目次
ラギーアップリケに必要なもの
「ラギー(ほつれ)」「フェイクシェニール」風の質感は、複雑なデータ作りよりも“生地がどうほつれるか”を理解するのが近道です。厚手のタオルでサテン縫いが波打つ/引きつる経験があるなら、この方法はかなり楽になります。重いサテンの縁取りを使わず、あえて生地端を“生かして”立体感を出すため、ミシンの稼働時間が短く、仕上がりはヴィンテージ感のある触り心地になります。

ここで身につくこと(この方法が違う点)
この手順では、7インチのクロスデザイン(実寸:幅4.5" × 高さ7")を使います。一般的なアップリケのように「最後の縫いの前にギリギリでカットして整える」のではなく、工程を逆にします。
1) 配置縫い(ガイド) 2) 仮止め縫い(タックダウン) 3) トリプルビーンズテッチ(補強の直線縫い)
そして“ミシンが止まってから”が本番です。外周に計算した余白を残し、縫い目に向かって垂直に切り込みを入れ、ブラシでこすって繊維を起こします。
動画で使用している道具・材料
この内容を引っかかりなく再現するために、動画に出てくるものを中心に整理します。初心者が見落としやすい「片付け・仕上げ系」も含めています。
主要機材:
- 刺繍ミシン: 動画は家庭用の刺繍ミシンで進行(例:Brother PE770系など)。
- 刺繍枠: 5x7インチの標準枠(ネジ締めタイプ)。枠跡を減らしたい場合はマグネット刺繍枠も選択肢。
「サンドイッチ」材料:
- 土台: コットンのタオル。
- スタビライザー: ティアアウェイ(中厚程度)。
- アップリケの積層:
- 1層目&2層目: オズナバーグ(Osnaburg)(ほつれを出すための要)
- 3層目: 柄コットン(表に見せる生地)
仕上げ用:
- ハサミ:
- ラフカット用(布用はさみ)
- 切り込み用(先の細い小バサミ/刺繍用の細工バサミ)
- こすり出し: グラウトブラシ(硬い毛のブラシ)
- 掃除: 粘着ローラー(ほつれ糸が大量に出ます)

現場メモ(コメントで多い:生地名の聞き間違い)
ボリューム層に使う生地名は オズナバーグ(Osnaburg) です。
- 補足: 目が粗めの平織りコットンで、切り口から糸がほどけやすいのが特徴。この“ほどけやすさ”が、ブラッシング後のふわっとした立ち上がりにつながります。

フランネルよりオズナバーグを選ぶ理由
ラグキルトではフランネルも定番ですが、刺繍のラギーアップリケではオズナバーグが扱いやすいケースが多いです。
ほつれ方の違い: オズナバーグは織りが粗く、ブラシでこすったときに糸が抜けて“立ち上がり”やすい傾向があります。
- 立ち上がりの速さ: 少ないブラッシングでも変化が出やすい
- ボリューム: シェニール風のふくらみが作りやすい
- 代替: フランネルでも可能ですが、同じふわふわ感まで持っていくには、より強めのブラッシングが必要になりがちです
「ラギー」の原理(なぜ重ねるのか)
この技法は 複数枚重ね で立体感を作ります。コットン1枚だけだと、ほつれが細く出て“糸が目立つ”見え方になりやすいです。
- 基本式: オズナバーグ2枚+表布1枚=ふわっとしたボリューム
- 注意: さらに枚数を増やすこともできますが、押さえの高さ(厚みの通り)に余裕がある範囲で行います
注意:HeatnBond Liteは使わない
ここがこの技法の最大の分岐点です。動画でも明確に「HeatnBond Liteなどの接着シートは使わない」と言っています。
理由: 接着で繊維が固まると、ほつれが出ません。結果として、柔らかい“毛羽立ち”ではなく、硬い縁になってしまいます。
注意: うっかり接着してしまうと、ブラッシングしても“ほつれが起きない”状態になります。この技法では、固定はタックダウンと縫いの強さで行い、接着には頼りません。
補足(素材の個体差)
同じオズナバーグでも反物によってほつれやすさは変わります。狙いは「ほつれが出ること」なので、仕上げ工程(切り込み+ブラッシング)で調整する前提で準備すると安定します。

タオルの枠張り(枠跡と厚み対策)
タオルはパイル(ループ)が厚く、枠に押し込むときに抵抗が出やすい素材です。

動画のやり方(タオルのセット)
動画では標準的な枠張りです。
- タオルの下にスタビライザー(ティアアウェイ)を重ねる
- 2枚まとめて内枠・外枠に入れる
- ネジを締めてテンションを出す
コメント由来の補足:Tシャツで「カットアウェイ+ティアアウェイ」を使う理由
視聴者から「なぜTシャツは2種類重ねるの?」という質問があり、投稿者は「伸びる生地には安定が必要で、ティアアウェイ単体では弱い」と回答しています。
- 目安: 伸縮するニット(Tシャツ等)=残るスタビライザー(カットアウェイ)を基本にする
- タオルの場合: 今回は飾り用で、デザイン密度も高くないため ティアアウェイで十分 という判断
枠張りの考え方(枠跡が出る理由)
枠跡(枠焼け)の原因: 標準枠は摩擦と圧縮で固定します。タオルをしっかり止めようとして強く締めるほど、パイルが寝て輪ジミのように残りやすくなります。
代替案(フロート): タオルを無理に枠に入れず、スタビライザーだけを枠張りし、上にタオルを置いて固定する方法もあります(枠跡対策として有効)。
枠張りがボトルネックになったら(作業性の改善)
厚物で「枠が閉まらない」「ネジ締めがつらい」「位置を直すのに時間がかかる」状態が続くなら、作業の詰まりは枠張りです。
改善策:マグネット刺繍枠 マグネットで上から挟み込むため、押し込みの力が少なく、調整もしやすくなります。
- メリット: 枠跡の原因になる“強い圧縮”を避けやすい
- メリット: 枠張りの時間短縮(やり直しが減る)
注意: マグネットの安全注意。 強力磁石のため、指を挟むと危険です。ペースメーカー等の医療機器、磁気に弱い物には近づけないでください。取り外しは真上に引き抜くより、横にずらして外すと安全です。
縫製手順(ステップ・バイ・ステップ)
このプロジェクトはステッチ数が少なく、密度ではなく“仕上げ工程”で見栄えを作ります。
Step 1 — アップリケ生地の積層(サンドイッチ)を作る
目的: 縫製中にズレない3層ブロックを準備する。
- 作業: オズナバーグと表布をカット
- 寸法: 8" × 5.5"(4.5" × 7"のデザインより上下左右それぞれ最低1インチ大きく)
- 重ね順: オズナバーグ(下)→オズナバーグ(中)→柄コットン(上)

チェックポイント: 3枚の端が大きくズレていないか/糸くずが絡みそうな長い糸が出ていないか。
狙いの状態: 3層がフラットに重なった“使えるブロック”。
Step 2 — 配置縫い(ガイド)を縫う
目的: タオル上に置き位置の目印を作る。
- 作業: デザインを呼び出し、最初の色(配置縫い)を実行

チェックポイント: タオル上に一周のアウトラインがはっきり見える。
狙いの状態: 生地を置くための“着地点”ができている。

Step 3 — アウトラインの上にサンドイッチを置く(フロート)
目的: 位置合わせ。
- 作業: 3層サンドイッチを、配置縫いを完全に覆うようにそっと置く
- 重要: 縫い線より外側に十分な余白がある状態にする(縫い線が見えないこと)

チェックポイント: 配置縫いが端から見えていないか。見える場合は置き直す。
狙いの状態: デザイン範囲が生地で完全に隠れている。
Step 4 — タックダウン+トリプルビーンズテッチ(最終縫い)
目的: 3層をしっかり固定し、後工程のブラッシングに耐える縫いを作る。
- 作業: 次の工程を実行すると、タックダウンの後に トリプルビーンズテッチ が続けて縫われる
- 理由: 仕上げで強くこするため、弱いランニング縫いだと負けやすい。トリプルビーンズは線が太く、境界の“堤防”になります。

チェックポイント: 縫い線を指でなぞると、少し盛り上がり(豆のような凹凸)を感じる。
狙いの状態: 外周が太めの縫いでしっかり固定されている。
セットアップ確認(ここまでの最終チェック)
切り始める前に確認:
- 枠のテンション: スタビライザーがたるんでいない(たるみは位置ズレの原因)
- 針: タオルは厚いので、状態の良い針を使用している
- 重ね順: タオル → スタビライザー → オズナバーグ×2 → 表布
- 接着なし: HeatnBond等が入っていない
ほつれを作る核心:切り込み+ブラッシング
ミシンが止まったら、ここからは手作業で質感を作ります。
Step 5 — 枠から外してラフカット(フリンジ代を残す)
目的: ほつれの“幅”を作る。
- 作業: 枠から外し、平らな場所で作業する
- カット: トリプルビーンズの外側をぐるっと切る
- ルール: 外周に1/4"(約6mm)残す。 通常アップリケのように縫いギリギリまで切らない



チェックポイント: 余白幅が極端に細い/太い箇所がないか(ムラはフリンジのムラになります)。
狙いの状態: クロスの周りに1/4"の“生地の輪”が残っている。
注意: 枠をミシンに付けたままトリミングしないでください。ハサミの落下や接触で故障・ケガの原因になります。必ず作業台へ移動します。
Step 6 — 縫い目に向かって垂直に切り込みを入れる
目的: 連続した繊維を分割し、ほつれを出やすくする。
- 作業: 先の細いハサミで、縫い線に向かって垂直に小さく切り込み
- 間隔: 動画では 1/4"〜1/2" 程度の間隔
- 安全域: 糸の直前で止める(縫い糸は切らない)


チェックポイント: 端が小さな“房”に分かれて見える。
狙いの状態: 外周がフリンジ状に分割されている。
Step 7 — ブラシでこすってほつれを立たせる(グラウトブラシ)
目的: 繊維を起こして“ふわふわ”にする。
- 作業: グラウトブラシで外周をしっかりこする(往復)
- 判断: 糸くずが出るのは正常。層の境目が目立たなくなり、全体が柔らかい縁に見えてきます。

チェックポイント: 3層の段差が目立たず、縁が一体化して見える。
狙いの状態: シェニール風の“毛羽立ち”が出ている。
Step 8 — 糸くずの除去(仕上げ)
目的: 見た目を整える。
- 作業: 粘着ローラーで浮いた糸をしっかり取る

仕上げの補足
- 飛び出し糸の整え: ブラッシング後に長い糸が出たら、先の細いハサミで軽く整える
- 洗濯について: コメントでは「基本は洗わなくてよい。贈り物なら洗ってもよい/販売品はアレルギー等の観点で事前洗いしない」という考え方が示されています。用途に合わせて判断します。
作業完了チェック
- 余白: 1/4"程度の余白を残せている
- 縫い糸: トリプルビーンズを切っていない
- 毛羽立ち: ふわっとしている(足りなければ切り込み追加→再ブラッシング)
- 清掃: 糸くずが取り切れている
最終仕上がりの確認

「良い仕上がり」の目安
成功したラギーアップリケは、クロスの形がくっきりしつつ、周囲が柔らかい雲のような縁取りになります。触ったときに硬くゴワつくより、ふんわりした感触が出ているのが理想です。
準備(見落としがちな消耗品と事前チェック)
ミシンを回す前の準備で失敗が減ります。
- 針の状態: 厚物は針への負担が大きいので、状態の良い針を使う
- 下糸(ボビン糸): 太めの外周縫いで途中交換にならない残量を確保
- 掃除道具: ほつれ糸が必ず出るので、粘着ローラー等を手元に
準備チェックリスト
- サンドイッチ: オズナバーグ2枚+表布1枚が用意できている
- スタビライザー方針: タオル=ティアアウェイ/Tシャツに応用するならカットアウェイ+ティアアウェイ
- 枠: 標準枠(ネジ緩めから調整)またはマグネット刺繍枠
- ブラシ: 硬めのブラシが手元にある
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | 原因の可能性 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| フリンジが寝ていてボリュームが出ない | 切り込み間隔が広い | 既存の切り込みの間に追加で切り込みを入れ、再度ブラッシングする |
| 縫いがほどける/浮く | 切り込みでトリプルビーンズを切った | 切り込み位置を見直す(糸の手前で止める)。次回は先の細いハサミで作業する |
| タオルに枠跡が残る | 標準枠でパイルを強く潰した | 枠の締めすぎを避ける。枠跡対策としてマグネット刺繍枠も検討する |
| 針が折れる | 厚みが強い/負荷が高い | 速度を落として安定させる(動画内の設定指定はなし) |
| 表糸がきつく見える | 上糸テンションが強い | 上糸テンションをわずかに緩め、パイル上で糸が引き込まれすぎないようにする |
分岐:スタビライザー選び(タオル vs Tシャツ)
Step 1:素材を確認
- タオル(厚手・伸びにくい)? -> YES
- 対応: ティアアウェイ
- 理由: 素材自体が安定しており、ズレ防止が主目的
- Tシャツ(薄手・伸びる)? -> YES
- 対応: カットアウェイ(シャツ側に残す) + ティアアウェイ
- 理由: 伸縮で歪みやすいため、残る安定材で支える(コメント回答の趣旨)
効率化とアップグレードの考え方(複数枚作る場合)
ラギーはミシン稼働が短い分、詰まりやすいのは「枠張り」と「手仕上げ」です。
まとめて作るときの段取り(一般的な進め方)
複数枚を作るなら、工程を分けると速くなります。
- 枠張りを先にまとめる(可能なら複数枠)
- 刺繍をまとめて回す
- カット→切り込み→ブラッシングをまとめて行う(手作業を連続させる)
道具の見直し(作業の詰まりが出たら)
想定: 20枚などまとまった枚数を作る。
- 起きがち: ネジ締めと位置直しで時間が取られる
- 対策:
- レベル1: Brother PE770向けマグネット刺繍枠など、機種に合うマグネット枠で枠張りの負担を減らす
- 補足: 動画では多針機の話題も出ますが、本手順自体は家庭用刺繍ミシンでも同じ流れで再現できます
最後に
「サンドイッチ」の作り方、配置縫い→タックダウン→トリプルビーンズ、そして切り込み+ブラッシングで“ほつれを育てる”ところまで、一連の流れがつながりました。 最終確認:
- フリンジはふわっとしているか
- 外周の縫いは切れていないか
- タオル表面は必要以上に潰れていないか
ここまでできれば、ただのアップリケではなく、質感で魅せるラギー仕上げとして安定して量産できます。
