目次
デザインカラー(Design Colors)ツールバーを理解する
PC画面では鮮やかに見えたのに、実際に刺してみたら「濁って見える/思っていた色と違う」という経験は珍しくありません。これは、画面の色(光)と糸の色(染料)の見え方が一致しないことで起きる“ズレ”です。
対策は、枠張り(フープ)に触る前の段階から始まります。まずは「このファイルが 実際に どの色を要求しているか」「その色がどの糸ブランド/番号として割り当てられているか」をデータとして確認します。
Hatch Embroidery 2(Personalizer)では、画面下部の Design Colors Toolbar(デザインカラー ツールバー) がいわば“真実の表示”です。見た目のプレビューではなく、ファイルの情報に基づいて デザインで使用されているユニークな色(※縫い順ではない)を示し、次の3つの確認ができます。
1. 「使用中」チェック(青い使用タグ)
ツールバーの色スウォッチをよく見てください。
- 見た目の目印: 各色の四角に、右上の小さな 青いタグ(三角) が付きます。
- 意味: この青いタグは「その色が実際に縫いデータで使われている」印です。タグが無い色は、パレット上にあるだけで縫いには出てこない“未使用色”なので、基本的に無視できます。

2. 「どこを縫う色か」チェック(使用箇所のハイライト)
- 操作: 確認したい色スウォッチを 左クリックしたまま長押し します。
- 画面の反応: それ以外が暗くなり、その色で縫う部分だけが強調表示されます。
- なぜ重要?: 密な塗りつぶしの下に小さな“迷子ステッチ”が混ざっていると、不要な色替え停止の原因になります。長押しハイライトは、それを最短で見つける方法です。

3. 「在庫(ブランド/番号)」チェック(ツールチップ)
- 操作: スウォッチにカーソルを合わせて1秒ほど待ちます。
- 表示: ツールチップで糸ブランド(例:Madeira Classic 40)と色番号が表示されます。
- 現場での意味: どのコーンを棚から出すべきかが、番号で確定します。

なぜここまで確認するのか(生産目線の理由)
趣味でも、色管理=在庫管理 です。 確認せずに進めると、刺繍機が色替えで止まった瞬間に「その番号の糸が無い」ことに気づき、段取りが崩れます。小規模でも業務で回している場合、同じ顧客の追加注文で“前回と同じ色”を再現するには、ブランドと番号の整合が必須です。
縫い順(Sequence)を確認する
Design Colors Toolbar は ユニーク色(作業台に用意すべき色)を示しますが、縫い順 は示しません。縫い順は Sequence Docker(シーケンス ドッカー) で確認します。
- 操作: 画面右側の Sequence Docker を開きます。
- チェック: 色ブロックが上から下へ並びます。これは刺繍機の“進行表”です。
- 補足: 動画例では、Sequence の「Color 1」が、Design Colors Toolbar の「Color 3」に対応していました。ツールバーの左→右の並びを縫い順だと思い込まない でください。

現場の視点:縫い順は「構造」でもある
色は装飾に見えますが、刺繍では縫い順が仕上がりの安定性に直結します。
- 構造: 一般に、中心→外側、背景→前景の順で組まれます。
- 効率: 同じ色が途中で何度も出てくると、その回数だけ停止(トリム)しやすくなります。
- 最適化: 色替え回数の削減は生産性に効きますが、ブロックの入れ替えは慎重に。例えば、淡色の塗りの前に濃色のアウトラインを縫うと、濃色が透けて見えたり、押されてズレたように見えることがあります。
糸見本(Thread Chart)を切り替える(Isacord/Madeira)
ソフト側が既定で「Isacord」になっていても、現場の在庫が「Madeira」中心ということはよくあります。Hatch に“自分の在庫”を教えないと、合わない候補ばかり提示されます。
動画では、使用する糸見本を切り替えて、ソフトの表示を現場に合わせる手順が紹介されています。

手順:ソフトを在庫に合わせる
- 右側の Threads Docker(スレッド ドッカー) を開きます。
- Select Thread Charts をクリックします。
- 入れ替え操作:
- 使わない見本(例:Isacord)を選び、Move Out(<)で外します。
- 使う見本(例:Madeira Classic 40)を選び、Move In(>)で入れます。
- OK をクリックします。


現場のコツ:複数ブランドを“併用”して近似を探す
選択リストは1ブランドに限定されません。Madeira/Sulky など複数を入れておくこともできます。
- 狙い: 似た色を探すとき、複数ブランド横断で最も近い候補を見比べられます。
- 運用メリット: 指定色に寄せたい案件で、手持ち在庫の中から現実的な落としどころを作りやすくなります。
事前チェック(作業前の点検)
編集に入る前に、ここだけは確認しておくと事故が減ります:
- ツールバー確認: Design Colors Toolbar のユニーク色数は想定どおりか(例:ロゴ4色なら、使用タグ付きが4つか)
- 在庫確認: スウォッチにホバーして、ブランド/番号が手持ちと一致しているか
- 見本同期: Threads Docker の見本が、現場で使うブランドになっているか
- 段取り: 使用予定のコーンを縫い順に近い形で手元に並べられるか(色替え時の取り違え防止)
作業環境を整えるなら、段取りの標準化が後々効きます。専用の ミシン刺繍 用 枠固定台 を用意して、糸や枠を“置き場ごと”決めておくと、準備工程の混乱が減ります。
グローバル変更とローカル変更(全体置換/部分変更)
Hatch の色変更は大きく2種類です。違いを理解しておくと、「花だけ変えたかったのに文字まで変わった…」という事故を防げます。
A) グローバル変更(全体置換)
デザイン内の同じ色を、存在する箇所すべてで入れ替えたいときに使います。
- 選択: 画面下の Design Colors Toolbar で、置換したい色(例:オレンジ)をクリックします。
- 置換先: 右側の Threads Docker で、置換後の色(例:青)を探します。
- 実行: 置換後の色を シングルクリック します。
- 結果: オレンジだった箇所がすべて青に変わります。

B) ローカル変更(部分変更)
一部の領域だけ色を変えたいときに使います。
- 候補色: Threads Docker で使いたい色を探します。
- パレットに追加: その色を ダブルクリック します。画面下のツールバーに追加されますが、この時点ではまだ割り当てられていません。

- ツール選択: 上部ツールバーから Paint Bucket(ペイントバケツ) を選びます。

- 適用: キャンバス上の、色を変えたい“閉じた領域”にカーソルを合わせて 左クリック します。

チェックポイント: 変わるのは狙った形だけのはずです。全体が変わった場合はグローバル操作になっている可能性があります。必要なら取り消し(Ctrl+Z)で戻してやり直します。
補足:生産では「部分変更=色替え増」になりやすい
グローバル変更は“パレット(色スロット)”の置換、ローカル変更は“特定オブジェクトだけ別色”という扱いになりやすく、結果として色替え停止が増えることがあります。試作では便利ですが、量産前には「停止回数が増えていないか」を Sequence で必ず確認してください。
ペイントバケツとスポイト(Eyedropper)の使いどころ
似た青が複数あって画面では区別できないとき、「同じ糸なのか/別の糸なのか」を確定する必要があります。
スポイト(Eyedropper):色の特定に使う
スポイトは“調査用”のツールです。
- 操作: スポイトを選び、判別しづらい箇所をクリックします。
- 結果: その要素の色情報がアクティブになり、どのスウォッチ(ブランド/番号)かを追えます。
- メリット: 目視ではなく、コードで判断できます。

ペイントバケツ:閉じた領域にだけ色を流し込む
ローカル変更で説明した通り、閉じた形状に対して部分的に色を適用できます。配色案のテストにも向きます。
重要:先に EMB を保存してから書き出す
この手順が、色が元に戻るトラブルを防ぐ最重要ポイントです。 コメントでも「色を編集して書き出したのに、戻って開くと元の色に戻っていた」という質問があり、公式返信では次の運用が推奨されています。
- まず、変更内容を 元の EMB 形式 に保存する
- その後で、刺繍機用の形式へ Export(書き出し) する
EMB は編集情報(色割り当てなど)を保持しやすい一方、DST/PES/JEF などの刺繍機用データは“縫い指示”が中心で、再編集時に色情報が期待どおり残らないことがあります。
注意: EMB を「マスター(原本)」として管理し、DST/PES などは「出力物」と割り切ると事故が減ります。必ず EMB を先に保存してから書き出してください。
別ブランドへ一括マッピング(Match All Design Colors)
例:購入したデザインが Isacord 前提なのに、手元の在庫は Hemingworth しかない。1色ずつ手で置換する代わりに、Match All Design Colors で一括変換できます。
手順:一括変換(ユニバーサル変換)
- 見本を切替: Threads Docker の Select Thread Charts で、変換先ブランド(例:Hemingworth)を選択リストに設定します。

- 実行: Threads Docker 下部の Match All Design Colors(色の四角+矢印のアイコン)をクリックします。

- 結果: 元デザインの色を基準に、選択したブランド内で近い色へ自動的に割り当て直されます。
トラブル対策:ブランド切替後は必ず目視確認
- 症状: 近似はされたが、肌色が少し緑っぽい/金が黄色に寄る、など違和感が出る。
- 原因: 糸ブランドごとに色域が異なり、完全一致が存在しない場合があります。
- 対策: 自動変換後に必ず色を見直します。特に動物や人物など“微妙な色差”が品質に直結する題材は要注意です。
生産メモ:デジタル効率と現場効率はセット
色の一括変換でデジタル側が速くなっても、現場での段取り(枠張りやセット替え)が遅いと全体は伸びません。例えば マグネット刺繍枠 は、布を挟む動作を一定化しやすく、段取り時間の短縮に寄与します。
書き出し前チェック(Go/No-Go)
刺繍機に渡す前に:
- 見本の整理: 不要な Thread Chart が残っていないか
- 変更の整合: グローバル/ローカルの使い分けが意図どおりか
- 不明色の特定: スポイトで曖昧な色を確認したか
- マスター保存: .EMB を保存したか
- 出力: 刺繍機用形式(DST/PES など)に Export したか
- 現物確認: 自動マッピング後、糸コーンの実色で違和感がないか
Primer
デジタル上の配色計画が、現場の糸在庫と一致しているほど、刺繍は安定します。この手順で「使用色の特定」「縫い順の確認」「見本の切替」「一括マッピング」を一連の流れとして再現できるようになります。
ソフト作業に見えても、刺繍機前での停止ややり直しが減れば、結果的に生産性(コスト)に直結します。
Prep
「縫う」ボタンを押す前に、デジタル設計を支える現場側の準備も整えます。
消耗品の見落としに注意
刺繍はレシピです。ソフトが手順を出し、現場が材料を揃えます。
- スプレーのり: 浮かせ貼りやアップリケで有効
- 水溶性ペン: 中心合わせのマーキングに便利
- 糸切りばさみ: ジャンプ糸処理の効率が上がる
- 新しい針: 針先の荒れは糸切れの原因になります
刺繍ミシン 初心者向け の運用では、まずは安定した生地(綿・デニムなど)で色管理の操作に慣れると混乱が減ります。
安定紙(スタビライザー)選定の考え方
シワや歪みは、色の見え方(位置合わせ)にも影響します。次の判断で選びます:
- 伸びる生地(Tシャツ、フーディー)?
- はい: Cut-Away を検討
- いいえ: 次へ
- 白/薄手で透けやすい?
- はい: No-Show Mesh(ポリメッシュ)を検討
- いいえ: 次へ
- 毛足(タオル、ベルベット等)がある?
- はい: 上に水溶性トッピングを置き、細部が沈むのを防ぐ
- いいえ: 標準的なバッキングで対応
Prep チェック(セクション末)
- Threads Docker の糸ブランドが現場在庫と一致している
- 生地に合ったスタビライザー方針を決めた
- 必要な糸コーンを物理的に確保した
Setup
Setup は「PCから刺繍機へ渡す橋渡し」です。
- Threads Docker を開く
- Select Thread Charts を開く
- 使う見本を Selected に入れる
- 不要な見本を外す
効率の基準合わせ: 業務では、ソフトの標準化が第一段階、現場の標準化が第二段階です。例えば マグネット刺繍枠 は、従来のネジ締め枠に比べて着脱が一定化しやすく、枠跡(枠の締め跡)を抑えたい素材での運用にも向きます。
Setup チェック(セクション末)
- 正しい Thread Chart を選択した
- スウォッチをホバーしてブランド/番号を確認した
- Sequence Docker で縫い順を確認した
- 作業スペースが整理されている
Operation
実行フェーズです。次のチェックポイントで迷いを減らします。
手順(チェックポイント付き)
Step 1:使用色の確認
- 操作: 青い使用タグを確認
- チェックポイント: 未使用色が混ざっていないか
Step 2:縫い順の確認
- 操作: Sequence Docker を上から下まで確認
- チェックポイント: 背景→前景、アウトラインが後半など、流れが自然か
Step 3:色変更(全体/部分)
- 操作: グローバル or ローカルで変更
- チェックポイント: 変更が意図した範囲だけに反映されているか
Step 4:在庫ブランドへ合わせる
- 操作: 必要なら Match All Design Colors
- チェックポイント: 自動変換後の見た目に違和感がないか
Step 5:ファイル運用(最重要)
- 操作: 先に .EMB を保存
- 操作: その後、刺繍機用形式へ Export
Operation チェック(セクション末)
- グローバル/ローカルの変更を使い分けた
- スポイトで曖昧な箇所を確認した
- EMB のマスターを保存した(最重要)
- 刺繍機用ファイルを書き出した
品質チェック
品質は“最後に1回”ではなく、習慣化が鍵です。
1. パレットの整合
保存したファイルを開き直し、Design Colors Toolbar が「実際に用意した糸」だけになっているか確認します。余計な色がある場合は、どこで使われているかを長押しハイライトで追います。
2. 下糸(ボビン糸)の見え方
本番前に試し縫い裏面を確認します。
- 目安: 裏で下糸が中央に見え、左右に上糸が見えるバランスを狙います。
3. 枠張りの安定
ソフト上の色が完璧でも、枠張りが甘いとズレて隙間が出ます。標準枠でも マグネット刺繍枠 でも、布は「太鼓の皮のように」張りつつ、伸ばしすぎないのが基本です。
Troubleshooting
1) 「どの色がどこで使われているか分かりにくい」
- 症状: 似た色が多く、画面で区別できない
- 原因: デザインが複雑/モニター表示で差が潰れている
- 対処: スポイト(Eyedropper) で該当箇所をクリックし、表示されるコード(番号)で判断する
2) 「ブランドを切り替えたら色が合わない」
- 症状: 近似色になったが、狙いの印象から外れる
- 原因: ブランド間で色域が一致しない
- 対処: 自動変換は近似まで。重要色は手動で再選定し、物理コーンの実色で確認する
3) 「色編集が消えた(元に戻った)」
- 症状: 開き直したら元の色に戻っている
- 原因: EMB を保存せずに書き出しだけ行い、後から刺繍機用ファイル(DST/PES など)を開いてしまった
- 予防: 変更は必ず EMB に保存→その後に Export。フォルダも「Masters(EMB)」と「Production(出力)」で分ける
注意:機械操作の安全
単針機で色替えや糸掛けを頻繁に行う場合、針棒周辺に指を入れたまま誤ってスタートさせないよう注意してください。可能なら画面のロック機能を使います。
注意:マグネットの安全
生産効率のために マグネット刺繍枠 を導入する場合、マグネットは強力です。吸着時に指を挟む危険があるため、取り扱いに注意し、医療機器や精密機器の近くでは管理ルールを設けてください。
Results
この手順で、使用色の確認、縫い順の把握、糸見本の切替、全体/部分の色変更、そして別ブランドへの一括マッピングまでを、再現性のある流れとして運用できます。
そして最重要のルールはこれです:.EMB は資産(マスター)。刺繍機用ファイルは出力物。
ソフト側の効率が上がっても、枠張りに時間がかかると全体は伸びません。必要に応じて 刺繍用 枠固定台 の導入や、マグネット式の枠システムなど、現場側の段取り改善も合わせて検討すると、趣味運用から業務レベルへの移行がスムーズになります。
