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SewArtと「実際にきれいに縫える」までをつなぐ実務ガイド
JPGをSewArtに読み込んで自動デジタイズしたら、ミシンがやたら止まる/同じ色の中でも移動と糸切りが多い/仕上がりで色同士がピタッと合わない……。そんな経験があるなら、この手順は役に立ちます。
現場でよく見るのは、原因がソフトだけではなく、データの汚れ(不要な色・点・ギザギザ)と、布に針を何千回も打つ“物理”が重なってトラブルになっているケースです。画面上のピクセルはきれいでも、布は伸びるし、押さえられ方でも動きます。
ここでは動画の紫ドラゴンのクリップアートを例に、標準の4x4インチ(100mm)枠に収める前提で、量産でも通用する「破綻しにくい」データに整えます。目的は「画面で良い」ではなく、「布で安定して縫える」に寄せることです。

1. まずは操作の土台:SewArtツールバーの考え方
SewArtの画面はシンプルですが、初心者にとって最重要なのはブラシでも自動化でもなく、元に戻す(Undo)です。動画でも「最初はUndoが一番大事」と強調されています。
実際に使う基本機能(現場目線)
動画で触れている基本操作を、作業フローとして整理します。
- New / Open:作業開始。
- Save / Save As:段階保存が必須。 例:
Dragon_Cleaned.saf、Dragon_Stitch.pesのように工程ごとに分けます。 - Undo(Ctrl+Z):減色やノイズ除去は「やり過ぎ→戻す」を繰り返して最適点を探します。戻せる前提だと判断が速くなります。

「バージョン管理」発想でやり直しを減らす
「画像を壊して最初からになった」という声は多いです。 対策: 最初から“工程ごとに戻れる”ように作業します。
- Version 1: 読み込み直後
- Version 2: 減色(Posterize)後
- Version 3: ノイズ除去(Image Wizard)後
- Version 4: 刺繍データ書き出し
Version 4がミシン側で問題を起こしたら、Version 3へ戻って調整します。ゼロからやり直さないのがコツです。

2. 元画像の選び方:クリップアートの読み込みと下準備
動画ではローカルにある紫ドラゴン画像を開いて作業しています。なぜこういう画像はうまくいきやすく、写真(ペットや人物)だと失敗しやすいのかを先に押さえます。
手順1 — 画像を開く
- Openをクリック。
- JPG/PNGを選択。
- キャンバス上に配置されていることを確認。

「入力が悪いと出力も悪い」:自動デジタイズ向き/不向き
SewArtのような自動処理は、コントラストとベタ面が得意です。
- 向いている元画像: クリップアート/ロゴ/漫画調(輪郭がはっきり、色が面で分かれている)
- 向いていない元画像: 写真/水彩/グラデーション(微妙な色差を別色として拾い、結果的に“紙吹雪”のような細かい色ブロックになりやすい)
物理側のボトルネック:ソフトが正しくても縫いが崩れる理由
データが整っていても、枠張りが甘いと縫いはズレます。特に brother 4x4 刺繍枠 のような小枠は、張りのムラがそのまま位置ズレとして出やすいです。また、締め付けが強いとデリケート素材では枠跡(繊維つぶれ)が残ります。
現場判断:道具を見直すタイミング
- 目安: 厚物(タオル等)で枠張りがしんどい/ニットで枠跡や歪みが出る
- 基準: 30秒以内に、均一テンションで枠張りできるか
- 対応案:
- レベル1: 浮かし(フローティング)+仮止めスプレー(安いが手間と汚れが出やすい)
- レベル2: マグネット刺繍枠へ切替。内枠を押し込まず、磁力で面圧をかけて固定するため、手の負担と素材ストレスを減らしやすいです。

3. Posterize(ポスタライズ):減色は「停止回数」を減らす工程
ここが機械効率に直結する重要工程です。
手順2 — Posterizeでシンプル化
- Posterizeアイコン(パレット)をクリック。
- 目標:色数を70台(ピクセル由来)から、刺繍向けの管理しやすい数へ。
- スライダーを調整し、細かい点在(小島)ではなく、まとまった色面(大陸)になるところを探します。動画でも「スライダーを触って、色の流れがつながる状態に寄せる」と説明されています。


なぜ効くのか(停止・糸切りの仕組み)
同じ色でも、離れた場所の小さな色ブロックへ移動するたびに、ミシンはジャンプし、機種設定によっては自動糸切り(トリム)が入ります。
- 色数が多い=糸替えが増える
- 同色の小島が多い=停止・移動・糸切りが増える(結果、糸絡み=鳥の巣のリスクも上がる)
見た目の判断基準: プレビューがモザイクやステンドグラスのように細かい破片だらけなら、縫いは荒れやすいです。大きめの面でまとまる方向へ。
4. Image Wizard(画像ウィザード):針と布を守るノイズ除去
Posterizeが「色をまとめる」なら、Image Wizardは「残ったゴミを掃除する」工程です。
手順3 — Image Wizardでデスペックル(点ゴミ除去)
- Image Wizardをクリック。
- Despeckle(ノイズ除去)へ進みます。
- 拡大して確認。画面上では小さな点でも、刺繍では「点のために留め縫い+移動」が発生し、布に硬いコブができたり、無駄な停止が増えます。
- 可能な範囲でしっかり除去します。動画では「最後から2番目あたりの設定から試して、戻りながら調整する」やり方が紹介されています。


現場のコツ:拡大検査(ズームでしか見えない不具合)
100%表示だけで判断しないこと。
- 操作: エッジ部分を400%程度まで拡大して確認
- 合格ライン: 輪郭が滑らかな線・カーブとして見える(階段状のギザギザや孤立点が少ない)

5. 回転・反転:枠内の「安全域」を意識して向きを決める
縫い生成の前に、枠に収まる向きとサイズを確定します。
手順4 — Rotate / Reflectで向きを整える
- RotateやReflectで、枠張りする向き(製品の上下左右)に合わせます。



手順5 — 100mmは“実質上限”:4x4の落とし穴
「4x4インチ枠」は実際には100mm × 100mmが上限です。
- 落とし穴: 4インチぴったり(101.6mm)にすると、ミシン側で「枠に入らない」と弾かれることがあります。
- 対策: 余裕を見て、最大辺を98mm〜99mm程度に収めます(安全バッファ)。動画でも「最小軸を100mm未満にする」と説明されています。


判断フロー:素材×スタビライザー(安定衬)
サイズが合っていても、スタビライザー選定がズレると位置ズレや隙間が出やすくなります。
- 伸びる素材?(Tシャツ、パーカー、ニット)
- YES → カットアウェイ推奨(テアアウェイだと伸びを止めきれず歪みやすい)
- NO(デニム、帆布など) → テアアウェイでも可。ただしカットアウェイの方が安定は強い
- 毛足・凹凸がある?(タオル、フリース)
- YES → 上に水溶性トッパー(フィルム)を追加して沈み込みを防ぐ
- NO → トッパー不要
6. 縫う前の準備:失敗の多くはここで決まる
刺繍データを作っても、実際の縫い環境が整っていないと結果が崩れます。
見落としがちな消耗品
- 仮止めスプレー:浮かしでのズレ防止に有効
- 針:一般用途は刺繍針 75/11。ニットは ボールポイント 75/11 が無難
- 下糸(ボビン糸):巻きがフワフワしている(スポンジ感)ものはトラブルの元。巻き直し推奨
作業効率の話(量産目線) 繰り返し作業では段取り時間が利益を左右します。標準枠はネジ調整や引っ張りが必要になりがちですが、brother 用 マグネット刺繍枠は装着が速く、同条件での繰り返しがやりやすくなります。
注意:安全
稼働中は針棒付近に指を入れないでください。高速運転では反射より針の方が速いです。糸処理は必ず一時停止してから行います。
準備チェックリスト
- 針:新品に近いか(目安:連続稼働8時間程度で交換)
- 下糸:スムーズに繰り出すか
- 枠張り:均一に張れているか(軽く叩いて“張り”を確認)
- 可動域:刺繍アームが干渉なく動くか
7. 仕上げ前の見直し:色ブロック(小島)チェック
チェックポイント:小さすぎる色は「必要か?」を疑う
色一覧に、極端に少ないステッチ数の色(小さな点や欠け)が混ざっていたら、不要な可能性が高いです。必要がなければ減色・統合へ戻ります。
小枠で縫う場合、例えば brother 4x4 マグネット刺繍枠 のように面がフラットに出やすい固定方法だと、位置合わせ(レジストレーション)の良さが出る一方で、データ側の汚れも結果に反映されやすいので、クリーンアップが重要です。
セットアップチェックリスト
- サイズ:最大辺が99mm未満か
- 色数:管理できる色数に落ちているか
- 拡大確認:輪郭の点ゴミが残っていないか
8. 刺繍データ生成:書き出しまでの流れ
手順(動画の流れに沿って)
- Sew Image:刺繍モードへ
- Auto Image:自動で縫い経路を生成
- 塗り(フィル):最初はデフォルトのフィル系が無難。広い面にサテンを使うと引っ掛かりやすいことがあります。
- 保存:Brother系なら PES、業界標準ならDSTなど
「隙間が出る」現象(押し引き)
仕上がりで、塗りと縁取りの間に地が見える“隙間”が出ることがあります。
- 理由: 刺繍は布が引かれたり押されたりして、方向によって寸法が変わります。
- 対策(現場で効きやすい順)
- スタビライザー:伸びる素材はカットアウェイを優先
- 枠張り:枠張り時に布を引っ張り過ぎない。再現性を上げるなら 刺繍用 枠固定台 のような治具で条件を揃える
- ソフト側:SewArtは高度な補正が限定的なため、まずは「点ゴミ削減」「色面の統合」で停止と歪み要因を減らす
量産の再現性 50枚同じ位置に胸ロゴを入れるなら、目測ではブレます。hoopmaster 枠固定台 のような枠固定台を使うと、位置決めが作業標準化できます。
注意:マグネットの取り扱い
強力なネオジム磁石は指挟みの危険があります。布を挟まずにフレーム同士を勢いよく吸着させないでください。医療機器(ペースメーカー等)にも注意。
運用チェックリスト
- 形式:ミシン対応形式(PES/DSTなど)か
- センタリング:読み込み時にキャリッジが正しくセンターへ戻るか
- 試し縫い:本番前に必ず端布+同じスタビライザーでテスト
9. トラブルシュート:症状 → 確認 → 原因 → 対策
| 症状 | すぐできる確認 | ありがちな原因 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 「枠に入らない」 | ミシン画面のエラー | 100mm超 | ソフトで98〜99mmに縮小 |
| 鳥の巣(糸絡み) | 異音/布が動かない | 上糸の掛け直し不良 | 押さえを上げて上糸を掛け直す(テンション皿を開く) |
| 色の間に隙間 | 地が見える | 布ズレ/伸び | カットアウェイ+安定した枠張り(必要ならマグネット枠) |
| 針折れ | 「パチン」と音 | 針の曲がり/負荷 | 新しい75/11へ交換、糸道確認 |
| 停止が多い | しょっちゅう止まる | 小島が多い/点ゴミ | Posterize+Image Wizardで徹底的に整理 |
「PESで保存できない」問題
SewArtで「PESで保存」がグレーアウトする場合、先に“画像”として保存が必要なことがあります。 対処: File > Save(画像を保存)→ その後 File > Save As(刺繍データを書き出し)
10. まとめ
デジタイズは、PCとミシンの“会話”です。Posterizeで単純化し、Image Wizardでノイズを落とし、100mm未満に安全域を取ってリサイズする。この流れを守るだけで、初心者がつまずきやすい停止増加・ズレ・隙間の多くは減らせます。
そして最後に重要なのは、ソフトだけで完結しないこと。データが良くても枠張りが甘ければ崩れます。スタビライザー、針、下糸の基本を整え、必要に応じて brother pe800 用 マグネット刺繍枠 のような治具・枠で作業条件を安定させてください。
押さえを下げ、糸を整え、まずは端布で一枚。そこからが上達の最短ルートです。
