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刺繍で使うマイラー(Mylar)とは?
刺繍用マイラーは、薄いポリエステルフィルム(いわゆるホイル風のギフトラップとして見かける素材)を、目の粗い(密度の軽い)刺繍パターンの下に敷いて使うテクニックです。糸でフィルムをベタ塗りするのではなく、針がマイラーに穴(ミシン目)を作り、その穴のラインでフィルムを生地に“留める”ことで、金属っぽいキラキラ感を残します。
実演では、レインボー、クリア、カッパー、パープル、レッド、ゴールドなど複数色が紹介されています。さらに基本の小技として、シルバーにしたいのに色付きしかない場合は、シートを裏返して銀面を使うという方法も説明されています。

考え方の切り替え: マイラーを「布」として扱わないことがコツです。マイラーは「狙って穴を開ける(コントロールされた穿孔)」素材。つまり、マイラーの上に刺すというより、針で穴を作って“固定とちぎり線”を作る作業です。だからこそ、デザインの密度(針数)と、剥がす方向(ちぎり方)が、機種よりも結果を左右します。
家庭用の janome 刺繍ミシン でも、業務用の多針刺繍機でも、原理は同じです。フィルムをズタズタにしない密度で、縫い目構造でフィルムを押さえ込むことが必須になります。
マイラー刺繍に必要な材料
動画の結果を再現するために、工程を必要最小限に整理します。実演では、スタビライザー+コットン生地を枠張りし、配置用のアウトラインを縫い、アウトラインの上にレインボーマイラーを置き(このデモではスプレー糊やテープは未使用)、その上から目の粗いパターンを縫っています。

動画で実際に使われている材料
- マイラー(ポリエステルフィルム)(デモはレインボー)
- 生地: コットン100%(ティール系)
- スタビライザー: ちぎりタイプ(デモ使用)/カットタイプ(推奨)
- 刺繍糸: ポリエステルまたはレーヨン(コントラスト配色)
- 刺繍枠: 標準のプラスチック枠
あると失敗が減る“見えない道具”(初心者ほど重要)
初めての人がつまずきやすいのは、材料そのものより「安定させるための小物」が不足しているケースです。作業台に用意しておくと再現性が上がります。
- マスキングテープ(弱粘着):このデモではテープなしでフラットに置いていますが、慣れないうちは四隅を軽く留めるとフィルムが動きにくくなります(針の進路から離れた外側だけ)。
- 先の鋭い針(シャープ系):丸針だと刺さる前にフィルムを押して伸ばしやすく、穴が荒れやすいことがあります。鋭い針は“穴のキレ”が出やすいです。
- 精密ピンセット:細かいループ内に残る小さなマイラー片をつまみ出すのに便利です。
注意: 針周りに手を入れるときは、必ずミシンを完全停止してから。マイラーは滑りやすく、押さえ周りで指がずれると危険です。
事前チェックリスト(開始前に必ず確認)
- フィルムの面(色):表裏どちらを上にするか決める(銀面を使うなら特に確認)。
- 下糸(ボビン糸)残量:途中でボビン交換が入ると、フィルムがずれたり、作業が止まって剥がし線が乱れやすくなります。
- 針板まわりの清掃:マイラーは静電気が出やすく、糸くずが寄りやすいので、縫う前に軽く掃除しておくと安定します。
- マイラーのカット寸法:デザイン外周より、四方それぞれ最低1インチ大きく切っておく(剥がすための“つかみ代”)。
刺繍デザインの選び方(最大の失敗原因は“密度”)
マイラー刺繍で一番失敗しやすいのは、密度(針数)が高すぎるデザインを使うことです。通常のサテンや密な塗りつぶしをそのまま使うと、穴が開きすぎて、切手のミシン目のようにフィルムが崩れて抜け落ちやすくなります。

「オープン密度」ルール
マイラー向けにデジタイズされたもの、または「ライトフィル(軽い塗り)」のデザインを選びます。
デモでは、格子状のテクスチャが縫われています。この“格子”は物理的に次の2つの役割を持ちます。
- ちぎり線(ミシン目)を作る:余分なフィルムをきれいに剥がすためのライン。
- フィルムを押さえ込む:糸で覆い切らず、未縫製部分の反射を残して輝かせる。
現場のコツ:色合わせで立体感が変わる
実演では、上糸の色をマイラーと同系色にすると(例:パープルのマイラーにパープル糸)、奥行きと濃さが出てリッチに見えることが紹介されています。逆に、コントラスト配色にすると、質感が立ってポップに見えます。
手順:マイラー刺繍(動画の流れをそのまま)
ここからは動画の順番どおりに進めつつ、現場で迷いにくいチェックポイントを追加します。

Step 1:生地とスタビライザーを枠張りする
実演は標準のプラスチック枠です。
作業: 生地+スタビライザーを枠張りし、しっかり張ります。 チェックポイント: 指で押して波打つようなら緩めです。縫い始めでズレる原因になります。
枠跡(枠焼け)について: プラスチック枠は締め込みが強くなりやすく、素材によっては枠跡が残ることがあります。
- きっかけ: 厚物が入れにくい/枠跡が気になる/枠張りの再現性が出ない…
- 対策: マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠は、摩擦で押さえ込む方式ではないため、枠跡の軽減と段取り短縮に繋がります。
Step 2:配置用アウトラインを縫う
デザインを読み込み、最初の色(工程)がランニングのアウトラインになります。

作業: 最初の工程を縫います。 成功の目安: 生地上に、マイラーを置くための輪郭(着地点)がはっきり出ます。
Step 3:アウトラインの上にマイラーを置く
実演では、レインボーマイラーをアウトラインの上にそのまま置き、接着剤は使っていません。

作業: アウトラインより四方1インチ以上大きいマイラーを用意し、フラットに置きます。 初心者向けの工夫: 不安なら、針の進路から十分離れた外側の角を、マスキングテープを小さく貼って軽く固定します。
注意: 熱は厳禁です。縫う前にアイロンで押さえようとすると、素材によっては溶けたり貼り付いたりする原因になります。
Step 4:マイラーの上から“目の粗い”パターンを縫う
ここが本番です。フィルムの上から格子/波などのオープンなパターンを縫い、穴を作りながら押さえ込みます。

作業: 縫い始めます。 チェックポイント: 最初の数十〜100針は特に注視し、押さえがフィルム端を引っ掛けていないか確認します。
トラブル対応:「バブル(もこもこ)」が出る
実演でも、縫っている途中でフィルムが少し寄ったり膨らんだりする様子が出ます。

慌てなくてOK。 押さえに引っ掛かっていない限り、縫い進むことでパターンがフィルムを押さえ込み、結果的に落ち着いていきます。
Step 5:枠から外す
縫い終わったら、ミシンから枠を外し、さらに作品を枠から外します。

チェックポイント: 裏面に糸だまりがないか軽く確認します。次回以降の安定のための目安になります。
Step 6:「内側へちぎる」剥がし方(最重要)
仕上がりの差が一番出る工程です。

よくある失敗: デザインから“外へ”引っ張って剥がす(バナナを剥くように)。これだとフィルムが伸びて、縁がギザギザ(taggy bits)になりやすいです。 正しい方法: 刺繍部分(中心)を押さえ、余分なマイラーをつかんで、刺繍に向かって内側へ引きちぎります。
理屈: 縫い目がミシン目になっています。ミシン目に“逆らう方向(内側)”に力をかけると、パキッと切れて縁がきれいに出ます。
スタビライザーの考え方(動画の内容に沿って整理)
実演ではちぎりタイプを使っていますが、話の中ではカットタイプのほうがしっかり支えられる、と推奨されています。用途に合わせて選びます。
選び方の目安
- 伸びる生地(Tシャツ、ニット)か?
- 基本: カットタイプが安定しやすい(オープンな縫いは、生地が動くとフィルムが抜けやすくなるため)。
- 安定した生地(デニム、布帛コットン)か?
- 選択肢: ちぎりでも可(頻繁に洗わない用途なら)
- より安定: カットタイプ
現場の視点: 量産やリピート案件では、刺繍枠の状態(保持力)とスタビライザーの安定性を揃えるほど、仕上がりのブレが減ります。刺繍枠 刺繍ミシン 用 を用途に合わせて整備し、スタビライザーも銘柄・厚みを固定すると、検品落ちが減ります。
量産目線:作業を“速く・揃える”ための考え方
単発なら手作業の枠張りでも問題ありませんが、マイラーは衣装小物やチーム物などで複数枚をまとめて縫うケースもあります。
ボトルネックになりやすいのは枠張り(段取り)です。枠張りのテンション差があると、フィルムの寄り方やシワの出方が変わり、見た目が揃いません。
改善の方向性:
- レベル1:マグネット刺繍枠:マグネット刺繍枠 は着脱が速く、保持が安定しやすいので、段取り時間とバラつきの両方を減らせます。
- レベル2:枠固定台:刺繍用 枠固定台 を使うと、毎回同じ位置に置けるため、測り直しが減ります。
- すでに hoopmaster 枠固定台 のような定番システムを使っている場合、位置再現の価値は体感しやすいはずです。
- 予算を抑えたい場合でも、汎用の 刺繍用 枠固定台 を導入すると、まとめ作業の手戻りが減ります。
現場用:オペレーションチェックリスト
ミシン前に置いて、ミスを減らすための順番チェックです。
オペレーションチェック(上から順に実行)
- アウトライン:配置用の輪郭を最後まで縫った
- マイラーの余白:アウトライン+四方1インチ以上を確保
- 初動監視:最初の数十〜100針で、押さえがフィルム端を引っ掛けていない
- 剥がし方向:余分は必ず内側へちぎる
- 仕上げの熱:完成後に熱を当てる場合は、当て布などで直接当てない
トラブルシューティング(症状→原因→対処)
問題が起きたら、まずはコストのかからない原因(手順・剥がし方)から潰すと効率的です。
| 症状 | 可能性が高い原因 | 現場での対処 |
|---|---|---|
| 刺繍の中でマイラーが裂ける/抜ける | デザイン密度が高すぎる(通常の密なサテン等) | 中止。 マイラー向けのオープンなデザインに切り替える。 |
| 縫っている途中でマイラーが寄る(バブル) | フィルムの性質で一時的に動く | 実演どおり、押さえに引っ掛かっていなければそのまま進める(縫いで落ち着く)。 |
| 縁がギザギザ(taggy bits)が残る | 剥がす方向が外向き/ゆっくり引っ張った | ピンセットで除去。次回は“刺繍に向かって内側へ”ちぎる。 |
| 洗える? | 素材品質が不明(特にバルーン由来など) | コメントでも話題。まず端材で洗って確認する(実演者も「自分は洗っていないのでテストして」と回答)。 |
仕上がりイメージ
「アウトライン→置く→縫う→内側へちぎる」の流れを守ると、輝きが残りつつ輪郭がきれいに出ます。

実演のように、シンプルなコットン生地でも、マイラーを入れるだけで見栄えが一段上がります。

金属糸のような見た目を狙いつつ、金属糸特有の扱いづらさ(摩擦や切れやすさ)を避けたいときに有効な表現です。




最終チェック(セットアップ確認)
- 枠張り:生地がしっかり安定している(シワ・波打ちがない)
- デザイン:オープン密度(ライトフィル系)である
- 安全:針周りに手を入れるときは必ず停止
- 剥がし方:内側へちぎる動作をイメージできている
