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フリンジ刺繍とは?
フリンジ刺繍は、データ(デジタイズ)側で“切って立体にする前提”の縫い構造を作り、刺繍後に糸をカットして、ふわっとした3Dテクスチャを出すマシン刺繍テクニックです。平面的なサテン縫いをそのまま寝かせるのではなく、あえて「切り開ける余地」を残すことで、ひよこ・子羊・花芯・たてがみのような質感表現に向きます。
ただしフリンジは、通常の刺繍(すべてのステッチをしっかり固定する)とは真逆の発想です。幅の広い不安定なサテン柱(9mm〜12mm程度)を、片側だけで支えるため、構造のどこかが崩れると一気にほどけます。
仕組みの要点(ここは譲れません)
- 極端に広い幅: 一般的なサテンより幅が広く、糸が“浮く”領域ができます。
- 下地(アンダーレイ)なし: フリンジ部分の下に下縫いを入れず、カットしやすくします。
- アンカー(固定側): サテン柱の片側に、太めのランニングステッチを複数回(動画では3回)走らせて固定します。これが無い/切ってしまうと、フリンジは保持できません。
洗濯でほどけた、触ったら抜けた…という失敗は、ほとんどが アンカー/スタビライザー/糸調子(テンション) のどれかが崩れています。

必要な道具:スタビライザーと仕上げツール
フリンジは「縫う」より「切って起こす」工程が肝です。縫い終わりに糸を切るため、土台の強度が不足するとアンカーが負けます。生地だけに頼らない前提で準備します。
動画で使っている基本セット
- 刺繍ミシン: 幅広サテン(5x7相当の枠など)を安定して振れる機種。
- スタビライザー: カットアウェイ(切り取り)が必須。ちぎり(ティアアウェイ)や水溶性を“主な裏当て”にすると、アンカーが保持できません。
- 上糸: 一般的な40番(ポリエステル/レーヨン)。毛並み表現はレーヨンの方が柔らかく見えることがあります(好みと用途で)。
- 下糸(ボビン糸): 通常のボビン糸。
- 仕上げ用ツール:
- カーブ(反り)刺繍はさみ: 生地を切らずに糸だけに刃先を入れやすい。
- スティレット(Clover)/The Purple Thang: ループを引き起こす・糸を拾う。
- 歯ブラシ: 起毛・糸くずのかき出しに使う(新品推奨)。

事前に効く“見落としがちな”チェック(段取りで失敗を減らす)
幅広サテンは針棒の左右振りが大きく、糸道にも負荷がかかります。仕上げカットで糸くずも大量に出るので、最初に整えておくとトラブルが減ります。
- 針は新しいものに: 動画では番手指定はありませんが、フリンジはアンカーが命です。針先が鈍いと固定側が甘くなりやすいので、作業前に交換しておくと安心です。
- ボビン周りの清掃: これから“毛”が出ます。ボビンケース周辺は糸くずが溜まりやすいので、作業前に軽く掃除しておくと安定します。
- 照明: 裏面で「アンカー側/切る側」「ボビン糸の筋」を見分ける必要があります。手元が暗いと誤カットの原因になります。
趣味から小ロット生産(例:同じパッチを複数枚)に移ると、枠の締め直しやテンションのばらつきがボトルネックになりがちです。一般的な 刺繍枠 刺繍ミシン 用 から、テンションを一定にしやすい方式へ移行する人もいます。特に枠跡(枠の当たり)や生地の歪みが気になる場合、マグネット式は“押さえ方”が変わるため検討余地があります。

刺繍前チェックリスト(縫い始める前に)
- データ確認: フリンジデータをリサイズしていない(後述の通り、リサイズは不具合の原因)。
- スタビライザー: カットアウェイをしっかり当てている。
- ボビン: 巻きが極端にガタついていない(ループの出方が不均一になりやすい)。
- 道具: カーブはさみ/スティレット/歯ブラシを手元に置いた。
- 見え方: 白い上糸を使う場合など、裏で切る位置が見えにくいときは、練習布では下糸の色を変えて“どこを切るか”を把握する。
フリンジ向けのミシン設定(速度と限界)
フリンジはミシンにとって負荷が高い縫い方です。針棒が最大幅近くを往復し続けるため、慣性で振動が出やすくなります。
動画で触れている設定・注意点
- 縫い速度(SPM): 目安は600SPM。幅広サテンでミシンが“跳ねる”ように感じたら、まず速度を落とします。
- 最大幅の目安: フリンジの幅は機種の上限に近いことが多く、動画では最大12mmに言及があります。

注意:安全面(機械的リスク)
幅広サテンは振動が増えます。ミシンが大きく揺れる/異音がする場合は、無理に続行せず速度を下げて様子を見てください。針がたわむと折損のリスクも上がります。
枠張りの安定が重要な理由
フリンジは、縫い終わっても生地が枠に張られた状態で裏をカットします。枠張り時に生地を引っ張りすぎると、枠から外したときに戻ってシワや波打ちが出て、アンカーが緩む原因になります。
基本ルール: 生地は“ピンと固定”しつつ、伸ばしすぎない(ニュートラルに保持)。
厚物(タオル+カットアウェイなど)で枠が閉めにくい、枠跡が出やすい、といった場合は枠側の制約が出ている可能性があります。そうしたケースでは マグネット刺繍枠 のように摩擦ではなく磁力で保持する方式が、歪みを抑える選択肢になります。
テクニック1:ストレート(ふわふわ)フリンジ
毛足が“切りっぱなし”になる、すっきりしたフリンジです。輪郭が欲しい図形や、エッジを揃えたい表現に向きます。
手順(動画の方法そのまま)
- 刺繍する: 幅広サテン柱が縫われ、片側にアンカー(ランニングのロック)が入ります。
- 枠を外して裏返す: 裏面で作業します。
- 切る側を見分ける:
- アンカー側(固定側): ランニングステッチが一直線に入っている側。ここは切らない。
- カット側: ランニングが無い側。
- 刃先を入れる: 裏面で、カーブはさみの先をサテン柱のカット側の端に差し込み、糸だけを拾う。
- 端を切り進める: 生地を切らない深さで、端に沿ってカットします。
- 表に返して起毛: 歯ブラシで糸を起こし、毛羽を整えます。


チェックポイント
- 見た目: 切る前に、片側に“固定のランニング”があるのを必ず確認できている。
- 手応え: 切りにくい/生地を噛む感じがあるなら、刃先が深すぎる可能性。
- 仕上がり: 毛足が立ち、均一にふわっと見える。
テクニック2:ループフリンジ
上糸は切らず、裏のボビン糸を切って“輪”を起こす方法です。毛先が切りっぱなしにならない分、柔らかい印象になり、動物の毛や花芯に向きます。
手順(動画の方法そのまま)
- 刺繍する: 基本構造は同じ(幅広サテン+片側アンカー)。
- 裏で中心を探す: 裏面で、サテン柱の中央に走るボビン糸の筋を見つけます(動画では白いボビン糸)。
- 中央だけを切る: 端ではなく、中央のボビン糸だけを縦に切り進めます。
- 補足: 生地は切らない/左右の上糸側を巻き込まない。狙うのは中央のボビン糸。
- 表に返す:
- ループを引き起こす: スティレット等で糸をすくい、上方向に起こしてループを作ります。

チェックポイント
- 音: 端カットのような“ザクッ”という感触は出にくく、スッと切れる。
- 手応え: 表から引き起こすときに抵抗があることがあります(動画でも「ストレートより力が要る」と説明)。
- 仕上がり: 丸みのあるループ状で、毛先が割れにくい。
テクニック3:動物向け・重なりフリンジ(くるくる毛並み)
工程中は裏が散らかって見えますが、最も“毛並みっぽい”表情が出ます。動画では花のサンプルで、動物デザインと同様の考え方を説明しています。
何が違う?
直線のサテン柱ではなく、半円(セミサークル)が重なった層になっており、裏側にボビン糸の“橋渡し”が網のように出ます。

手順(動画の「引っかいて→切る」往復作業)
- 裏面の状態確認: ピンクのベース(下地の塗り)と、上に渡っている白いボビン糸が見えます。裏が“ぐちゃぐちゃ”に見えても正常です。
- 長いボビン糸だけを狙ってカット:
- 裏の長く渡っている白い糸(橋)を探す。
- はさみ先で糸の下に入り、少しずつ切る。
- 注意: 深追いしてピンクのベース縫いまで切り込まない(ベースを切ると保持が弱くなります)。
- 歯ブラシで“かき出す”: 裏をブラッシングすると、切り残しが見えやすくなります。
- 表で引き起こす: スティレットで糸を起こして毛並みを出します。
- 往復して仕上げる: 表で起こす→裏で見える糸を追加カット→また表…を繰り返し、好みの密度まで整えます。



チェックポイント
- 気持ち: 裏が汚く見えるのは普通。途中で不安になっても慌てない。
- 操作: はさみを大きく開かず、細かい“刻み切り”でコントロールする。
- 仕上がり: 直線的ではない、ランダムで深みのある毛並みになる。
よくある失敗:リサイズ/ボビン糸/洗濯まわり
フリンジはステッチ長や幅がギリギリで設計されていることが多く、データをいじると破綻しやすい分野です。

1) 「ミシンが跳ねる/揺れる」
- 原因: 幅広サテンの慣性(振り幅が大きい)。
- 対策: 動画の推奨どおり、速度を600SPM程度まで落とす。
2) 「洗ったらフリンジが抜けた/ほどけた」
- 原因: アンカー保持の破綻。
- カットアウェイ以外を主な裏当てにした
- 水溶性のボビン糸を使った(アンカーを保持するステッチも同時に縫われているため、溶けると全体が抜ける)
- 対策: カットアウェイを使用し、ボビン糸は通常糸で運用する。
3) 「データをリサイズしたら画面/出力でステッチが欠ける」
- 原因: フリンジのステッチ幅が機械の上限(動画では12mm)を超えるなど、設計条件が崩れる。
- 対策: フリンジデータはリサイズしない。必要サイズのデータを選ぶ。
4) 「厚物の枠張りがつらい」
- 原因: タオル+カットアウェイなどの厚みで、通常枠の締め込みが限界。
- 対策: 無理に閉めると枠破損やズレの原因になります。厚物を安定して保持したい場合、マグネット刺繍枠 のような方式が作業性の改善につながることがあります。
注意:マグネットの取り扱い
マグネット刺繍枠は強力な磁力で挟み込みます。指を挟まないよう、合わせ面に指を入れたまま閉じないでください。医療機器(ペースメーカー等)を使用している場合は取り扱いに注意してください。
仕上がり別:スタビライザーと段取りの考え方
シーンA:Tシャツなど伸縮素材
- スタビライザー: カットアウェイ(しっかりめ)。
- 段取り: 生地ズレが出やすいので、位置が安定するように準備する。
シーンB:布帛(コットン、キャンバス等)
- スタビライザー: カットアウェイ。
- 段取り: 裏で切る工程があるため、枠張りは“強すぎず、緩すぎず”を意識。
シーンC:連続作業(複数枚)
- ボトルネック: 枠張り位置のばらつきと、枠張り作業の時間。
- 対策: 刺繍用 枠固定台 を使うと、毎回同じ位置で枠張りしやすくなり、フリンジのアンカー位置も安定しやすくなります。
準備→設定→作業の流れ(まとめ)
準備(変数を減らす)
- 試し縫い: まずは端布でテスト。生地によって毛の立ち方が変わります。
- 見える化: 練習では、裏で切る位置が分かるようにボビン糸の色を変えて学習し、慣れたら本番用に調整します。
設定(“物理”に合わせる)
- 枠張り: カットアウェイ+生地を安定させる。
- 作業性の改善: brother機で枠の扱いにストレスがある場合、brother 5x7 マグネット刺繍枠 のような選択肢で段取りが楽になることがあります。
作業チェック(フライトチェック)
- 速度: 600SPM以下に落としている?
- 観察: 最初の縫いが暴れていない?(振動が強いなら速度を下げる)
- アンカー確認: カット前に、片側にロック(ランニング3回)が入っているのを裏で確認した?
- カット位置: 切る側を間違えていない?(迷ったら一度止めて見直す)
トラブルシュート(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 針折れ | 速度が高い/振動で針がたわむ | 針交換。速度を落とす。 | 幅広サテンは低速運用を基本にする。 |
| フリンジが抜ける | アンカー側を切った/水溶性・不適切な裏当て | ほどけた部分は復旧が難しいため、原因を見直して再作業。 | カット前にアンカー側を必ず確認。裏当てはカットアウェイ。 |
| “ハゲ”が出る(ループが上がらない) | ボビン糸の切り残し | 裏に返して未カット部を探して追加カット。 | 刃先が鋭いはさみを使い、中央ラインを確実に切る。 |
| 枠跡(枠の当たり)が出る | 通常枠の摩擦・圧迫 | 仕上げ後に生地側を整える(フリンジ自体は潰さない)。 | brother 用 マグネット刺繍枠 など、保持方式の見直しも選択肢。 |
| 作業疲れ(枠張りがしんどい) | 同じ枠張りの繰り返し | 休憩を入れる。 | 枠固定台 で位置合わせを標準化し、手首負担を減らす。 |
仕上がり
フリンジ刺繍は、平面の刺繍を“触りたくなる質感”に変えられる強力な表現です。カットアウェイで土台を固める、速度を落として安定させる、切る位置を絶対に間違えない——この3点を守れば、実用(衣類・ブランケット等)でも十分に楽しめます。
最後に、成功の3本柱:
- リサイズしない。
- アンカー側を守る(切る側を間違えない)。
- 安定が最優先(カットアウェイ+適切な枠張り)。
糸を切る工程に怖さがある場合は、まず練習データで手順を体に覚えさせてから本番へ。ミシンのリズムを聞きながら、ふわっと起きる瞬間を楽しんでください。
