目次
カーブデザインの作り方/購入時の見極め
襟に沿うカーブ文字は、一見簡単そうに見えても、実際に縫うと「カーブがリブに合わない」「最後の文字だけ縫い代に乗る」といったズレが起きがちです。画面上では完璧でも、実物の厚み・伸び・段差が幾何学を崩します。そこで本チュートリアルでは、針の軌道シミュレーション(縫わずに針落ち位置を追える)と、現場で速い調整法である 「データは動かさず、シャツを動かす」 を組み合わせて解決します。
多針刺繍機で業務運用している場合、このやり方は試し縫いを減らし、厚い段差への衝突リスクを下げ、同一仕様の襟刺繍を複数枚回すときの再現性も上げられます。

襟カーブの考え方
動画では、クルーネックの襟に沿わせる想定のカーブ文字(例:「Ms. Arnold」)を使っています。ポイントは「実物の地形」です。襟は平面ではなく、リブと縫い代が段差と硬さを作ります。ソフト上で既にカーブしていても、合わせるべき“本当のカーブ”は服の襟端で、サイズ(S と XL)やブランドで微妙に変わります。
そのため、画面だけを信用せず、針落ちの実測チェック(複数点)で判断するのが安全です。
Hatch の確認ポイント
動画では Hatch Embroidery 3 Digitizer 上で、データが襟用として適切にカーブしているかを事前確認しています。
補足(動画の範囲で言えること): この工程の目的は「新たにカーブを作る」ことではなく、“襟に沿う前提のカーブデータ”であることを確認してから機械へ送ることです。カーブが甘い/強すぎるデータをそのまま流すと、後工程の位置合わせだけでは限界が出ます。
衣類の準備
このチュートリアルの位置合わせは、次の2点が前提です。 1) シャツ側に信頼できる基準点があること 2) 針落ち確認中に、衣類をわずかに動かせる余地があること

肩線〜身頃中心の距離を取る
動画では、肩線(ショルダーシーム)から身頃の中心までを 約6インチ と見立て、その中点を基準にしています。

現場的には、シャツに「毎回同じ座標」を作るイメージです。これがあると、都度の勘合わせが減り、同型シャツの量産で段取りが安定します。

3インチの中点をマーキング
約6インチの中点として 3インチ に基準点を置き、動画では 待ち針(marking pin) を目印にしています。

チェックポイント(動画より): 基準点は「肩線」と「身頃中心線」から見て、左右のバランスが取れていること。
作業しやすい確認方法:
- 見た目: シャツを縦方向に二つ折り(肩〜肩を合わせる)して、折り目を中心線の目安にする。
- 触感: 襟リブは段差やうねりが出ることがあるため、基準にしすぎない。構造的にズレにくい肩線を優先する。
期待する状態: 後で針位置をシミュレーションしたとき、デザインの要所が襟カーブに対して予測どおりの位置に落ちてくること。
枠張りか、フローティングか
動画ではシャツを「セットしている」ことは分かりますが、刺繍枠の種類やスタビライザーの具体的な固定方法までは明言されていません(枠張り、またはスタビライザー上へのフローティングの可能性)。
補足(作業上の注意): このチュートリアルの肝は「データを動かさず、衣類を微調整する」ため、針落ち確認中に衣類が引っ掛からず、必要最小限だけ動かせるセット状態が望ましいです。
ツールの考え方(動画の手順に合う方向性):
- 微調整を素早く行いたい場合は、保持力が安定し、着脱や位置微調整がしやすい マグネット刺繍枠 のような保持方式が相性が良いことがあります。
- 複数枚で同じ角度・同じテンションを再現したい場合は、刺繍用 枠固定台 を使ってセットのばらつきを減らす考え方もあります。
注意(マグネットの取り扱い): マグネット刺繍枠は吸着力が強く、指を挟む危険があります。装着時は指を吸着面の内側に入れないようにし、医療機器等への影響にも配慮してください。
準備チェックリスト(準備完了)
段取り前のチェックポイント:
- 衣類セット: シャツが機械にセットされ、スタビライザー上で作業できる状態になっている
- 基準: 3インチの基準点がピン等で視認できる(刺繍エリアに干渉しない向き)
- 視認性: 針板周りが見える照明がある
ミシンのシミュレーター機能を使う
核になるのは、実際には縫わずに、ステッチ位置を前後に進めて針の通り道を追える機能です。動画では、これが針落ち確認の最短ルートとして紹介されています。

縫わずにステッチ位置を進める
動画では Brother PR655 の操作画面で、ステッチ位置を進める操作(例:+10ステッチ)を使い、デザイン上の任意ポイントへ移動しています。

要点: 座標で当てに行くのではなく、針の軌道で当たりを取るという発想です。

スタート/中間/終点をチェックする
動画では、カーブが単語全体で崩れないように複数点を確認しています。
- 10ステッチ付近から入り、デザイン内の小さな要素(例:小さなモチーフの中心付近)に来ることを目安にする
- 最初の文字(例:「M」)の上端を確認する
- 最後に飛んで、最後の文字(例:「L」)の上端を確認する
ここが重要です。カーブ文字は、最初が良くても最後で襟の縫い代に寄ってしまうことがあります。
チェック点(動画の設定リストより): 「M の上端」「中央の小要素」「L の上端」
期待する状態:
- レーザー(または針落ち)が、狙い位置に近いが、襟リブ上には乗っていない
- スタート側と終点側の高さが、襟端に対してバランスしている
現場のコツ: カーブ文字は必ず「両端」を見ます。最初の 1〜2mm のズレが、最後では目立つ傾きになります。
「データではなく、衣類を動かす」微調整
量産で効くのがここです。画面上でデータを動かすより、動画の講師は シャツ側を動かすやり方を優先しています。

データを動かさず、シャツを動かす
動画では、「M」が狙いに近いかを見た後、デザイン終端へ移動して「L」の上端がどこに落ちるかを確認します。


赤いドット(レーザー)が縫い代付近に近いが完全ではないため、データは触らずに シャツを少し上へ引いて合わせています。

なぜ効くのか(動画の手順に沿った説明):
- 襟周りはセットの仕方で、布がわずかに引かれたり斜行したりします。
- データ座標の微調整は試行回数が増えがちですが、布側の微調整は「見たまま」合わせやすい。
- 針落ち確認で「当たり」が取れているので、動かす量は最小限で済みます。
補足(やりすぎ防止): 引き上げすぎると、確認時だけ襟端が“平らに見える”状態になり、縫い終わってテンションが戻ったときに想定より縫い代へ寄ることがあります。動かすのは「ほんの少し」を基本にします。
襟リブ(厚い段差)への干渉を避ける
動画の事前チェックとして、襟リブに対して針落ちを確認し、厚い段差に当てないことが強調されています。

チェックポイント: 微調整後は、スタート側と終点側をもう一度確認し、カーブ全体の高さが揃っていること。
期待する状態: レーザーが縫い代付近の狙い位置に落ち、かつ安全なクリアランスが取れていること。
注意(機械保護): テストの針落ちで、針を厚い襟の縫い代やリブの段差に近づけすぎないでください。
* リスク: 針のたわみ・曲がり。内部へのダメージにつながる可能性があります。
* 対処: 違和感があれば即停止し、針の状態を確認します。
* 考え方: 「ギリギリを攻める」より「当てない設計」に寄せるのが量産向きです。
多針刺繍機が有利な理由
動画では、襟のカーブ位置合わせは多針刺繍機のほうが「少し簡単」と触れられており、実演機は Brother PR655 です。
作業スペースが取りやすい
多針刺繍機は、襟周りの余り布を逃がしやすく、針元の視認性を確保しやすい構造の機種が多いです。布だまりと戦わずに基準点や襟端を見られると、位置合わせのミスが減ります。
レーザーガイドで針落ちを実物確認
動画ではレーザーガイドを使い、実際の衣類上で針落ち位置を確認しています。
レーザーは「点」なので、複数点(スタートと終点など)を確認する習慣とセットで初めて品質管理ツールになります。動画の手順はそのまま現場の検品ルーティンに落とし込めます。
最終確認(縫い始める前)
縫い始めてから気づくと手戻りが大きいので、最後にもう一度だけ確認します。
「M」と「L」の高さを再チェック
動画のロジックはシンプルです。 1) スタート側(例:「M」上端)を確認 2) 終点側(例:「L」上端)を確認 3) 片側がズレていれば、シャツをごく軽く動かす 4) もう一度確認

チェックポイント: スタートと終点が、襟端に対して同じ高さ関係になっていること。
厚い段差からのクリアランス
動画では、レーザーが縫い代付近に近いことを確認しつつ、襟リブの厚い段差に当てないことを重視しています。

期待する状態: セット完了。あとは縫いに入れる状態。
セットアップチェックリスト(セット完了)
- データ読込: 向きが正しい(反転・上下逆になっていない)
- シミュレーション: ステッチ位置の前後移動で針落ち確認ができる
- 干渉回避: 襟リブ/縫い代に針が当たらない位置関係になっている
- カーブ一致: 最初の文字上端と最後の文字上端が、襟端に対してバランスしている
運用チェックリスト(運用)
- 縫い始め前: 針落ち確認で違和感がない
- 仕上げ: 糸処理は生地を引っ張らず、形を崩さない
判断フロー:安定衬を変えるべきか/段取りを変えるべきか
襟刺繍の結果が安定しないときは、次の順で切り分けます。
1) 針落ち確認中に、襟周りがズレ続ける?
- YES → まずはセットの一貫性を上げる(衣類が不用意に動かない状態を作る)
- NO → 次へ
2) 枠跡(枠のリング跡)が気になる?
- YES → 過度なテンションや圧が原因の可能性。保持方式の見直しを検討
- NO → 次へ
3) 洗濯後に波打ち(パッカリング)が出る?
- YES → スタビライザーや固定方法の見直し余地あり
- NO → 次へ
4) 1枚あたりの段取りに時間がかかりすぎる?
- YES → 工程がボトルネック。再現性を上げる治具・段取りの導入を検討
トラブルシューティング
動画は短く要点集中のため、ここでは襟位置合わせで起きやすい失敗を「症状 → 主な原因 → すぐできる対処 → 予防」に整理します。
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| リブ/縫い代に干渉(針が段差に近い) | 画面だけで判断し、実物の針落ち確認が不足 | 即停止。 針の状態を確認し、シャツ位置を微調整 | 縫い始め前に「M→L」の複数点トレースを必ず実施 |
| 文字が流れる(最初は良いが最後が高い) | 終点側の確認不足/セット角度のわずかなズレ | 終点へ移動して針落ちを見ながら、シャツを少し動かす | 基準点(3インチ)を毎回同じ手順で作る |
| 布が波打つ(押さえ周りで生地が逃げる) | セットが不安定で、確認中に布が動く | 一度止めて、布の落ち着きを作ってから再確認 | 針落ち確認で「動かす量を最小」にする前提のセットにする |
| 下糸の絡み(鳥の巣) | 糸掛け・テンション不良、または生地がバタつく | 絡みを除去し、再度糸掛け確認 | 針落ち確認時点で布が安定しているかも併せて見る |
まとめ(得られる結果)
肩線〜身頃中心を 約6インチ と見立てて中点 3インチ を基準にし、ステッチ位置シミュレーションで「M 上端/中央要素/L 上端」を針落ち確認。必要があればデータではなく衣類側をわずかに動かす——この流れで、襟のカーブ文字を無理なく高精度に合わせられます。
プロの合格ラインはシンプルです。
- カーブが襟端にきれいに沿っている
- 両端の高さが揃って見える
- 厚い段差を避けて安全に縫える
襟刺繍がリピート商品になってきたら、測り方とチェック点(どのステッチ位置を見るか)をシャツ型番ごとに記録し、段取りを標準化すると量産が一気に楽になります。
