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Embrillianceでモノグラムを始める
モノグラムは一見「簡単」に見えます。多くは3文字だけ。しかし、マシン刺繍の現場では、モノグラムほど作り手の基礎が露呈する題材はありません。デザインに“ごまかし”が効かない分、字間のムラ、スタビライザー不足、枠張りのクセによる歪み、そして枠跡(枠焼け)が一気に目立ちます。
長年見てきた中で、データ自体は完璧でも、ソフト上の設計と実際の縫製(物理)のつながりが切れているせいで、仕上がりが崩れるケースは本当に多いです。
このワークフローでは、EmbrillianceでBXフォントを使ってクラシックな3文字スクリプト・モノグラムを作るだけでなく、きれいに縫い上げるための量産目線の考え方もセットで整理します。単なる「ボタン操作」ではなく、後工程(刺繍機での縫い)を前提にした作り方です。
このガイドで身につくこと:
- ソフト操作の要点: レタリングオブジェクトの作成と、BXフォントの選択
- 見た目の設計: 字間(カーニング)を整え、詰まり/離れすぎを防ぐ
- 保存の作法: WorkingファイルとStitchファイルを分けて管理する
- 現場適用の視点: スタビライザーと刺繍枠の選び方で、布の歪みを抑える(データが良くても枠張りが悪いと台無し)
ギフト制作でも、チーム物でも、受注で同型を回す場合でも、ここで「趣味のやり方」から「仕事の基準」に切り替えられます。

レタリングツールを選ぶ
動画では、ツールバーの青い A(レタリングツール)をクリックして、文字オブジェクトを作るところから始まります。
このクリックが重要な理由: 刺繍ソフトは“オブジェクト”として文字を扱います。最初にレタリングツールで作らないと、編集可能な文字ではなく「固定されたデータ」として扱われ、後から字間や設定を詰めにくくなります。
チェックポイント: プロパティ側のテキスト欄に入力できない場合は、文字オブジェクトではなく別のデータ(ステッチデータ等)を選択している可能性があります。

BXフォントを選ぶ
次に、右側のプロパティパネルにあるフォントのドロップダウンを開き、Classic Script Monogram 4 inch を選びます。
ファイル形式(BX)の意味: BXフォントは、キーボード入力に対応した刺繍フォントです。個別の文字データ(例:A.pes、B.pes)を読み込んで並べる方法だと、配置合わせがパズル作業になりがちですが、BXなら文字を入力するだけで配置とステッチ計算が進み、作業が大幅に短縮されます。


期待される状態: フォントを選ぶと、作業画面にデフォルトのモノグラム(動画では ABC)が表示されます。これは「フォントが正しく呼び出され、ソフトが文字として計算できている」ことの視覚的サインです。
注意:作業前の基本チェック
ここはソフト操作ですが、最終目的は“実際に縫うこと”です。刺繍機に出す前提で、保存形式が自機に合っているかを必ず確認してください(動画内でも保存時に形式確認を行っています)。
テキストをカスタマイズする
ここは気持ちよく進む工程です。「入力して確定」だけで形になります。ただし、上級者は“正しい”だけでなくバランスを見ます。中央に揃っていても、文字形状(例:細い文字と太い文字)で重心が偏って見えることがあります。
イニシャルを入力する
モノグラムが表示されたら、プロパティパネルのテキスト欄をクリックし、デフォルト文字を削除してイニシャルを入力します。動画では S C M と入力し、Set をクリックしています。


チェックポイント(すぐ確認できること):
- 表示: キャンバス上の文字が即座に更新される
- 操作: 入力後に Set を押して確定できている
よくある質問(コメントより要約):
- 「これはEmbrillianceのどのグレードですか?」→ 動画の投稿者回答では Essentials レベルです。
字間(カーニング)とレイアウトを調整する
ここからが“入力係”から“設計者”への切り替えです。狙うのは、数値上の均等ではなく、目で見て自然に見える見た目の字間(オプティカル・カーニング)です。

ハンドルで手動調整する
方法A:小さな緑の四角ハンドル(ノード)をクリックしてドラッグし、文字位置を手動で調整します。


使いどころ: クラシックスクリプトのように、払い・つながり・装飾がある書体は、ソフトの自動計算だけだと字間が不自然になりやすいです。手動ハンドルなら、文字ごとの“見え方”に合わせて詰め/逃がしができます。
操作のコツ: 一気に動かさず、少しずつ。見た目だけでなく、縫い上がりでは糸のボリュームで印象が変わるため、つながり部分(接点)がどこで重なるかを意識します。
間隔スライダーで全体調整する
方法B:プロパティパネルの間隔スライダーで、全体の字間をまとめて増減します。

使いどころ: 均一な間隔が似合うブロック系・サンセリフ系では、全体スライダーが速くて安定します。全ての隙間に同じ計算がかかるため、微調整より「全体の方向性」を決めるのに向きます。
取り消し(Undo)とリセット
動画では、やり直し手段として Undo と、スライダーのリセット(矢印)を使っています。調整は試行錯誤が前提なので、戻せる状態を確保しながら進めるのが安全です。

現場につながる考え方: 画面上で字間を完璧にしても、枠張りで布が歪めば、縫い上がりの隙間は変わります。特に一般的なプラスチック枠は押し込みが強く、素材によっては枠跡が残りやすいことがあります。
そのため、量産やデリケート素材では ミシン刺繍用 刺繍枠 のように、圧が均一になりやすい選択肢を検討する現場もあります。
注意:マグネットの取り扱い
マグネット刺繍枠を使う場合、強い吸着力で指を挟む危険があります。勢いよく合わせず、ずらして外す(スライドさせる)など、安全な扱いを徹底してください。
デザインを保存する
初心者は「1つだけ保存」しがちですが、実務では2種類を残します。動画でも、編集用のWorkingファイルと、刺繍機用のStitchファイルを同時に保存しています。

StitchとWorkingを同時に保存する
手順:
- File → Save As (Stitch and Working File) を選ぶ
- 保存先フォルダへ移動する
- ファイル名を分かりやすく付ける
- 形式(刺繍機の形式)を確認する
- 保存する



なぜ2種類必要か:
- Workingファイル(例:.BE): 編集の元データ。フォント情報や設定が残るため、後日サイズ変更や文字差し替えがしやすい
- Stitchファイル(刺繍機用): 刺繍機が読むためのステッチデータ。編集自由度は低く、安易な拡大縮小は品質に影響しやすい
刺繍機に合った形式を選ぶ
保存時は、必ずお使いの刺繍機に合う形式を選びます。
- Brother/Babylock: .PES
- Janome: .JEF
- 業務用(Tajima/Ricoma/SWF等): .DST
ファイル名の付け方(後で困らない)
後工程で迷わないように、名前に情報を入れます:[デザイン名]_[用途/素材]_[サイズ]。 例: SCM_Classic_4in_Towel
次にやること(データから“縫えるモノグラム”へ)
動画はソフト操作で終わりますが、実務ではここからが本番です。針・糸・スタビライザー・刺繍枠(枠張り)で結果が変わります。
準備チェック(最低限)
- 保存形式の確認: 刺繍機で読める形式になっているか
- 字間の最終確認: つながりが不自然に切れていないか/重なりすぎていないか
トラブルシューティング
問題が起きたときは、症状→原因→確認→対処の順で切り分けます。
症状:文字間が不自然(詰まり/離れ)
- 起こりやすい原因: スクリプト書体の自動字間が合っていない
- すぐできる対処: 緑のハンドルで該当文字だけ微調整、またはスライダーで全体を調整
- 戻し方: Undo、またはリセット(矢印)で基準に戻す
症状:保存したのに再編集できない
- 起こりやすい原因: Stitchファイルだけを保存してWorkingファイルを残していない
- 対処: 次回から Save As (Stitch and Working File) で2種類を必ず保存する
まとめ(この流れが“現場の基礎”)
- レタリングツールで文字オブジェクトを作る
- BXフォントを選び、キーボード入力で作る
- 字間をハンドル/スライダーで整える(Undo/リセット前提で試す)
- Working+Stitchの2種類で保存し、形式を刺繍機に合わせる
データ作りは全体の一部です。保存と管理まで含めて整えると、同じモノグラムを別素材・別サイズで回すときに、作業時間とミスが一気に減ります。
