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精度の高い「マシン選択」は、事故を防ぐ最初の安全装置
刺繍現場で一番ヒヤッとする音を想像してください。糸切れではありません。順調に走っていたのに、突然リズムが崩れて「ガツン」と止まる、あの嫌な衝撃音です。
それは、針棒がプラスチック枠に当たってしまう音。部品破損・製品不良・やり直しコストだけでなく、オペレーターの自信まで削ります。
Hatch Embroideryでは、マシン選択は単なるドロップダウンではありません。安全のガードレールです。使用機種(家庭用の単針か、業務用の多針刺繍機か)を正しく指定すると、Hatchが「そのマシンで物理的に縫えない枠」を候補から外してくれます。つまり、移動量が100mmしかないマシンに対して、200mm級のデザインを平気で作ってしまう事故を、入口で止められます。
この設定は、趣味から仕事・量産へ移行するほど重要になります。効率化のためにサードパーティ製フレーム、たとえば マグネット刺繍枠 を導入すると、見た目の枠が大きく見えても、マシン側の可動範囲(枠を動かすアームの限界)が縫製エリアを決めます。ソフト側の設定を整えることは、「物理法則とケンカしない」ための最短ルートです。

Hatchで「Machine & Hoop(マシン&刺繍枠)」設定を開く
まずは「何も選択していない状態」を作る
動画の冒頭で、初心者が見落としがちな大事な動作が出てきます。作業画面の白い背景をクリックして、選択を解除することです。
なぜ必要? 刺繍ソフトは「いま何を選択しているか」で挙動が変わります。文字やオブジェクトを選んだままだと、そのオブジェクトに対する設定変更と解釈されることがあります。背景クリックで全解除しておくと、これから触るのが全体設定(グローバル設定)だと明確になります。
マシン選択=枠リストの「フィルター」
上部ツールバーのマシン選択を切り替えると、刺繍枠の候補がフィルタリングされます。
- ケースA: 「Brother Innov-is / NV」系を選ぶと、その機種で使えない大きな枠は候補から消えます。
- ケースB: 「Baby Lock Ellisimo」系に切り替えると、選べる枠のリストが一気に増えます。


このフィルターは、現場的にはかなり効きます。持っていない枠を延々スクロールして探す必要がなくなり、「手元にある枠だけ」に集中できます。

型番が見つからない問題(モデル名の混乱)
実務では「自分の型番がリストにない」ことがよくあります。コメントでも、Brotherの具体的な型番について質問が出ています。
- 「Brother Innovis 800E ですが、どれを追加すればいいですか?」
- 「Brother PE800(5x7枠)は、このマシン選択にありますか?」
現場の判断基準(ヒューリスティック): 本体のマーケティング名に引っ張られすぎないこと。Hatchが見ているのは、基本的に縫製可能な最大エリア(枠サイズのファミリー)です。たとえば最大が5x7インチ(130x180mm)なら、130x180mmの枠が選べるBrother系プロファイルを基準に合わせます。重要なのは「印字された型番」より「縫えるジオメトリ」です。
詳細設定(深い設定)を開く手順
ツールバーだけでは足りないので、設定画面を開きます。
- ツールバーの「Show Hoop(枠表示)」アイコン(四角い枠のアイコン)を右クリックします。
- ショートカットとして Embroidery Settings(刺繍設定) ダイアログが開きます。
- タブが Machine & Hoop になっていることを確認します。


注意(機械安全が最優先): マシンプロファイルや枠サイズを初めて切り替えたときは、実機側で必ず「トレース/枠チェック(枠の外周をなぞる動作)」を行ってからスタートしてください。針棒がクランプや枠の縁に近づきすぎていないか、モーターが苦しそうな動きをしていないかを目視で確認します。ソフトは多くの事故を防ぎますが、最後の安全装置はオペレーターの目と判断です。
カスタム機種プロファイルを作る(SWF例)
ソフトの標準リストに、すべてのメーカー/機種が入っているわけではありません。動画では、SWFを例にカスタム機種を作成する流れを示しています。
「量産目線」への切り替えポイント
業務用の多針刺繍機などを手入力で追加する状況は、作業が「単発」から「運用」へ変わる合図です。ここで設定を整えると、後の段取り替えが速くなります。
- Embroidery Settings → Machine & Hoop で、マシン名の横にある Create… をクリックします。
- 名前欄に「SWF」などを入力します(動画ではSWF)。
- 重要: Machine Type(マシンタイプ)は Multi-needle(多針) を選びます。

なぜ Multi-needle を選ぶ? ソフトが色替え(カラーチェンジ)をどう扱うかの前提が変わります。
- 単針前提: 色ごとに停止して糸替えする前提で、停止が多くなりがち。
- 多針前提: 色替えを機械コマンドとして扱い、不要な停止を減らす方向になります。
枠ライブラリを「必要な分だけ」入れる
機種を作ったら、その機種で使う枠を登録します。
- 左側の「Available hoops」から 5.0 Square を選びます。
- 矢印ボタンで右側の「Machine hoops」に移します。
- OK をクリックします。

現場のコツ: 「いつか買うかも」の枠まで全部入れないこと。実際に持っている枠だけに絞ると、選択ミスが減り、オペレーションが速くなります。特定用途で swf 刺繍枠 を使い分けている場合も、運用しているサイズだけを登録するのが安全です。
最重要ルール:枠の外形サイズ ≠ 縫製エリア
ここがこの動画の核心です。覚えるべき結論はこれです。
枠に書かれたサイズ(外形)$\neq$ 実際に縫える範囲(縫製エリア)
枠が120mmに見えても、押さえや可動部のクリアランス、機械の移動限界があるため、縫える範囲は小さくなることがあります。
- 外形サイズ: 「部屋の大きさ」
- 縫製エリア: 「その部屋の中で実際に踊れる床」
動画では「Round 120mm」という丸枠を作成しますが、ソフトに入力する直径は 100mm です。
なぜ100mm? その機械構成で安全に動ける縫製エリアが100mmだからです。もし120mmを入力すると、ソフト上では枠ギリギリにデザインを置けてしまい、実機で縫うと針が枠に当たるリスクが跳ね上がります。
マグネット刺繍枠 を使う場合の注意点: マグネット枠は段取りが速く、枠跡(枠のリング跡)を軽減しやすい一方で、マシンの可動範囲そのものを広げる道具ではありません。プロファイル作成時は、枠の「見た目」ではなく、実際に縫える内側寸法(縫製エリア)をmmで入力する必要があります。
手順:丸枠(カスタム枠)を追加する
ここからは、安全に使える枠プロファイルを作る手順です。
Step 1:作成を開始
Machine & Hoop設定内で:
- 枠(Hoop)セクションの Create… をクリックします。

Step 2:形状を指定
- Format(形式)を Circle(円) に変更します(初期はRectangle/Squareになっていることがあります)。

Step 3:名前を分かりやすく付ける
- Name(名前)に Round 120mm と入力します。
補足(運用しやすい命名): 動画では「Round 120mm」ですが、現場では「外形名」と「縫製エリア」を混同しやすいので、名前に縫製エリアを併記すると事故が減ります。
- 例:
Round 120(縫製100) - ねらい:数か月後にドロップダウンで選ぶとき、設定画面を開かなくても安全範囲が分かる
Step 4:安全な数値を入力(ここが核心)
- Diameter(直径)に 100 を入力します(動画の例)。
- チェックポイント: 単位は ミリメートル(mm) で入力します。
動画内でも強調されていますが、枠サイズはインチではなくmmで入力する必要があります。インチ換算(約4インチなど)を挟むと、丸め誤差や入力ミスが起きやすく、枠打ちの原因になります。縫製エリアはマニュアルに記載があるので、必ずそちらのmm表記を参照します。

Step 5:保存
- Save Hoop をクリックします。
- ダイアログを OK で閉じます。

Step 6:赤い境界線で最終確認
作業画面に戻ると、赤い円の枠境界が表示されます。これは「ここを超えると危険」というラインです。動画では、デザインがこの円からはみ出していることが確認できます。

この「はみ出し」が見えるのは失敗ではなく、ソフト上で問題を発見できた成功です。実機でシャツをダメにする前に、$0で修正できます。
もし swf 刺繍枠 のように複数サイズの枠を運用するなら、同じ手順で「持っている枠ごと」に縫製エリアを入力してライブラリ化します。最初だけ手間ですが、その後の段取りが安定します。
Prep(消耗品と事前チェック:見落としがちな準備)
ソフト設定は理屈、刺繍は現実です。新しいプロファイルで初回テストを回す前に、「画面の期待値」と「現場の条件」を一致させます。
見落としがちな消耗品
初心者ほど、マシンやソフトに意識が寄りがちですが、実際に生地を安定させるのは消耗品です。
- 針: ニットはボールポイント、布帛はシャープなど、素材に合わせます(針先が傷んでいると糸切れが増えます)。
- 仮止めスプレー: 浮かし(フローティング)やマグネット枠運用で役立ちます。
- 糸切りハサミ: ジャンプ糸処理を安全に。
- ボビンケース予備: 落下などでテンションばねが狂うと、縫い品質が不安定になります。
また、SWF 用 刺繍枠 など業務用の枠運用を標準化するなら、テスト用の「固定条件」(同じ生地+同じスタビライザー)を用意して、枠プロファイル確認の変数を減らすと判断が速くなります。
事前チェック(プレフライト)
- ソフト側: Hatchで選んでいるマシンは、目の前の実機と一致しているか
- 単位: 枠寸法をmmで入力しているか(mm入力が前提)
- 縫製エリア: 枠のラベルではなく、マニュアル記載の縫製エリアを参照したか
- 針: 先端に違和感があれば交換
- 下糸周り: ボビンケース内の糸くずを清掃(糸調子が変わると寸法も暴れます)
Setup(枠ライブラリと運用判断)
「想定外ゼロ」の枠ライブラリ運用
枠ライブラリは、迷いを減らすほど安全になります。
- 例として brother pe800 用 マグネット刺繍枠 を導入する場合:ラベルが「5x7(130x180)」相当でも、マグネットの構造や固定部が角にかかることがあります。導入直後に「実際に縫える内側」を確認し、必要なら安全側の寸法でカスタム枠を作っておくと、枠打ちリスクを下げられます。
注意(マグネット取り扱い): 業務用のマグネット枠は強力な磁石を使用します。指を挟むと危険です。着脱時は指をリングの間に入れず、外側の持ち手を使って操作します。
生地×スタビライザーの考え方(ズレ=実質的な縫製エリア減)
ソフト上で「入っている」デザインでも、生地が動けば実質的に危険域に寄ります。生地が波打つと、縫いズレで枠際に寄ることがあるためです。
Step 1:伸びる素材か(Tシャツ、ポロ、フーディーなど)
- YES: カットアウェイ系スタビライザーが基本。枠張りは引っ張りすぎず、フラットに。
- NO: Step 2へ。
Step 2:織りが甘い/不安定な布か(リネン、甘織りコットンなど)
- YES: ティアアウェイ+仮止めで一体化させると安定します。
- NO: Step 3へ。
Step 3:厚手/硬めか(デニム、キャンバス等)
- YES: 条件次第でティアアウェイでもいけますが、枠の保持力が重要になります。
- 厚物は枠張りが難しくなりがちなので、用途に応じて 刺繍枠 swf 刺繍ミシン 用 のような保持方式(クランプ/マグネット等)を検討する判断材料になります。
セットアップ最終チェック(Go/No-Go)
- 境界線: Hatchの赤い枠線の内側にデザインが100%収まっている
- センター: デザインが中心に配置されている(端ほど事故が起きやすい)
- 保存: 枠プロファイルを保存した(Save Hoop/OKまで完了)
Operation(実行手順)
実行フロー
- マシン選択: 上部ツールバーで該当機種を選ぶ
- 枠表示: Show Hoop(枠表示)をONにして、赤い境界線が出ていることを確認
- 余白確認: デザイン端と赤線の距離を見る
- 良い: 余白がある
- 危険: 線に触れている
- NG: 線を越えている
- 実機に枠を装着
- トレース/枠チェック: 実機で外周をなぞらせ、干渉がないか確認
期待される「違和感のない状態」
- 見た目: Hatchの向きと、実機画面の向きが一致
- 音: 移動がスムーズ(異音や引っかかりがあれば停止)
- 装着感: 枠が無理なく「カチッ」と入る(力任せはNG)
Troubleshooting(現場での切り分け)
現実がソフトの想定とズレたときは、症状→原因→対処で切り分けます。
1) 症状:ソフトで「枠に入らない」
- 原因候補: 枠プロファイルに対してデザインがギリギリ、または越えている
- 対処: 枠を大きくするか、デザインを縮小して余白を作る
2) 症状:Hatchにマシンが見当たらない
- 原因候補: データベースに未収録/新機種/ニッチブランド
- 対処: 動画のSWF例のように、カスタム機種を作成して枠を割り当てる
3) 症状:針が枠に当たった(枠打ち)
- 原因候補: 外形サイズ(例:120mm)を入力してしまい、縫製エリア(例:100mm)を反映できていない
- 対処: 直ちに停止し、枠プロファイルを縫製エリア基準(マニュアルのmm)で作り直す
4) 症状:画面ではセンターなのに、実際はズレる
- 原因候補: ソフト設定よりも枠張り(枠へのセット)や位置合わせの問題であることが多い
- 対処: 実機のジョグ等で針位置を基準点に合わせ、枠張り手順を見直す
Results(得られる成果)
この手順で「型番名」ではなく「縫製エリアの物理」に合わせて設定すると、次の3つが安定します。
- 安全性: 枠打ち・部品破損のリスクを下げる
- スピード: 「入る/入らない」をソフト上で確定でき、やり直しが減る
- 再現性: 枠ライブラリが整い、作業者が変わっても同じ判断ができる
ソフトに正しい縫製エリア(mm)を入れられた時点で、残るボトルネックは「実機の物理限界」と「枠張りの精度」だけになります。まずは、動画の例どおり100mmの丸枠を安全に運用できる状態を作りましょう。

