Table of Contents
1 プロジェクトの概要
このプロジェクトは、カラフルなHoffmanのLeafパネルに機械刺繍で葉の陰影を重ね、全体の奥行きと立体感を引き出すものです。パネルは色とプリントの密度が変化し、もともと賑やかなので、糸色は多用せず、配色設計を絞ることで完成度を高めます。
1.1 何を作るのか、どこまでやるのか
最終成果物は、刺繍を施したパネルをキャンバスに張ったウォールアート。サイズ例としては、44インチのパネルを40インチのキャンバスへマウントしています(動画中の実例)。この差分が側面の見せどころになり、作品の額縁効果を強めます。

1.2 いつ・どんなときに有効か
・大判のプリントパネルを絵画のように仕立てたいとき ・多色プリントの上に刺繍で質感と陰影を重ねたいとき ・フレームや額装ではなくキャンバス張りで軽やかに見せたいとき
注意:具体的なステッチ密度やステッチ種は動画中で詳細数値が示されていません。したがって本稿では位置合わせと基準づくり、運用面に焦点を当てます。

2 準備するものと前提条件
必要な道具と材料、そして開始前に満たしておきたい前提条件を整理します。

2.1 道具と材料
・パネル本体(Hoffman Leaf パネル) ・テンプレート(全79種、必ず全種類。厚紙/プラ/ラミネート推奨) ・ラミネーターとパウチ、または厚紙・プラ・トランスペアレンシー ・定規、テープ(Scotch Magic Tape)、粉チョークマーカー、クラッチペンシル ・仮縫い用の端布(周囲を広げるため、幅10〜14インチ程度) ・バッティング(パネルより各辺4〜6インチほど大きめ) ・安全ピン(層を仮止め) ・マグネット枠、マグネット(機械付属のものを使用) ・アイロン、はさみ、タッカー(室内装飾用ステープルガン)、キャンバス、裏打ち布、ネジ(必要に応じて)
プロのコツ:テンプレートは必ずラミネートまたは厚手化してから使用します。引っ張りや繰り返しの当て外しで紙が伸びたり裂けたりすると、位置が狂い仕上がりが崩れます。
2.2 前提条件と作業環境
・刺繍機の基本操作とデザイン読み込みに慣れていること ・フラットで広い作業台、機械周りに布が自由に動くスペース ・テンプレート番号の対応関係を理解していること(全79種は似て非なる形のため流用不可)
クイックチェック:開始前に、テンプレートの枚数が79で揃っているか、番号の重複がないか、実寸で出力されているかを確認しましょう。
チェックリスト(Prep)
- 79枚のテンプレートをラミネートまたは厚手素材で準備
- 端布(10〜14インチ幅)を四辺分カット
- バッティングはパネルより各辺4〜6インチ大きく
- 安全ピン、アイロン、テープ、チョーク、定規を手元に
- マグネット枠の中心マークを事前に書き込み
3 セットアップと基準づくり
基準線が曖昧なままフーピングすると、刺繍は必ずどこかで破綻します。先に布と枠の双方に「合流点」を用意してから進めましょう。

3.1 端布で余白を作る
パネル外周に幅10〜14インチの端布を直線縫いで四辺に縫い足し、フーピング時の「つかみ代」を確保します。必要幅は厳密ではありませんが、枠やマグネットをしっかり効かせられる広さを用意してください。ここで、再フーピング時のテンションが安定し、マグネット刺繍枠 の利点が最大化されます。

3.2 バッティングを重ねて仮止め
パネルを表向きに置き、その上に大きめカットのバッティングを重ねます。しわや膨らみを伸ばし、安全ピンを適度に打って層を安定させます。しわは刺繍の歪みとして露呈するため、ここで必ず整えます。
3.3 パネルの「下端」を決める
パネルの耳(selvage)にHoffmanの名称が印字された側が下端です。大判テンプレート(全体図)で1番からの進行位置を把握しておきましょう。
3.4 配色の原則
このパネルは元柄が十分に賑やかなので、糸色は最大4色に抑えるのが安全策です。例として、中央列をイエロー、次列をソフトオレンジ、葉の一部をピンク系、外縁の重なりをパープル系とし、濃淡と密度の差で遠近感を演出します。多色化よりもバランスと一貫性が重要です。
注意:糸色の細かい番号やステッチ設定は動画で具体数値の提示がありません。現物合わせで無理のない調和を優先してください。
チェックリスト(Setup)
- 端布を四辺に縫い付け、フーピングのつかみ代を確保
- バッティングを重ねて安全ピンで仮止め
- 耳の印字方向で上下を確定
- 色数は最大4色に抑える方針を決定
4 刺繍のワークフロー
ここからは、初回フーピング〜1葉目の刺繍開始、次セクションへのマーク、再フーピング、最終合わせまでの繰り返し手順を明確にします。

4.1 初回フーピング:概略合わせ
1) マグネット枠を機械にセットし、パネルを上から載せます。 2) 針位置(機種では13針目を使用例)と概ねの中心を合わせます。 3) ピンを布から下の枠に貫通させ、枠の印と合致させます。 4) マグネットを四辺に配置して固定、角も追加して緩みをゼロに。

プロのコツ:枠自体に中心マークが無い場合は、自分で内寸を測って各辺の中点にマークを入れておくと、毎回の再フーピングで迷いません。刺繍用 枠固定台 を併用すると、基準線の再現性がさらに上がります。

4.2 針の微調整と最初の縫い出し
機械の操作で針先をテンプレート中央のポイントへ正確に移動し、テンプレートを外して縫い始めます。最初の輪郭ステッチが完璧に合っているかを確認しましょう。ずれていれば、この段階でほどいてやり直すのが最短です。

クイックチェック:輪郭ステッチが前提としての「真ん中」に乗っているか。ズレが視覚的に分かるなら、迷わず一度戻って再調整を。
4.3 次セクションのマーキング
1) 既刺繍部に接するテンプレート(例:Leaf 71など)を、プリント柄とステッチ境に合わせてテープでしっかり固定。 2) テンプレートの中心線を、粉チョークまたはクラッチペンシル+定規で布へトレース。 3) 刺繍した部分と、これから刺す領域を一度アイロンでならし、バッティングの膨らみを整理。


注意:濃色地には白チョーク、端布に跨る部分は濃色ペンシルなど、描線の可視性を優先。マグネット刺繍枠 brother 用 を使う場合でも、描線が不明瞭だと再フーピング時に誤差の起点になります。
4.4 次セクションのフーピングと整合
1) 枠を下から差し込み、布側の十字線と枠の中心マーク(上下左右)を一致。 2) ピンで十字の中心を貫通→枠の内側マークと合致させる。 3) マグネットを配置、布の平滑性とテンションを再確認。

プロのコツ:デザインの向き(機械画面)と、枠の上辺(ネジ位置)・平らな辺の向きが一致しているかを毎回確認。ここを取り違えると、完璧なマーキングでもズレが起きます。マグネット刺繍枠 11x13 のように大型面を一気に取れる枠でも、向きの一致が最優先です。
4.5 最終合わせと実行、そしてリカバリ
・デザインを読み込むと機械は枠中心へ移動しますが、それが印刷パネルの中心とは限りません。必ず手動で刺繍中心(テンプレートの中心)へ針を合わせ、テンプレートを外して縫い出し。 ・輪郭がわずかでも気になるなら、初手で止めて解き、再度フーピングからやり直せばトータルは早いです。

コミュニティから:Ricomaユーザーは、ボビン糸を引き上げたい場面で「1針だけ落とす」操作の質問がありました。回答では本体側面に針を下げるノブがあるとの助言ですが、機種により異なるため、取扱説明書で該当操作を必ず確認してください。ricoma mighty hoops マグネット刺繍枠 を使う場合でも、この操作は直接には代替できません。

チェックリスト(Operation)
- 枠と布の中心マークが十字で一致
- テンプレートはテープで平らに密着
- 最初の輪郭ステッチで合否を判定、違和感は即やり直し
- 次セクションへは「描線→アイロン→フーピング」の順序を固定
5 仕上がりチェック
高精度な連結を得るため、節目ごとに以下を確認します。
5.1 視覚・触感の基準
・輪郭の連続:既刺繍部と新規部の境目に段差や隙間がない ・シワと波打ち:布とバッティングのうねりが無い(指でなでて凹凸が出ない) ・糸密度の馴染み:濃色域にパープルなどを重ねた際に「浮き」「沈み」が極端でない
5.2 問題の兆候
・僅かな輪郭ズレが数回続く→累積誤差になりやすい ・描線の可視性が不十分→再フーピング時の合わせが不安定 ・角付近でテンション差→生地の引きつり
プロのコツ:次のセクションへ進む前に、毎回アイロンで押さえ直し、バッティングの厚みを均します。これで刺し進めるほどに精度が安定します。
6 完成とマウント
刺繍を終えたら、アイロンで最終整形し、キャンバスへピンと張って壁掛けアートに仕立てます。

6.1 マウント前の準備
・パネルの外周に未刺繍の布(端布を含む)が残っていることを確認(引っ張って回す余白に必要) ・裏打ち布はキャンバスより四辺で約1インチ大きめ ・キャンバスは仕上がりの希望サイズを選択(例:44インチパネルに40インチキャンバス) ・大判一体キャンバスが無い場合は、パネルをネジで連結して希望サイズに
注意:裏打ち布とパネルは、マウントの直前にもう一度しっかりアイロン。しわはそのまま固定されてしまいます。
6.2 裏打ち布のタッカー留め
1) 裏打ち布を裏面上向きで広げ、中央にキャンバス(表面下)を正対させます。 2) 一辺の中央から外側へ向かって、布を引きながら均一テンションでタッカー留め。 3) 四辺とも同様に。角は最後に丁寧に畳む準備を。
6.3 コーナー処理と仕上げ
角は余りを整理し、厚みが出る部分をハサミで適度にカットしてから折り返し、すっきり留めます。コーナーの見栄えが全体の完成度を決定づけます。

6.4 パネル本体のタッカー留め
1) 仕上げたい正位置でパネルをセンター出し。 2) 一辺中央から外側へ、テンションを一定に保ちながら留め進める。 3) 四辺が整ったら、側面の見せ方(重なりの均一性)を再確認して完了。
プロのコツ:テンションは「均一」がすべて。局所的な強い引きは、完成後の波打ち(特に対辺)を誘発します。hoopmaster 枠固定台 を普段から使って均一なテンション感覚を身につけていると、マウントでも活きます。
7 トラブルシューティングと復旧
症状→原因→対処の順で整理します。
● 位置がわずかにズレ続ける
- 可能原因:布側の十字線が不鮮明/枠の中心マークが曖昧/フーピング方向の取り違い
- 対処:描線を引き直し、枠の上下左右マークを明確化。機械画面のデザイン方向と枠のネジ位置・平面の向きを毎回確認。
● 布のたるみや波打ち
- 可能原因:フーピング時のテンション不足/バッティングのしわ
- 対処:マグネットの配置を見直し、中央から外へ均一にテンションを。アイロンでバッティングを平滑化。
● 輪郭ステッチでズレが発覚
- 可能原因:針の最終合わせ不足
- 対処:この段階が唯一の「安価なやり直し点」。直ちに解き、再フーピング→再合わせ→再縫い出し。
● チョークラインが見にくい
- 可能原因:濃色地に濃色ペンシル/白地に白チョーク
- 対処:地色に合わせて粉チョーク/クラッチペンシルを使い分け、端布上は濃色ペンで補助線。
● マグネットの入手先が不明
- 事実:動画では「機械に付属」との回答のみ。購入先は明言されていません。
- 対処:お使いのメーカー/販売店に、枠付属品としての供給可否を確認してください。マグネット刺繍枠 brother stellaire 用 を検討する場合も、各機種との適合を必ず事前確認しましょう。
● Snapアプリでの柄合わせ(Stellaire)
- 事実:印刷テンプレート(トランスペアレンシー)を使うと合わせが簡便との助言あり。
- 対処:パネル上のプリント柄と既刺繍境にテンプレートを密着させ、中心線をチョークでトレース。アプリのガイドに頼りすぎず、物理的な基準線をまず確立。
● Ricomaで1針だけ下ろしてボビン糸を上げたい
- 事実:側面ノブで手動で針を下げられる機種があるとの助言。ただし機種差あり。
- 対処:取り扱い説明書で「手動針下げ」「シングルステッチ」の項を確認。できない場合はメーカーサポートへ。
8 コメントから
・マグネットはどこで買う?→実演機では付属品。購入先は未記載。 ・柄合わせが難しい(Stellaire)→印刷テンプレートで物理基準を優先。 ・Ricomaで1針だけ落とす方法→側面ノブ案内あり(機種差に注意)。
作品の見せ場は、重なり合う葉の奥行きと、色の抑制による全体バランスの良さにあります。パネルと糸色が喧嘩しないよう、最大4色の方針を保ちつつ、ステップごとにアイロンと輪郭ステッチで「正しく進めているか」を確認すれば、完成まで一直線です。マグネット刺繍枠 を用いたフローティングは、再フーピングの再現性を高め、長時間の大判作業でも品質を一定に保つ強力な助けになります。さらに、将来的に帽子や筒物の刺繍へ応用するなら 袖用 チューブラー枠 の運用感覚とも親和しますし、兄弟機種では brother pr 680w のような多針機で生産性を高める選択肢も視野に入ります。最後に、他社互換枠を検討する際は マグネット刺繍枠 babylock 用 や mighty hoop マグネット刺繍枠 などの適合情報を必ず確認してから導入してください。
