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1 プロジェクトの概要
Color PhotoStitchは、写真の明暗と色の情報を多数の短いステッチで再構成する自動デジタイジング機能です。デフォルトの色数は7ですが、最大15まで増やせます。今回は高解像度・コントラスト50・色数10を採用し、細部のキレと縫い時間のバランスを取りました。

1.1 何ができるのか
・写真(今回は蝶のスクリーンプリント作品の写真)を、刺繍機で縫えるPhotoStitchフィルに自動変換。 ・色数とコントラスト、解像度設定を通じて、輪郭の明瞭さと面の階調を微調整。 ・変換後のレイヤー(色)や要素(同色のステッチ断片)を再配列し、ジャンプステッチを最小化。
なお、この機能はHatch EmbroideryのDigitizerレベルでのみ利用可能です。レベル選択については製品ページの表記を確認してください。


1.2 いつ使うとよいか
・写真の質感を刺繍で表現したいとき。 ・単純なロゴや図形ではなく、陰影のあるモチーフを縫いたいとき。 ・色数10前後の中規模デザインで、仕上がりと時間の均衡を取りたいとき。
クイックチェック:色数が少なすぎると面が潰れ、コントラストが低いと平板な仕上がりになります。最初は「高解像度・コントラスト50・色数10」を素早いたたき台とし、必要に応じて調整しましょう。
2 準備:ワークスペースと画像の読み込み
ここからは、ソフト上の基本設定→画像の読み込み→サイズ調整までを通しで行います。
2.1 適切なフープサイズを選ぶ
Hatchのフープドロップダウンから100×100mm(例)を選択し、フープ位置を「Manual」に設定します。これで、作業中にフープ表示が不用意に移動するのを防げます。


・推奨の理由:自動位置だと読み込みや拡大縮小のたびに表示が移動し、レイアウト確認がしづらくなります。 ・結果の目安:キャンバスに赤いフープ枠が安定して表示され、画面操作で位置が飛ばないこと。
実機フープとの対応を考えるなら、一般的な正方サイズとしてbrother 4x4 刺繍枠を選ぶ場面もありますが、本稿ではソフト上のフープ選択・固定に主眼を置きます。
プロのコツ:縫製工程を見据えても、まずは「設計段階で動かない画面」を作るのが効率化の第一歩。Manualポジションでの安定運用が下流の修正回数を減らします。
チェックリスト(セットアップ)
- フープ:100×100mm(例)
- フープ位置:Manual
- キャンバス上でフープが安定表示される
2.2 写真をHatchにインポート
Artworkタブから「Insert Artwork」で写真(例:butterfly.png)を読み込みます。取り込んだら、Shift+コーナーハンドルのドラッグで等比縮小し、赤いフープ内に収まるように調整。数値入力でもOKです。


・結果の目安:画像がフープ内に完全に収まり、余計なクロップが不要な状態。 ・注意:フープ外に少しでもはみ出すと意図せぬトリムや再スケールが発生しがちです。
実務メモ:大型フープを使う計画がある人は、たとえばマグネット刺繍枠 11x13などの物理条件を踏まえたサイズ決めを頭の片隅に置いておくと、後工程での再調整が減ります。
チェックリスト(画像読み込み)
- Artworkがキャンバスに表示された
- フープ内に完全に収まるようリサイズされた
3 PhotoStitch設計の最適化
ここではColor PhotoStitchを適用し、解像度・色数・コントラストを最適化します。

3.1 コントラスト調整で輪郭を立たせる
Auto Digitizeパレットから「Color PhotoStitch」を実行。解像度は「High」、続いてAdjust(調整)ダイアログでコントラストを50に設定します。

・根拠:実験的に「コントラストを上げるほど結果が良好」だったため、本ケースでは50を採用。 ・注意:コントラストが低いと面の境界がぼやけ、ステッチの方向性も見えづらくなります。
クイックチェック:プレビューで暗部の密度が増し、ハイライトの抜けも確保されているかを確認。極端な白飛び・黒潰れがないかを一目で点検します。
3.2 色数を10に最適化する
Color数はデフォルト7から10へ。プレビューでピンクが多すぎるなど偏りが見える場合、10前後に再調整すると落ち着きやすい結果が得られます。変換後は未使用色を「Discard」で削除し、パレットを整理しましょう。

・ステッチ数の確認:マシンの最大ステッチ数(例:50,000)を超えないか注意。超過しそうなら縮小または色数見直しで負荷を下げます。 ・結果の目安:使われる色だけが残り、総ステッチ数が許容範囲内。
現場視点:実機フープ・固定具を併用する場合は設計段階から作業性を想定します。たとえば厚物や枠入れしづらい素材には刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠といった選択肢があり、のちの糸交換やトリム時の操作性に差が出ます。
チェックリスト(最適化)
- 解像度:High
- コントラスト:50
- 色数:10(プレビューで偏りが少ない)
- 未使用色の削除完了
- 総ステッチ数が上限内
4 スレッドチャートと縫い順の微調整
ここからは物理糸に落とし込むためのチャート割り当てと、ジャンプステッチを減らすための並べ替えを行います。
4.1 実糸チャートへのマッピング
Threadsタブでメーカーのスレッドチャートを読み込み、各レイヤーに具体的な糸番号・名称を割り当てます。番号検索(例:黒=900)で素早く指定可能。マシンによっては「番号のみ」表示の機種もあるため、番号基準での管理が確実です。


・手順の要点:シーケンスタブで割り当てたいレイヤーを選択→該当色(番号)をクリック。 ・結果の目安:すべてのレイヤーに実在の糸が対応づけられること。
現場補足:大きめのデザインで頻繁に枠から外す必要があるなら、固定の再現性を高める道具の導入も検討対象です。位置決めの反復を減らす意味で、刺繍用 枠固定台やhoopmaster 枠固定台のような治具が作業の標準化に役立ちます。
注意:スレッドチャートの選択肢は多数用意されていますが、ここで扱った具体番号(例:黒=900)は、チャートに依存します。他メーカーでは番号が異なる点に留意してください。
4.2 ジャンプを減らす縫い順へ並べ替える
同色の要素を最小移動で縫えるよう、個別要素レベルで並べ替えます。Ctrl+Aで全選択→対象色をCtrl+左クリックで除外→右クリックで他色を非表示に。TrueViewをオフにするとピンクのジャンプステッチが現れ、無駄な往復が一目で分かります。

・実操作:シーケンスタブの上下矢印で要素順序を入れ替え。ごく短い断片は、仕上がりに影響がなければ削除で整理。 ・狙い:論理的な縫い流れ(例:左から右、近傍グループで連続)に統一し、トリム回数・糸抜けリスク・所要時間を減らす。 ・現場判断:デザイン前半50%のレイヤーは最終層に覆われることが多く、微小断片を削っても見た目への影響が小さい場合があります。
プロのコツ:最終色(例:黒の輪郭)を重点確認。孤立した小片が文脈を壊す場合は、思い切って削除しても全体が引き締まることがあります。
現場メモ:枠の扱いに不安がある場合、クランプ式や磁力式の固定具が作業性を改善することがあります。たとえば強力保持が必要な場面ではsnap hoop monster マグネット刺繍枠のような選択が、手の移動を減らし作業をリズムよく進める助けになります。
チェックリスト(並べ替え)
- TrueViewをオフにしてジャンプを可視化
- 同色要素が近接順に並ぶ
- 微小断片は必要性を検証し、不要なら削除
- 最終層(黒など)の整合性を重点確認
5 プレビューとフィニッシュ
仕上げ前の最重要工程は、Stitch Playerによる再生チェックです。

5.1 Stitch Playerで縫いの流れを検証
TrueViewをオンに戻し、Stitch Playerで全体の縫い順とレイヤー間の移行を視覚的に確認します。再生は2000針/分相当で高速化できますが、実機は約350針/分の例もあり、実時間は長くかかります。
・見るポイント:レイヤーの重なりとジャンプの残り具合、塗り忘れや不自然な断絶がないか。 ・見つけた課題:必要に応じて要素の並べ替えや削除を戻って実施。
クイックチェック:プレイヤー終盤で「大面積の密なまとまり」が最終層として筋の通った形で現れるかを確認しましょう。途中の小断片が残っていても、最終層に調和していれば概ね許容範囲です。
5.2 仕上がりのイメージと所要時間の見積もり
プレビューから逆算すると、長めのステッチアウトが前提です。速度差(プレイヤー2000針/分 vs 実機350針/分)を踏まえ、十分な時間と糸交換の段取りを用意します。完成像は、蝶の細部が明瞭で、最終色が全体を引き締める印象的なPhotoStitchになります。
現場ノート:物理フープの選択肢は多岐にわたりますが、特定モデル専用の話題はここでは扱いません。参考までに、大型多色の運用ではマグネット刺繍枠 brother 用やbrother pr1055x 用 刺繍枠といった文脈が語られることもありますが、本稿はソフト上の設計最適化にフォーカスしています。
6 応用:作品の広げ方
今回の手順は、抽象画など他のモチーフにもそのまま流用できます。作者も抽象作品への展開を示唆しており、PhotoStitchの階調表現は幅広い被写体で活きます。
6.1 抽象作品をPhotoStitchで
コントラストの主導で構図の芯を作り、色数で層の厚みを制御する考え方は、抽象作品でも有効です。仕上がりの空気感を残すため、最終層の整合性チェックをいつも以上に綿密に行いましょう。
6.2 次のプロジェクトに向けたヒント
・色数は7→10→12と段階的に増やして比較。ジャンプが増える手前の最適点を探します。 ・スレッドチャートは番号で管理。マシン表示が名称非対応でもブレません。 ・TrueViewオフでのジャンプ監査は、どのモチーフでも効果的。
コミュニティから:複数色のデジタイジングに悩む声は多く、Color PhotoStitchの導入で作業が楽になったという反応が見られます。この記事の並べ替え・削除の指針を組み合わせると、よりスムーズに進められるはずです。
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トラブルシューティング(症状→原因→対処)
1) 仕上がりが平板で立体感が乏しい→コントラスト不足→Adjustでコントラストを上げる(例:50)。 2) 細部が潰れる/色がにごる→色数が足りない→7から10へ増やし、プレビューで偏りを再確認。 3) ジャンプが多くトリム地獄→並びが非効率→TrueViewオフでジャンプを可視化し、近接順に並べ替え。微小断片は削除。 4) ステッチ数が多すぎる→面の密度・サイズが過大→デザイン縮小か不要断片の削除で総数を削減。
プロのコツ:要素の削除は「最終層で覆われるか」を基準にすると判断が速い。目立たない断片は積極的に整理し、縫い流れを途切れさせないことを優先しましょう。
実機運用のひと工夫:段取り替えの頻度が高い現場では、位置再現性を上げるための冶具を検討すると効率が上がります。例えば、一定の作業フローで繰り返すなら刺繍用 枠固定台や再現性の高い固定具の活用が、設計と生産の橋渡しに役立ちます。
補足メモ:環境や素材の条件に合わせて、磁力式やクランプ式などの固定方式を検討することもあります。たとえば分厚い素材や頻繁な取り外しが想定される場合にはマグネット刺繍枠 brother 用や類似の選択肢が作業のテンポを損なわずに済むことがありますが、本稿では具体機種の手順は扱いません。
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実務チェックリスト(総合)
- フープ:サイズ選択とManual位置固定済み
- 画像:フープ内に等比で収まるようリサイズ
- PhotoStitch設定:High解像度/色数10/コントラスト50
- パレット:未使用色を削除、総ステッチ数が上限内
- スレッド:チャートで番号を割り当て(例:黒=900)
- 並べ替え:TrueViewオフでジャンプ可視化→近接順に並び替え→不要断片は削除
- プレビュー:Stitch Playerで最終確認、必要なら戻って微修正
最後に:完成イメージは、最終層が全体をまとめ上げた引き締まった蝶の刺繍。長めのステッチでも、論理的な縫い順と色の整合が取れていれば、仕上がりは確かな満足をもたらします。実装環境に合わせて、必要ならマグネット刺繍枠 brother 用や刺繍用 枠固定台、あるいは用途に応じてマグネット刺繍枠 11x13などの物理的選択肢も視野に入れて段取りを整えましょう。さらに、素材や機種に応じてマグネット刺繍枠 brother 用と並ぶ別解としてsnap hoop monster マグネット刺繍枠や、小型設計ではbrother 4x4 刺繍枠を検討するなど、作業全体の最適点を探ると実機側のストレスも減らせます。
