目次
作業環境のセットアップ:カスタム刺繍枠サイズと「迷子にならない」基本動線
mySewnet Platinumを開いた瞬間、タブが多すぎて手が止まったり、見慣れない刺繍枠リストと真っ白なキャンバスに焦ったりすることがあります。これは珍しいことではありません。やりたい完成形は頭にあるのに、ソフト上の操作が追いつかない——このギャップが最初の壁になります。
ここでは、最初の「確実に成功する1回」を作るために、必要なところだけに絞って進めます。刺繍枠(作業領域)を意図して決め、拡大縮小に強いデザインを置き、密度を崩さずにサイズを合わせ、最後に「編集用ファイル」と「ミシン用ファイル」を分けて保存する——この流れを固めます。

この回で身につくこと(現場で効く理由)
- 「意図」ルール: 機種リストから適当に選ぶのではなく、完成サイズから作業用の刺繍枠(ワークスペース)を決める考え方。
- 手入力での枠設定: 180 mm × 180 mm の正方形を例に、カスタム刺繍枠を入力して作業領域を作る。
- 見える化の衛生: グリッドとズームの習慣で、目測クリックを減らす。
- リサイズの正解: Shiftドラッグ(比率固定)と「Modify Design」でmmを狙う方法。
- ファイルの安全策: VP4(編集用)とPES(ミシン用)を混同しない保存・書き出し手順。
手順:現実の刺繍枠サイズに合わせて作業領域を決める
1) 空のキャンバスから開始。 白紙は「失敗」ではなく、条件を決めるためのスタート地点です。 2) (任意)機種を選択。 手持ちの機種が決まっている場合、対応する刺繍枠の候補が絞られるので迷いが減ります。

3) カスタム刺繍枠を手入力:
- Enter Hoop Size をクリック。
- 幅(Width)に 180、高さ(Height)に 180 を入力。
- OK。
画面上の刺繍枠プレビューが、金具付きの詳細表示から「シンプルな四角い外枠」に変わります。これは正常で、余計な情報が減り、作業境界(この中に収める)に集中できます。
現場のコツ:「画面上の枠設定」と「実際の枠張り」は別物
画面で刺繍枠サイズを合わせるのは簡単ですが、実際の枠張りでシワやたるみがあると、位置合わせや仕上がりに影響します。
- 触感チェック: 生地を枠張りしたら軽く叩き、鈍い太鼓のような張り(「トントン」)があるか確認します。指でなぞって波打つなら、縫いズレやシワの原因になりやすいです。
量産(例:50枚以上)になると、手作業の枠張りはボトルネックになりがちです。位置の再現性が落ち、手首も疲れます。そこで多くの現場では 刺繍用 枠固定台 を組み込み、毎回同じ位置・同じ角度で枠張りできるようにします。結果として、通常の樹脂枠で起こりやすい枠跡も抑えやすくなります。
注意: この回はソフト操作が中心ですが、最終的な縫い品質は物理条件に支配されます。針周りには手を入れない、異音(「バキッ」「ガリッ」)がしたら即停止、パンタグラフ動作中に糸切りをしない——基本を徹底してください。
Super Design:拡大縮小に強い素材で練習する
mySewnetの「Super Design」は、一般的な刺繍データ(固定ステッチ)と違い、サイズ変更時にステッチを再計算しやすい仕組みです。最初の練習素材として安全度が高いのが利点です。
グリッドを表示(目盛り=基準線)
1) View タブへ。 2) Show Grid をクリック。

チェックポイント: 刺繍枠内に格子が表示されます。これがないと距離感が目測になり、サイズ合わせや配置がブレやすくなります。
Super Designを挿入(花の例)
1) Super Design タブへ。 2) カテゴリから Flowers and Leaves を選択。

3) 花のデザインをクリック(講師は5枚花びらの花)。 4) 重要: 適用前に Size を確認し、20 mm に設定。

5) Apply をクリック。

画面の見方(作業の「計器盤」)
- Film Strip(左): 操作や要素の並びを把握し、順序の入れ替えにも使います。
- Design Panel(右): ステッチ数、色数、縦横寸法など、判断材料が集まる場所です。

ホバー習慣: Design Panelの色ブロックにマウスを乗せると、該当箇所が強調表示されます。配色や縫い順のイメージを掴むために、作業中こまめに使うとミスが減ります。
迷子防止:「Homeに戻る」習慣
タブを行き来していると、今どの機能群を触っているか分からなくなりがちです。
- ルール: 大きな操作が終わったら Home タブへ戻る。
講師も「各タブで作業したらHomeに戻ると迷いにくい」と強調しています。
正しいリサイズ:密度と形状を崩さない
リサイズは初心者が最も失敗しやすいポイントです。比率が崩れると形が歪み、密度が崩れると縫いが硬すぎたりスカスカになったりします。
方法A:見た目で拡大縮小(Shiftで比率固定)
1) 花のデザインを選択。 2) 四隅のハンドルをつかむ(辺のハンドルではなく角)。 3) キーボードの Shift を押しながら。 4) 角をドラッグ。

Shiftを押さないと縦横比が崩れ、花が楕円のように潰れます。

チェックポイント: 形が「潰れた/伸びた」なら、Undo(元に戻す)して、Shiftを押しながらやり直します。
「20%ルール」について(使い分けの目安)
今回のSuper Designはサイズ変更に強い一方、一般的な取り込みデータ(PES/DSTなど)は、単純リサイズで密度が破綻しやすいことがあります。
- 目安: 取り込みデータは、無理な拡大縮小を避け、必要なら密度調整や再作成を検討します。
方法B:数値で正確に合わせる(Modify Designでmmを狙う)
ドラッグは「だいたい」になりやすいので、例えば幅を 30.0 mm に合わせたい場合は数値ベースで詰めます。
1) Home タブにいることを確認。 2) Modify Design アイコンをクリック(※「Modify」タブと紛らわしいので注意)。

3) ダイアログで:
- パーセンテージを上下。
- mm表示(寸法)を見ながら調整。
- 幅が 30.0 mm になったところで止める。

4) OK。
チェックポイント: Design Panel側でも、幅が 30.0 mm になっているか確認します。
現場目線:ソフトで整えても、枠張りで詰まると時間が溶ける
ソフト上で20分かけてサイズを追い込んでも、厚手パーカー等の枠張りで10分詰まると生産性は落ちます。
- 樹脂枠は素材や段差によっては固定が難しく、枠が外れたり、枠跡が出やすいことがあります。
- そうした素材を扱う現場では マグネット刺繍枠 を導入し、押し込み負荷を減らして作業を安定させるケースがあります。
注意(マグネットの安全): マグネット刺繍枠は強力で、挟み込みの危険があります。
* 合わせ面に指を入れない。
* ペースメーカー等の医療機器がある場合は、強磁力を近づけない(距離を取る)。
* 保管はスペーサーを挟んで分離。
画面操作:ズームを制すると編集が楽になる
見えないものは直せません。ズーム操作は編集ソフト全般で「慣れ」が必要な部分です。
ドラッグで範囲ズーム
1) Zoom ツール(虫眼鏡)を選択。 2) 見たい部分を囲うようにドラッグ。

3) 離すと、その範囲に拡大されます。
ズーム解除(全体に戻す)
深く拡大しすぎたら、4方向矢印(Zoom to Fit)で戻します。これはデザインではなく、刺繍枠が画面に収まる表示に戻る点がポイントです。
スライダーは避け、倍率ドロップダウンを使う

ズームのスライダーは、動かすたびに再描画が走って重くなりやすいと講師が説明しています。
- 現場のコツ: 倍率のドロップダウンで 400% や 800% に一気に飛ぶと、素早く確認できます。
保存と書き出し:編集用(VP4)とミシン用(PES)を分ける
ここは必須です。編集用の「元データ」と、ミシンが読む「実行データ」を混ぜると、後で必ず混乱します。
1)編集用マスターを保存(VP4)
1) File > Save As。 2) ファイル名例:Flower_Lesson_MASTER。 3) 形式:.vp4。

理由: VP4はソフトのネイティブ形式で、後日開いても編集情報が残りやすく、再調整がしやすいです。
2)ミシン用に書き出し(PESなど)
1) File > Export。 2) 形式:Brotherなら .pes(他機種は該当形式)。

3) 設定:
- 書き出し時の刺繍枠サイズを確認(前回選択した枠が自動で入ることがあります)。
- ColorSort は(この段階では)オフ。

4) ファイル名例:Flower_Lesson_STITCH。
講師は、ファイル名に「exported(書き出し)」が付く状態を維持すると、編集用と区別しやすいと説明しています。
チェックポイント: フォルダ内に「MASTER(VP4)」と「STITCH(PES)」の2つがあるか確認します。
仕上げ前の現場チェック(ソフトが完璧でも、縫いは別)
USBへ移す前に、最低限の実務チェックを入れます。
見落としがちな準備
- 針: 交換時期が曖昧なら交換。
- 下糸(ボビン糸): 残量と状態を確認。
- 試し縫い: いきなり本番素材で走らせず、テストを取る。
小型機(例:Brother SE600)では枠サイズ制限が厳しく、配置でつまずきやすいです。位置合わせに不安がある場合は、brother 4x4 刺繍枠 の範囲での配置・枠内取り回しを前提にした解説を探すと、失敗が減ります。
事前チェックリスト(省略しない)
- サイズ確認: デザイン寸法(mm)を把握し、実際の刺繍枠の縫製可能範囲に収まっている。
- 針: 素材に合う針番手で、状態が良い。
- 下糸: 残量が十分で、絡みの原因がない。
- 可動域: パンタグラフの可動範囲に障害物がない。
- ファイル整理: VP4(編集用)とPES(ミシン用)を分けて保存した。
セットアップ:素材→スタビライザー→枠張り方の判断
スタビライザー(刺繍の安定性を作る資材)は、素材と仕上がりを左右します。
判断ツリー:素材 → スタビライザー → 枠張り戦略
1. 素材はどれ?
- 伸びない素材(デニム/帆布/タオル等):
- スタビライザー: 状況によりティアアウェイが使われます。
- 枠張り: 標準枠でも進めやすい一方、厚手や段差があると作業負荷が上がります。
- 伸びる素材(Tシャツ/ジャージ等):
- スタビライザー: 伸びによる歪みを抑えるための選定が重要です。
- 枠張り: 生地を引っ張りすぎない(ニュートラルに置く)。
- つまずき: 樹脂枠に押し込む過程で伸ばしてしまい、縫い上がりで戻って歪むことがあります。こうした場面で マグネット刺繍枠 brother 用 のように上から垂直に固定できる方式が作業性の助けになることがあります。
- 毛足のある素材(フリース/ベルベット/タオル等):
- 枠張り: 毛足が潰れて枠跡が出やすいので注意。
- 対策: 浮かせ縫い等の工夫、または brother 用 マグネット刺繍枠 のような固定方法で圧痕を抑えやすい場合があります。
2. 数量はどれくらい?
- 単発: 手作業の枠張りでも対応可能。
- 量産(10点以上): brother 刺繍ミシン 用 枠固定台 を使い、胸位置などの再現性を上げると手戻りが減ります。
運用:実行ループ(この順で回す)
- ソフト起動: mySewnet Platinumを開く。
- 作業領域: カスタム刺繍枠を 180x180mm(または実枠)に設定。
- 見える化: View > Show Grid。
- 作成: Super Design > 花 > Size 20mm > Apply。
- 確認: Design Panelでステッチ数・寸法を確認。
- 調整: Home > Modify Design で幅 30.0mm に合わせる。
- 検査: 800%までズームして詰まりや不自然さがないか見る。
- 保存:
.vp4でマスター保存。 - 書き出し:
.pesでエクスポート(ColorSort OFF)。 - 転送:
.pesをUSB/ミシンへ。
運用チェック(出発前)
- Shift確認: Shiftドラッグで縦横比を崩していない。
- グリッド: ONで尺度が見えている。
- 形式: ミシンへ送るのはVP4ではなくPES(または該当形式)。
- 命名: ファイル名で「書き出し」を判別できる。
- 枠: 書き出し時の刺繍枠が適切(前回設定のままになっていない)。
品質チェックとトラブルシュート
機械のせいにする前に、画面上の情報で切り分けます。
画面上の品質確認
- ジャンプ: 色ブロック間に長い直線が見える場合、機種によっては自動糸切りがないため手切りが必要になることがあります。
- 密度: 取り込みデータを無理に縮小して、画面上で真っ黒に潰れて見えるなら要注意です。
トラブルシュート(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 形が歪む/「変」になる | Shiftを押さずにリサイズして縦横比が崩れた。 | Undoして、角ハンドルをShift押しながらドラッグ。 |
| 狙いのサイズ(例:30mm)に合わない | ドラッグが曖昧。 | Home > Modify Designで、mm表示を見ながら合わせる。 |
| ズームが重い/カクつく | スライダーで再描画が多発。 | 倍率ドロップダウン(400%、800%)で切り替える。 |
| ミシンがファイルを読まない | 形式違い、または枠サイズ制限超過。 | 正しい形式で書き出し、デザインが実枠制限内か確認(例:brother se600 刺繍枠 は100x100mmの制限が厳しい)。 |
| 枠跡/シワ(パッカリング) | 枠張り時にニットを引っ張った。 | 浮かせ縫い等を検討、または brother pe800 マグネット刺繍枠 のような固定で摩擦伸びを抑える。 |
まとめ:次に進むための「成果物」
この回で、ソフトの操作と現場の段取りをつなぐ基本動線ができました。
成果物:
- 編集用の .vp4 マスター。
- ミシン用の .pes 書き出しデータ。
- mm単位でサイズを合わせた、形状の崩れていないデザイン。
次の改善ポイント: デザイン編集より枠張りで時間が溶けるなら、それが改善すべきボトルネックです。作業量が増えるほど、治具や枠(マグネット刺繍枠、枠固定台など)の投資効果が見えやすくなります。
