すだけで刺繍データができる」魔法のボタンに見えます。ですが、現場のデジタイザーが知っている通り、“すぐできる”=“刺繍として最適”ではありません。このレッスンでは、Kathleen McKeeがシンプルなヘビ画像を例に、オートパンチの結果をマニュアルデジタイズ(Manual Punch)と比較しながら、便利な点と危険な点をはっきり見せてくれます。
単なるボタン操作の紹介ではなく、ソフトが「なぜそう判断するのか」を理解しながら進めます。ビットマップ/JPEGの読み込み、ウィザードを“任せきり”にしない進め方、陰影由来の色分解(いわゆる“色が増えすぎる”問題)の整理、そしてウィザード完了後に起きる技術的なミスの直し方までを、手順として落とし込みます。特に重要なのは、オートデジタイズの根本的な制限として「水平寄りの塗り(フィル)が多くなり、立体感や流れが出にくい」点です。
ただし、データが良くても“刺し”が崩れれば意味がありません。刺繍枠の保持が不安定だと、ズレやシワ、隙間が出ます。趣味と業務の差は、ソフト技術だけでなくワークフローにも出ます。テンションと位置合わせを安定させるには、標準の樹脂枠だけでなく、再現性の高い ミシン刺繍 用 枠固定台 を使って枠張り条件を揃える考え方が有効です。

画像の読み込みとマスク設定
手順1 — ファイルから画像を開く
作業は Sewing(縫い) タブではなく、必ず Image(画像) タブから始めます。PE-Designは、元画像(アート)と刺繍データを別レイヤーとして扱い、処理(パンチ)を通して初めて縫いデータに変換されます。
Kathleenは Open Image → From File を選び、作業用フォルダからヘビ画像を読み込みます。
- チェックポイント: 白い作業グリッド上に画像がはっきり表示されているか。ここで既にギザギザ・ボケが強い場合、後工程で輪郭検出が不安定になります。
- 操作: Image タブにいることを確認。
- 現場のコツ: 作業中データは一時フォルダ(作業用フォルダ)にまとめると、膨大な素材ライブラリから探す手間が減ります(動画内でも同趣旨の運用が紹介されています)。



手順2 — オートパンチを開始し、マスクはデフォルトのまま
次に、(引き続き Image タブ内で)Auto Punch をクリックしてウィザードを起動します。
- マスク設定: ここはデフォルトのまま進めます。マスクは「背景として無視する部分」と「刺繍対象として拾う部分」を分ける考え方です。
- サイズ: サイズ調整画面では Fit to page を選び、枠サイズに対して画像を最大限使うようにします。
- 理由: 色分解や境界検出はピクセル情報が材料です。画像が小さいと解析材料が減り、分割(セグメント)が荒れやすくなります。大きく扱うほど検出が安定しやすくなります(動画でも“枠を最大化して特徴を拾う”意図が説明されています)。
補足: プレビュー生成に少し時間がかかることがあります。連打せず、プレビューが更新されるのを待ちます。



陰影(グラデーション)で「色が増える」問題の整理
なぜオートパンチは「余計な色」を作るのか
初心者が最初につまずきやすいポイントです。元画像が一見シンプルでも、JPEG/ビットマップの陰影(グラデーション)が入っていると、人間には同じ色に見える部分が、ソフトには別の色として検出されます。
オートパンチはピクセル差を忠実に拾うため、結果として:
- 色数が増える: 3色のつもりが多数の色に分解され、糸替え(色替え)回数が増えます。
- 細かい分割が増える: 小さな塊が増えると、縫い順やトリムが増えやすく、仕上がりも不安定になります。
- 位置ズレが目立つ: パーツ境界が増えるほど、押し引き(プッシュプル)や枠内の微小な動きで“白い隙間”が見えやすくなります。
手順3 — 不要色を外し、最大色数を3に制限する
Auto Punch Parameters(パラメータ)画面では、ここで人が介入します。Kathleenは次のように整理します。
- 必要色を決める: 今回は「茶・黒・赤」の3色に絞る。
- 不要色を除外: 色見本(スウォッチ)の X を左クリックして、陰影由来の緑・黄・薄茶などを外す。
- 上限を設定: Max Number of Colors を 3 に変更する。
チェックポイント: プレビューが更新され、ザラついた“斑点”が減って、ベタ面に近い見え方になります。写真っぽさは減りますが、刺繍として破綻しにくい方向です。
- 補足(コメントより要約): オートパンチに入れる前に、画像側で配色を整理(リカラー)しておくと、ソフトが狙い通りに色判定しやすくなる、という実務的な提案があります。




感度とノイズ低減の調整
手順4 — ノイズ低減とセグメント感度を調整する
ここからは“追い込み”です。動画では次の設定が使われています。
- Noise Reduction = Low
- Segmentation Sensitivity = High
スライダーの意味(迷わないための整理)
用語の意味を押さえると、試行錯誤の方向性が見えます。
- Noise Reduction(ノイズ低減): 小さなゴミやムラをまとめる方向の調整です。
- 高め: 細部が潰れやすい一方、ザラつきは減ります。
- 低め: 細い線や小さな要素を残しやすい反面、ムラも残りやすい。
- Segmentation Sensitivity(セグメント感度): 境界(エッジ)をどれだけ積極的に拾うかの調整です。
- 高め: 境界が立ちやすい反面、分割が増えて“隙間が目立つ”条件も作りやすい。
- 低め: まとまりやすい反面、輪郭が甘くなることがあります。
「白い隙間」について(コメントの疑問を踏まえて): アウトライン内側に白い小さな隙間が見える、という指摘があります。プレビューで見えている隙間は、実際の刺繍でも“空き”として残る可能性があります。オートデジタイズは、手動デジタイズのように重なり(オーバーラップ)を意図して作り込むのが苦手で、境界が“接しているだけ”になりやすい点が原因の一つです。
手動での後処理:拾い漏れた色を直す
手順5 — Retry→Finish後に、色を手動で修正する
パラメータ設定後、Kathleenは Retry でプレビューを確認し、問題なければ Finish で縫いデータを生成します。
ここで典型的なミスが出ます。ヘビの舌の赤が拾われず、胴体の茶にまとめられてしまいました。オートパンチは推定処理なので、こうした拾い漏れは起こり得ます。修正は手動で行います。
- 画面右側の Sewing Order タブを開く。
- 舌に該当するセグメントを探す。
- そのセグメントを選択する。
- 下部のカラーパレットで糸色を 赤 に強制変更する。
チェックポイント: 作業エリアのプレビューが即座に更新され、舌が茶→赤に変わります。




注意: 安全面。 糸替え・針交換・糸切りなどで機械周りに手を入れる作業は、必ず停止状態で行ってください。稼働中に針棒付近へ手を近づけないこと。糸切りばさみ等の刃物も、未使用時は安全に管理します。
現実的な結論:オートより手動のほうが早い場面がある
Kathleenは「このソフトではオートデジタイズをほとんど使わない」と述べています。理由は、問題修正に時間がかかり、最初から手動で作ったほうが早いケースが多いからです。このレッスン自体が、前回の手動デジタイズ(レッスン22)との差を見せる目的で作られています。
仕上がり比較:オートパンチと手動デジタイズの品質差
手順6 — 縫い方向とリアルプレビューで“平坦さ”を確認する
拡大して縫い方向を見ると、オート生成の特徴が出ます。Kathleenは Realistic Preview を使って、糸の立体表現(シミュレーション)も確認します。
- オートパンチの傾向: 多くの面が水平寄りのフィルになり、光の反射が揃って“平面的”に見えやすい。
- 手動デジタイズの傾向: 形状に沿って角度を変えられるため、同じ糸でも陰影(見え方)を作りやすい。
結論: オートは「シールのような見え方」になりやすく、手動は「刺繍らしい流れ」を作りやすい、という差が出ます。



判断フロー:オートパンチ/手動/素材変更のどれを選ぶ?
糸と時間を無駄にしないために、次の順で判断します。
- 元画像は写真/JPEGで陰影が強い?
- はい: オートは苦手。可能ならベクター化、または手動デジタイズ。
- いいえ(単純なクリップアート等): オートが成立しやすい。
- 流れ・質感(毛並み、筋肉表現など)が必要?
- はい: 縫い角度制御が必要なので手動が有利。
- いいえ(単純ロゴ等): オートでも検討可能。
- 商用の繰り返し(量産)前提?
- はい: 後修正コストが積み上がるため、手動デジタイズ(または素材改善)を優先。
- いいえ(試作・単発): オートで素早く形にする価値がある。
結果
このレッスンの流れを押さえると、PE-Design Nextのオートパンチを“使える範囲で使う”判断ができるようになります。
- 画像を読み込み、Fit to page で解析条件を整える。
- 陰影由来の不要色を X で外し、Max Number of Colors で上限を決める。
- Noise Reduction と Segmentation Sensitivity を意図して調整する。
- ウィザード完了後、Sewing Order で拾い漏れた色(舌など)を手動修正する。
- オートの“平坦さ”と、手動の“流れ”の差をプレビューで見分ける。
オートパンチは試作やスピード重視の場面で便利ですが、限界を理解して使うことが品質の近道です。データ面の知識に加えて、安定した枠張り・資材選定・試し縫いの段取りを揃えることで、どの Brother 刺繍ミシン でも結果の再現性は上がります。
