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「記憶を守る」手順:CMOS電池が“機械の記憶”を担う理由と、正しい交換方法
精密なマシン刺繍では、コントローラが全体を制御し、CMOS電池(コイン電池)が“設定の記憶”を保持します。Dahaoコントローラ搭載のシェニールコンボ刺繍機では、主電源を切った状態でも重要な機械パラメータを保持する役割を、この小さな電池が担っています。
この電池が弱っていたり、準備なしに取り外したりすると、単なる部品交換では済まず、設定が初期化(リセット)されるリスクがあります。量産現場では、リセットが「原因不明の不調」として表面化しがちです。たとえば、ループ系の縫いが急に低くなる、フラット刺繍の動きが重く感じる、停止タイミングが変わって上糸が短くなる――といった症状につながります。

このガイドは、そのリスクを最小化するための“保険”です。難しい理屈よりも、現場で再現できる「記憶ゼロ化を防ぐ」段取りに絞ります。合言葉は 「記録が先、分解は後」。入門機から 業務用刺繍ミシン まで、機械を止めないための基本習慣として役立ちます。
現場の技術者が押さえているポイント(ここを真似すればOK)
- 画面の場所: Dahaoの「Machine Parameter Management(機械パラメータ管理)」がどこにあり、どのサブメニュー(Common/Flat/Loop)に重要値が入っているか。
- 安全な開口手順: 電装キャビネットを開ける際に、感電・配線の噛み込み・コネクタ抜けを避ける段取り。
- 復旧の照合ループ: 交換後に“元に戻った”ことを、縫う前に確実に証明する方法。
手順1:「ブラックボックス」バックアップ(最重要)
ここは省略不可です。「数字は覚えているから大丈夫」は危険です。工場出荷値は、現場で最適化された値と一致しないことがほとんどです。ドライバーを持つ前に、まず“機械の脳内”を静止画で保存します。

1) 設定画面(中枢)へ移動
- 電源ON: 起動が完了し、通常の操作画面になるまで待ちます。
- 設定アイコンを探す: Dahaoのメイン画面下部にあるアイコン列(トレイ)を見て、矢印キーで 設定アイコン(工具/歯車の絵)を選択します。
- チェックポイント: メニュー項目の一覧が表示される状態にします。

2) 「Machine Parameter Management(機械パラメータ管理)」に入る
- 操作: パネルの F3 を押して Machine Parameter Management に入ります。
- チェックポイント: 画面に Common Parameters/Flat Parameters/Sequin Parameters/Loop Parameters の一覧が出ていることを確認します。

3) 機械の“DNA”を撮影して残す
以下の3グループについて、各ページを漏れなく撮影します。
- A:Common Parameters(例:Embroidery Assist、Frame Parameter、Machine Maint などのサブ項目を含む)
- B:Flat Parameters(通常のフラット刺繍の設定)
- C:Loop Parameters(シェニール作業で特に重要)
補足動画内の説明どおり、同じ名称のサブ項目が別カテゴリから辿れて“同じ画面に戻る”ケースもあります。一方で、カテゴリによって追加ページや別ページが隠れていることもあるため、結局は「見えるページを全部撮る」が最も安全です。

きれいに残す撮影のコツ(復旧作業の効率が変わります)
- 反射対策: 数字が白飛びしない角度にスマホを傾けます(フラッシュは状況によりOFF推奨)。
- ページ情報: 可能ならページ番号表示(例:1/3)が写るようにします。
- スクロール確認: スクロールバーがある=下に続きがあります。下まで送って撮影します。



現場感のある補足:「初期値」が危険な理由
交換後に「動くけど何か違う」と感じる典型原因が、パラメータの微妙なズレです。動画でも例として、Max Speed 600 や Stop Time Adj 50 のような数値が示されています。こうした値は機械個体に合わせて調整されている場合があり、リセットで変わると糸切れや動作の違和感につながります。
- 目的: “正しい数値探し”ではなく、交換前のあなたの数値を守ること。
手順2:電装キャビネットを安全に開ける
データが確保できたら、ここから物理作業に移ります。
1) 「ゼロエネルギー」状態を作る
- 電源OFF: 主電源スイッチをOFF。
- 電源プラグを抜く: 壁コンセントから抜きます。
- チェックポイント: 外装の表示灯(LED等)が消えていることを確認します(動画でも「正しく抜けていればLEDは点灯しない」と説明されています)。
2) コントロールボックス(電装箱)を露出させる
機械テーブル下に吊られている金属の電装キャビネット(コントロールボックス)を探します。

- 操作: プラスドライバーで 前面パネルのネジを外してパネルを取り外します。
- チェックポイント: パネルが落下して配線に負荷をかけないよう、最後の1本は手で支えながら外します。

手順3:CMOS電池の交換(狙い撃ち)
1) 基板(マザーボード)を見える状態にする
- 操作: 電装箱の 側面パネルを外し、基板が見えるようにします。


2) 電池の位置を特定する(迷いやすいポイント)
基板上は部品が多いですが、探すのは「銀色のコイン電池」です。動画の目印は次のとおりです。
- 目印1: 白い多芯コネクタ(複数配線の束)
- 目印2: LED表示部(電源を抜いていれば消灯)
- 電池ホルダー: その白いコネクタの“奥側”で、LEDの“上あたり”に配置されている


3) 交換する
- 取り外し: 電池ホルダーから古い電池を外します(動画では「ポンと外して入れ替える」手順)。
- 取り付け: 新しい電池を同じ向きで差し込み、確実に固定されていることを確認します。
手順4:復旧(照合)と動作確認
1) 元に戻す
- 操作: 側面パネルを戻し、ネジを締めて復旧します。

2) 設定が戻っているかを“写真で”確認する
- 電源投入: 電源プラグを差し、電源ON。
- 再度メニューへ: F3:Machine Parameter Management に戻ります。
- 照合: 手順1で撮った写真と、現在の数値を見比べます。
- 復旧: もし数値が変わっていたら、写真を見ながら手入力で元の値に戻します(動画でも「変わっていたらすぐ戻す」と案内されています)。
判断フロー(復旧プロトコル)
- 起動時にエラー表示がないか
- ない: 次へ
- ある: いったん停止し、キャビネット内でコネクタが抜けていないか確認します
- Loop/Flat/Common の数値が写真と一致しているか
- 一致しない: 写真どおりに手入力で戻します
- 一致する: 次へ
- 縫う前の確認
- まずは設定照合が完了してからテストに進みます(いきなり製品を縫わない)。
事前準備:プロの道具立て(段取りで事故を減らす)
作業中に工具を探すと、ネジ落下や配線引っ掛けのリスクが上がります。最低限、次を揃えてから始めます。
用意しておくもの
- スマホ/カメラ: 画面を鮮明に撮影できること(複数ページ分)。
- プラスドライバー: パネル脱着用。
- 交換用CMOS電池(コイン電池): 形式は基板側の表示を見て確認します(推測で買わない)。
互換性に関する補足
本記事はDahaoコントローラの画面と手順を前提にしていますが、「電池交換前にパラメータを記録する」という考え方は、barudan 刺繍ミシン を含む他機種でも同様に役立ちます。機種によって場所やメニュー名は異なるため、必ず実機の表示に従ってください。
作業環境:姿勢と安全
作業姿勢
作業はテーブル下(膝〜腰の高さ)になりがちです。
- 足元を片付ける: テーブル下に入る前に、刺繍用 枠固定台 などの障害物を避けて動線を確保します。
- 照明位置を先に決める: パネルを開けてからライトを探すと手が塞がります。先に当て方を決めます。
セットアップチェック
- 電源: コンセントから抜けている(目視で確認)。
- 表示灯: 外装のLEDが消灯している。
- 記録: Loop/Flat/Common の写真が撮れていて、数値が読める。
実行手順(まとめ)
作業の流れ
- 記録: メニューでパラメータを撮影。
- 遮断: 電源OFF→プラグを抜く。
- 開口: 前面→側面パネルを外す。
- 交換: 白いコネクタ付近の奥にある電池を入れ替える。
- 照合: 組み戻し→起動→写真と数値を照合し、必要なら手入力で復旧。
作業チェックリスト
- 電池: しっかり固定されている。
- 配線: パネルで噛み込んでいない。
- 数値: 写真と一致している(Loop/Flat/Common)。
トラブルシューティング
想定どおりにいかない場合は、症状から切り分けます。
| 症状 | 可能性が高い原因 | 確認ポイント | 対処 |
|---|---|---|---|
| 設定が変わっている/初期化された | 電池交換に伴う保持データのリセット | Stop Time Adj、Max Speed などが写真と違う/0や初期値になっている | 手入力で復旧: 交換前の写真を見ながら元の値に戻す |
| 電源が入らない | 作業中にコネクタが緩んだ | 電池の近くにある白いコネクタが浮いていないか | コネクタ確認: 再度電源を抜いてから開け、確実に差し込む |
| 起動時にエラー表示 | 交換時の手順不備や設定不整合の可能性 | 配線の抜け/設定値の不一致 | まず配線を確認し、次に写真どおりに設定を戻す |
| 電池が安定しない | ホルダーに正しく入っていない | 斜めに入っている/固定が甘い | いったん外して入れ直し、確実に固定する |
機種差・部品調達の注意
特定の旧型機(例:Barudan BENT-ZQ-201U など)の情報を探している場合、仕様確認が難しいことがあります。部品はマニュアルだけに頼らず、基板上の表示や実物の品番を必ず照合してください。また、アップグレード部材を検討する際は、適合条件の確認が前提です。たとえば mighty hoops barudan 用 は機種側の条件により適合が変わるため、購入前に仕様確認が必要です。
まとめ:止めない工夫が稼働率を作る
CMOS電池交換そのものは小さな作業ですが、段取りを誤ると設定復旧に時間を取られ、現場の停止につながります。ポイントは一貫して 「記録が先、分解は後」。写真で守れるものは、写真で守る。
この手順を習慣化できれば、機械はただ起動するだけでなく、交換前と同じ状態で“思い出して”動きます。稼働率を守るメンテナンスを身につけたら、次は段取り全体の見直しです。枠張り工程が詰まっているなら、ミシン刺繍 用 枠固定台 の導入など、周辺設備の改善が利益に直結します。
設定を守り、電源を確実に遮断し、刺繍枠の段取りも整える――それが現場の安定運用です。
