目次
Embrillianceで5x7枠を先に設定する
仕上がりの良い刺繍は、針が落ちる前から始まっています。まずはソフト側で「枠内に収まる設計」と「縫い順(ステッチパス)の整理」を行います。今回は、購入した2つの刺繍データ(スープボウル/カトラリーセット)を1つにまとめ、タオル用に“縫いやすいデータ”へ整える流れです。
なぜデータを「きれいにする」必要があるのか。タオルのような凹凸のある素材では、不要なジャンプ糸(長い渡り糸)があるだけで、パイルが糸に絡んだり、縫製中に手切りが増えたり、洗濯で引っ掛かりやすくなったりします。家庭用1本針でも、多針刺繍機でも、データの衛生管理(不要な渡り糸を減らす/不要パーツを消す)は作業効率と品質の近道です。

ここで身につくこと(現場で効くポイント)
このガイドのゴールは次の4つです。
- 作業領域の固定: 最初に正しい枠サイズを選び、後から「枠に入らない」を防ぐ。
- データの部分削除: 結合したデータから、必要なパーツだけ残す(例:スプーンだけ残してナイフ/フォークを削除)。
- 文字組みの自由度: 文章を一括入力せず、単語ごとにテキストオブジェクト化して回転・位置合わせをしやすくする。
- “シミュレーター分割”手順: Stitch Simulator(ステッチシミュレーター)で色替えを挟み、長いジャンプ糸を選択可能な状態にして削除する。

手順1 — 最初に枠(フープ)設定を確定する
デザインを読み込む前に、作業の境界を決めます。
- Embrillianceを起動します。
- Preferences(Mac)または Edit > Preferences(Windows)を開きます。
- Hoopsタブを選択します。
- 標準の5x7枠(約130mm x 180mm)を選びます。
チェックポイント: 画面上に枠の矩形がはっきり表示されます。枠が極端に小さく見えたり大きく見えたりする場合は、表示単位(mm/インチ)を確認します。
なぜ先にやるのか: 境界が曖昧なまま配置すると、後から拡大縮小や位置調整が増えます。最初に枠を固定しておくと、結合後のレイアウトが「実際に刺繍枠へ装着できるサイズ」になっているかを常に確認できます。
現場のコツ:枠張りの“物理”も品質に直結
ソフトで準備しても、実際の枠張りが不安定だと仕上がりは崩れます。特にタオルは、通常の刺繍枠だとパイルが潰れて枠跡が出やすく、厚みのせいでネジ締めが大変になりがちです。
つまずきポイント: ネジを強く締めないと固定できない/外した後にパイルが潰れて輪ジミが残る。 対策の方向性: こうした負担を減らす目的で、マグネット刺繍枠に切り替える方もいます。摩擦で押さえるのではなく磁力で保持するため、厚手素材のセットが楽になり、枠跡のリスクも下げやすい、という考え方です。
準備チェックリスト(縫い始める前の点検)
ここを外すと、タオルでは失敗が起きやすくなります。
- 針: 新品の針を使用。細かい表現なら75/11のシャープ、織りが粗いタオルならボールポイントも選択肢。チェック: 針先に引っ掛かりを感じたら交換。
- スタビライザー: 上に水溶性フィルム(トッパー)を置き、パイルへの沈み込みを抑えます。下は使用頻度に応じてティアアウェイ(軽め)またはカットアウェイ(しっかり)を選びます。
- 消耗品: 仮止めスプレー、糸切り用の小バサミ(カーブ刃など)を手元に。
- 下糸(ボビン糸): 残量を確認。チェック: サテンのテスト縫いで、中央に下糸がうっすら見える程度か確認。
- ミシン: ボビンケース周りの糸くずを除去。タオルは特に糸くずが出やすい素材です。
複数の刺繍データを読み込み、同一画面で重ねる
ここからは「編集者」として、別々のデータを1つの作品にまとめます。

手順2 — ベースになるデータを読み込む
- フォルダの
Openアイコンをクリックします。 - 「スープボウル」のデータを選びます。
- 5x7枠の内側に無理なく収まっているか確認します。

手順3 — 2つ目は“開く”ではなく結合(Merge)する
ここで再度「Open」をすると別ウィンドウになりやすく、同一レイアウトに重ねられません。必要なのは“レイヤー化”です。
Merge Stitch File(フォルダ+針のようなアイコン)をクリックします。- 「カトラリーセット(スプーン/フォーク/ナイフ)」のデータを選びます。
- 同じ作業画面の上に重なって配置されることを確認します。
補足結合してレイアウトを作ると、同じ構成を繰り返し縫うときの段取りが楽になります。量産や複数枚を同じ位置で揃えたい場合は、段取り時間を減らす目的で枠固定台を検討する、という考え方もあります。

購入データの不要パーツを削除する(オブジェクトツリーで確実に)
カトラリーデータにはスプーン/ナイフ/フォークが入っていますが、今回はスプーンだけ残します。ここは“データの部分摘出”です。

手順4 — オブジェクトツリーから狙って削除する
キャンバス上で直接クリックして消そうとすると、グループごと消してしまうことがあります。右側のオブジェクトツリー(Object Pane)で止まり(カラー/ステップ)単位に削除します。
- 画面右側のObject Paneを確認します。
- 矢印をクリックして、カトラリー側のグループを展開します。
- ナイフに該当する止まりを特定します。チェック: リストの項目をクリックすると、画面上で該当パーツがハイライト表示されます。
- キーボードの
Deleteで削除します。 - 同様にフォークも削除します。
補足間違えて消した場合は、すぐに
Ctrl+Z(取り消し)で戻せます。
手順5 — 位置調整(重なり過ぎを避ける)
- 残ったスプーンをドラッグして移動します。
- スープボウルの下や横など、意図した位置に配置します。
- 刺繍が重なり過ぎて“カチカチに硬い密度”にならないか確認します(密度が高すぎると針折れや糸切れの原因になります)。
補足画面上の配置と、実際のタオル上の位置合わせを毎回一致させたい場合、ミシン刺繍 用 枠固定台のような治具で枠位置を固定する運用が役立つことがあります。
文字配置を作り込む:単語ごとに分けて回転・配置する
通常の文字ツールは直線配置が基本です。高価な上位ソフトがなくても、単語を分割してオブジェクト化すれば、傾きや間隔を調整しやすくなります。

手順6 — 表示を中央へ戻す
- コンパスのような「中央に表示」アイコンをクリックし、デザインを画面中央へ戻します。
手順7 — 文章を一括入力せず、単語ごとに作る
A(Lettering)ツールをクリックします。- 「La」を入力し、サイズを1 inchに設定します。
- いったんテキストの外をクリックして確定します。
- 再度
Aをクリックします。 - 「Cocina」を入力してサイズを設定します。
- 同様に「de」「Abuela」も別々に作成します。

手順8 — 傾けて配置(“手書き風”の動きを作る)
- 「Cocina」を選択します。
- 緑の回転ハンドルをつかみ、少しだけ回転させます。
- ボウルの周りに収まるようにドラッグで配置します。
- 「Abuela」も同様に回転・配置し、全体のバランスを取ります。
補足(コメントより要約): 「複数行の文字を平行に、等間隔に揃えたい」という疑問が出やすいポイントです。Embrillianceにはオブジェクトの整列機能がありますが、最終的には見た目で微調整する運用も一般的です。
現場のコツ: 糸は縫うと生地を内側へ引き込みます(引きつれ/プル)。文字をボウルの縁に“ぴったり接触”させず、少し隙間を残しておくと、実縫いで詰まりにくくなります。
上級テク:Stitch Simulatorでジャンプ糸を孤立させて削除する
このパートが本題です。Stitch Simulator(ステッチシミュレーター)を使い、ソフト上で削除できない長いジャンプ糸を「削除できる単体オブジェクト」に変える手順を行います。

問題:タオル上で目立つ“うねうね線”
ボウルから別パーツへ移動する長いジャンプ糸は、タオルでは特に目立ち、引っ掛かりの原因にもなります。縫いながら都度カットする方法もありますが、データ側で消しておくと作業が安定します。

手順9 — シミュレーターでジャンプ糸の発生位置を特定
Stitch Simulator(針と糸のアイコン)をクリックします。- スライダーを動かし、ジャンプ糸(オブジェクト間を結ぶ長い線)が出る瞬間まで進めます。
- その周辺を拡大表示して、開始点/終了点を見やすくします。

手順10 — 「Stop+色替え」でジャンプ糸を“分割”する
ジャンプ糸を削除するには、まずそれを単独で選べる状態にする必要があります。そこで、ジャンプ糸の前後に色替え(カラー停止)を挟んで分割します。
- スライダーを、ジャンプ糸が始まる直前の1針まで戻して合わせます。
Stop(八角形の停止アイコン)をクリックします。- 色を分かりやすい色に変更します(例:明るい青など)。
- スライダーを進め、ジャンプ糸が終わる位置まで合わせます。
- 再度
Stopをクリックします。 - 色を元の色に戻す(または別の色にする)ことで、ジャンプ糸部分を色替えで挟み込みます。
結果: ジャンプ糸が「色替えと色替えの間」に挟まれ、オブジェクトツリー上で小さな独立要素として扱える状態になります。

手順11 — 孤立した“ジャンプ糸オブジェクト”を削除
- メインのデザイン表示に戻ります。
- 右側のオブジェクトツリーを確認します。
- 先ほど挟み込んだ色(例:青)の、非常に小さな要素を選択します。
Deleteで削除します。

手順12 — 消えたことを確認する
うねうね線(長い渡り糸)が表示から消えていればOKです。これで、縫製時にデザイン上を糸が横切りにくくなり、見た目と実用性が改善します。
生産目線: 1本針なら手切り回数の削減につながります。多針刺繍機で運用する場合も、不要な渡り糸が減ると自動糸切りの流れが素直になり、作業が止まりにくくなります。特にbrother 多針 刺繍ミシンのように自動トリマー前提で回す現場では、こうした“データの整え”が効いてきます。
稼働前チェック(最終Go/No-Go)
ミシンでスタートする前に、最低限ここを確認します。
- シミュレーター確認: もう一度流して、ボウルの縫いを誤って削除していないか確認。
- 枠内配置: デザインは枠の中心に収まっているか。
- トッパー: タオル上に水溶性フィルム(トッパー)を置いたか。
- 糸掛け: 上糸がテンション皿に正しく入っているか(針付近で糸を引くと抵抗がある)。
- 可動域: 刺繍アームが壁や物に当たらないか。

判断フロー:タオルの種類とスタビライザー選び
タオルは一括りではありません。素材感に合わせて組み立てます。
- ケースA:一般的なキッチンタオル(標準)
- 上: 水溶性フィルム。
- 下: ティアアウェイ(中厚)。
- 針: 75/11 シャープ。
- ケースB:厚手/ふかふかのバスタオル
- 上: 厚手の水溶性フィルム。
- 下: カットアウェイ(メッシュ系)+仮止め。
- 枠: brother 5x7 マグネット刺繍枠(パイルを潰しにくい運用として検討)。
- ケースC:薄手のフラワーサック系タオル
- 上: 基本なし(デザインが複雑なら使用)。
- 下: 伸び・シワ防止にノーショーメッシュ(カットアウェイ)。
仕上がり

「ダウンロードしてそのまま縫う」から一歩進み、用途に合わせて“整えたデータ”で縫えるようになりました。今回できたことは次の通りです。
- 枠サイズを先に固定して、設計ミスを減らした。
- データを結合して、オリジナルの構成を作った。
- ジャンプ糸を削除して、タオルでも引っ掛かりにくい見栄えに近づけた。
完成したら、刺繍面を手でなでて確認します。糸が引っ掛かる感じが少なく、文字がボウルの周りに自然に収まり、スプーンが“後付け感なく”馴染んでいれば成功です。
次の一手
ソフト編集が楽しくなってきた一方で、毎回のセットアップ(枠張り・位置合わせ)が負担に感じるなら、現場では道具で解決することが多いです。例えば、ミシン刺繍用 刺繍枠のように磁力保持の枠を使う運用は枠張りのストレスを下げやすく、さらに刺繍用 枠固定台のような枠固定台を組み合わせると、複数枚でも位置が揃いやすくなります。
まずは今日のようにソフトで“縫えるデータ”を作る力を固め、必要に応じて治具や枠をアップグレードしていくのが近道です。
