Table of Contents
1 プロジェクトの概要
ITHファスナーポーチは、フープの中で表布・裏布・ファスナー・バッティングを重ね、順番にタックダウンと本縫いを進めることで、内側に一切の縫い代が出ない“隠し縫い”の仕立てを実現するプロジェクトです。サイズは複数展開(最小は5×7インチが例示)で、今回は工程が見やすい大きめサイズを前提に説明します。
この手法の強みは、デザインファイルにステップ順と位置合わせが組み込まれており、ファスナーや裏布の始末まで機械任せで整う点にあります。仕上がりはギフトや販売向けにも耐える均一なクオリティとなり、タッセルやDリングなどの金具を足してアレンジも自在です。
プロジェクトの適用シーンは、小物収納、サブバッグ、カード・小銭入れなど多様です。大きめサイズならクロスボディ仕様にして身軽に使えます。なお、各パーツの具体的寸法は付属PDFに委ねられており、動画では数値の詳細は示されていません。
クイックチェック:スタビライザーに最初の配置ステッチを縫う前に、デザインデータがフープ中央に来ているかを確認しましょう。中心ズレはすべての工程に響きます。
2 準備するもの
2.1 布・スタビライザー・芯
・表布・裏布:安定した平織りが扱いやすく、サンプルではカリコリネンが使用されています。

・スタビライザー:カットアウェイを使用(大きめサイズでは水溶性のみだと柔らかすぎる場合があるため)。ただし、好みに応じてティアアウェイや水溶性も可。 ・バッティング:薄手のキルティング用を推奨。タックダウン後、縫い代の嵩(かさ)を避けるため外周をトリムします。 ・ファスナー:左右に少しはみ出す長さが必須。

技術補助:フープの安定化や着脱の時短には、強力な保持力をもつマグネット刺繍枠をサポートとして併用すると工程の再現性が高まります(本プロジェクトで必須ではありません)。
2.2 金具・副資材・ツール
・Dリング用タブ:バイアス状に折った布端をコバステッチして作ると丈夫。

・ハンドメイドタグ、タッセル、チャームなどのアクセント金具。 ・スプレー式仮止め剤(Fiber-Fix)とテープ:各層の仮固定に使用。 ・ハサミ、定規、カッターボード、ペン、目打ち、ピン、ピンセット、プライヤー。 ・アイロンとシリコンシート:強めのプレスでも刺繍糸を保護します。
作業台を支える治具としては、位置決めを安定させる刺繍用 枠固定台を使うと、重ね順や角合わせの再現性が向上します(使用の有無は任意)。
チェックリスト(準備)
- バックパネルは事前にステッチしてカット済みか
- 表布・裏布(トップ/ボトム、フルサイズ)が指示寸法で裁断済みか
- ファスナーは両端がはみ出す長さか
- Dリングやストラップ、タグ類は仮組み済みか
- 付属PDF(寸法表)を印刷して手元に用意したか
3 セットアップと基本設定
3.1 フープとデータ配置
刺繍機にデザインファイルを読み込み、フープ中央に配置します。

スタビライザーはカットアウェイを一枚フーピング。大判サイズで扱いづらい場合は、保持力の高いmighty hoop マグネット刺繍枠のような磁力系フレームが作業効率を上げます(動画では特定機種の使用は示されていません)。
注意:データ中央合わせが甘いと、ファスナー位置と各層の重ねがズレ、周囲の最終縫い合わせで端落ちの原因になります。
3.2 スタビライザー選択の理由
大きめサイズのポーチでは、水溶性だけだと全体が柔らかくなりすぎることがあります。今回はハリを持たせるためカットアウェイを選択。完成後に残る硬さが気になる場合は、水溶性やティアアウェイを試し、求める固さと風合いを優先しましょう。
チェックリスト(セットアップ)
- データはフープ中央でプレビュー済みか
- スタビライザーにシワやたるみがないか
- 針が金具に当たらない安全な開始位置か
4 手順:フロントの刺繍と組み立て
4.1 ファスナーの配置とタックダウン
1) 配置ステッチをスタビライザーに縫います。
2) スプレー糊をファスナー位置の中央に吹き、ファスナーを配置ラインの中心に合わせます。歯がまっすぐで、左右とも少しはみ出す長さを確保します。

3) 次ステップを縫い、ファスナーをタックダウン。
クイックチェック:タックダウン後、ファスナー歯が波打っていないか。曲がりは後のステッチ全体に影響します。
補足:単針機でも同じ工程で作成可能です。多針機は糸替えの時短・レイヤー貫通力に優れますが、工程そのものは共通です。
4.2 トップ側のバッティングと裏布
1) トップ領域に薄手のバッティングを重ね、タックダウン。

2) 外周に沿って余分をトリムし、縫い代の嵩を減らします。

3) フープを裏向きにして、ファスナー上に短冊状の裏布(トップ分)を「大きい面積側」にかぶせ、タックダウン。

プロのコツ:この時点でのトリムは、後半の返しで角がシャープに出るかに直結します。糸を切らないギリギリまで丁寧に。
4.3 トップ表面の折り返しと刺繍
1) 表側に戻し、トップ用の表布をファスナーにかぶせて折り上げ、スプレーやピンで平滑に固定します。 2) トップの刺繍デザインを縫います。表布が面全体を十分に覆っているかを確認しましょう。

注意:表布が小さすぎると、あとで縁取りステッチが外れてしまいます。必ずPDFの推奨寸法以上を使用します。
4.4 ボトム側の裏布・バッティング・表布
1) 裏向きで、トップ裏布を上方に折り上げて背面の刺繍を隠します。 2) ボトム領域にバッティングを配置し、タックダウン→外周トリム。 3) ボトムの裏布をファスナー側に合わせ、タックダウン。 4) 表側に戻し、ボトムの表布を折り下げてメイン刺繍を縫います。
この段でフープの保持に不安がある場合は、サイズに合うbrother マグネット刺繍枠のような磁力フレームを補助的に使うと層のズレが抑えやすくなります(本手順に必須ではありません)。
4.5 金具(Dリング)とタグの取り付け
・Dリングタブは、上辺コーナー付近に「リングが下向き」になるよう配置し、テープで固定します。最終縫いが刺繍の外周から約1/4インチ内側に走る想定で、縫い目にしっかりかかる位置に。
・ハンドメイドタグは、ペンで位置を印し、小さな切り込みを入れてピン脚を通し、裏からプレートで押さえて折り曲げて固定します。カッターボードを下に敷いて生地を傷めないように。
注意:金具は必ずテープで倒しておき、押さえや針に当たらない姿勢に固定しましょう。刺繍中に起き上がると破損の原因になります。
チェックリスト(ここまでの前半)
- ファスナーは中央で平行か
- バッティングの余分は外周ギリギリまで除去したか
- 裏布で背面刺繍は完全に隠れているか
- Dリングとタグは縫い目にかかる位置でテープ固定したか
5 手順:背面の合体と最終仕上げ
5.1 バックパネルの重ねと最終アウトライン
1) ファスナーつまみを中央へ移動します(返し用の通り道を確保)。 2) 事前に刺繍済みのバックパネルを表同士が内側になる向きで重ね、角を合わせてピンまたはテープで仮止め。
3) フロント側の裏布タブをスプレーで寝かせ、縫いに巻き込まれないよう平らに整えます。 4) 最終のアウトラインを縫って全層を固定します。
この段階で、フープを安定保持したい場合は、位置決め治具のhoopmaster 枠固定台を使うと角合わせの再現性が上がります(あくまで任意の補助)。
5.2 トリミングとファスナー開口部の処理
1) フープを外し、裏向きにしてファスナー上の裏布に開口を入れます(ユーティリティナイフやハサミ)。 2) 周囲の余分なスタビライザーと布を縫い目から約1/8インチ残してトリム。角は斜めに落として返しの膨らみを軽減。
3) ファスナー周りの裏布端は、デザインの指示どおり、一方を残して他方を処理するなど、厚みとめくれを最小化する形に整えます(細部は付属PDFを参照)。
プロのコツ:厚みのあるサイズでは、作業全体を通じて層が多くなります。補助フレームとしてマグネット刺繍枠 11x13クラスの面積をキープできるフープを持っていると、縁ギリギリのトリムや返しで形が崩れにくくなります(本動画では具体サイズの使用は示されていません)。
5.3 返し・口の始末・最終プレス
1) ファスナーの開口から本体を表に返します。角はピンセットの柄など鈍角ツールで優しく押し出します。 2) 裏側の返し口は、端を内側に折り込んでアイロンで押さえ、ミシン(または手縫い)で閉じます。 3) 仕上げに全体をプレス。刺繍面はシリコンシートを当てて、糸のテカリや焦げを防ぎます。 4) ストラップをDリングに装着し、タッセルやチャームをファスナーに取り付ければ完成です。
チェックリスト(後半)
- 最終アウトラインの縫い外れはないか
- 角はシャープに出ているか
- 返し口は目立たず閉じたか
- 表面はシワやテカリなく均一にプレスされているか
6 仕上がりチェック
良い仕上がりの指標
- 内側に露出する縫い代が存在せず、すべて層の間に隠れている
- ファスナーの走りが滑らかで波打ち・食い込みがない
- 四隅がシャープで、外周の縫い目が一定距離で均一
- 金具(Dリング、タグ)の向きが正しく、ステッチにしっかり噛んでいる
気づきのサイン
- ファスナー端が短すぎると、端のステッチが不安定になる
- バッティングのトリム不足は、角が丸く膨らむ原因になる
- 強い直アイロンは刺繍糸にテカリを生むため、シリコンシート必須
プロのコツ:多サイズ展開で量産する場合、段取り最適化のためにミシン刺繍 マルチフーピングを計画すると、糊付け→タックダウン→表布の折り返しを流れ作業化しやすくなります。
7 トラブルシューティングとリカバリー
症状:ファスナーが斜め/波打つ
- 可能原因:配置ラインへの中央合わせ不良、歯の傾き、仮止め不足
- 解決:タックダウン前に歯の直線性を再確認し、必要に応じて再配置。テープ併用で保持力を補強
症状:金具に針が当たる/生地に段差ができる
- 可能原因:テープ固定不足、向き(リングが上向き)誤り
- 解決:リングは下向き、テープで面に寝かせる。縫い線から約1/4インチ内側に位置決め
症状:角がつぶれて丸い
- 可能原因:バッティングのトリム不足、角の切り落とし不足
- 解決:タックダウン後に際までトリム。最終トリムで角を斜め落とし
症状:内側に縫い代が露出
- 可能原因:裏布の折り上げ・折り下げ方向の取り違え、返し口の始末不足
- 解決:各ステップで「大きい面積側へ折る」など方向指示を再確認。返し口は内側へ折り、プレス後に縫い閉じ
症状:プレスで刺繍がテカる/糸がつぶれる
- 可能原因:直当て高温プレス
- 解決:シリコンシート越しに中高温で圧を均一に、動かしすぎない
注意:重ねが増える工程では、補助的にマグネット刺繍枠や刺繍用 枠固定台を活用すると層ズレを予防できますが、動画では特定機種の使用は示されていません。あくまで任意の補助です。
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実演の時系列ハイライト - 背面パネルの単独作成とカット(表とは別作業)
- ファスナーの配置とタックダウン
- トップのバッティング→トリム→裏布タック
- トップ表布の折り返しと刺繍
- Dリング・タグの取り付け
- バックパネルの重ね合わせと最終アウトライン
- 周囲のトリムと返し準備
- プレスとストラップ・タッセルの装着
最後に:使用サイズや具体寸法は付属PDFの指示に従ってください。工程の意図(なぜこの順序か)を理解すれば、布やサイズ、金具の違いにも柔軟に対応できます。量産や安定化の工夫として、必要に応じてマグネット刺繍枠や位置決め治具を補助的に取り入れると、再現性と作業速度の両立が図れます。
