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Embrillianceでテンプレートを準備する
ソフトボール/野球ボールの名入れは一見シンプルですが、実際には「端パネルに食い込む」「カーブが“ふくらんで”見える」「最後の数文字だけ読めないほど崩れる」といったトラブルが起きがちです。これは好みの問題ではなく、2Dの文字列を3Dの球面に載せるという形状の問題です。
この手順では、刺繍を始める前にソフトボールのパネル形状(内側マージン)に合わせて文字を整形し、縫製時にマージン基準でセンタリングしやすいデータに仕上げます。動画と同じく、Embrilliance Essentialsで5x7の作業領域と、内側マージンガイド付きテンプレートを前提に進めます。

ここで身につくこと(なぜ重要か)
- アクティブ化の手順: 背景テンプレートではなく、編集したい「文字オブジェクト」を確実に選択してLetters(文字)設定を出す方法
- 「ふくらみ(Bloat)」の正体: Quick StyleのOvalをかけた直後に起きる“外側に張る”カーブの挙動と、ボール刺繍で不利になる理由
- 「左へ1段」の核心: カーブスライダーを中央から左へ1段動かし、凹(コンケーブ)方向のピンチに反転させる具体操作
- 「縫う前の最終確認(フライトチェック)」: マージン内に収まるかを画面上で判断する見方
ボール刺繍の失敗(針折れ、糸絡み、文字の傾き)は「ミシンの不調」に見えて、実はレイアウトがパネル形状とケンカしていることが原因になりがちです。データ側で形を合わせておくと、無理な固定や過剰な補強に頼らずに済み、結果として仕上がりが安定します。


スポーツボール向きフォントの選び方
動画では、1行の名前(例:"KAYLEIGH")に、スポーツ系のブロック体フォント「Rivermill Athletic Block」を1 inchで使用しています。ここは見落とされがちですが、ボール刺繍ではフォント選定が結果を大きく左右します。
ソフトボール/野球ボールの表皮は厚く、硬く、しかも曲面です。極端に細い線、装飾の強いセリフ、端が大きく張り出すデザインは、革目に沈んだり、マージン(端パネル)に当たりやすくなります。素直なブロック体は、球面に載せても形が崩れにくいのが利点です。

手順:整形したい文字オブジェクトを選択する
- キャンバス上の名前を文字そのものを狙ってクリックします(動画では名前テキストを選択)。
- 見た目で確認: 文字の周囲に点線のバウンディングボックスが出ていること。テンプレート画像側に枠が出ている場合は、編集対象が違います。
- 右側のパネルでLetters(文字)関連の設定が見える状態になっているか確認します。
期待される状態: 文字が「アクティブ」になり、Lettersパネルで編集できる状態になります。
1行/複数行/円形テキストの違い(迷いどころの整理)
動画内で3つのテキストモードに触れています。用途を取り違えると、後で整形がやりにくくなります。
- 複数行テキスト: 複数の名前を詰める用途など。ボールのように縦方向の余裕が少ない対象では扱いが難しいことがあります。
- 1行テキスト: 1つの名前を1パネルに載せる用途。今回の前提です。
- 円形テキスト: ワッペンのような円周配置向け。ソフトボールパネルの“ゆるい弧”とは目的が異なります。
よくある質問(コメントより要約): 「これはEmbrilliance Essentialsですか?」という質問がありました。本手順はEmbrilliance Essentialsでの画面・操作を前提に説明しています。
Quick Style「Oval」の使い方
文字がアクティブになったら、動画の核となる操作はQuick StyleのOvalを適用することです。文字間隔を保ったまま全体をカーブさせられるため、1文字ずつ無理に変形するより再現性が高くなります。

手順:フォント設定とOval適用
- フォントのドロップダウンから Rivermill Athletic Block 1 inch(または同系統のブロック体)を選びます。
- Quick Styleメニュー(通常は「Normal」)を見つけます。
- Ovalを選択します。
期待される見え方: 直線だった名前が、楕円状のカーブになります。ただし多くの場合、最初は外側に張る(凸)方向にカーブして「手前にふくらむ」ように見えます。ボールのパネル内に収めたい場合、このままだと端がマージンに寄りやすくなります。

なぜ最初に「ふくらむ」のか
Ovalは楕円弧を作るためのスタイルなので、初期状態では凸方向のカーブになりやすく、名前の中央が押し出され、結果として両端がマージン(縫い目側)へ寄っていきます。
ボール刺繍では、この「なんとなくカーブしたからOK」で止めると、端がパネル境界に近づき、縫製時に余裕がなくなります。ここから反転(ピンチ)させるのがポイントです。
「ピンチ」テクニック:カーブを反転させる
このチュートリアルの要点は、派手な変形ではなく最小限の微調整です。球面に載せたときに見た目が整うよう、画面上ではわずかに凹ませて“補正”します。

手順:文字を内側へピンチ(凹カーブ)させる
- スタイル設定の下にあるカーブ用スライダーを見つけます。
- 文字が「Normal(直線)」に戻る中央位置を確認します。
- スライダーを中央から左へちょうど1段動かします。
期待される見え方: カーブが反転し、凸の「ふくらみ」ではなく、控えめな凹の「ピンチ」になります。名前の両端が持ち上がるように見え、テンプレートのマージン(安全域)に沿って収まりやすくなります。

画面上のチェックポイント
- 名前がテンプレートのガイドラインの流れに自然に沿っている
- 上下のカーブが「安全域を抱え込む」ように見え、端がマージンへ突っ込みにくい

これが実物のボールで効く理由
ソフトボールのパネルは平面ではなく曲面です。曲面に刺繍すると、見た目の中心が膨らんで見える方向の歪みが出やすくなります。そこで、データ側でわずかに凹ませる(ピンチ)ことで、実物に載ったときにバランスが取りやすくなります。
また、物理的な安定も重要です。一般的な ミシン刺繍用 刺繍枠 では、基本的に固定できるのはスタビライザー側で、ボール自体の曲面・重量は別問題として残ります。データを面に合わせておくほど、無理な力で押さえ込む必要が減り、結果的にズレや歪みのリスクを下げられます。
微調整:ピンチをかけすぎない
動画でもスライダーの挙動が明確に説明されています。
- 右=ふくらみ(凸)が強くなる
- 左=ピンチ(凹)が強くなる
基本は「左へ1段」が狙い目です。左へ動かしすぎると、中央付近の文字間が詰まり、読みづらくなる原因になります。
注意: ボールのような曲面・硬質物を治具で保持して試し縫いする場合、保持が不意に動くことがあります。縫製中は指・袖・糸切りバサミ等を針周りに近づけないでください。硬い芯に当たって針が折れる可能性もあるため、保護メガネ等の安全対策も検討してください。
縫う前の最終確認
カーブが整ったら終わりではなく、ここからが「縫えるデータか」の確認です。マージン内に収まり、球面に載せても破綻しない見え方になっているかをチェックします。




事前チェック:画面上で必ず見るポイント
動画はソフトウェア中心ですが、実際の成功率は「確認の丁寧さ」で変わります。少なくとも以下は押さえます。
- テンプレートの内側マージンが見えている(ガイドが薄い場合は表示状態を確認)
- 編集対象が文字である(点線の枠が文字に出ている)
- Quick StyleがOvalになっている
- スライダーが中央から左へ1段になっている
量産や繰り返し作業では、データが同じでも「置き方」がブレると結果が崩れます。位置決めを再現しやすくするために、専用の 刺繍用 枠固定台 を使って基準を揃える運用もあります(テンプレートのマージン基準と合わせやすくなります)。
Prep Checklist(省略しない)
- ソフトボール/野球ボールのテンプレートが表示され、内側マージンが確認できる
- 正しい文字オブジェクトが選択されている(点線の枠)
- 右側にLettersパネルが表示されている
- ブロック体フォント(例:Rivermill Athletic Block 1 inch)になっている
- Quick Style:Oval を適用済み
- スライダーを中央から左へ1段動かしてピンチになっている
ソフトからミシンへ:マージン基準でセンタリングする
動画の最後は「形を作ったらミシンへ持っていき、マージンに合わせてセンターを出す」という流れです。実務では、球体は回転が最大の敵になります。
- 目印の考え方: パネルの中心(基準)をわかるようにしておく
- 回転対策: 2度でも回ると端が縫い目側へ寄り、当たりやすくなります
作業時間やズレに悩んでいる場合、現場では マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のように保持・位置決めを素早く繰り返せる仕組みを採用するケースもあります。
注意: 強力な磁石を使う治具・フレームを扱う場合は、ペースメーカー等の医療機器への影響に配慮し、指挟み事故にも注意してください。
保持方法の考え方(スピードと再現性)
作業量が増えるほど「固定の再現性」が品質と時間を左右します。
- 少量(趣味〜月数個):
- 方法: 位置合わせを都度行いながら保持
- 特徴: 手間がかかりやすい
- 中量(継続受注):
- 方法: ボール用の治具やクランプで固定を安定化
- 課題: セット時間がボトルネックになりやすい
- 改善: 次の準備を並行できる 枠固定台 の考え方を取り入れる
- 量産:
- 方法: 多針刺繍機などで段取りを最適化
- 考え方: 色替えや段取り時間が利益を削るため、保持と運用の標準化が重要
Setup Checklist(ミシン投入前)
- 画面上で、文字がテンプレート内側マージンの中央に見える
- 両端の文字が端パネル側へ触れていない
- 保持方法が回転を抑えられる前提になっている
トラブルシューティング(ソフト+実縫いの現実)
ボール用に名前を整形するときに起きやすい症状と、切り分けの方向性です。
症状:文字が端パネルに食い込む
考えられる原因: 現在のピンチ量に対してフォントサイズが大きい/文字数が多い 対処:
- フォントサイズを下げる
- ピンチを少し強める(ただし中央が詰まりすぎない範囲)
症状:中央が「ふくらんで」見える
考えられる原因: スライダーが右寄り(凸が強い) 対処: 一度中央に戻し、左へ1段に戻して見え方を比較します。
症状:中央の文字間が詰まって読みにくい
考えられる原因: ピンチをかけすぎ(左へ動かしすぎ) 対処: 中央方向へ少し戻し、文字間が自然に見える位置を探します。
症状:画面では良いのに、縫うと歪む/位置がズレる
考えられる原因: 曲面での保持ズレ(回転・滑り) 対処(物理側): 保持方法の見直しが必要です。再現性を上げるために、 マグネット刺繍枠 を治具保持に応用する考え方で、ズレを抑える運用を検討するケースもあります。
症状:段取りに時間がかかりすぎる
考えられる原因: 毎回の手合わせ(目視合わせ)に依存している 対処(運用): テンプレートのマージン基準を固定し、手順を標準化します。
仕上がりの目安(「できている」状態)
動画の方法どおりに進めると、完成データは次の状態になります。
- 1行の名前にQuick Style:Ovalが適用されている
- スライダーを中央から左へ1段動かした、控えめな凹(ピンチ)になっている
- 両端がテンプレート内側マージンの安全域に収まっている
- ミシン側でマージン基準のセンタリングに持ち込みやすい
もし5x7運用で、セットの再現性や段取り短縮も視野に入れるなら、機種に合う マグネット刺繍枠 の選択肢を調べておくのも一つの手です(ボール自体は治具が必要ですが、磁力保持の考え方は段取り改善に役立ちます)。
最大のポイントは、文字を作り直すことではなく、「中央から左へ1段」だけ反転させるという精密な補正です。この1段が、端の干渉を避け、見た目のバランスを整え、実縫いで“それっぽく見える”仕上がりにつながります。
