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PE Design 10でデザインを分割する:"デジタルメス"の考え方
デザインを読み込んで、何度クリックしても「花びらだけ」を動かせず、スプリットモノグラム用に左右を分けられない——そんな経験があるなら、それは見た目とデータの扱われ方の違いに当たっています。PE Design 10では、複数パーツに見えるデザインでも、ソフト側では1つの塊(単一オブジェクト)として扱われていることがあり、こちらが意図する編集ができません。
初心者にはストレスですが、現場ではよくある状況です。刺繍枠サイズの制限がある場合や、購入データ/内蔵データを加工して使いたい場合、分割の理解は必須になります。
ここでは、再現性の高い2つのワークフローを扱います。
- 手動分割("物理的に切る"): Split Stitchesでステッチを切断し、独立したパーツにする
- レイヤー分離("グループ解除"): Divide by Colorで色ごとに分解し、選択・削除できる状態にする
そして、避けて通れないのが実縫いの現実です。ソフト上で分割できても、Tシャツ上で左右(または上下)を継ぎ目なく合わせるのは別問題で、ここでつまずく人が多いです。ソフトの精度と生地の不安定さのギャップを埋める道具として、たとえば magnetic embroidery hoop のような用語を目にすることがあります(位置ズレや枠跡対策の文脈で出てきやすいキーワードです)。

方法1:Split Stitchesで手動分割する
手動分割は、デザインにハサミを入れるイメージに近い操作です。ステッチデータを狙った位置で物理的に切る必要があるとき(例:花柄を左右に割って中央に名前を入れるスプリットモノグラム)に向きます。
手順1 — デザインライブラリから内蔵デザインを読み込む
右側パネルで Import(インポート)機能タブを開き、Design Library(デザインライブラリ)を選択します。カテゴリ Floral1 を探し、ひまわりのアイコンを白いグリッドの作業エリアへドラッグ&ドロップします。
チェックポイント: ドロップした瞬間にデザインが作業エリア中央に配置されます。見た目は花でも、データとしては「座標とステッチの集合体」です。



手順2 — デザインを選択して Stitches の編集ツールを出す
デザイン本体をクリックして選択します。外周にバウンディングハンドル(黒い四角のハンドル)が表示されれば選択状態です。
上部リボンの Stitches タブを表示します。ここがグレーアウトしている場合は、デザインが正しく選択できていません。
補足: PE Designのツールは「状況依存(コンテキスト)」です。選択していないと、使えるはずの機能が出てきません。

手順3 — Split Stitches(Split at Point と混同しない)
Stitches タブで Split Stitches を選びます。カーソルがハサミ+十字の形に変わります。
注意: 分割したデータを実際に縫う段階では、途中で刺繍枠を掛け替える(または位置を変える)作業が発生しやすくなります。作業を急ぐと危険が増えるため、針棒まわりやトリミング部に指を近づけないなど、基本動作を徹底してください。
切り分け操作は、次のリズムで行います。
- 1回クリック(左クリック): 切り始め(開始点)を置く
- もう1回クリック(左クリック): 切り終わり(終了点)を置く
- 外側へドラッグ: 点線のボックス(選択範囲)を引き出して、分割したい領域を指定する
- ダブルクリック: ここで確定(実行)
成功の目安: ドラッグ中に点線ボックスがはっきり出ます。ダブルクリック後、いったん何もない場所をクリックして解除し、片側だけをクリックして動かせれば分割成功です。



手動分割後に必要な「後片付け(housekeeping)」とは
手動分割は、連続していたステッチの流れを途中で断ち切るため、縫製上のリスクが増えます。現場でいう「後片付け」とは、機械が詰まらないようにデータを整える作業です。
分割後は拡大して確認します(目視できる倍率で)。特に以下をチェックします。
- 極端に短いステッチ: 目立たないほど短い針数が密集すると、糸絡みの原因になります
- ジャンプの増加: 分割により、意図しない移動(ジャンプ)が増えることがあります
- 位置合わせの方針: パーツAとパーツBをどう合わせるか(再枠張り/位置変更が必要か)

実例:スプリットモノグラム用のベースを作る
スプリットモノグラムは典型例です。装飾を割って中央に文字を入れるには、分割だけでなく「隙間を作ったときの見え方(生地上の物理)」も考える必要があります。
生地上で破綻しにくい実務フロー
- 分割を実行: 上記の Split Stitches 手順で切り分ける
- 隙間を作る: 上側を上へ、下側を下へ移動してスペースを確保する
- 現場のコツ: 斜めにズレると合わせが崩れやすいので、設定によっては
ShiftまたはCtrlを併用して移動方向を制限します(環境差があるため、動き方は一度テストしてください)。
- 現場のコツ: 斜めにズレると合わせが崩れやすいので、設定によっては
- 文字を配置: テキストツールで名前を入力し、隙間に配置する
- 枠跡(枠跡・枠跡の光り)を意識:
分割後のレイアウトが大きくなり、再枠張りが必要になると、枠の圧痕(枠跡)が出やすくなります。マルチポジション作業では特に痛点です。
作業性を上げる考え方: 位置ズレや枠跡に悩む頻度が高い場合、ソフトの工夫だけでなく、作業の再現性を上げる道具が効きます。たとえば ミシン刺繍 用 枠固定台 を使うと、毎回の位置決めを「勘」ではなく「基準」で揃えやすくなります。標準枠は摩擦と締め付けに依存するため、条件次第で滑りが出ます。
大きく複雑なデザインが「計算できない」ことがある理由(分割が効く場面)
コメント欄には、複雑なデータをノード編集しようとして諦めかけた、という趣旨の投稿がありました。大きいデータを一括で編集すると、処理が重くなりやすいという話です。
特にサテン系の再計算は負荷が高く、巨大なオブジェクトを1つの塊で動かすと、操作のたびに広範囲の再計算が走りがちです。そこで Split Stitches で2〜3個の塊に分けておくと、触っている部分だけに負荷を閉じ込めやすくなります。
目安としての考え方: ステッチ数が多い/下縫いが複雑なデータほど、先に分割してから重い編集をすると安定しやすい傾向があります。
方法2:Divide by Colorで色レイヤーに分解する
「切る」のではなく「バラす」方法です。デザインがステッカーのように一体化して動くときに、色ごとの要素を剥がすイメージで使います(例:背景の塗りだけ消して、アウトラインは残す)。
手順1 — "marching ants"(点滅する選択枠)問題を理解する
読み込んだデザイン(特にDSTやPESなど)をクリックすると、全体の外周に点滅する選択線が出て、黄色部分をクリックしても全部が選択されることがあります。これは、作業エリア上ではグループ化/単一パターン扱いになっているサインです。

手順2 — Divide by Color を実行する
デザイン全体を選択した状態で、Stitches タブから Divide by Color をクリックします。
補足(見た目が変わらないことがある): Split Stitchesと違い、実行しても派手な変化が出ない場合があります。変更は内部的に行われます。
確認テスト:
- いったん白い余白をクリックして 全解除(Deselect) する(重要)
- 特定の色要素(例:黄色の花びら)をクリックする
- チェックポイント: バウンディングが花全体ではなく、その要素だけに掛かれば成功


コメントで多い誤解:「縫い順に色が出ている=分解できている」ではない
縫い順(Sewing Order)に「Color 1 / Color 2 / Color 3」と表示されていても、作業エリア上では1つの塊のまま、ということがあります。Divide by Color は、その“つながり”を切って、選択できる単位に分けるための操作です。
要素を分離して削除する(塗りを消してアウトラインだけ残す等)
Divide by Colorで分解できると、要素単位での編集が可能になります。
例:アウトラインだけ残す
- 選択: Divide by Color後、消したい要素(例:密な塗り)をクリックして選択
- 確認: 画面下部のステータス表示などで、選択対象が意図した要素か確認
- 削除: Deleteキーで削除
期待される結果: 軽いアウトライン中心のデザインになります。ベタ塗りが硬く出やすい素材では、こうした軽量化が有効なことがあります。

分解した後に「元に戻して一体化」できる?
可能ですが注意が必要です。複数オブジェクトを選択して Group(Ctrl+G)や結合系の機能を使えます。ただし、分解後に再結合すると、ステッチの入り/抜けや縫い順が再計算され、意図しない移動が増える場合があります。
実務の判断: 編集目的で分解した場合、単にグループ化で終わらせず、必ず縫い順(Order of Sewing)を目視で確認し、無駄な往復やジャンプがないかを詰めてください。
よくある選択トラブル(原因→確認→対処)
1) 「個別パーツを選んで動かせない」
- 原因: ソフトが1つのステッチブロックとして扱っている
- 対処: デザイン選択 → Stitches → Divide by Color。その後、必ず一度解除してから特定パーツをクリック
2) 「半分に切りたいのに、選択ツールだと全部ついてくる」
- 原因: そもそも1オブジェクトを“選択”で分けようとしている
- 対処: Split Stitches を使う。手順は「クリック→クリック→ドラッグ→ダブルクリック」
3) 「Stitchesメニューが出てこない」
- 原因: 選択状態になっていない(コンテキストがない)
- 対処: デザイン本体をクリックし、黒いハンドルが出るか確認。出ない場合は、縫い順パネル側でロック/選択状態になっていないかも確認
4) 「1色デザインなので Divide by Color で分けられない」
- 原因: 色で分ける前提が成立していない
- 対処: Split Stitches で手動分割する
5) 「マルチフーピングで約1/8インチずれる」
- 原因: ソフトというより生地の伸び・滑りなど物理要因が大きい
- 対処: スタビライザー(安定紙)の見直し。ニットにはカットアウェイ系を検討し、ミシン刺繍 マルチフーピング の基本(テンプレート、スタビライザーへの十字基準線など)で再現性を上げる
Prep(事前準備)
「書き出し」前に、実縫いで破綻しないための準備をします。分割データは、デジタル50%・機械50%です。
見落としがちな消耗品&準備チェック
初心者は糸と刺繍枠を買いますが、現場は“保険”になる道具を揃えます。
- 仮止めスプレー(例:505 / KK100): マルチフーピング時にスタビライザーと生地を安定させ、微小ズレを抑える
- 水で消えるペン: パーツAとBをつなぐ基準線(十字)を描く
- USBの整理: USBメモリは機種要件に合わせてフォーマットし、必要ファイルだけにする(ファイルが多いと扱いづらい)
刺繍枠制限を回避する目的で分割する場合、ソフトの設定より先に、機械側の最大刺繍範囲を確認してください。brother se700 刺繍枠 サイズ のように枠サイズを調べる人が多いですが、ソフトでハードの物理限界を超えることはできません。
Prepチェックリスト(出発前)
- 元データを正しく読み込めている(ライブラリ等)
- オブジェクト選択できている(ハンドル表示)
- Stitchesタブが有効(グレーアウトしていない)
- 判断: 切る(Split Stitches)か、色で分ける(Divide by Color)か
- 保険: 編集前に
Design_Name_SPLIT_v1.pesのように別名保存(原本は上書きしない)
Setup(セットアップ)
セットアップは、PC画面と刺繍機の動きをつなぐ工程です。
分割方法の選び方(目的別)
最初に確認: 最終目的は何ですか?
- 「花の中に名前を入れたい」
- 方法: Split Stitches(隙間=物理的な切り分けが必要)
- 「背景の塗りだけ消したい」
- 方法: Divide by Color(特定レイヤーを選択して削除したい)
- 「5x7のデザインを4x4機で縫いたい」
- 方法: Split Stitches+マルチフーピング手順。brother 4x4 刺繍枠 の制約下では、分割後の位置合わせが難所になります(再枠張りの精度が要求されます)。
Setupチェックリスト(ソフト側)
- グリッド表示をON(位置合わせの基準にする)
- Split Stitchesの場合: Split at Pointではなく、Split Stitchesを選んでいる
- Divide by Colorの場合: ボタンを押す前にデザイン全体を選択している
- 検証: 解除→再クリックで、パーツが独立していることを確認
- 形式: 機械に合う形式で書き出し(Brother系は.PESなど)
Operation(操作)
実行フェーズです。手順を省略しないことが品質に直結します。
Operation A — 手動分割(Split Stitches)
Floral1を読み込む- デザインを選択
- タブ:Stitches > Split Stitches
- 操作: 開始クリック → 終了クリック → ボックスをドラッグ → ダブルクリック
- チェックポイント: 選択ボックスが見えること。確定後は、片側だけが選択・移動できること
Operation B — 色で分解(Divide by Color)
- デザインを選択
- タブ:Stitches > Divide by Color
- 操作: ボタンをクリック
- 重要: 余白クリックで解除
- テスト: 特定色だけをクリックして単独で動けば成功
Operationチェックリスト(やることリスト)
- 画面上でパーツを動かし、縫い代的な重なり(ズレ吸収)を考える
- 拡大して、切断ライン付近の不要ステッチを確認する
- 削除は、対象要素を選べていることを確認してから実行する
- 縫い順を確認し、不要な色替えが増えていないかを見る
注意(マグネットの安全): 位置合わせや枠跡対策で brother 用 マグネット刺繍枠 のようなマグネット枠を検討する場合、強力磁石は指を挟む危険があります。取り扱いには十分注意し、医療機器(ペースメーカー等)への影響にも配慮してください。
Quality Checks(品質チェック)
データは「縫って初めて完成」です。失敗を予測するためのチェックを入れます。
画面上のチェック(仮想検証)
- 隙間チェック: 手動分割の場合、画面上でピッタリ突き合わせると、生地の引きで現物に隙間が出やすくなります。重なりをどう設計するかを意識します。
- 移動チェック: シミュレーター(再生)で縫いの移動を見て、無駄な往復や大ジャンプがないか確認します。
実縫いチェック(物理検証)
- 糸調子・縮み: パーツA/Bでシワや引きつれが出るなら、スタビライザーが弱い可能性があります
- ズレ量: 2mm以上のズレが出る場合、枠張りと固定の再現性が課題になりやすいです
大きめの刺繍枠を持つ機種でも、分割縫いでは保持力が結果に直結します。刺繍枠 brother se1900 用 のように枠の選択肢を調べる人が多いのも、この工程で差が出るためです。
Troubleshooting(トラブルシュート)
症状:「分割したのに、縫うと合わない」
現場判断: ソフトより、固定と安定の問題であることが多いです。
- 対処: 粘着系スタビライザーや仮止めスプレーで、生地の“クリープ(じわ滑り)”を抑えます。
症状:「SE1900で5x7以上(ジャンボ枠)を縫いたい」
現実: 機械の可動範囲には物理限界があります。
- 選択肢: いわゆるマルチポジション枠(5x12等)は「生地を外さず位置を変える」運用ができますが、機械が認識するのは分割された複数ファイルです。
- 検討: 量産(例:50枚以上)では分割と位置合わせが工数になります。brother 5x7 マグネット刺繍枠 のような保持・再現性の改善が効くか、そもそも大判対応機への移行が必要かを見極めます。
症状:「PE800で9x14を縫いたい。4分割できる?」
できる? 可能です。 おすすめ? 位置合わせの難易度が上がります。 現場目線: 4分割の完全一致は難しく、作業ボトルネックになりやすいです。業務用途なら、最終的にはデザインサイズに合う設備構成が効率的です。
Results(まとめ)
これで、PE Design 10の2つの武器を使い分けられます。
- Split Stitches:形状を“切って”コントロールする(隙間作り/枠制限回避)
- Divide by Color:要素を“分けて”コントロールする(レイヤー分離/不要要素の削除)
ただし、業界の基本は変わりません。ソフトはデータを整え、枠張りが仕上がりを決めます。
分割はできたのにズレるなら、ソフトを疑う前に、固定・安定・再現性の道具と手順を見直してください。
