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Hatchの文字機能(レタリング)でアクセントを扱う基礎
アクセント付きの文字は、仕上がりの「手作り感」と「商品品質」を分ける細部です。たとえば「NOËL」「JOSÉ」「HÜBNER」のように、ほんの小さな記号が“正しい表記”としての説得力を持ちます。
Hatchなら本来は一瞬で入れられるはずですが、デジタイザーが一度は遭遇するのが、フォントを切り替えた瞬間にアクセント付き文字が中抜きの□(四角)に化ける現象です。見た目の問題に見えて、実務では「このフォントで進められない=作業が止まる」ので、早く確実に回避手順を持っておくのが重要です。
ここでは、現場で使える2つの標準手順を押さえます。
- 標準手順(ネイティブ): フォントが対応している場合は、内蔵の「Insert Character(特殊文字の挿入)」を使う。
- 手動対応(フォント未対応時): □/長方形表示になる場合は、アクセントを自分でデジタイズして作る。
また、画面上で整っていても、実際の縫製では小さなサテンのアクセントほど沈み・ズレが出やすいのが現実です。スタビライザー(生地を支える安定材)や枠張りが弱いと、アクセントだけ読めない/位置がずれる、という不良が起きます。データ作成だけで終わらせず、刺繍工程で失敗しないための確認も一緒に行います。

方法1:内蔵「Insert Character(特殊文字の挿入)」を使う
これは最優先で試すべき“王道”です。フォント制作者がその文字(グリフ)を用意しているなら、それを使うのが最も安定します。文字間(カーニング)や密度の整合性が、同じフォントロジックの中で保たれるためです。
手順:まずベースの単語を作る
- Lettering / Monogramming ツールボックスへ移動します。
- ワークスペースをクリックして文字を入力します。例では 「Arrete」 を入力し、アクセントが必要な文字はあえて抜く(またはスペースを空ける)形で進めます。
- 見た目チェック: 文字オブジェクトが選択状態で、グリッド上に表示されていることを確認します。
チェックポイント: 画面上の見え方は必ずスレッドシミュレーションで確認します。表示が荒く見える場合は、Hatchの表示モード(立体表示/シミュレーション)で確認し、線の太さや密度感の違和感がないかを先に潰します。

手順:フォントの文字マップからアクセント付き文字を挿入
- レタリングのオブジェクトを選択します。
- ツールバーの Insert Character をクリックします。
- 文字一覧(キャラクターマップ)が開くので、目的のアクセント付き文字(例:小文字の ê)までスクロールして選択します。
- OK を押して、文字列に直接挿入します。
期待される結果: アクセントが自然に馴染み、文字の高さ・サテン幅・ベースラインの整合が崩れません。



この方法を先に試すべき理由(量産視点)
量産ではスピードと修正耐性が重要です。アクセントがフォントの一部として扱われると、文字が「動的(編集に追従)」になります。たとえばクライアントから次のような変更が来ても、アクセントが置き去りになりにくいのが利点です。
- デザインを20%拡大する
- 文字をアーチ状にする
- 文字間を調整する

フォントがアクセント未対応だったときの対処
装飾的な筆記体(スクリプト)フォントほど、国際文字が入っていないことがあります。フォントを切り替えた瞬間に出る“□(四角)”は、ソフトの不具合ではなく、フォント側にその文字が存在しないサインです。
□/長方形が出る症状(意味)
選択中のフォントファイルに「ê」の文字コード(グリフ)が無い場合、Hatchは代替表示として中抜きの箱(プレースホルダー)を出します。
動画の例: スクリプト系フォント(Catalinaのようなスタイル)に変えると、ê が長方形に戻ります。

コメント由来のアイデア:別の単語からアクセントだけ移せる?
「アクセントが入る別フォントで単語を作り、分解してアクセントだけ移動する」という発想は可能です。
- 実務判断: ただし、文字とアクセントを別物として扱う工程が増え、編集や整合が崩れやすくなります。特に後から文字を変形(アーチ化など)する可能性がある場合は、アクセントを同一の単語内にまとめておく方が扱いやすい、という考え方が現場向きです(分解は複数回必要になります)。
注意:「画面でOK」=「縫ってOK」ではない
アクセントが独立オブジェクトになると、後からサイズ変更した際にアクセントだけ取り残される事故が起きやすくなります。文字を大きくしたのにアクセントが小さいまま浮いている、という状態です。作成後は、編集手順を決めて「一緒に動く状態」を維持する意識が重要です。
方法2:アクセントを手動でデジタイズ(Digitize)する
フォントが無いなら、自分で作ります。Hatchのデジタイズ機能で、チルダ/ウムラウト/サーカムフレックスなどを手動で描きます。
手順:□を通常の文字に戻す
- 文字オブジェクトをダブルクリックして編集モードに入ります。
- 中抜きの□(長方形)を削除します。
- 通常の文字(例:e)を入力し直します。
チェックポイント: 単語としては読めるが、アクセントが未付与の状態になっていること。
手順:手動デジタイズの準備
- Digitize ツールボックスを開きます。
- 線で描くアクセントは Digitize Open Shape を選びます(点や菱形など面で作りたい場合はクローズド形状を使い分けます)。
- 重要設定: ステッチタイプを Satin にします。文字がサテンで構成されている場合、アクセントだけランニングだと“ミス”に見えやすく、質感が揃いません。
期待される結果: カーソルが十字になり、ポイント入力で形状を作れる状態になります。


手順:アクセント形状をデジタイズする
- 角を立てたい部分はクリックでポイントを置き、サーカムフレックス(逆V)などの形を作ります。
- 現場のコツ: いきなり文字の上に描かず、少し横に描いてサイズ感を比較できるようにすると、形のバランスを取りやすくなります。
- 作成したアクセントをドラッグして、対象文字の上へ位置合わせします。
チェックポイント: 「システムの文字(レタリング)」の上に「ユーザー作成のアクセント(別オブジェクト)」が載っている状態になります。


「別オブジェクト」でも成立させるコツ(フォントに馴染ませる)
別オブジェクトの利点は、角度や形をフォントの傾きに合わせて追い込めることです。筆記体のスラントに合わせてアクセントも寝かせる、といった調整ができます。
一方で、プロ品質に見せるには“フォントのDNA”を揃える必要があります。
- ステッチ角度: 文字の流れ(斜め方向)にアクセントも合わせる
- 見た目の太さ: 文字の太いストロークに対してアクセントが細すぎない
実務メモ:細すぎるサテンは沈みやすい
細いサテンは、生地によっては沈んで見えにくくなります。アクセントは小さい分、視認性が落ちやすいので、後工程(試し縫い)を前提に「見た目の太さ」を確保する意識が必要です。
仕上げ:Reshapeでアクセントの太さを揃える
手動で作った線は、フォントの太さに対して“ひょろい”ままになりがちです。ここが仕上がりの差になります。
手順:Reshapeでサテンの線幅を調整
- 作成したアクセントのオブジェクトを選択します。
- Reshape をクリックします。
- サテン列の中央付近にあるコントロールポイント(オレンジのハンドル)を探します。
- 外側へドラッグして、サテン列を太くします。
期待される結果: アクセントの“見た目の重さ”が文字のストロークと釣り合い、後付け感が減ります。


コメント由来のヒント:Calligraphyの考え方
Calligraphy系の表現は、筆記体の雰囲気を変えるのに有効です。ただし、フォントが均一線(モノライン)なのにアクセントだけペン先表現にすると違和感が出ます。フォントのキャラクターに合わせて、アクセントの表現も揃えるのが基本です。
仕上げチェック:太さは「数値」より「見え方」で合わせる
画面を引いて全体のバランスを確認します。アクセントだけ存在感が弱い/消えて見える場合は、太さか角度が合っていない可能性が高いので、Reshapeで追い込みます。

まとめ:多言語の文字刺繍を“止めない”ために
アクセントは小さいですが、品質と正確性を左右します。手順は2つです。
- 自動(フォント対応時): Insert Character
- 手動(フォント未対応時): Digitize(Open Shape)+ Reshape
そして、データが正しくても、縫製で沈み・ズレが出ると読めません。小さなアクセントほど、枠張りとスタビライザー選定の影響が出ます。

準備:縫う前に見落としやすい消耗品と下準備
機械形式(DST、PESなど)へ書き出す前に、現場側の条件も整えておきます。アクセントのような小さなサテンは、生地が1mm動くだけで“違い”として見えてしまいます。
- 仮止めスプレー(例:505): 生地とスタビライザーのズレを抑え、アクセントの位置ズレを減らします。
- 水溶性トッピング(Solvy等): ニットやタオルなど、表面が沈みやすい素材では上に敷いて沈み込みを抑えます。
- ニット用針(例:75/11 ボールポイント): ニットで密度が上がる箇所(アクセント)でも生地を傷めにくくします。
業務で再現性を上げるなら、枠固定台 のように枠張り条件を標準化できる環境づくりが、文字位置のブレや手戻り削減に直結します。
書き出し前チェックリスト
- スペル確認: アクセント位置が正しい(例:José と Jöse を取り違えない)
- グリフ確認: 方法1なら□表示が残っていない
- 選択確認: 方法2ならアクセントが意図した編集単位で扱える状態になっている
- 角度確認: アクセントの傾きがフォントの流れと合っている
- シミュレーション: Stitch Playerで縫い順・ジャンプが不自然でない
セットアップ:スタビライザー+枠張りの判断(アクセントをきれいに縫う)
マシン刺繍は、生地が動く力と固定する力のせめぎ合いです。アクセントのような小さい密度部分ほど、固定不足がすぐ結果に出ます。
- 伸びる素材か?(Tシャツ/ポロなど)
- 対策: カットアウェイ系のスタビライザーを優先し、伸び戻りでアクセントが歪むのを抑えます。
- 枠張り: 生地を引っ張って伸ばしすぎない。ピンと張るが歪ませない。
- 毛足・凹凸が深いか?(タオル/フリースなど)
- 対策: 水溶性トッピングを使用し、アクセントの沈み込みを防ぎます。
- デリケートで枠張りが難しいか?(薄手・機能素材など)
- 枠跡の問題: 樹脂枠は締め込みが強く、素材によっては枠跡が残りやすい。
- 対策の方向性: マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠は、機械的にこすって締める動きが少なく、枠跡リスクを抑えつつ調整を素早く行える、という考え方で検討されます。
縫い始め前チェックリスト
- 資材の整合: 生地の伸縮に合うスタビライザーを選んだ
- トッピング: 毛足がある素材には上敷きをした
- 枠張り確認: 生地がフラットで動かない
- 下糸(ボビン糸)確認: 残量が十分
- トレース: 枠内に収まり、枠に当たらない
運用:試し縫いと品質チェック
縫い始めたら、音と見た目で異常を早期発見します。
- 音のチェック: 一定のリズムなら正常。叩くような音や擦れる音は、固定不足や針周りの干渉の可能性があります。
- 見た目チェック: アクセント部分で糸がループするなら上糸テンションが低い可能性があります。
名入れを50枚以上などで回す場合、後半ほど手順が雑になりがちです。マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のように枠張り条件と位置を標準化できる仕組みは、1枚目と50枚目の品質差を減らす目的で検討されます。
運用チェックリスト(量産ルーティン)
- 端切れテスト: 同等素材で先に1回縫う
- テンション確認: 裏面で下糸が中央に適正に見える
- 密度の見え方: アクセントで生地が透ける/沈む場合はデータ側(密度や太さ)を見直す
- 糸処理: アクセント周りのジャンプ糸がきれい
- 記録: フォント名と資材条件をメモして再現性を確保
トラブルシューティング
症状:文字が□(四角)になって表示される
主な原因: 選択したフォントに、そのアクセント付き文字(グリフ)が入っていない。 対処(動画手順):
- 文字オブジェクトの選択を確認。
- 方法2へ切り替え、サテンのオープンシェイプでアクセントを手動作成。
症状:手動アクセントが細すぎる/フォントに馴染まない
主な原因: 初期のサテン幅がフォントの太さに対して不足している。 対処(動画手順):
- アクセントを選択。
- Reshape を使用。
- 見た目の太さが揃うまでコントロールポイントで調整。
症状:縫うとアクセントが歪む/沈んで読めない
主な原因: 生地が動いた、または毛足に沈んだ。 対処(現場側):
- 固定を強化: 生地に合うスタビライザーへ見直す。
- 上敷き: 水溶性トッピングを使用。
- 枠張りを見直す: 動きがゼロになるように枠張りをやり直す。手の力や位置合わせでブレが出る場合、マグネット刺繍枠 のようにクランプ圧が安定する仕組みは、小さなディテールの安定に寄与する考え方があります。
仕上がりの目標
この手順を終えると、次の状態を狙えます。
- □表示のない、正しいアクセント付き表記
- フォントの太さ・傾きに馴染むアクセント
- 実際の縫い上がりでも、くっきり読めて位置が合っている
マシン刺繍は「データ」と「機械実行」の両輪です。Hatchでデータを整え、スタビライザーと枠張りを標準化して、再現性の高い文字刺繍に仕上げていきましょう。量産効率の改善を考えるなら、ミシン刺繍 用 枠固定台 といった枠張り工程の最適化キーワードを起点に、作業のムダと不良率を下げる設計を進めるのが近道です。
