Table of Contents
1 プロジェクトの概要
このプロジェクトは、白い大きな矩形パネルと小さな深いローズ色の矩形パネル、その上に配置する「journal」と「2021」の文字だけで構成する、ミニマルデザインのカバー刺繍を作るものです。基本図形(矩形)、塗り(Tatami)、縁取り(Satin)、文字(フォント・サイズ)、そして完成度を左右するステッチプロパティ(角度・プル補正)を一通り押さえます。
この方法がフィットするのは、短時間でクリーンな外観を目指したいとき、色数を絞って糸替えを減らしたいとき、あるいはデジタイジングの練習として形・角度・重なり・補正の関係を一気に理解したいときです。逆に、厚手で引きの強い生地や凹凸の大きい面では、プル補正や重なり処理の再調整が増える可能性があります。その場合は、試し縫いの回数を前提に計画しましょう。
なお、最終のステッチアウトはBrother系のPES形式で行っていますが、Hatchは複数形式の書き出しに対応しており、手元の機種に合わせて選べます。試し縫い時に安定させたい場合、作業の一時固定や位置合わせには刺繍用 枠固定台を併用すると、細かな再配置がスムーズになります。
1.1 このガイドで学べること
- 矩形のサイズ設計とアスペクト比の扱い方
- Tatami/Satinの役割分担と角度設定の根拠
- 文字のフォント・サイズ・字間を、図形と整列させる手順
- Remove Overlapsで重なり密度を解消する判断基準
- 試し縫い所見を踏まえたプル補正の再設定(0.5mm/0.3mm)
- ステッチプレイヤーでの事前検証と配色シーケンスの最適化
1.2 適用範囲と注意点
- 数値は動画内の設定に基づいています(未記載部分は「動画での明示なし」とします)。
- 糸色はパレットから名称検索でも選べます。色番号の厳密一致は必須ではありません。
- 実機縫製の所見では、白パネルの境界に生地の見えが発生し、プル補正とボーダー幅の見直しが必要でした。

プロのコツ: 文字や小パネルを重ねる前提の設計では、早めにRemove Overlapsの適用位置を想定して、塗りの面積や角の表情が変わっても成立するよう余裕を持たせると安定します。
2 準備するもの
- ソフトウェア:Hatch Embroidery Digitizing Software(新規ワークスペースを開く)
- 素材:生地・糸・安定紙(スタビライザー)
- ツール:選択・整列・文字・図形・ステッチプレイヤー・オブジェクトプロパティ・Remove Overlaps など
糸色はパレット名からの名称入力で候補表示が可能です。例えば“blue”と入力すると、読み込んでいるパレット内の青系が一覧されます。試し縫いの段階で糸替え回数を抑えたいなら、配色は3〜4色程度に抑えるのがおすすめです。刺繍枠の固定が難しい素材には、位置決めや仮固定を助けるマグネット刺繍枠の活用も検討できます(本プロジェクトで特定モデルの使用は明記されていません)。
クイックチェック:
- Hatchを起動し、新規ワークスペースが空の状態か
- 配色パレットが読み込まれているか
- 生地・糸・スタビライザーが手元にあるか
3 ソフトのセットアップと初期設定
まず矩形を作り、サイズと塗り、角度を設定します。アスペクト比ロックはオフにして、幅・高さを個別に指定します。

- 幅100mm × 高さ35mm(アスペクト比ロック オフ)

- 塗り:Tatami、ステッチ角度:0度


- 糸色:White
なぜ角度0度か:本デザインでは横方向のストロークが視覚的にすっきり見え、パネルの「面」を感じやすくなるためです。横方向は引きが生じやすいので、後段でプル補正を見直す前提で進めます。
注意: アスペクト比ロックをオンのまま数値入力すると、片側の数値だけ変えてももう一方が連動してしまいます。必ずロックを外してから入力しましょう。
チェックリスト(セットアップ):
- 矩形のサイズが100×35mmになっている
- FillがTatami、Angleが0度である
- 角度変更後のステッチ方向イメージを把握した
4 設計とデジタイズの手順
ここから、枠のSatinアウトライン、小パネル、文字、整列、重なり解消まで一気に進めます。各サブステップで「理由」と「期待する見た目」を添えています。
4.1 メイン矩形パネルの作成(Step 1)
新規ワークスペースで矩形を作り、100×35mmでTatami(角度0度)・白の塗りに設定します。ここが背景面になり、上に文字と小パネルが重なります。横方向の面が整うと、後で置く文字の視認性が高まります。
この段階で、試しに別色の糸を想定しても良いですが、最終的に多色になるほど糸替えが増えるので、後述の色順最適化も視野に入れておきましょう。作業の最中に位置合わせを繰り返すなら、保持力の高いマグネット刺繍枠 brother 用を使うシーンもあります(本件では具体機種の使用は示されていません)。
4.2 黒サテンの枠線を追加(Step 2)
メイン矩形を複製し、タイプをOutlineへ変更、Satinを選択、幅2mm、色はBlackに設定します。

理由:サテンの縁取りは、塗りと生地の境界をシャープに見せ、ミニマルデザインの清潔感を底上げします。幅2mmなら主張が強すぎず、矩形の骨格を確保できます。
4.3 小パネル(深いローズ)を追加(Step 3–4)
枠線を複製してタイプをFillへ、アスペクト比ロックをオフにして、幅35mm×高さ15mm、角度0度、色はDeep Roseに。

さらにこの小パネルにも黒サテンの枠線(幅2mm)を追加します。2枚のパネルが揃ったら、一時的にグループ化しておくと配置調整が容易です。小パネルは日付や番号など、付帯情報のエリアに向いています。
プロのコツ: 小パネルはメインの視線導線を邪魔しない位置に。のちほど文字を中央揃えで合わせるので、中心線を意識して仮置きするとよいでしょう。位置調整の反復には刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠のような保持具が作業時の微調整に役立つことがあります(本動画での具体的使用は言及されていません)。
4.4 文字「journal」と「2021」を配置(Step 5–6)
- journal:Letteringツールで入力、フォントはCity Medium、高さ18.5mm、色はSky Blue。

- 2021:Run Block、高さ7mm、字間+0.5mm、色はBlack。小パネルと選択して「Align and Space > Align Centers」で中央揃え。


理由:大見出し(journal)は主パネルの中央。サブ情報(2021)は小パネル内に余白を持って読みやすく。字間+0.5mmは小サイズでも視認性を担保するための微調整です。
4.5 重なりの解消(Remove Overlaps)(Step 7)
全てUngroup(Ctrl+Uを繰り返し)して個別オブジェクトに戻します。journalテキストを選択してRemove Overlapsを実行し、文字下にある塗りを抜きます。

続いて小パネルにもRemove Overlapsを適用して、下にある白パネルとそのサテンを貫通させます。

隠し表示で確認すると、重なりがパンチアウトされ、密度の過多が回避できていることが見て取れます。

注意: 重なりの未解消は、縫製時の密度過多・糸切れ・皺・硬さの原因になります。特にサテンの縁取りの下に塗りが残ると、境界が膨らみやすくなります。
クイックチェック:
- 文字と小パネルが重なる領域で、下地の塗りが抜けているか
- 表示を切り替えて、不要なステッチの層が残っていないか
5 品質チェックと中間検証
5.1 ステッチプレイヤーでの確認(Step 8)
True Viewを一旦オフにし、ジャンプを可視化してからステッチプレイヤーで疑似縫製を走らせます。

見るべきポイント:
- ステッチシーケンスが自然で、無用なジャンプが少ないか
- 整列後の中心線が崩れていないか
期待される結果:大きな破綻はなく、一部ジャンプ糸の後処理が必要な程度。
5.2 試し縫いと初期所見
実機でステッチアウトした結果、白パネルの枠付近で生地の見えが発生、また枠サテンがやや細く見えるという所見が得られました。
原因の見立て:
- 横方向のTatamiに対するプル補正が不足
- サテン幅がデザインバランスとして弱い
この段階で、輸出形式はPESが使用されました(Brother系と整合)。任意で、作業効率のためにBrother 刺繍ミシン側の糸替え回数を減らす配色順に組み替えることも検討できます(後述)。
6 仕上げ・書き出し・ステッチアウト
6.1 プル補正の調整(Step 9)
オブジェクトプロパティで、白パネルのプル補正を0.5mmに引き上げ、小パネルは0.3mmに設定します。横方向に走るTatamiは、縫い収縮でエッジ方向に“引かれ”やすく、補正不足だと境界に生地がのぞきます。補正を増やすと、ステッチが外へ張り出し、見えを防ぎます。
注意: 過剰な補正は形状の崩れにつながります。True Viewでの見た目確認に加え、実機での再ステッチで最終判断を。
6.2 小パネルの枠を再デジタイズし、幅を拡張(Step 10–11)
Remove Overlapsの影響で既存の枠幅が変更不可の場合は、該当ブロックを再デジタイズします。矩形を新規作成し、OutlineをSatin、幅2.5mmに設定。シーケンス上で文字の背面に正しく回し、必要な重なり解消を再適用します。局所的には、Reshapeツールで文字の輪郭ポイントをわずかに外側へ出して、視覚的な絡みを緩和します。
プロのコツ: 枠線を太らせると、パネルと生地のコントラストが増し、ミニマルでも締まった印象に。2.5mmは存在感と上品さのバランスが良好でした。
6.3 色順の最適化と書き出し(Step 12)
糸替え回数を減らすため、同色要素が続くように再配列します(例:黒要素→白→ローズ→青)。その後、使用機に合った形式へ書き出します。PESを使う場合は、マグネット刺繍枠や通常枠の装着状態でも糸替え手順を短縮でき、段取りが安定します(本件で特定の枠種の使用は明記されていません)。
クイックチェック:
- 配色シーケンスで糸替えが最小化されているか
- 書き出し形式が機種と一致しているか
- 期待する仕上がりに沿っているか
7 トラブルシューティングとやり直し手順
症状→原因→解決の順で整理します。数値や現象は動画での確認事項に基づきます。
- 症状:白パネル枠の内側で生地がのぞく
- 原因:横方向Tatamiに対するプル補正不足
- 解決:白パネルのプル補正を0.5mmへ(小パネル側は0.3mm)。True Viewで形状が崩れないことを確認し、再ステッチで判断
- 症状:境界が硬く、厚ぼったい
- 原因:重なりの未解消による密度過多
- 解決:Remove Overlapsを文字・小パネルに適用し、下層の塗りやサテンを抜く
- 症状:小パネルの枠幅を後から変えられない
- 原因:Remove Overlaps後のオブジェクト構造により編集不可
- 解決:枠を再デジタイズし、Satin幅を2.5mmで作り直し。シーケンスを正しく背面へ戻す
- 症状:ジャンプ糸が多い/引っかかりそう
- 原因:色順・オブジェクト順が非効率
- 解決:ステッチプレイヤーで流れを確認し、同色要素をまとめて再配列
プロのコツ: 実機での固定や再試し縫いが続くプロジェクトでは、取り外しやすいマグネット刺繍枠 11x13のようなサイズ系の選択肢も作業効率化に寄与します(本動画では型番・サイズの指定はありません)。また、特定機に合わせたアクセサリー(例:マグネット刺繍枠 brother stellaire 用など)を検討する際は、互換性と生地厚対応を必ず確認してください。
注意: アクセサリーや枠の具体モデルは動画での使用が明示されていません。ここでは一般的な選択肢として触れており、導入の可否は各自の環境で判断してください。PES形式での書き出しはBrother系の多くで扱えますが、機種個別の仕様差には留意を。
コメントから:
- 「デザインが素敵」という趣旨の感想が寄せられていました。ミニマル設計は少数要素で“仕立ての良さ”が目に届くため、色幅と枠幅、プル補正の三点を押さえるだけでも印象が大きく向上します。
以下は、実際の操作に即した簡潔なワークフローの総括です。
- 設計:100×35mmの白Tatami(角度0度)に黒サテン2mmの枠、小パネル35×15mm(Deep Rose、角度0度)+黒サテン2mmの枠
- 文字:journal(City Medium、18.5mm、Sky Blue)、2021(Run Block、7mm、字間+0.5mm、Black)を中央揃え
- 重なり:Remove Overlapsで文字と小パネルの下地をパンチアウト
- 検証:ステッチプレイヤーでシーケンスとジャンプを確認
- 改善:プル補正(白0.5mm/ローズ0.3mm)と小パネル枠を2.5mmに再構成
- 最適化:色順をまとめ、対象機形式で書き出して最終ステッチアウト
最後に、固定や位置合わせの作業快適性を高める補助具として、機種に合うマグネット刺繍枠や相性のよいクランプ系フレーム(例としてmighty hoop マグネット刺繍枠やブランド専用の互換枠)を検討するのも手です。特に再試し縫いを想定する学習プロジェクトでは、着脱の容易さが学習スピードに直結します(本動画で特定製品の使用は示されていません)。
