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タオル刺繍マスタークラス:テリークロスに「きれいな蝶」を縫い切る
テリークロス(タオル地)は一見やさしそうに見えますが、刺繍機にとっては“ループの集合体”です。押さえが引っ掛かったり、糸がループに飲まれて刺繍が沈んだり、途中でわずかにズレて輪郭が合わなくなったり——経験がある方も多いはずです。
このガイドでは、ただ手順をなぞるのではなく、「なぜタオル地で崩れるのか」を前提に、安定して仕上げるための段取りを整理します。Brother機の内蔵パターン(No.070 蝶)を使い、ギフトとして渡せる“くっきり・きれい”な仕上がりを狙います。

このウォッシュクロス(蝶)プロジェクトで身につくこと
- ループ対策: 水溶性トッパーで表面をならし、刺繍の沈み込みを抑える。
- 「フロート(浮かせ)」の考え方: 分厚いタオルを無理に枠へ押し込まず、枠跡(枠跡)や歪みを避ける。
- 消耗品の選び方: 動画内のサイドプロジェクト(フェルトの失敗)から学ぶ「負荷に耐える素材」。
- 仕上げ: トッパーを糸を引っ張らずに除去し、表情をきれいに出す。
見落としがちな消耗品&事前チェック(初心者がつまずく所)
仕上がりの差は、実は「スタート前の準備」でほぼ決まります。特にタオル地は、準備不足がそのままズレ・沈み・糸切れに直結します。
- 針(最初の防波堤): テリークロスは厚みがあります。針が鈍いと“刺す”より“押す”動きになり、位置合わせのズレにつながります。目安: 新しい 75/11の刺繍針 または 90/14のトップステッチ針。連続稼働が長い針は早めに交換します。
- 仮固定(均一に止める工夫): 動画ではまち針で固定しています。ピン固定は有効ですが、固定点が少ないとズレやすいので、刺繍範囲の外側で複数点を確保します。
- 糸道の清潔: タオル地は糸くず(リント)が出やすい素材です。糸掛け前に、テンション周りや針板付近に“わた埃”が溜まっていないか確認します。
- 小回りの利く糸切り: ジャンプ糸を布面ギリギリで切るために、先の細いハサミがあると安全です(ループを噛みにくい)。
- ピン(手作業での固定): フロートで布を置く場合は、頭が見やすいピンを使い、刺繍範囲から十分離して打ちます。

準備チェックリスト:「スタート前」安全確認
すべてチェックが付くまで、スタートボタンに触れないこと。
- 針の確認: 針は新品に近い/曲がりなし/根元まで差し込まれている。
- 下糸(ボビン糸)の確認: 正しくセットされ、スムーズに引き出せる。
- スタビライザーのサイズ: ティアアウェイが刺繍枠より四方で最低1インチ大きい。
- トッパーのサイズ: 水溶性フィルムがデザイン範囲を完全に覆っている。
- 枠のクリアランス: 枠の移動範囲でピンに当たらない(トレース機能等で確認)。
- リント確認: 針板周りに前回の糸くずが残っていない。
Brother刺繍ミシンのセットアップ
動画では、Brother機で標準の4x4プラスチック枠を使用しています。この一般的な構成でも縫えますが、タオル地のような厚物では「枠に入れること自体」が難所になります。

デザインを選択してプレビュー
画面から内蔵デザインを選びます。
- パターン選択: No. 070(蝶)

位置合わせの考え方: テリークロスは織り(ループ)の流れが目立ちます。わずかな傾きでも目に入りやすいので、機械のグリッド表示を使い、蝶の中心線がまっすぐ見える向きで合わせます。
現実チェック:厚手テリークロス × 標準枠
分厚いタオルを標準枠に押し込んで締めると、
- 枠跡(枠跡): 繊維が潰れて戻りにくい
- 歪み: ネジを締める過程で布が引っ張られてズレる
といった問題が起きやすくなります。
動画では、フロート(浮かせ)の考え方で進めています。つまり、スタビライザーを枠にしっかり張り、タオル(ウォッシュクロス)本体は上に置いてピンで固定する方法です。タオルを潰さずに済む一方、固定が甘いと途中で動くリスクがあります。
量産・作業性の観点: 「ズレないか不安で手が止まる」状態になったら、道具の見直しポイントです。厚物の枠張りでは マグネット刺繍枠 が選ばれることが多く、内枠に押し込む作業を減らしつつ、歪みを抑えて保持できます。
実行前チェック(縫い始める前)
- トレース: トレース/試し縫い範囲確認で、針がピンに当たらないことを確認。
- 上糸の通り: 上糸がどこかに引っ掛かっていない。
- 材料の支え: 余ったタオルが机から垂れて枠を引っ張らないよう、周囲を支える。
注意:機械安全
ピンは刺繍範囲の内側に入れないでください。高速で押さえや針が金属ピンに当たると、針折れにつながります。デザイン外周から十分距離を取り、トレースで必ず確認します。
なぜ水溶性トッパーが必要なのか
トッパーなしでタオル地に刺繍すると、刺繍が「沈んで」見え、輪郭がぼやけやすくなります。ループの間に糸が落ち込むためです。

トッパーの役割(沈み込みを止める)
テリークロスのループは、針が刺さるたびに押され、糸のテンションで引き込まれます。透明の水溶性トッパーは、表面に“薄い橋”を作って糸がループに潜り込むのを抑え、サテン縫いなどの光沢をきれいに出します。
- 見た目の目安: 透明フィルムの上を縫っているように見える状態。
- 結果: 糸の反射が出て、タオルの凹凸に負けない。
トッパーが浮いたりズレたりする場合は、固定の考え方として フローティング用 刺繍枠 のように「布に押し付ける」より「動かないように止める」ことを優先し、枠の外側で安定させます(ピン位置は必ず刺繍範囲外)。
途中の実例:フェルトで失敗しないために
動画の途中で、別プロジェクトの失敗例として「クレヨンポーチの縫い目がフェルトで裂けた」話が出てきます。これは刺繍以前に、素材選びの重要なヒントです。



教訓:負荷(ストレス)と素材構造
クラフトフェルトのような不織布は、織物のような“糸の流れ(組織)”がありません。縫い目が連続するとミシン目が「切り取り線」になり、そこに中身を詰めたり引っ張ったりすると裂けやすくなります。
- 動画内の対処: フェルトをやめ、通常のコットン生地に変更。
- 現場の判断: 物を入れて膨らむ・引っ張られる用途(ポーチ等)では、裂けやすい素材を避け、負荷を分散できる素材を選びます。
仕上げ:蝶のウォッシュクロス


実行手順(縫っている間〜仕上げまで)
手順1:刺繍を走らせる
ミシンをスタートします。
- 見るポイント: フロート固定のピンが振動で動かないか。刺繍枠の移動範囲に入ってきていないか。
手順2:枠から外す前にピンを抜く

枠から布を外す前に、先にピンを抜きます。テンションが抜けた瞬間に手を刺しやすいので、順番を固定しておくと安全です。
手順3:トッパーを破って除去

透明フィルムをやさしく破って外します。
- コツ: 片手で刺繍部分を押さえ、フィルムは“刺繍から離れる方向”へ裂きます。上に引っ張るとループを引き起こしやすくなります。
- 残りの処理: 細かい残りは、湿らせた綿棒や洗濯で落とせます(無理に引きちぎらない)。
手順4:最終チェック



仕上げ後チェック(納品・ギフト前の確認)
- 糸処理: ジャンプ糸が目立たない長さでカットされている。
- 裏面確認: 下糸(ボビン糸)が極端に表へ出ていない/糸絡みがない。
- 沈み確認: ループが刺繍面に飛び出していない(出ている場合はトッパー不足やズレの可能性)。
トラブルシューティング:「なぜこうなる?」早見表
タオル刺繍は、設定をいじる前に“物理”を疑うのが近道です(固定・支え・糸道・リント)。
| 症状 | 起きやすい原因(物理) | 対処(低コスト→高コスト) |
|---|---|---|
| デザイン周りが荒れる/穴っぽく見える | スタビライザーが弱く、縫い密度に負ける | より安定するスタビライザーへ見直す(密度の高いデザインはティアアウェイが裂けやすい) |
| 刺繍が沈んでモヤっとする | トッパーなし/トッパーがズレた | 水溶性トッパーを必ず使用し、全面を覆う。固定方法を見直す |
| 枠跡(リング跡)が残る | 標準枠で締めすぎ/厚物を押し込みすぎ | フロート(ピン固定)に切り替える。作業性を上げるなら マグネット刺繍枠 brother 用 を検討 |
| 輪郭がズレる(隙間が出る) | 布が動いた/余ったタオルの重みで引っ張られた | 余り布を支える。固定点(ピン)を増やし、トレースで干渉確認 |
道具をアップグレードするタイミング
動画のように1枚だけギフト用に作るなら、フロート+ピン固定でも十分成立します。ただし、複数枚を続けて作る場合、ピン固定と位置合わせは作業時間のボトルネックになりがちです。
量産で再現性を上げたいなら、位置決めを安定させる 刺繍用 枠固定台 を使うと、同じ位置に同じ見え方で刺繍しやすくなります。
判断フロー:素材別の進め方
迷ったら、この順で決めます。
- 素材がループ状(タオル/フリース)?
- YES: 上に水溶性トッパー+下にスタビライザーが基本。
- NO: 通常のスタビライザーで対応可能。
- 伸びる素材(ニット/ジャージ)?
- YES: 伸び対策を優先し、安定性の高い方法を選ぶ。
- NO: ティアアウェイでも成立しやすい(ただしデザイン密度次第)。
- 枠張りが難しい(厚すぎる)?
- YES: 動画のフロート(ピン固定)で進める、または マグネット刺繍枠 を検討。
- NO: 標準枠でOK。
注意:マグネットの取り扱い
マグネット枠を使う場合、磁力は強力です。指を挟まないように注意し、電子機器や磁気に弱いものの近くでは取り扱いに配慮してください。
仕上がりの基準(合格ライン)
良いタオル刺繍は「上に貼り付いた感じ」ではなく、布に自然に馴染みます。
- 輪郭: ループに負けず、線がくっきり。
- 安定: 周囲が波打たず、布がフラット。
- 裏面: 糸絡みがなく、処理がきれい。
テリークロスは“高さ(Z方向)”のある素材です。トッパー+固定+スタビライザーの組み合わせが決まると、ウォッシュクロスだけでなく、タオルやギフトセットまで自信を持って展開できます。見た目の差は、結局のところ「素材の暴れを抑えるための 刺繍枠 刺繍ミシン 用 と下準備」に集約されます。
