目次
材料(パズル形マグラグに必要なもの)
このプロジェクトは、枠内完結(ITH)でサクッと達成感が得られる定番ワークです。配置線→キルト綿+表布の重ね→モチーフ縫い→裏布フロート→アプリケ風トリム→サテン縁かがり、という「ITHの基本リズム」を一通り練習できます。

何を作る?(初心者向きの理由)
パズルピース形のマグラグを作ります。形状はミシンが縫いで作ってくれるので、作業者側の勝負どころは置き位置の精度だけ。いわゆる「1回の枠張りで、複数レイヤーを順番に固定していく」流れなので、縫製で形を作るときに起きがちな“寸法の迷子”が起こりにくいのがメリットです。
- 量産の伸びしろ: 1枚の手順が安定したら、同じ段取りで10枚・20枚と回せます。複数枚を組み合わせて大きなマットやランナーに展開でき、趣味制作から「小ロット生産」へ発想を広げやすい題材です。
動画で使われている主材料
- スタビライザー: メッシュ(ノーショー系)またはティアウェイ(生地の厚み・安定性で選択)。
- キルト綿: 綿またはポリ(マグラグをフラットに保つ)。
- 表布: 織物コットン(安定していて裁断しやすい)。
- 裏布: 表布と同系の織物コットン。
- 糸: 上糸=刺繍糸40番、下糸(ボビン糸)=60番または90番。
- アプリケはさみ: ダックビル/カーブ刃(トリム工程で必須)。
- 刺繍機: 5×7以上の枠サイズに対応する刺繍機。
見落としがちな消耗品&事前チェック(ここで結果が決まる)
刺繍は「スタートを押す前」に失敗要因が揃っていることが多いです。ITHは多層になるぶん、ここを省くと後半(サテン縁)で一気に破綻します。
- 針は新品寄りで: 75/11 または 90/14 のシャープ/トップステッチ針。サテン縁は密度が高く、スタビライザー+綿+布の多層を連続で貫くため、針先が甘いと糸切れや目飛びの原因になります。
- 仮固定: スプレーのり、またはテープ(フロート固定用)。
- マグネット刺繍枠(任意だが推奨): ネジ式枠は厚物で繊維が潰れやすく、枠跡(枠焼け)が出ることがあります。刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠なら、リングに押し込むのではなく“面で挟んで保持”できるため、レイヤーの微調整がしやすく、ITHの置き直しもスムーズです。
事前チェックリスト(枠張り前に実施):
- 針先チェック: 爪を軽く当てて引っかかるなら交換。サテン縁で上糸が毛羽立つ/切れる原因になります。
- ボビン残量: 50%程度は確保。サテン縁の途中で下糸切れは修復が目立ちやすいです。
- 糸くず点検: 針板周り・ボビンケース周りを清掃。キルト綿は特にリントが出やすく、糸絡みの誘因になります。
- アイロン: 表布・裏布はフラットに。シワは縫い込むと戻りません。
- はさみの先端: 角のトリムに効くので、刃先がしっかり切れるか確認。
手順1:配置線(ガイドライン)を縫う
配置線は設計図です。スタビライザーに「1本のランニングステッチ」を入れて、作業エリアを物理的に可視化します。

手順
- スタビライザーを枠張り: たるみがない状態(ピンと張るが、引っ張って歪ませない)。
- ステッチ#1(配置線): パズル形の外周をなぞります。
チェックポイント
- 見た目: 線が途切れず、目飛びがないこと。ここで目飛びが出るなら、糸掛けや針の状態が崩れています(後工程はさらに密度が上がるため、早めに立て直し)。
- 位置: 枠の樹脂端に当たりそうな配置になっていないか確認。
この工程が重要な理由
ITHは画面のプレビューよりも、実際に縫われた配置線が基準になります。スタビライザーが緩いと配置線が内側に引かれ、最終サイズや縁の被りが不安定になります。
また、dime マグネット刺繍枠のようなタイプを使う場合、開口部が広く、スタビライザーの張り調整がしやすいのが利点です(内枠リングの“押し込み合い”が少ない)。
注意:安全面
キャリッジ移動中・縫製中に針棒付近へ手を入れないでください。刺繍アームは強いトルクで動きます。手は常に枠内(針の動作範囲)から外へ。
手順2:キルト綿+表布の配置とタックダウン
ここが「成否の分かれ目」です。綿と表布を“ズレないサンド”にできるかで、後半の「綿が見える」「縁が欠ける」を防げます。

手順:キルト綿+表布の配置
- ミシンを停止。
- レイヤー1(キルト綿): 配置線を確実に覆うように置きます。
- レイヤー2(表布): 表(おもて)を上にして、綿の上へ配置。
- 仮固定: 角を軽くテープ留め、または薄くスプレーのり。
手順:タックダウン
- ステッチ#2(タックダウン): 綿+表布をスタビライザーへ固定します。
チェックポイント
- 触って確認: 縫う前に指で軽く撫で、浮き・空気溜まりがないこと。
- 見た目: 表布が配置線を完全に覆っていること。動画でも「ギリギリを攻める(playing chicken)」表現がありましたが、端が足りないとその時点でアウトになりやすいです。
スタート/ストップ点の話(仕上がり差が出る)
データのスタート/ストップ点が離れていると、アウトラインに小さな“つなぎ目”が見えることがあります。
- 編集できる場合: スタート/ストップ点を近づける(少し重ねる)と、輪郭が締まります。
マグネット刺繍枠を使うと、内枠の壁がない分、端まで手でスムーズに撫でてシワを逃がしやすく、タックダウン前の微調整がしやすいのが強みです。
手順3:モチーフ縫い→裏布のフロート
内側の装飾(パズルモチーフ)を縫ったあと、裏布を「フロート(枠から外さず、裏側に差し込んで固定)」で取り付けます。

手順:モチーフを縫う
- モチーフ縫い: パズルの内部模様(装飾)を縫います。
- 糸調子を観察: 上糸が寝ていればOK。上でループが出るなら上糸が緩め、上に下糸が見えるなら上糸が強めのサインです。
手順:裏布を下側へフロートする
- 枠を外す(任意だが安全): 枠から材料は外さず、刺繍機から枠だけ外します。
- 裏布の向き: 表を下(Right Side Down)にして、枠の裏側へ差し込みます。
- 固定: 裏布の四隅をテープでしっかり固定(マスキングテープ/養生テープが扱いやすい)。
- 枠を再装着: 裏布が折れ込んでいないか注意して戻します。
- 縫製: 裏布を固定するタックダウン(裏側固定線)を縫います。

チェックポイント
- 見た目: 枠を少し持ち上げ、裏布が針板側へ巻き込まれていないか目視。
なぜフロートが有効か
厚みのあるサンドを“正規に枠張り”しようとすると、ズレやすくなったり、枠から材料が浮きやすくなります。フロートは「スタビライザーの張りは維持したまま、裏布だけを後から固定する」ので、枠への負担が減ります。
また、フローティング用 刺繍枠の考え方でも共通ですが、要点はシンプルです:テープで重力に勝つ。枠を裏返しても裏布が落ちない程度に固定します。
注意:マグネットの取り扱い
高磁力のマグネット刺繍枠は専門工具です。挟み込み注意: マグネットが吸着するとき指を挟まないよう、指は合わせ面から外して保持してください。ペースメーカー等: 強い磁力は医療機器に影響する場合があります。機器の取扱説明に従い、必要な距離を確保してください。
手順4:トリミング→ジグザグ下縫い→サテン縁かがり
ここで仕上がりが決まります。トリムが甘いとサテンの隙間から布端が出て「毛羽(whiskers)」になります。

手順:トリミング(アプリケ風)
- 枠を外す: 平らで硬い作業台へ。
- 持ち上げて切る: 余り布端を軽く持ち上げ、はさみの腹を縫い線に沿わせます。
- カット: 縫い線ギリギリ(目安1〜2mm)まで、糸を切らない範囲で詰めます。裏布を事前裁断していない場合は、裏側も同様に処理します。
チェックポイント
- 見た目: 角に小さな三角(旗=Flags)が残りやすいので、ここを落とす。
- 触感: 縁を指でなぞって段差が強いなら、まだ余りが残っています。
手順:ジグザグ→サテン
- ジグザグ(下縫い): 端を押さえて材料をならし、サテンをきれいに乗せる準備。
- サテン縁かがり: 最終の密な縁取り。

チェックポイント
- ボビン糸の色: 裏面が見える用途なら、サテンに入る前に下糸(ボビン糸)を上糸に合わせます(動画でも「ここでボビンを替える」重要性が触れられています)。
- 被り: サテンが生地端を完全に包み込んでいること。
複数ピースをつなげてランナー/マットへ
この企画の強みは「増やせる」ことです。

実務的な組み立て発想
- バッチ処理: 1枚ずつ作らず、綿をまとめて裁断、布もまとめて裁断。
- 段取り: 枚数が増えるほど、ネジ式枠の締め緩めが手首の負担になります。
量産を意識するなら、マグネット刺繍枠 用 枠固定台は“第三の手”として効きます。枠とスタビライザーを安定保持しながらレイヤー合わせができ、置き作業のブレを減らせます。
選定の目安:スタビライザー×生地
| 表布が… | スタビライザーは… | キルト綿は… |
|---|---|---|
| 安定した織物(コットン) | ティアウェイ(中厚) | 標準的な綿綿 |
| 伸びやすい(ニット/ジャージ) | カットアウェイ(メッシュ) | ポリ混(安定寄り) |
| 毛足がある(ベルベット/タオル) | ティアウェイ+水溶性トッパー | 薄手(嵩を減らす) |
ツールのアップグレード(量産目線)
枚数が増えると、課題はテクニックより「疲労」と「再現性」に移ります。
- レベル1(手順の安定): よく切れるはさみ、裁断テンプレート(またはカッティングマシンでの事前裁断)で段取り短縮。
- レベル2(治具・枠): 厚物サンドを素早く保持できる monster マグネット刺繍枠 のような強力タイプで、締め付け作業を減らし、枠跡も抑えやすくします。
- レベル3(刺繍機): 色替えがボトルネックなら、多針刺繍機で段取りを固定し、連続運転の効率を上げます。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | すぐやる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 糸絡み(バードネスト) | 上糸がテンション皿から外れた/糸掛け不良 | 絡みを除去し、押えを上げて上糸をかけ直す | 上糸掛けは押え上げで実施(テンション皿を開く) |
| 縁が波打つ(サテンがうねる) | 材料ズレ/スタビライザーの張り不足 | 基本は戻せないため、仕上げて次回改善 | 仮固定を強化、マグネット枠で保持力を安定 |
| 毛羽(布端が出る) | トリムが甘い | ピンセット等で押し込み(可能な範囲) | カーブ刃のアプリケはさみでギリまで詰める |
| 針折れ | 多層+針が細い/無理な貫通 | 針交換 | サテン工程は無理をさせない(密度が高い前提で準備) |
| 裏布がヨレる/噛む | フロートした裏布が折れ込んだ | すぐ停止し、状態を戻して平滑化 | 四隅を確実にテープ固定、縫う前に裏側を目視 |
仕上がり(まとめ)
これでパズル形マグラグが完成です。さらに重要なのは、ITHの基本動作である 「置く→縫う→フロート→切る→仕上げる」 を一周できたこと。
品質を安定させたい場合は、刺繍用 枠固定台で枠の保持と置き圧を一定にし、同じ手順を同じ精度で繰り返せる環境を作るのが近道です。
スタート直前チェック:
- 枠張り: スタビライザーにたるみはないか
- 糸: 指定色・糸掛けは正しいか
- 段取り: アプリケはさみが手元にあるか
縫製中チェック:
- 配置線後: 目飛びなく縫えているか
- タックダウン後: 表布が外周を完全に覆っているか
- サテン前: 必要なら下糸(ボビン糸)を交換したか
- 最終縫い: 仕上げ工程に入る前に、裏布の折れ込みがないか確認したか
