目次
必要な材料:刺繍機・刺繍枠・ビニール
このプロジェクトは「速く、きれいに、再現性高く」を狙ったアップリケの実務例です。布アップリケで悩みがちな“手でのカット作業”を、グリッターHTV(熱転写ビニール)とステッチ順の工夫で置き換えます。
流れはシンプルで、(1) 配置用の下縫い(ガイド線)→ (2) HTV(キャリアシートを剥がした状態)を置く→ (3) 仮止めで固定→ (4) 高密度サテンで縁を作る、の順。ここで重要なのが、サテンがHTVに細かい針穴=“ミシン目”を作ること。結果として、余白のHTVがノートのミシン目みたいにスッと裂けて、ハサミでの細かいトリミングがほぼ不要になります。
特に、起毛感のあるスウェット(Patriceの白いGildan Heavy Blendのような厚みのある素材)で、文字の内側や細いカーブをハサミで追い込むのが不安な人に向いた方法です。

この記事で分かること(なぜうまくいくのか)
- 段取りの考え方: 刺繍機のパネルで糸色(針番号)を割り当て、工程ごとに止めながら進めるための準備。
- アップリケの基本3工程: 配置(下縫い)→ 仮止め → サテン、の順番を崩さない。
- 「リップアウェイ」の要点: サテンの密度でHTVを“ミシン目加工”し、きれいに除去(ウィーディング)する。
- 最終定着: ヒートプレスでHTVを化学的に接着し、洗濯で抜け落ちる事故を防ぐ(325°Fで25秒、圧のかけ方も含む)。
動画内で使用されている道具・消耗品
同じ結果を狙うなら、道具の組み合わせ(エコシステム)を揃えるのが近道です。
- 刺繍機: 業務用の多針刺繍機(Ricoma MT-1501 / Marquee 2001)。
- 枠システム: マグネット刺繍枠(Mighty Hoop、約8x13)。補足:厚手スウェットは枠跡(枠の押さえ跡)や枠ズレが出やすいので、マグネットの保持力が作業性に直結します。
- 材料: ピンクのグリッターHTV(熱転写ビニール)。重要:キャリアシートを剥がして使う前提。
- 糸: 刺繍糸(縁取り=グリーン、文字=ピンク)。
- スタビライザー: カットアウェイのスタビライザー(枠内に見えている)。
- ヒートプレス: クラムシェル型。
- 当て紙: ブッチャーペーパー(またはテフロンシート等)。
- 細部処理: ウィーディングツール(先の尖ったツール)やリッパー。

アップリケの3工程を理解する:配置(下縫い)→仮止め→サテン
アップリケは“感覚”ではなく、工程設計です。ズレや縁のガタつきを減らすには、この3工程を頭の中で分解しておくのが一番効きます。
- 配置(下縫い)ステッチ(地図): 何も載せていない状態の生地に、1周だけアウトラインを縫って「置き場所」を作る。
- 仮止めステッチ(アンカー): HTVが動かないように、もう一度アウトライン付近を縫って固定する。
- サテンステッチ(仕上げ+“ミシン目”): 縁をきれいに見せる高密度のサテン。今回の方法では、この針穴密度がHTVの“切り取り線”になります。
「なぜズレた?」の原因は、多くの場合この(1)と(2)の間(置き方・固定の仕方)にあります。
補足:マグネット刺繍枠が効く理由
スウェットの枠張りは、厚み・縫い代・伸縮に常に邪魔されます。一般的な樹脂枠は押し込みが強く、厚手の起毛を潰して枠跡が残ったり、テンションが不均一になりがちです。
マグネット刺繍枠は“挟み込み”で面を押さえるため、厚手でも比較的フラットに保持しやすいのが利点です。マグネット刺繍枠を検討する場合も、動画と同じ基準で評価してください:枠内がしっかり保持され、Trace(トレース)した位置に配置ステッチが正確に落ちることが最優先です。

縫う前にキャリアシートを剥がす理由(ここが最重要)
ここは必ず止まって確認してください。 この「リップアウェイ」方式で一番致命的なミスが起きやすい工程です。
Patriceは、グリッターHTVの透明なキャリアシートを、枠内に置く前に剥がしています。そのうえで、柔らかい“生のHTV”だけを配置ステッチの上に重ねます。
- 理由: キャリアシートを付けたままだと、針が透明フィルムをスウェットに縫い付けてしまい、余白が裂けず、仕上がりも崩れます。無理に剥がすとステッチを傷める原因にもなります。
- 触って確認: 表はザラっとしたグリッター面、裏は接着面(マット寄り)です。接着面を下にして置きます。キャリアが残っていると“硬さ”が出るので、置く前に手触りで違和感がないか確認します。

注意: 針周りに指・袖・ツールを近づけないでください。HTVを置く/糸を切るなどの作業は、必ず刺繍機が停止状態で行います。
準備:初心者が忘れがちな消耗品と事前チェック
失敗は「縫い始める前」にほぼ決まります。見えない準備を、見える品質に変えるためのチェックです。
- 糸色(針番号)の割り当て: Patriceはパネル上で針番号(15と20)を使い分けています。工程ごとに止めて作業できるよう、事前に割り当てを確認します。
- 糸の通し・テンション: サテンが甘い(密度が出ない/締まらない)と、HTVがきれいに裂けず、縁からはみ出しやすくなります。
- ズレ対策の考え方: 仮止め中にHTVが動くのが不安なら、軽い粘着の補助(スプレー等)を検討する、という判断軸を持っておきます(動画でも言及あり)。
- ゴミ管理: 小さなHTV片は残りやすく、プレスで溶けて“永久汚れ”になりがちです。ウィーディング前後で「穴の中まで」確認する前提で段取りします。

準備チェックリスト(Startを押す前)
- スタビライザー: 枠内全体をカバーするようにセットされている。
- 糸色割り当て: 画面上で色(針番号)が正しい(Patriceは15と20)。
- Trace(トレース): デザインが枠内に100%収まる位置にある。
- HTVの準備: 配置線を完全に覆えるサイズにカットされている。
- キャリア剥がし: 透明キャリアシートは剥がして捨てた。
- ツール: ウィーディングツールとゴミ箱が手の届く位置にある。
リップアウェイ方式:HTVアップリケのウィーディング手順
ここからは、動画の流れを「現場で迷わない粒度」に落とし込みます。各工程での“合格ライン”も併記します。
手順1 — 刺繍機の準備&Trace(トレース)で枠内確認
まずデザインを読み込み、パネルで糸色(針番号)を割り当てます。次に、刺繍ステータス画面からTrace Area(トレース)を実行します。
これは安全確認です。押さえ(フット)が枠の外周をなぞり、枠に当たらないか/位置が狙い通りかを事前に見せてくれます。動画では、より良い位置にするために少し上へ移動して再トレースしています。
- 理由: ricoma mt 1501 刺繍ミシンのような業務用ヘッドでは、枠への干渉はトラブルの元になります。Traceで“当たらない”を先に確定させます。
- 見方: フットの動きと枠内壁の距離を目視し、余裕があるか確認します。

チェックポイント
- フットの動きが枠の内側に収まっている。
- 生地がアーム側に寄って突っ張っていない。
- 位置合わせ:胸位置として違和感がない(動画では少し上に調整)。
期待される状態
- 安心してStartできる状態になっている。
手順2 — 配置(下縫い)ステッチ(生地の上にガイド線)
次に、何も載せていない状態で配置ステッチを縫います。動画では「GRINCHY」のアウトラインが1周縫われ、HTVを置くためのガイドになります。

チェックポイント
- ガイド線が確認できる。
- 大きなシワ寄りが出ていない。
期待される状態
- HTVを置く“的”ができた。
手順3 — グリッターHTVを準備して配置(キャリアは剥がす)
透明キャリアシートを剥がし、配置ステッチを完全に覆うようにHTVを置きます。
- 置き方: 文字全体を確実に覆うことが最優先。端がギリギリだと、サテン縁の内側にHTVが足りず欠けます。

チェックポイント
- ガイド線が100%隠れる。
- HTVが浮いていない。
- 最重要: 透明キャリアシートが残っていない。
期待される状態
- 仮止めで固定できる位置に置けた。
手順4 — 仮止めステッチ(HTVを動かないように固定)
仮止めステッチで、HTVを生地に縫い留めます。動画でも、ズレが心配なら軽い粘着スプレーを使う選択肢に触れています。
- 運用の考え方: 刺繍ミシン 用 枠入れのように枠張りの安定が品質に直結する作業では、仮止め中の“わずかな動き”が最終の縁ズレになります。動きそうなら一度止めて、原因(浮き・テンション不足)を先に潰します。

チェックポイント
- HTVが滑っていない。
- 仮止めが引っ掛からずに縫えている。
期待される状態
- HTVが固定され、次のサテンで“ミシン目”を作れる。
手順5 — サテン縁(仕上げ+ミシン目ライン)
グリーン糸に切り替え、サテンステッチで縁を作ります。動画では、この工程の前後で止められるように、刺繍機の設定を「Automatic Manual」にしておく点が重要として説明されています。
- 現場のコツ: サテンが甘いと、HTVが裂けず、縁からグリッターが覗いたり、ウィーディングで糸を引っ張ってしまいます。まずは“密度が出ているか”を見た目で判断します。
- 運用: ricoma 刺繍ミシンなど多針機は、工程ごとに止められる設定(動画ではAutomatic Manual)にして、置き作業・剥がし作業のタイミングを確保します。

チェックポイント
- サテンがしっかり詰まっている(縁が弱く見えない)。
- 縁がガタつかず、輪郭がきれい。
期待される状態
- サテンがHTVに“切り取り線”を作り、剥がしが楽になる。
手順6 — リップアウェイ(余白HTVを裂いて除去)
サテンが終わったら、外側の余白HTVを裂いて剥がします。動画では、RやAなどの内側(島)を先の尖ったツールで取り除いています。また、プレス前に小さな破片を必ず除去する重要性も強調されています。

チェックポイント
- 針穴ラインで気持ちよく裂ける。
- 剥がすときにサテン糸を引っ張っていない。
- 清掃: 穴の中・周辺に小片が残っていない(プレスで溶ける事故防止)。
期待される状態
- ハサミ作業なしで、縁がきれいなアップリケになった。
コメント由来の補足:布アップリケのトリミングが難しい場合
コメントには「布アップリケで余分な布をきれいに切るのが難しい」という悩みがありました。布の場合は、細かいカーブや文字の内側をハサミで追い込む工程が難所になりやすいです。
その点、このHTVのリップアウェイ方式は、サテンで“ミシン目”を作って裂くため、細かい文字ほど作業が安定しやすいのが利点です(質感は布と異なりますが、作業スピードと再現性が上がります)。
手順7 — 仕上げの文字刺繍
最後に、下の筆記体(「’lil thing」)をピンク糸で縫って完成形にします。

チェックポイント
- 文字が読める。
- 位置が主役(アップリケ)に対して自然。
期待される状態
- 刺繍工程が完了。
仕上げ:異素材(刺繍+HTV)をヒートプレスで定着
刺繍はHTVを“押さえ込む”役割をしますが、HTV自体はプレスで接着させないと定着しません。動画でも「プレスしないと内側が落ちる可能性がある」と説明されています。
プレス条件(動画の設定):
- 温度: 325°F。
- 時間: 25秒。
- 圧: 刺繍の段差があるため、しっかりめ(動画では“extra pressure”)。
- 当て紙: ブッチャーペーパーを上に置く(糸の色移り/熱の当たりすぎ対策)。



注意(マグネットの安全): マグネット刺繍枠は強力です。挟み込み時に指を挟まないよう、合わせ面から指を離して作業してください。
セットアップチェック(縫う前/プレス前)
- 刺繍機が工程ごとに止まる設定になっている(動画ではAutomatic Manual)。
- Trace Areaでデザインが枠内に100%収まっている。
- HTVの透明キャリアシートを剥がしている。
- ヒートプレスが325°Fに到達している。
作業中チェック(品質管理)
- 配置ステッチ: ガイド線が崩れずに縫えている。
- 仮止め: HTVが浮かず、ズレていない。
- サテン: 縁が詰まっていて、HTVがはみ出して見えない。
- 清掃: 小さなHTV片をすべて除去してからプレスする。
スタビライザーと枠張りの判断フロー(スウェット向け)
スウェットは厚みと伸縮があるため、条件に合わせて判断します。
- 厚手(フリース/スウェット)か?
- YES: 枠跡やズレのリスクが上がる。
- 対策: マグネット刺繍枠の保持力を活かす。mighty hoops マグネット刺繍枠のような選択肢を比較する場合も、「厚みを挟んでも保持が落ちないか」を基準にします。
- NO(薄手ニット等):
- 対策: 通常枠でも運用可能(ただしテンション管理は必須)。
- YES: 枠跡やズレのリスクが上がる。
- スタビライザーは?
- 方法: カットアウェイ。
- 理由: 伸縮素材でサテン縁を安定させるため。
- 方法: カットアウェイ。
- 量産(10枚以上)か?
- YES: 位置の再現性が利益に直結。
- 対策: マグネット刺繍枠 用 枠固定台のような枠固定台を使い、毎回の位置決めをルール化します。
- YES: 位置の再現性が利益に直結。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 再発防止 |
|---|---|---|---|
| HTVがズレる | 仮止め前後で保持が弱い/密着不足。 | 一度停止し、HTVを平らに戻す。必要なら軽い粘着補助を検討。 | 仮止め前に浮きをなくす。ズレが出やすい場合は軽い粘着スプレーを使う(動画で言及)。 |
| きれいに裂けない | サテンが甘く、ミシン目が弱い。 | 無理に引っ張らず、内側はツールで丁寧に拾う。 | サテンが“詰まって見える”状態を合格ラインにする。 |
| サテンからグリッターが覗く | サテンが緩い/密度不足。 | その場では大きく改善しにくいので、次回データ側で見直す判断。 | サテンがしっかり詰まる設定・糸調子で運用する(動画でも「tightに」と注意)。 |
| プレス後に小片が溶けて付着 | ウィーディング不足。 | 付着前提にならないよう、プレス前に徹底除去。 | 穴の中(RやAなど)まで必ず確認してからプレス(動画で経験談あり)。 |
仕上がりの合格基準(うまくいった状態)
Patriceの順番通りに進めると、完成品は次の状態になります。
- HTVが文字の中にきれいに収まり、縁がサテンで完全に囲われている。
- 余白のHTVが残っていない。
- プレス後、内側のHTVが簡単に浮かない(洗濯で抜け落ちにくい)。

実務的なステップアップ(趣味→小規模ビジネス)
単針でもこの方法は可能ですが、工程ごとに止めて作業するため、糸替えの手間が増えます。多針機は、糸色を事前に割り当てて止めながら進められるため、同じ手順でも作業がスムーズになります。
- 安定性の強化: 厚手素材の枠張りを安定させるためにマグネット刺繍枠を活用する。
- 作業速度の強化: 多針刺繍機で工程停止を前提に運用し、段取りのロスを減らす。
設定を守り、順番を崩さず、機械に“切らせる”。それがこのリップアウェイ方式の勝ち筋です。
