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スナップタブ・キーフォブに必要なもの
スナップタブは見た目がシンプルな分、工程の「位置」と「固定」が甘いと一気に失敗します。特にビニールはズレやすく、スナップ位置が左右で狂うとループがねじれ、仕上げのカットで最終縫い(外周)を切ってしまう事故も起きがちです。
ここでは、The Embroidery Zone の Gina の実演をベースに、ITH(In-The-Hoop)を「作業手順=製造手順」として分解します。配置縫い(ガイド)で必要サイズを確定し、ビニールは枠に挟まず上から貼る(浮かせ貼り)ことで枠跡を避け、表の装飾縫い→裏当て→外周ビーンズテッチで“サンドイッチ化”して封止、という流れです。
この順番を守るだけで、勘に頼る作業から「再現できる段取り」に変わります。

推奨:マリンビニール
動画では マリンビニール を使用しています。一般的なクラフト用ビニールより耐久性が高く、刺繍の針穴に対して裂けにくい(裏打ちが編地/織りのものが多い)ため、キーフォブ用途に向きます。
Gina が触れている重要ポイントが「このマリンビニールは白い裏打ち」という点です。多くのスタビライザーは白系です。仕上げで外周をカットしたとき、断面に見えるのはビニールの裏打ちとスタビライザーの層です。ここが白×白だと、多少カットが甘くても目立ちにくくなります(黒裏打ち+白スタビだと、わずかなズレが白い線として強調されます)。
素材運用の補足: 量産を見据えるなら、厚みのばらつきが少ない材料を継続的に使うのがコツです。厚みが安定すると、糸調子や縫いの安定性も揃いやすくなります。
金具・スナップの選び方
組み立てに必要なもの:
- プラスチックスナップ: 一般的な「KAM系」タイプ。スナップ1組は 4パーツ(表側キャップ2個+オス/メス各1)で構成されます。
- スナッププライヤー: キャップの足をつぶして固定する工具。
- ナスカン等の金具: キーリング側の接続金具(動画ではナスカン系の金具)。
見落としがちな消耗品: 穴あけ用に、キリ(目打ち)や先の細い工具があると確実です。マリンビニールは硬めなので、下穴なしで無理に押し込むと素材が伸び、後からスナップが緩む原因になります。
また、数を作るとスナップの小パーツ仕分けがボトルネックになりやすいので、仕切りトレーで「キャップ/オス/メス」を分けておくと段取りが崩れません。
小ロットでも繰り返し枠張りする前提なら、プロ現場では マグネット刺繍枠 への移行が定番です。ネジ締めフープで厚手素材を無理に挟むと枠跡(潰れ跡)が出やすく、手首・指への負担も増えます。マグネット式は圧が均一で、枠跡と負担を同時に減らせます。

刺繍機の準備
動画の機械は業務用の Barudan(多針刺繍機)ですが、ITHの原理は家庭用1針でも同じです。
工程は固定です:
- スタビライザーだけを枠張り(土台)
- 配置縫い(ガイドラン)(設計図)
- 表側ビニールを浮かせ貼り(材料1)
- 装飾縫い(意匠)
- 裏側ビニールを浮かせ貼り(材料2)
- 外周ビーンズテッチ(封止)
スタビライザーの枠張り(枠張り精度がすべて)
動画の前提は明確で、スタビライザーはしっかり枠張りします。
チェックポイント(張り具合): 指で軽く弾いたときに、たるみがなくピンと張っている状態が理想です。たるみがあると、縫い進み中にビニールの重みで引っ張られ、外周のサテンやアウトラインが簡単にズレます。
スタビライザー選定: Gina は カットアウェイ をよく使うと言っています。キーフォブの外周はビーンズテッチ(太めの三重縫い)になりやすく、ここが強い「ミシン目」になるため、ティアアウェイだと途中で抜けたり、保持力が足りなくなるリスクがあります。カットアウェイの方が保持力が安定します。
ビニールにマグネット刺繍枠が効く理由
Gina は Mighty Hoops(マグネット式フレーム)に触れ、「手が痛くならない」と言っています。これは快適性だけでなく、枠張り精度の維持にも直結します。
ネジ締めフープは、締める・緩める・位置合わせの反復で握力を使います。回数が増えるほど疲労で「まあいいか」の枠張りになり、結果としてズレや糸切れにつながります。マグネット式は着脱が一定で、作業者差が出にくいのが強みです。
Barudan で探す人が多いのが Barudan マグネット刺繍枠 です。業務機は動作が速く、位置合わせの保持が甘いとズレが顕在化しやすいため、固定の確実性が重視されます。
注意:機械安全 枠の着脱時は針棒周辺に指を入れないでください。また、フレームがスムーズに装着できない場合は無理に押し込まず、取付部の位置を確認してからやり直します。
配置縫い(ガイドラン)を走らせる
最初は、スタビライザー上に 配置縫い(ガイドラン) を1周入れます。これは「このサイズのビニールが必要」という型紙になります。
成功条件:
- 見た目: 線が途切れず連続している。
- 状態: 縫いでスタビライザーが引きつれたり波打たない(引きつれる場合は糸調子が強すぎる可能性)。
動画でも、ガイドランを縫ってから一旦止め、ビニールを切り出して貼っています。
段取りのコツ: ビニールはガイドぴったりではなく、周囲に余裕を持たせて切ります。貼り付けが少しズレても、縫い落ち(針がビニール外に落ちる)を防げます。

「浮かせ貼り(フローティング)」のやり方
「浮かせ貼り」は、枠に素材を挟まず、枠張りしたスタビライザーの上に材料を貼って縫う方法です。ビニールを枠に挟むと枠跡(潰れ跡)が残りやすいため、ビニールではこの方法が基本になります。
スプレーのりを散らさない
Gina は、ビニール裏にスプレーのりを吹くとき ゴミ箱の中 で作業しています。
理由: スプレーのりの飛散(オーバースプレー)が機械周りに付着すると、針棒・ボビン周り・枠の取付部にベタつきが残り、糸くずを呼んでトラブルの原因になります。飛散を閉じ込めるのは、現場的にかなり効く対策です。

塗布の目安:
- 触感: しっとり濡れるのではなく、軽く「ペタッ」とする程度。
- 見た目: 霧状に薄く乗る(溜まりができない)。
- 手順: 吹いたら少し待ってから貼る(溶剤が飛んで粘着だけ残る状態を作る)。
ガイドの上にビニールを置く
スプレーのりを吹いたビニールを、配置縫いの線を覆うように置いて押さえます。
チェックポイント(押さえ方): 手のひらで中央から外へ向けてしっかり撫で、空気を逃がします。浮きがあると針の上下で材料がバタつき(フラッギング)、裏で糸が絡む原因になります。

位置合わせが毎回ブレる、両手が塞がって貼りにくい、という場合は 刺繍用 枠固定台 が効きます。枠を固定した状態で材料を平らに置けるため、浮かせ貼りが「手技」から「工程」になります。
キーフォブ本体を縫う
土台ができたら、モノグラムや装飾要素を縫っていきます。
装飾縫い(モノグラム含む)
Gina は縫い速度を 800〜1,000 spm くらいで運用すると言っています。
運用の考え方: 業務機はこの速度でも回せますが、慣れていない場合は無理に上げず、まずは安定優先で調整します。ビニールは針との摩擦が出やすく、状態が悪いと糸切れや縫い乱れにつながります。

音での異常検知: いつもと違う「叩く音」「引っかかる音」が出たら一旦停止し、ビニールの浮きや針の状態を確認します。
針の目安: FAQでも触れられている通り、マリンビニールには 75/11 または 80/12 の刺繍針が一般的な目安になります。厚みがある場合は無理せず番手を見直します。

量産で安定させたい人が mighty hoops barudan 用 を探し始めるのもこの段階です。複数回まわすほど、固定の均一性が歩留まりに直結します。
裏当て(背面ビニール)を追加する
表の縫いが終わったら、裏面のボビン糸側を隠すために裏当てを入れます。
- 枠を外す(スタビライザーは枠から外さない)
- 枠を裏返す
- 2枚目のビニールを貼る
ここでも Gina はスプレーのりを使っています。

つまずきポイント(初回の失敗が多い所): 裏当てビニールが、機械に戻すときにめくれたり折れたりして、外周縫いで噛み込むことがあります。
- 対策: スプレーのりを十分に効かせるか、角をテープで軽く固定して「めくれ」を防ぎます(動画でもテープの言及があります)。
最終縫い前の必須確認: 動画の安全チェックとして、外周のサンドイッチ縫いに入る前に 下糸(ボビン糸)残量 を確認します。2枚のビニール+スタビライザーを貫通する外周は縫い直しが目立ちやすい工程なので、ここでボビン切れを起こさない段取りが重要です。

注意:マグネット枠の取り扱い マグネット刺繍枠は吸着力が強く、指を挟む危険があります。縁を持って着脱し、医療機器を使用している場合は距離を取って管理してください。
仕上げ
最後に外周の ビーンズテッチ(外周をしっかり固定する太めの縫い)で、表ビニール/スタビライザー/裏ビニールを一体化します。
形に沿ってカットする
枠から外したら、外周をカットします。
カットのコツ: 小回りの利くハサミで、ハサミを無理にねじらず素材側を回して曲線を作ります。

注意(最も多い事故): 外周縫いを切ってしまうこと。縫い目ギリギリまで攻めすぎず、縫いを守れる余白を残します。動画でも「糸を切らないように注意」が出ています。
スナップと金具を取り付ける
Gina はペンで中心をマーキングしてからスナップ位置を決めています。目測でやらないのがポイントです。左右がズレると、留めたときにループが曲がります。

取り付け手順:
- 印を付ける: 折り位置に対して中心をマーキング。
- 穴を開ける: キリ(目打ち)等で貫通穴を作る。
- 4パーツを組む: オス/メスを間違えない。
- プライヤーで圧着: しっかり潰して固定。

組み合わせの確認:
- 片側が オス、もう片側が メス。
- 見える面(表側)は滑らかな キャップ が来るようにします。


数量が増えると、枠張りとスナップ作業が疲労ポイントになります。段取りを揃えたい場合は マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のような固定台で、枠位置と貼り付け精度を標準化すると作業が安定します。
よくあるトラブルと対処
初回が失敗しても珍しくありません。コメントでも「初めてのスナップタブが大失敗だった」という声がありました。ここでは、起きやすい症状ごとに切り分けます。
症状:裏側が糸だまり(鳥の巣)になる
- 見た目: 下側に大きな糸の塊。
- 原因: ビニールの貼りが甘くフラッギングした/スプレーのりが針周りに影響した可能性。
- 対策: ビニールをしっかり押さえて貼り直す。必要なら針を交換して再開します。
症状:枠跡(白いリング状の潰れ)が残る
- 見た目: ビニールに消えないリング。
- 原因: ビニールを枠に挟んで枠張りした。
- 対策: 浮かせ貼りに切り替えます。
- 工具面: どうしても固定を強くしたい場合は mighty hoop や mighty hoop マグネット刺繍枠 のようなマグネット式が、圧が均一で枠跡を抑えやすい選択肢になります。
症状:スナップが外れる/緩い
- 感触: 開閉で外れる、カチッと止まらない。
- 原因: 圧着不足、または素材厚に対してスナップの足が短い。
- 対策: プライヤーで確実に圧着します。厚手の場合は足の長いタイプが必要になることがあります。
迷ったときの判断:スタビライザー×ビニール
作業前に、次の3点だけ決めると失敗が減ります。
1. ビニール裏打ち色とスタビ色は合っている?
- 違う(例:黒裏打ち×白スタビ): カット精度が仕上がりに直結します。
- 同じ(例:白×白): 多少のカット誤差が目立ちにくいです。
2. 用途はハード(強度優先)?
- はい: カットアウェイが安定。
- いいえ: 他の選択肢もありますが、動画の流れではカットアウェイが無難です。
3. 作る数は1個?100個?
- 1個: テープ補助でも回せます。
- 100個: 事前にビニールを同寸で裁断し、マグネット刺繍枠で着脱を高速化すると歩留まりが上がります。
仕上がり確認(完成)
うまくいくと、スナップタブは手に取ったときにしっかり厚みがあり、外周がきれいに封止され、スナップで確実にループ固定できます。

外観検査(QA): 側面の層が「ビニール/スタビライザー/ビニール」のサンドイッチになっていて、隙間や糸の飛び出しがないことを確認します。
最終チェックリスト(作業前〜作業中)
フェーズ1:準備(忘れ物防止)
- マリンビニール(表・裏、ガイドより大きめにカット)
- カットアウェイ・スタビライザー
- スプレーのり(ノズル詰まり確認)
- 上糸/下糸(ボビン糸)残量
- キリ(目打ち)または穴あけ工具
- スナップ(4パーツ:キャップ2+オス1+メス1)
- スナッププライヤー
- ペン(中心マーキング用)
フェーズ2:機械セット
- データ読み込み・向き確認
- 針の状態(欠け・汚れがない)
- ボビン残量は十分か
- スタビライザーの枠張りがしっかりしている
- マグネット枠使用時、指挟み注意の動線が取れている
フェーズ3:工程チェック(ITHの順番)
- 配置縫い(ガイドラン)を縫った -> YES
- 表ビニールを浮かせ貼りして平らに押さえた -> YES
- 装飾縫いが完了した -> YES
- 外周前で停止した -> YES
- 枠を外した(スタビは枠から外していない) -> YES
- 裏ビニールを貼って固定した -> YES
- ボビン残量を最終確認した -> YES
- 外周ビーンズテッチを縫った -> YES
