目次
必要工具
テンションボード(糸調子板)交換は、刺繍オペレーター/保全担当なら一度は通る作業です。一見「外して付けるだけ」に見えますが、現場でトラブルになるのは取り付け強度よりも配線の取り回しです。動画でも分かる通り、ここを雑にすると後からテンション不良や断線・誤動作につながります。
この作業は「機械的な取り付け」と「ハーネス(配線束)の整線」が半々。狙いは“付いた”ではなく、テンションホイールが軽く回り、配線が噛まず、次回の整備もしやすい状態で完了させることです。特に 業務用刺繍ミシン では、停止時間がそのまま損失になります。

この記事で身につくこと(なぜ重要か)
サービスマニュアルの手順をなぞるだけでなく、実際に不具合を出さないための「感覚」と「確認点」を押さえます。
- カバー板を歪ませない外し方: 中間カバー(ヘッド間の白い板)を変形させずに外し、後の組み付けで苦労しない。
- 「2本は上穴」ルール: 上穴(Upper Hole)を通す2本と、下穴(Lower Hole)を通す束を間違えない。ここが最重要。
- コネクタの確実な嵌合: 信号ケーブルを“刺さったように見える”で終わらせず、確実に固定する。
- スピンテスト(空転チェック): 通電前に、テンションホイールが機械的に渋くないことを手で検証する。
準備段階で揃えておくと楽になるもの(飛ばさない)
動画に出てくる工具以外にも、作業品質と時短に効くものがあります。現場での取り回しが良くなります。
- 手回しドライバー(プラス): カバー板のネジは手の感覚で緩める方が安全。
- 電動ドライバー/電動ドリル: テンションボード側のネジを緩めたり、最終締結に使用(締め過ぎ注意)。
- 照明(ヘッドライト等): 上穴/下穴の通し位置を見誤らないため。
- 手袋(薄手): 動画同様、手の保護と、基板周りでの不用意な接触を減らす。
注意: 感電・巻き込まれ・切創リスク。 必ず主電源を切り、電源プラグを抜いた状態で作業してください。カバー内部には鋭利な板金端面があり、工具の滑りや配線の引っ掛けで怪我や基板損傷につながります。
作業前チェックリスト(ここで「開始OK」を判断)
以下が揃ってから工具を持ちます。段取りができているほど、配線噛み込みの事故が減ります。
- 電源安全: 電源OFF・プラグ抜きが完了している。
- 部品確認: 交換するテンションボードASSYが手元にあり、コネクタ数や形状が現物と合っている。
- 工具準備: 手回しドライバーと電動ドライバーが使える状態。
- 作業環境: ヘッド間の作業スペースが確保でき、内部が見える照明がある。
- 配線ルートの目視: 分解前に「上穴(Upper Hole)」「下穴(Lower Hole)」の位置を見て把握した。
チェックが揃ったら、ヘッド間カバーの取り外しに進みます。
保護カバー(ヘッド間カバー板)の取り外し
最初に、ヘッド間に入っている白い金属カバー板を外して内部シャーシを露出させます。ここがテンションボードと配線の収まり場所になります。

手順1 — ヘッド間カバー板を緩めて取り外す(00:02–00:40)
作業(動画の動き): 手回しドライバーで、ヘッド間の白いカバー板のネジを緩めて外します。
現場のコツ: 動画の注意にもある通り、片側だけを一気に外し切らないでください。片側が締まったまま反対側を抜くと、板がねじれて引っ掛かりやすくなり、テンションボード側に噛んで「抜けない/戻らない」の原因になります。
- 左を少し緩める → 右を少し緩める → 交互に緩めていく
チェックポイント: ネジが緩んでも板が引っ掛かる場合、無理にこじらず、上下方向に軽く揺すって外します。
完了状態: カバー板がスムーズに外れ、内部シャーシが見える。
配線取り回しの最重要ポイント
ここが作業の山場です。テンションボード交換で後から不具合が出る典型は、ほぼ配線取り回しに起因します。配線を噛むと、すぐには症状が出なくても、振動で被覆が傷み、断線やショートの原因になります。
動画で明確に指示されているルールはこれです:「2本のケーブルは上穴(Upper Hole)を通す。残りは下穴(Lower Hole/Downside Hole)を通す。」

手順2 — 新しいテンションボード筐体を事前に緩めて準備(00:41–01:12)
作業(動画の動き): 新しいテンションボードを開梱し、電動ドライバーで筐体(樹脂カバー)の固定ネジを軽く緩めます。


なぜ緩めるのか: 出荷状態ではネジが締まっているため、そのままだと取り付け時に位置が出しにくく、無理な押し込みで配線を噛みやすくなります。先に少し“遊び”を作って、シャーシに自然に馴染ませます。
チェックポイント: 緩めるのは「少し動く」程度。ネジが脱落するほど緩めない。
完了状態: 筐体にわずかな遊びがあり、位置合わせしやすい。
手順3 — 配線を通す:「2本は上穴、残りは下穴」(01:13–01:45)
作業(動画の動き): ヘッド側から来ている配線束を分け、指定の穴を通します。
- 上穴(Upper Hole)を通す2本を特定し、上穴側へ通す。
- 残りの配線束は下穴(Lower Hole/Downside Hole)側へ通す。
- 左右のテンションホルダー(配線ガイド)に、配線をきちんと収める(左右両側)。


チェックポイント(噛み込み防止):
- 上穴側に「2本以外」が混ざっていない。
- 下穴側の束が、ガイドの中に落ちていて“高く盛り上がっていない”。
- 筐体が当たる面(締結面)に、配線が乗り上げていない。
完了状態: 配線が平たく収まり、筐体を当てても配線が押し返してこない。
注意(よくあるミス): 下穴側に回すべき配線を上穴に通すと、筐体とシャーシの間で潰れやすくなります。見えない位置で被覆が傷むと、後日「原因不明の誤動作」や断線につながります。
テンションボード基板(PCB)の配線接続
配線ルートが決まったら、次は基板(PCB)への接続です。ここで怖いのは、コネクタが半挿しのまま作業を進めてしまうこと。見た目で判断せず、確実に嵌合させます。
手順4 — 信号ケーブルをPCBに接続し、ケーブル整理リングを取り付ける(01:46–02:28)
作業(動画の動き): テンションボード筐体内の緑色PCBに、信号ケーブルのコネクタを差し込みます。接続後、ケーブル整理リング(ケーブルソーティングリング)を取り付けて配線をまとめます。

チェックポイント:
- コネクタは向き(キー)があるため、入らない時に無理に押し込まない。
- 端子が曲がっていないか、差し込み前に目視する。
完了状態: すべての信号ケーブルが接続され、整理リングで束がまとまり、基板側コネクタに引っ張り荷重がかかっていない。
手順5 — テンションボード筐体を仮固定(まだ本締めしない)(02:39–02:56)
作業(動画の動き): 筐体をシャーシの取り付け位置に合わせ、ネジを入れて仮止めします(動画でも「100%締めない」と明示)。


現場のコツ(仮止めの意味): ここで本締めすると、わずかなズレがそのまま固定され、テンションホイールの軸に負担が出て渋くなる原因になります。カバー板で位置が決まってから本締めします。
チェックポイント: 筐体が素直に収まらず「押さないと入らない」場合は、配線が裏で噛みかけています。いったん戻して配線を整理します。
完了状態: 筐体が保持され、わずかに位置調整できる状態。
組み戻しと最終チェック(スピンテスト)
組み戻しは順番が重要です。カバー板 → 本締め → スピンテストの順で進めます。
手順6 — ヘッド間カバー板を戻してネジを締める(02:57–03:23)
作業(動画の動き): 白い金属カバー板を元の位置に戻し、手回しドライバーでネジを締めます。


チェックポイント: ヘッド間の隙間が不自然に狭い/広いなど、左右で差がないか確認します。
完了状態: カバー板がフラットに収まり、隙間が均一。
手順7 — テンションボード筐体のネジを本締めする(03:24–03:31)
作業(動画の動き): 位置が決まったら、電動ドライバーで筐体ネジを本締めします。
チェックポイント: 一点だけを一気に締めず、均等に締めて座りを出します。
完了状態: 筐体がガタつかず、浮きや隙間がない。
手順8 — クランプパネルの信号ケーブルを接続する(03:32–04:00)
作業(動画の動き): PCB背面側の接続部に、クランプパネル用の信号ケーブル(多色ハーネス)を接続します。

チェックポイント: コネクタの向きを確認し、斜め挿しや半挿しを避けます。
完了状態: ハーネスが無理なく収まり、引っ張られていない。
手順9 — フェイスプレートを正しくはめ込み、テンションホイールの空転チェック(04:01–04:19)
作業(動画の動き): フェイスプレートを正しい位置に「はめ込み(バックル)」し、白いテンションホイールを指で回して軽さを確認します。


チェックポイント(最重要): すべてのテンションホイールが、指先の軽い力でスムーズに回ること。引っ掛かり、擦れ、渋い箇所があれば不合格です。
完了状態: ホイールがスムーズに回り、渋さがない。これで取り付け完了です。
運転前チェックリスト(合否判定)
次のジョブを回す前に、最後に確認します。
- カバー板: すべて装着済みで、ネジ頭が飛び出していない。
- 締結順: 筐体の本締めは、カバー板で位置が決まってから行った。
- 配線: クランプパネル信号ケーブルが接続され、無理なテンションがかかっていない。
- はめ込み: フェイスプレートが正しい位置で固定されている。
- スピンテスト: 全テンションホイールが軽く回る。
判定: 1つでも渋いホイールがあればNG。無理に稼働させず、次のトラブルシュートへ。
トラブルシュート
勘で触らず、原因を切り分けます。動画のポイントを、現場で使える手順にします。
症状:テンションホイールが渋い/引っ掛かる
想定原因: 筐体の位置ズレ、またはネジの締め込みタイミングが早すぎて、ホイール軸が筐体に当たっている。
対処手順:
- 止める。 渋い状態で無理に回さない。
- 筐体固定ネジを少しだけ緩める(外さない)。
- 筐体を軽く動かし、自然な位置に落ち着かせる。
- 配線確認: 裏側で配線が押し返していないか、ガイドから外れていないか確認。
- フェイスプレートを正しい位置で再度はめ込む。
- ネジを少しずつ締めながら、その都度ホイールの回りを確認する。
症状:ヘッド間カバー板がフラットに座らない
想定原因: カバー板の歪み、または下穴側の配線束が盛り上がってカバー裏に当たっている。
対処: いったんカバー板を外し、下穴側の配線束がガイド内に収まっているか確認してから、左右交互に少しずつ締めてフラットに座らせます。
症状:交換後に断糸検知が不安定/誤検知が出る
想定原因: 上穴側(Upper Hole)に通すべきでない配線が混ざり、締結時に噛み込み・損傷している可能性。
対処: 再分解して配線被覆の潰れや傷を点検します(必要なら交換)。
仕上がり(正しく付いた状態)
正しく取り付けできていれば、筐体は面一で収まり、ヘッド間カバー板の継ぎ目も自然に揃い、そして何よりテンションホイールが軽く回ります。

縫い品質と稼働率への影響
テンションホイールが渋いと、糸の送りが不安定になり、ループ・糸締まり不良・鳥の巣などの原因になります。業務用刺繍ミシン の現場では、安定したテンション=安定した生産です。
ツール見直しのヒント(保全が終わった後の次の一手)
この手順は保全作業に特化していますが、現場のボトルネックが別にあるケースもあります。もし「機械は直ったのに、段取りがしんどい」と感じるなら、次の観点で見直してください。
判断フロー:修理で解決するか、設備を見直すか
- 困りごとが「枠張りが大変で、枠跡が出る」か?
- 状況: 従来の刺繍枠は力が必要で、素材によっては枠跡が出やすい。
- 対策: magnetic embroidery hoop への切り替えを検討。
- 理由: マグネット刺繍枠はクランプが均一で、力をかけずに固定しやすく、段取り時間の短縮につながります。
- 困りごとが「糸替えが多くて段取りに時間が取られる」か?
- 状況: 針数が少ない構成だと、多色デザインで停止回数が増える。
- 対策: 6本針 刺繍ミシン 以上の構成を検討。
- 困りごとが「高稼働で故障が増える」か?
- 状況: 生産量に対して機材の耐久・保全性が追いついていない。
- 対策: 多針 刺繍ミシン 販売 を比較する際に、テンション機構や剛性など“止まらない設計”を重視する。
- 比較の観点: tajima 刺繍ミシン、barudan 刺繍機、melco 刺繍ミシン、SWF 刺繍ミシン などと同等の保全性・部品供給性を意識する。
最終引き渡し基準(「完了」の定義)
生産に戻してよいのは、次を満たしたときだけです。
- ネジの締め忘れ/余りがない。
- 配線が見えて擦れていない、鋭利な縁に当たっていない。
- カバー板がフラットに座っている。
- テンションホイールがスピンテスト合格。
この手順は記録し、特に「2本は上穴」ルールをチーム標準にしてください。保全作業を“再現性のある当たり前”に変えるのが、現場の強さです。
