レッスン27:ランニングステッチでパス(Pathing)を組み、ジャンプ(飛び糸)を減らす(手動パンチ Z/X/V ワークフロー)

· EmbroideryHoop
本ガイドでは、レッスン27の核となるデジタイズ技術「パス(Pathing)」を、現場でそのまま使える手順に落とし込みます。ランニングステッチを“隠し渡り縫い”としてサテン柱の下に通し、不要な停止・トリム・ジャンプ(飛び糸)を減らして、刺繍機が途切れずに縫い続けられるデータを作るのが目的です。手動パンチの入力を「上(Top)→下(Bottom)」のリズムで崩さないコツ、ノードとベジェハンドルでカーブを整える編集手順、そして作業中に迷いやすいポイントのチェックと失敗時の直し方まで、動画内容に沿って整理しました。
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目次

マシン刺繍で「パス(Pathing)」が重要な理由

デジタイズは単に形を描く作業ではなく、高速で動く針が通る「ルート設計」です。パス(Pathing)が甘いデータは、縫製中に停止やトリムが増え、結果としてジャンプ(飛び糸)処理の手間や糸トラブルが増えます。

このレッスンでは、Kathleen McKeeの手順に沿って、ランニングステッチを使い、デザインの各パーツを“縫いながらつなぐ”考え方を解説します。狙いはシンプルですが効果は大きく、刺繍機ができるだけ止まらずに連続縫いできるデータに近づけます。

効率が落ちると何が起きるか

停止・再開が多いデータは、時間をロスするだけでなく糸にも負担がかかります。スタート/ストップの繰り返しでテンションが乱れやすく、次のようなトラブルのきっかけになります。

  • 鳥の巣(ボビン側の糸だまり)
  • 糸切れ/糸の毛羽立ち(針穴付近で擦れて切れやすい)
  • テンションムラ(表面に不均一さが出る)

ソフト側の挙動として覚えておきたいのが、ジャンプの扱いです。動画内では、次の縫い始めが2mm以内ならトリム指令が出ず、糸を引きずって移動する場合がある、という前提が語られています。とはいえ、現場では「引きずり」が表に出ると後処理が増えるため、ランニングステッチを下に埋めて移動する設計で、そもそも迷いを減らすのがポイントです。

Title card for Lesson 27: Pathing and the Running Stitch.
Introduction

手動パンチの基本ツール(Z / X / V ショートカット)

作業スピードを上げるには、メニューを探す時間を減らし、ショートカットでツールを切り替えるのが近道です。このワークフローは、主に次の3つを行き来します。

  1. ストレートブロック(Z):直線的なサテン柱(角のある形)を手動で作る
  2. カーブブロック(X):リボンのような曲線(ベジェ系のカーブ)を手動で作る
  3. ランニングステッチ(V):ここでは渡り縫い(トラベル)として使い、パーツ同士をつなぐ

「指が覚える」切り替えがミスを減らす

Z / X / V で切り替えると、アイコンを探してクリックする回数が減り、入力のリズムが崩れにくくなります。特に手動パンチは「次が上か下か」を見失うと一気に崩れるので、ツール切り替えの迷いを減らすことが品質にも直結します。

The yellow ribbon graphic is imported into the digitizing software workspace.
Image Import
Mouse hovering over the Manual Punch tool icons, explaining keyboard shortcuts.
Tool Selection

サテン柱は「上→下」のリズムで作る

手動デジタイズはリズムが命です。オートデジタイズのように形を選んで終わりではなく、柱の両側を交互にクリックしてステッチ角(糸の振り)を決めます。

合言葉:「上(Top)、下(Bottom)、上、下」

動画の手順では、このリズムを頭の中で唱えながら入力します。

  • 上(Top)クリック:糸振りの片側を定義
  • 下(Bottom)クリック:糸振りの反対側を定義

この順番が崩れて「上、上」と続くと、柱がねじれたような状態になり、サテンの光沢が乱れたり、縫い目が交差して見える原因になります。

補足(動画の前提): リボン例では最大幅が11mm程度と説明されています。これは見やすさのために大きく表示している意図があり、後で縮小できる前提で進めています。

A thin black line (running stitch) is drawn at the bottom tail of the ribbon as an underlay path.
Creating Pathing
Wireframe lines appearing across the ribbon tail as the user inputs Top/Bottom points for manual punch.
Digitizing Satin Column

ランニングステッチでパーツをつなぐ(橋渡しの考え方)

ここが本題です。デザインを「迷路」のように考え、 1つ縫い終わったら、止まらずに次へ抜ける“出口”を作る。 その出口が、後で上から隠れるランニングステッチ(渡り縫い)です。

手順:リボンのパス設計ワークフロー

Step 1 — まず渡り縫いを置く(トラベルの下地)

  1. ランニングステッチ(V)を選択。
  2. デザイン上の「縫い始めとして自然な位置」(動画ではリボン下側)から開始。
  3. 後でサテン柱に覆われる位置に、細いラインとして渡り縫いを引く。

チェックポイント: 画面上では細い線として見えますが、完成時には上のサテンで“埋まる”前提です。渡り縫いを置くのは、ジャンプを出さないためだけでなく、縫い始めで糸を拾わせる時間を作る意図もあります。

注意: 実機でテスト縫いをする際は、稼働中に針周りへ手を入れないでください。ランニングからサテンへ移ると動きが一気に速くなります。

Step 2 — サテン柱で渡り縫いを隠す(手動パンチ)

  1. ストレートブロック(Z)へ切り替え。
  2. 先ほどのランニングの上を覆うように、柱を入力。
  3. リズムは 上(Top)→下(Bottom)。曲線に入ったら カーブブロック(X)へ。

成功の目安: サテンが渡り縫いを完全に覆い、表に細い線が出ないこと。

Step 3 — 島をつなぐ(次のパーツへ橋をかける)

  1. ランニングステッチ(V)へ戻す。
  2. 1つ目のサテンの終点から、次のパーツ(ループ)の開始点まで線を引く。
  3. その線は、後で重なって隠れる領域(ループの重なり部分)を通す。
A single running stitch line connects the finished first segment to the start of the loop segment.
Bridge Stitching

Step 4 — ループ部をカーブで作る

  1. カーブブロック(X)を選択。
  2. 外側と内側を交互にクリックして形を作る。
  3. 形がガタつく場合は、点を増やしすぎない(必要最小限)ことを意識する。
Digitizing the curve of the loop using the Curved Block tool with wireframe visible.
Digitizing Curve

Step 5 — 最後のパーツへ抜けて完了する

  1. ランニングステッチ(V)で最後のテール部へ移動。
  2. 手動パンチでテール部を入力。
  3. オブジェクトの確定は ダブルクリック
Running stitch visible connecting the top loop to the final tail segment.
Pathing Connection

現場目線:なぜ「迷路ロジック」が効くのか

停止・トリムが増えるほど、縫い時間だけでなく糸処理やトラブル対応の機会も増えます。パスを整理して連続縫いに寄せることは、仕上がりの安定と作業効率の両方に効きます。

量産を見据えるなら、データ最適化に加えて段取りも重要です。たとえば枠張りの再現性を上げる目的で 刺繍用 枠固定台 を使い、位置ズレのばらつきを減らす運用も検討されます。

ノード編集とベジェハンドルでカーブを整える

最初の入力で完璧に仕上がることは稀です。形の「整え」は、デジタイザーが品質を作り込む工程です。

Step 6 — アウトラインを連続で回す

  1. 見やすいようにコントラストの強い色(動画では黒)を選ぶ。
  2. ランニングステッチで外周をなぞる。
  3. 途中で内側へ移る必要がある場合も、パスを切らずに、後で隠れる位置を通って連続ラインにする。
Zoomed in view of the ribbon tip, preparing to digitize the black outline.
Detail Work

Step 7 — ノード編集で滑らかにする

  1. 編集(Reshape/Edit)モードに入る。
  2. ノードを右クリックして、点の種類を切り替える(直線/曲線)。
  3. 曲線ノードのハンドル(ベジェの腕)をドラッグして、カーブの張り具合を調整する。

チェックポイント: 目標は「引っ張ったゴム」のように、滑らかで途切れない曲線です。折れや段差があると、縫い目にも角が出やすくなります。

User right-clicking a node point to change it from Straight to Curve.
Context Menu Action
Manipulating the Bezier handle 'gizmos' to adjust the curvature of the outline.
Curve Adjustment

「音」で分かる良いカーブ

カーブがガタつくと、枠を動かす機構が細かくギクつき、縫い音も落ち着きません。滑らかなカーブは動きが連続になり、縫い品質と機械負担の両面で有利です。


基礎整理

ここで身につけるのは「連続ラインで縫い切る」設計です。

  • ゴール: できるだけ止めずに縫い、必要な場面(色替え等)だけトリムする
  • 方法: Z / X / V を切り替え、下に埋める渡り縫いで“糸の通り道”を作る

事前準備

データの良し悪しを正しく判断するには、布が動かない条件を作る必要があります。ズレはデータのせいに見えますが、実際は枠張りや支持が原因のことも多いです。

用意しておきたい消耗品・小物

  • 針: テスト前に新品へ交換
  • 下糸(ボビン糸): 巻きムラや糸くずを確認
  • スタビライザー: 生地に合わせて選定
  • 印付け: センター位置を取るためのマーキング

判断の目安:生地と枠張り方

テスト縫いは、生地がズレない前提で初めて意味が出ます。

  1. 滑りやすい/厚みがある(例:ジャケット背中、滑りの良いポリエステル)
    • リスク: 標準枠だと保持が甘く、アウトラインがズレやすい
    • 対策: 粘着系の補助や、保持力を上げるために マグネット刺繍枠 を検討(ネジ式の引っ張り合いが減り、枠跡のリスクも抑えやすい)
  2. 伸びるニット(Tシャツなど)
    • リスク: 針打ちで伸び、位置合わせが崩れる
    • 対策: 伸びを抑える支持を優先し、枠張りで引っ張りすぎない
  3. 量産(同一位置を繰り返す)
    • リスク: 枠張りの再現性が落ちると、仕上がりのばらつきが増える
    • 対策: 刺繍ミシン 用 枠入れ の段取りで、毎回同じ位置に入る仕組みを作る

準備チェックリスト

  • 針: 新品に交換済み
  • 下糸: 糸くず清掃、スムーズに回るボビン
  • 刺繍枠: たるみがなく、ただし生地を歪めない
  • ソフト: 拡大表示で、渡り縫いがサテンに確実に隠れるか確認

セットアップ

データを実機に落とし込む前の最終確認です。

頭の中で「縫い順」をなぞる

スタート前に、縫いの流れをイメージします。

  1. 下側から開始
  2. 渡り縫いで移動
  3. サテンで覆う
  4. 次のパーツへ渡って連続縫い

空中を横切る“長い移動”が見えるなら、パスが切れている可能性があります。

セットアップチェックリスト

  • 開始位置: マーキングに対して針位置が合っている
  • パス確認: シミュレーターで、空白を横切る長い直線移動がない
  • 干渉: 枠アームが周囲に当たらない

運転(テスト縫い)

縫いながら確認するポイント

  1. 縫い始め: 下糸を拾うまでが不安定なら、最初の数針は上糸端を軽く保持して様子を見る
  2. 切り替え: リボンからループへ移る場面で、連続して縫えているか(不自然な停止がないか)
  3. 見え方: サテンの端から渡り縫いが覗いていないか(覗くなら、渡り縫い位置や柱幅の見直し)
Realistic 3D preview of the completed satin stitch ribbon implies texture and volume.
Preview Generation

運転チェックリスト

  • 音: 余計なトリム音が頻発しない
  • 見た目: サテン下の渡り縫いが表に出ない
  • 位置: 黒アウトラインが黄色リボンに沿っている

仕上がり確認

刺繍が終わったら、枠から外す前に状態を見ます。

表面の確認

サテン柱の密度感と、端の乱れをチェックします。渡り縫いが透ける場合は、柱の幅・渡り縫いの通し方・編集のいずれかに改善余地があります。

裏面の確認

停止・トリムが多いデータほど、裏に糸端や結びが増えやすくなります。連続縫いに寄せたデータは、流れが比較的きれいに見えます。


トラブルシューティング

症状:「アウトラインがリボンから大きくズレる」

  • 原因候補: 縫製中に生地が動いた
  • 対処:
    1. 生地に合った支持を見直す
    2. 保持力を上げるために brother 用 マグネット刺繍枠 のような選択肢も検討(使用環境に合わせて)
    3. ソフト側で補正が必要なら設定を再確認

症状:「裏で糸がループして絡む(鳥の巣)」

  • 原因候補: 上糸の通し不良、テンション不安定、停止/再開が多い
  • 対処:
    1. 上糸をかけ直す(基本動作を丁寧に)
    2. 不要な停止が出ていないか、パスを見直す

症状:「ランニングでつないだのにトリムが入る」

  • 原因候補: ランニング終点と次のサテン開始点が離れている/重なっていない
  • 対処: ソフト上で、ランニングの終点が次オブジェクトの開始点に重なる(またはわずかに越える)ように調整する

注意: マグネット刺繍枠は保持力が強く、指を挟むと危険です。取り扱い時は指の位置に注意してください。


まとめ

手動パンチ(Z / X)とランニングステッチ(V)を行き来し、パスを「迷路」のように設計できるようになると、デジタイズは“形を置く”作業から“縫いを設計する”作業に変わります。

得られる効果:

  1. 仕上がりが整う: ジャンプ(飛び糸)や糸端処理が減る
  2. 縫いが止まりにくい: 連続縫いに寄せられる
  3. 安定しやすい: 編集でカーブを整え、動きが滑らかになる

データが整ってくると、次は段取りや治具側がボトルネックになることがあります。枠張りを安定させる目的で マグネット刺繍枠 を導入するなど、運用面の改善も合わせて検討すると、量産で差が出ます。

Mid-process of the outline pathing, showing how the line travels under the loop overlap.
Complex Pathing
Checking the outline progress in realistic preview mode to ensure coverage.
Quality Check