目次
Hatchでスレッドドッカーを開く
デザインファイルを開いた瞬間、「画面の色」と「手元の糸コーン」が合っていないことに気づいてヒヤッとした経験があるなら、それは“変換ミス(見え方のズレ)”が起きています。HatchのThreads Docker(スレッドドッカー)は、そのズレを埋めるための“翻訳機”です。デジタル上の色指定と、実際に縫うポリエステル/レーヨン糸の情報をつなぐ管理パネルだと考えてください。
この手順では、単なるボタン説明で終わらせません。スレッドドッカーを素早く開いて作業を止めない方法と、さらに重要な「クライアント衣料で“違う色”を縫ってしまう静かな事故」を未然に防ぐ使い方を、実務目線で整理します。

スレッドドッカーを開く3つの方法(自分の作業動線で最短のものを)
刺繍の効率は“急ぐ”ことではなく、“引っかかりを減らす”ことです。Hatchでは同じドッカーに対して入口が3つあります。手が自然に動くルートを固定すると、作業が安定します。
- Customize Designツールボックス(左側): Threadsをクリック。編集作業の流れのまま入りやすい方法です。
- 画面下のインターフェースバー: Threadsボタンをクリック。全体を見ながらサッと確認したいときに便利です。
- 右サイドバー: Threads Dockerタブをクリック。ツールを常時ドッキングして使う運用に向きます。
開くと、右側にドッカーが展開され、糸色スウォッチの一覧(糸ライブラリ)が表示されます。

なぜ量産で重要なのか(「テスト縫いだから」は通用しない)
業務用刺繍では、色ミスはそのまま損失です。たとえば「ネイビー」のつもりが「ロイヤルブルー」だった――これが50枚の企業ポロで起きれば、ソフトの不具合ではなく原価事故になります。
スレッドドッカーに慣れるのは、手間のわりに効果が大きい“保険”です。ソフトが「どのブランドの、どの番号」を使うつもりなのかを、縫う前に強制的に確認できます。
リピート案件のワークフローを作るなら、糸の割り当て(マッピング)は、スタビライザー(生地を支える安定材)の選定や位置合わせと同じく“出発前点検”として扱ってください。たとえば hoopmaster 枠固定台 のような治具で毎回同じ位置に枠張りするのと同様に、スレッドドッカーで毎回同じ色データに揃える必要があります。物理の精度とデジタルの精度はセットです。
糸チャート(Thread Chart)とデザインカラー(Design Colors)の違い
ここが初心者がつまずきやすいポイントです。「ライブラリ」と「割り当て」を分けて理解します。
- 糸チャート(スレッドドッカー側): これはライブラリです。選べる糸の棚(例:Madeira Polyneon)を表示しているだけで、ここを切り替えてもデザインの色指定そのものは自動では変わりません。
- デザインカラー(画面下のカラーバー): これは割り当て(指示)です。デザインデータに保存されている具体的な色指定(例:Isacord 40)で、機械が「この色で縫う」と認識している情報です。
糸チャートを選び直しただけでは、デザイン内の色は自動変換されません。必要な色は、必ず“割り当て直し”を行います。

チェックポイント:ツールチップのホバー確認
見た目だけを信用しないでください。モニターの色は環境で簡単にズレます。動画では、3秒でできる「ホバー確認」を示しています。
- 操作: ドッカー内の糸リストにマウスを重ねる
- 確認: ツールチップでブランド名(例:Madeira Polyneon)を読む
- 操作: 画面下のデザインカラーバーにマウスを重ねる
- 確認: ツールチップのブランド/系列(例:Isacord 40)が一致しているか
一致していなければ、「表示しているライブラリ」と「実際に割り当てられている色指定」がズレています。縫い始めてから気づく混乱を防げます。


現場のコツ:編集前に色マッピングを確定する
経験者の基本手順は 「先にマッピング、後で編集」 です。オブジェクト調整、順序入れ替え、作業指示書の出力などをする前に、糸ブランド/番号の割り当てを確定させます。
先に編集を進めると、作業指示書には「Blue 1001」と出ているのに、実データは「Blue 1134」だった、という運用事故が起きやすくなります。
糸色を素早く置き換える(ワンクリック)
スピードは重要ですが、制御が最優先です。動画で最速なのは「2ステップの置き換え」です。
- 狙う: 画面下のDesign Colors(デザインカラー)で、変更したい色の四角を選択(ハイライト)
- 適用: 右側のスレッドドッカーで置き換えたい色を見つけ、スウォッチを左クリック1回
この1クリックで、選択中の色スロットの指示が上書きされます。


期待される結果(正しくできたサイン)
ワンクリック置き換え後は、次を確認します。
- 見た目: 下のデザインカラーバーのスウォッチが即座に変わる
- 挙動: その色スロットを使っているすべてのオブジェクトが同時に更新される
一括更新は強力ですが、意図しない変更も起こせます。
注意: 左クリック1回は、その色スロットに紐づく全オブジェクトを更新します。花びらだけ変えたいのに文字も同じ色スロットを共有している場合、両方変わります。クリック前に「どの色スロットを選んでいるか」を必ず確認してください。
目視合わせで十分な場面/危険な場面
- 十分な場面: 試作、個人用途、同一ブランド内で近い色へ寄せる場合(テスト縫い前提)
- 危険な場面: 企業ロゴ、ユニフォーム、過去品と完全一致が必要な追加発注
有償案件では、目視合わせはリスクです。基本は次章の「番号検索」で確実に合わせます。プロの現場では“再現性”が価値です。たとえば 枠固定台 のような枠固定台で位置ズレ要因を減らすのと同じで、番号ベースのマッピングは「照明やモニター差」という変数を減らします。
特定の糸番号で検索して割り当てる
精度が必須なら、スクロールより検索です。スレッドドッカーを「データ入力モード」として使います。
手順:番号/名称で糸を1本に絞り込む
- 選択: 下のデザインカラーバーで、変更したい色をクリック
- 検索: スレッドドッカー上部の検索欄に、糸番号(例:「1801」)または名称を入力
- 絞り込み: 一覧がフィルターされ、該当候補だけが表示される
- 適用: 表示された結果を左クリック1回で割り当て


チェックポイント:検索欄の消し忘れに注意
初心者が「糸が全部消えた!」と焦る原因の多くは、検索フィルターが残っているだけです。
- 対処: 検索欄に文字(スペースでも)が残っていないか確認し、Xやバックスペースで消す
- 見え方: 何百色もの一覧が一気に戻ってきます
補足:糸詳細表示の切り替え
動画では、ツールバーで表示情報を切り替える操作も出てきます。
- 詳細表示: コード/名称などの情報が見える(計画・確認向き)
- コンパクト表示: コード中心で見える(番号入力を速くしたいとき向き)

補足:番号優先がミスを減らす理由
モニターの色は光(RGB)で、糸は染料と繊維です。完全一致は前提として難しいため、現場では「真実の基準(Source of Truth)」を番号に置きます。
「Isacord 1801」のように番号で管理すれば、1年後のリピートでも「1801は1801」です。位置合わせを hoopmaster 枠固定台 で標準化するなら、色も同じレベルで標準化するのが合理的です。
パレットに新しい色を追加する(置き換えではなく追加)
色を“変更”したいのではなく、“追加”したい場面もあります。
動画の方法:ダブルクリックで追加
- 操作: スレッドドッカー内のスウォッチをダブルクリック(素早く2回)
- 結果: 下のデザインカラーパレットの末尾に、新しい未使用色として追加されます


期待される結果
- 下段の末尾に新しい色が増える
- 重要: この時点では、デザイン内のオブジェクトの色は変わりません(追加しただけ)
追加が有効なケース
パレットを増やすのが有効なのは、たとえば次のようなときです。
- 店舗の標準色(例:15色)を入れた「ハウスパレット」テンプレートを作る
- ロゴの配色バリエーションを準備する
- 同じ「ネイビー」に見える要素でも、後工程で別管理したいので色スロットを分けたい
ドッカー表示の管理(邪魔にならない運用)
画面スペースは有限です。特にノートPCでは、スレッドドッカーが作業領域を大きく占有します。
自動非表示(サイドバーへ格納)
ドッカー上部のピン/矢印アイコンをクリックすると、サイドバーに格納されます。
- メリット: デザインキャンバスを広く使える
- アクセス: タブから必要なときだけ開く

ドッカーが消えたときの復旧(完全に閉じた場合)
ドッカーが“格納”ではなく“消えた”場合は、メニューから戻します。
- 上部メニューのWindowへ
- Dockersを選択
- Threadsをオン

なぜスピードに効くのか
生産スピードは、刺繍機のSPM(stitches per minute)だけで決まりません。マウス移動距離とクリック数、つまり“操作のムダ”が積み上がります。
物理作業で hoopmaster 枠固定台 キット を使ってまとめて枠張りするのは、手の届く範囲に作業を集約してムダを減らすためです。ドッカーの自動非表示は、そのデジタル版です。
Primer
操作に入る前に、前提を揃えます。ここでやっているのは「色をクリックしている」だけではなく、実物を作るための製造仕様を定義している作業です。
目的: 形(ステッチ)だけでなく、材料(糸番号)まで含めた“レシピ”として機能するデータにすること。
リスク: 画面では「ゴールド」に見えたのに、縫うとオレンジ寄りでクレームになること。
解決: Hatchのスレッドドッカーで、規律ある糸マッピングを行うこと。
自宅スタジオでも hoopmaster ホームエディション 枠固定台 のような治具で位置の再現性を取るなら、色も同じく再現性を取るのがプロ品質への近道です。
Prep
初心者はすぐ縫います。プロは準備します。ソフトを開く前に、物理側の条件を確認します。
見落としがちな消耗品・物理準備
- 実糸の色見本帳: モニターに頼らず、実糸サンプルで確認する
- 照明: 糸の見え方が安定する環境で作業する
- 在庫リスト: 手持ち糸を把握できる一覧
- ラベル類: コーンの表示が剥がれたときに備える
注意: 作業安全。 ハサミ、リッパー、予備針などの鋭利物はトレー等にまとめて管理してください。机上の針は事故や破損の原因になります。
Prepチェックリスト
- 在庫確認: 使う予定の糸コーンが手元にある
- 照明確認: ネイビーと黒など、近い色の差が判断できる
- ソフト起動: Hatchでデザインを開く
- 識別: デザインカラーバーをホバーして元の割り当てを確認
- 方針: 目視で寄せる(置き換え)か、番号で合わせる(検索)か決める
物理の開始点を hoopmaster 枠固定台 brother 用 のような運用で固めるなら、色の開始点もこのチェックで固めてください。
Setup
高精度作業のために、ソフト側の状態を整えます。
判断フロー:色マッピングの戦略
- 色の厳密一致が必須か(企業ロゴ等)?
- YES: 番号検索を使う(目視に頼らない)
- NO: 目視置き換えでも可
- ファイルに保存されているブランドが手持ちと一致しているか?
- YES: 在庫を確認して進める
- NO: 手持ちに合わせて近似色へ割り当て直す(糸チャートは“選択肢の棚”である点に注意)
- 色を丸ごと置き換えるのか/色スロットを分けたいのか?
- 置き換え: シングルクリック(一括更新)
- 分ける: ダブルクリック(新色追加)→必要な要素に手動で割り当て
Setupチェックリスト
- ドッカー表示: スレッドドッカーを開いて、この工程では見える状態にする
- ライブラリ選択: 手持ちに近い糸チャートを選ぶ
- フィルター解除: 検索欄が空で、一覧が全表示になっている
- 選択確認: 変更対象が「下の色スロット」なのかを意識して操作する
Operation
ここから糸マッピングを実行します。
ルーチンA:目視で置き換え(“十分”な方法)
- 確認: 下のデザインカラーバーで変更したい色をクリック
- 探索: スレッドドッカーで近い色を探す
- 実行: 置き換えたいスウォッチを左クリック1回
- 確認: 下のカラーバーが更新されたか見る
ルーチンB:番号で置き換え(“プロ”の方法)
- 確認: デザインカラーバーで対象色をクリック
- 入力: ドッカーの検索欄に糸番号を入力
- 実行: 絞り込まれた結果を左クリック1回
- 復帰: すぐに検索欄を空にして一覧表示へ戻す
ルーチンC:パレットの整理
- 追加: 必要ならダブルクリックで予備色を追加
- 整理: 使わない色が増えたら、不要色を減らしてオペレーターが迷わない状態にする
注意: マグネット刺繍枠を運用している場合、強力な磁石を扱うことになります。電子機器の近くに置かないなど、現場の安全ルールを優先してください。
Operationチェックリスト
- 初期状態: 検索欄が空で、糸一覧が全表示になっている
- ホバー確認: 変更後の色をホバーし、ツールチップが手元の糸と整合している
- 見え方確認: 配色として成立している(コントラスト不足がない)
- 保存: 元データ保護のため別名で保存する(例:
Design_v2_Madeira.EMB)
Quality Checks
機械形式(DST/PES等)へ出力する前に、やり直しを防ぐ最終確認を行います。
「3点一致」チェック
- データ: ソフト上の色指定(番号)が意図通りか
- 現物: 刺繍機にセットする糸コーンのラベル番号が一致しているか
- 文脈: クライアントの指定(校正)と矛盾していないか
パレットの衛生管理
パレットが散らかると、現場での糸替えミスが増えます。追加した色が不要なら、未使用色を減らして“迷わないデータ”にしておきます。
物理側で 刺繍用 枠固定台 のような治具が位置ズレを減らすのと同様に、デジタル側では整理されたパレットが色ミスを減らします。
Troubleshooting
問題が起きたら、まずは最も単純な原因から潰します。
| 症状 | よくある原因 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| 「糸が全部消えた」 | 検索フィルターが残っている | 検索欄の文字を削除して全表示に戻す |
| 「ドッカーが消えた」 | ドッカーを閉じてしまった | Window > Dockers > Threadsで復旧 |
| 「色が変わらない」 | 糸チャートを見ているだけで、スウォッチを適用していない | 置き換えたい色スウォッチを左クリックして適用 |
| 「意図しない部分まで色が変わった」 | 同じ色スロットを共有している | 元に戻し、ダブルクリックで新色追加→必要な要素へ割り当て |
| 「機械側で色が反映されない」 | DST形式の制約 | 補足: DSTは色情報が安定して保存されないことがあります。作業指示書(Worksheet)等で針順を管理してください。 |
Results
これで、Hatchのスレッドドッカーを実務レベルで扱えるようになりました。「なんとなく合わせる」から「定義して検証する」へ移行できています。
できるようになったこと:
- スピード: 3つの入口から即座にドッカーを開ける
- 理解: 糸チャート=ライブラリ、デザインカラー=割り当て(指示)だと区別できる
- 精度: 糸番号検索で、モニター差に左右されずに合わせられる
- 柔軟性: 置き換えと追加を使い分け、パレットを整理できる
単針の趣味運用から、複数案件を回す生産運用へ進むほど、こうした習慣が“インフラ”になります。物理側でマグネット刺繍枠や hoopmaster 枠固定台 のような治具を導入しても、最後に品質を決めるのは運用の規律です。スレッドドッカーを使いこなすあなたは、より安全で、より速く、より再現性の高いオペレーターになっています。
