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ITHキーフォブに必要な材料・道具
プロっぽいITH(枠内完結)キーフォブ作りは、単なる「手芸」ではなく、実は小さな工程の中に管理ポイントが詰まった作業です。特に同時にコントロールするのは次の3つです:安定化(土台を動かさない)、厚み管理(金具に入る厚みに収める)、端の見栄え(サテンが生地端を確実に包み、毛羽立ちを出さない)。
きれいなキーフォブは「材料選び+制御」の成果です。層の管理ができれば、サテン縁は密で滑らかになり、市販品のような仕上がりに寄ります。逆にテンションや固定が甘いと、サテンが波打ったり、最後の金具圧着で斜めに噛んで一発で台無しになりがちです。

この記事でできるようになること(つまずきやすい点も先に整理)
このワークフローでは、スタビライザーに配置線を縫い、バッティングと布を「フロート(浮かせ固定)」し、ライン際を精密にトリミングしてから、太めのサテン縁で端を封じ、最後にクランプ式金具を取り付けます。
この作業で起きやすい“静かな失敗”は主に4つです:
- 「枠跡」またはズレ: ビニール/合皮に摩擦跡が残る、または縫製中に層が1mmずれて位置合わせが崩れる。
- 「厚すぎサンド」: 上端が厚くなりすぎて、金具の歯がまっすぐ噛まない。
- 「毛羽立つ端」: サテンの下にスタビライザー繊維が噛み込み、端がモサモサに見える。
- 「斜め圧着」: 金具がわずかに傾いて付き、見た目で即バレる。
動画で使用している材料・道具(+見落としがちな必需品)
動画の仕上がりに寄せるには、基本セットに加えて「精密作業用の道具」が効きます。
主要機材:
- 刺繍ミシン&刺繍枠: 枠の汚れ(糊・ホコリ)を落とし、ネジ機構がスムーズに動くか確認。
- キーフォブ金具: 幅1インチ/1.25インチが一般的。
- キーフォブ用プライヤー: 金具を傷つけにくい形状のものを推奨。家庭用ペンチで代用すると、ズレや傷の原因になりやすいです。
消耗材(ソフト系):
- 中厚手のティアアウェイ・スタビライザー: 土台。
- 裁断済みの表布/裏布: 綿布のほか、ビニールやキャンバスでも可(動画内言及)。
- バッティングまたはフォーム: ふっくら感を出す芯材。
- トランスポア(医療用テープ): ちぎりやすく、保持力があり、剥がしやすい。
精密作業ツール:
- 針 75/11: 動画で使用。布とスタビライザーの組み合わせで負荷が上がるので、曲がりや欠けがない針を。
- ダックビル(アプリケ)ハサミ: ライン際を攻めるための必須級。
- 糸焼きツール(スレッドバーナー): 糸端や毛羽の処理に。
- タッキーグルー: 金具圧着前の仮固定に少量使用。

補足:ここで「ドラム張り」の枠張りが効く理由
ITHキーフォブは簡単そうに見えますが、最後のサテン縁がシビアです。サテンは高密度で生地を内側へ引き込む力が強く、スタビライザーが緩いと波打ち(パッカリング)や微ズレが起き、サテンが生地端を「覆う」のではなく「横に落ちる」ことがあります。結果として切り口が見えたり、白い隙間が出ます。
触感チェック: 枠に張ったスタビライザーを指で軽く叩き、張りがある音と反発があるか確認します。鈍い感じ・スポンジ感がある場合は張り直し。
小ロットでも数が増えると、手枠張りの疲労でテンションが落ちやすくなります。そこで現場では、張り具合と位置を標準化できる専用の刺繍用 枠固定台を導入して、1個目と50個目の品質差を減らすことがあります。
Step 1: 枠の準備とバッティングのセット
スタビライザーを枠張りして配置線を縫う
中厚手ティアアウェイ・スタビライザーを1枚枠張りします。
- 補足: 2枚推奨の解説もありますが、このサイズ感なら「品質の良い1枚をドラム張り」が前提で成立しやすいです。厚くしすぎると、後の除去が荒れて毛羽の原因にもなります。
- 枠ネジをしっかり緩める。
- スタビライザーを置き、内枠をはめ込む。
- ネジを少し締め、四隅から均等に引いて張りを出し、最後にしっかり締める。
- 1色目(配置線)を縫う。
狙いの状態: 白いスタビライザー上に、くっきりした配置線(長方形/シェブロン形状)が出る。

バッティング(またはフォーム)をフロートして固定
配置線の上にバッティングを置きます。縫い枠内でズレないよう、配置線より十分大きく被せます。
テープの貼り方: 動画では上下をテープで固定しています。針の走行予定ラインにテープの糊がかからないようにし、糸切れや糸汚れを避けます。
狙いの状態: バッティングが浮かず、シワや気泡がない。

バッティングをライン際でトリミング(縫い糸は切らない)
ダックビル(アプリケ)ハサミで、縫いラインのすぐ外側を攻めて切ります。
- 手順のコツ: ハサミの「ビル(平たい刃)」を縫い目に沿わせると、縫い糸を誤って切りにくくなります。
- 目的: 余分な厚みを残さないこと。ここが甘いと、後のサテン縁が盛り上がって波打ちやすくなります。
狙いの状態: バッティングが縫い形状の内側だけに残る。

注意: 機械的リスク。 材料を置くときは針周りに指を入れすぎないこと。スタート前に、ハサミ等の金属工具が縫製エリアに残っていないか必ず確認してください。針棒と工具が干渉すると、機械に重大なダメージになります。
事前チェック(スタート前に必ず)
- 張りチェック: 叩いてしっかり張っている感触がある。
- 針チェック: 75/11が曲がっていない/先端に欠けがない。
- 下糸(ボビン糸)チェック: サテン前に下糸切れを起こさない残量か。
- テープチェック: トランスポアがしっかり密着している。
- クリアランス: ハサミや小物が、可動する枠アームから十分離れている。
Step 2: 仮止め縫い+キルティング(装飾縫い)
表布を置いて、仮止め+キルティングを縫う
表布を表向きに、バッティング全体が隠れるように置きます。
フロートの利点: 布を枠に噛ませずテープ等で固定することで、布目の引っ張り(歪み)を避けやすくなります。幾何学柄のように直線が目立つデザインほど、わずかな歪みが完成後に目立ちます。
次の色(工程)を実行します。通常はランニング(仮止め)の後に、装飾ステッチ(キルティング)が続きます。
狙いの状態: 表布がバッティングにしっかり固定され、装飾ステッチがきれいに入る。

糸替えの段取り:
- 同系色: 質感だけ出したい場合。
- コントラスト: 柄を目立たせたい場合。
- 現場のコツ: キルティング糸色を合わせたい場合は、この工程に入る前に上糸をセットしておきます(動画内で言及)。
Step 3: 裏布の取り付け
枠を裏返して(枠から外さず)裏布をテープ固定
初心者が迷いやすいのがここです。
- 枠をミシンから外します。スタビライザーは枠から外さない。
- 枠を裏返し、裏側(下面)が見える状態にします。
- 裏布を表が外側(こちら向き)になるように配置します(裏面がスタビライザー側)。
- 四隅をしっかりテープで固定します。ここは重力で落ちやすいので、固定が弱いと折れ込んで針に巻き込まれます。
狙いの状態: スタビライザーを芯にして、表布・裏布が両面に付いた「サンドイッチ」状態。

補足:この「裏返して固定」方式が位置ズレに強い理由
スタビライザーを枠にロックしたまま進めることで、位置合わせ(レジストレーション)が保たれます。これは典型的なフローティング用 刺繍枠運用の考え方です。
作業性の話: 裏返し作業で内枠が浮いたり、従来枠で素材に枠跡が出やすい場合、保持方法がボトルネックになっている可能性があります。量産現場では、保持力を均一化しやすいマグネット刺繍枠 用 枠固定台に移行して、裏返し時の事故(落下・ズレ)を減らすことがあります。
Step 4: トリミングとサテン縁
側面と先端をトリミング(上端は切らない)
枠をミシンに戻し、裏布の仮止め縫いを実行します。
その後、もう一度枠を外し(スタビライザーは外さない)、表布・裏布の両方をトリミングします。
- 切る場所: 左右の長辺2辺+下側のポイント(形状の先端側)。
- 安全マージン: 仮止めラインのすぐ外側を狙います。残しすぎるとサテンで覆い切れず、切りすぎると縫い糸を切って崩れます。
- タブ: 上端は切らない。 ここが金具に差し込む「差し込み代」になります。
狙いの状態: 形はほぼ完成しているが、上端だけは四角く余りが残っている。

サテン縁を縫う(下糸も色合わせ)
ここが仕上がりを決める最終工程です。
- 下糸(ボビン糸)を色合わせ: キーフォブは裏面も見えるため、白ボビンが透けると一気に手作り感が出ます。サテン用の色に合わせて交換します(動画内で言及)。
- 上糸: 糸調子が乱れていないか確認。
- サテン縁を実行: ループや糸抜けが見えたら即停止。
狙いの状態: 端がしっかり封じられた、密でツヤのあるサテン縁。

補足:サテン品質は「端の制御」で決まる
サテンがボコボコ・波打つ場合、原因は「土台の緩み」か「バッティングの切り残し」が多いです。特にバッティングの段差があると、サテンが均一幅に乗らず、縁が太ったり痩せたりします。
量産では再現性が命です。現場では、張力が落ちにくいマグネット刺繍枠を使って、長時間の高密度縫いでも保持力を一定にし、サテンの安定性を上げるケースがあります。
Step 5: 金具取り付けまでのプロ仕上げ
枠から外し、上端の差し込み代を整える
スタビライザーから作品を外し、余分なスタビライザーをやさしく破ります。サテン縁を指で支えながら剥がすと、縁が引っ張られて歪むのを防げます。
上端の差し込み代は、動画では約1/4インチを目安にカットしています(好み・金具深さによる)。さらに、左右の角を斜めに落として厚みを減らします。ここをやると、金具の中で角が突っ張らず、まっすぐ圧着しやすくなります。
狙いの状態: 短く整った差し込み代+角が斜めに落ちている。


毛羽と糸端の処理(動画の2パターン)
サテンの端からスタビライザーの毛羽が出ると、一気に「手作り感」が出ます。
- 物理的に外す: 指先(爪)で縁をなぞってスタビライザーをほぐし、取りやすくする(動画内で言及)。
- 熱で処理: 糸焼きツールで、糸端や毛羽を軽く焼き切ります(動画内で実演)。
狙いの状態: 端がスッキリして、毛羽が目立たない。

糊→差し込み→圧着:まず位置合わせ、最後に本締め
クランプ金具は一度噛ませるとやり直しが効きにくい工程です。
- 糊で補助: タッキーグルーを少量、折り目(差し込み代)に付けて滑り止めにします(動画内で言及)。
- 差し込み: 金具に差し込み、まずは軽く保持。
- チェック: 真ん中に入っているか、斜めになっていないかを目視で確認。
- 圧着: プライヤーで最初は軽く噛ませ、位置が良いのを確認してから強く圧着します(動画の手順)。歯が「パチッ」と噛む感触が出ます。
狙いの状態: 金具がまっすぐで、引っ張っても抜けない。





注意: 熱の安全。 糸焼きツールは高温になります。周囲の可燃物に注意し、先端カバーは冷めてから扱ってください。
作業チェックリスト(ミシン横に置く用)
- 配置線が閉じている(途切れ・飛びがない)。
- バッティングのテープが針の走行ラインにかかっていない。
- 表布が配置範囲を完全に覆っている。
- 裏返し: 裏布が「表が外側」になっている。
- トリミング: 側面・先端はライン際/上端は残している。
- 下糸: サテン前に色合わせ済み。
- 金具: 差し込み代の角を斜めに落とした。
- 最終圧着: まっすぐを確認してから本締めした。
よくある質問(コメントより要約)
「一緒に写っているバッグも作れますか?」という質問がありました。投稿者の返信として、バッグのチュートリアルはこちらで案内されています:https://youtu.be/gqxWkEG8u5o?si=dhHqv5RU2XTmP_3h
準備(Prep)
成功の9割は準備、縫うのは残り1割です。
見落としがちな消耗材&段取り
- 糊・テープの影響: テープを多用する工程なので、ハサミ刃に糊が付きやすく、切り口が荒れやすくなります。切れ味が落ちたら早めに清掃・交換。
- 下糸の段取り: サテン前に下糸色を合わせる前提で、ボビンを準備しておくと流れが止まりません。
- 裁断の標準化: 表布/裏布/バッティングを先に必要枚数カットしておくと、連続生産が安定します。
判断フロー:素材に合わせた層の考え方
動画では「中厚手ティアアウェイ+バッティング+表布+裏布」の構成です。素材が変わると、厚みと保持のバランスが変わります。
- 厚みが出すぎると感じる場合: 上端(差し込み代)のトリミングと角落としを丁寧にし、金具内での段差を減らします(動画内の手順)。
- ズレが出る場合: テープ固定を強め、スタビライザーの張りを見直します。
もし層の再調整が頻発したり、枠の保持が不安定なら、保持方法自体が原因のことがあります。複数素材を扱う刺繍ミシン 用 枠入れでは、摩擦保持だけだとズレやすい場面があり、マグネット刺繍枠のような垂直方向の保持が有利になるケースがあります。
準備チェック(スピード重視の段取り)
- 生地・バッティングを必要数カット済み。
- 金具をサイズ別に仕分け済み。
- プライヤーの当て面が金具を傷つけにくい状態。
- 糊のノズルが詰まっていない。
セットアップ(Setup)
再現性を上げる設定(初心者にも、仕事にも)
- データ確認: ITHデータは拡大縮小すると、サテン密度や位置合わせが崩れやすいので注意。
- 針: 75/11を基準に、状態の良い針を使用。
- 糸: サテン縁は上糸だけでなく下糸(ボビン糸)も色合わせする前提で準備。

アップグレード案(枠張りがボトルネックになったら)
1個だけ作るなら通常の枠でも十分ですが、受注やイベント向けに数を回すと「枠張り作業」が時間と疲労の最大要因になります。テンションのばらつきは品質のばらつきに直結します。
そこで小規模工房でも、枠張り時間短縮とテンションの標準化を目的にマグネット刺繍枠へ移行することがあります。
注意: 磁力の安全。 強力な磁石は指を挟む危険があります。取り扱いは慎重に。
運用(Operation)
全工程(チェックポイント付き)
- スタビライザーをドラム張りで枠張り。
- 確認: 張りが均一か。
- 配置線を縫う。
- 確認: 線が途切れていないか。
- バッティングをフロート固定。
- 確認: 上下をテープで固定し、浮きがないか。
- バッティングを仮止め→ライン際でトリム。
- 確認: 切り残しがないか。
- 表布を置いて仮止め+キルティング。
- 確認: 表布が十分に覆っているか。
- 枠を裏返して裏布をテープ固定。
- 確認: 裏布が表向き(外側)か。
- 最終トリミング。
- 確認: 側面・先端のみ/上端は残す。
- サテン縁。
- 確認: 下糸(ボビン糸)を色合わせ済み。
- 金具取り付け。
- 手順: 糊→位置合わせ→軽く噛ませる→まっすぐ確認→本締め。
仕上げ検品(ロット終わりの品質ゲート)
- サテン密度: 下地が透けて見えない。
- 裏面: 下糸色が合っている/糸溜まりがない。
- 直角: 金具が本体に対してまっすぐ。
- 手触り: ふにゃっとせず、適度なコシがある。
トラブルシューティング
サテン縁にスタビライザーが貼り付く/毛羽が残る
症状: ティアアウェイを剥がしても、サテン端に白い毛羽が残る。 原因: 高密度のサテンでスタビライザー繊維が噛み込みやすい。 対処:
- スコア法: 爪で縁をなぞってスタビライザーをほぐし、剥がれやすくする(動画内で言及)。
- 熱処理: 糸焼きツールで毛羽を軽く処理する(動画内で実演)。
金具が斜めに付いた
症状: クランプが左右どちらかに傾く。 原因: 位置合わせ前に強く圧着してしまった。 対処:
- 予防: 最初は軽く噛ませて位置確認→問題なければ本締め(動画の手順)。
層がズレる/サテンと生地の間に白い隙間が出る
症状: 生地端とサテンの間に、白いスタビライザーが見える。 原因: テープ固定が弱い、またはスタビライザーの張りが甘く縫製中に引き込まれた。 対処:
- 物理: テープ固定を強める。
- 機械: 枠張りテンションを見直す。保持方法の改善としてマグネット刺繍枠を検討する余地があります。
仕上がり基準(Results)
業務レベルのITHキーフォブは、次の3点で差が出ます:
- サテン幅が均一: バッティングの段差が出ていない。
- 金具の「まっすぐ感」: 本体に対して直角で、左右の出代が揃っている。
- 切り口ゼロ: 端から生地の毛羽が出ていない。
動画では縫い時間の目安として6〜10分が示されています。短時間で回せる分、ボトルネックは「縫い速度」より「枠張りと段取り」に移りやすいです。裁断の標準化と、保持・枠張りの安定化(例:マグネット系の枠)を組み合わせると、趣味から小ロット生産へ移行しやすくなります。
