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フラット刺繍に必要な材料:量産前提で考える
スウェットのような厚手アイテムのフラット刺繍は、一見すると単純に見えます。しかし実際は、起毛や厚みで枠張りが難しくなったり、ニット特有の伸びで位置が流れたり、ほんのわずかなズレが一着を台無しにすることもあります。単発制作から量産に移るほど、ミスの許容範囲は一気に狭くなります。
ここでは動画で実演されている Smartstitch S-1502HC(2頭の多針刺繍機) のワークフローを、現場で再現できる形に分解します。ボタン操作だけでなく、なぜ「スタビライザーをまとめて切る」「長方形のマグネット刺繍枠を使う」「アップリケ用にオフセットを入れる」といった選択が、安定した品質と安全性、そして作業効率につながるのかまで整理します。



ここで身につくこと(失敗を避けるための要点)
- 段取り(まとめ切り): スタビライザーを「4枚に事前カット」しておくと、2頭運用の流れが止まりにくい。
- 厚手の枠張りの考え方: マグネットの保持力を使い、無理な押し込みを減らして枠跡(枠跡)や歪みを抑える。
- 位置合わせの最終確認: トレース機能を“最後の保険”として必ず使う。
- アップリケの安全設計: 7cmオフセットで枠を手前に逃がし、トリミングをやりやすくする。
- 2頭同時の再現性: 2着同時でも同じ条件で揃えるための確認ポイント。
理想は「腕力で布と戦わない」段取りです。枠に入れるたびに生地を押し込んで疲れる、10枚で手首が限界になる——そう感じるなら、道具側を見直すタイミングです。現場では、作業を滑らかにする具体的なアップグレードとして、品質の安定した 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 が選ばれることが多いです。
Step 1:準備とマグネット枠張りの基本
準備:まずスタビライザーを整える(基礎工事)
動画では、スタビライザーを行き当たりばったりでちぎって使っていません。大きめの平らな作業台でロールを広げ、スウェットに触る前に「4枚」に切り分けています。量産ではこの癖が、そのままスループットに直結します。
なぜ「まとめ切り」が効くのか: 業務でも小規模工房でも、刺繍機のリズムを止めてハサミを探すのはロスです。先に必要枚数を揃えておくと、刺繍中に次の枠張り準備へ回せます。
スタビライザー選定の補足: 動画ではスウェットに ティアアウェイ(tear-away) のスタビライザーを使用しています。
- チェックポイント: ティアアウェイは剥がしが早く、厚手で比較的安定した生地+アップリケのような構成では運用しやすい。
- 補足: ここでは動画の実演に合わせてティアアウェイ前提で進めます(別素材での選定は、必ず自社基準と試し縫いで判断してください)。


長方形マグネット刺繍枠で枠張りする
スウェットの枠張りで、一般的な樹脂フープ(内枠・外枠)を「押し込む/締め込む」作業は負担が大きく、枠跡(枠跡)や歪みの原因になりがちです。マグネット刺繍枠は摩擦で締めるのではなく、上下方向の磁力で保持するため、厚手でも作業が安定しやすくなります。
動画の手順(そのまま再現できる流れ):
- 下枠のセット: スウェットの中に 下側の金属フレーム を入れます(前身頃と後ろ身頃の間に差し込む)。
- ならし: 事前カットしたスタビライザーと前身頃を、下枠の上でしわを伸ばしながら整えます。
- 位置合わせ: チョークで付けたセンター十字を基準に、刺繍中心を合わせます(動画でもセンターマークを入れています)。
- 上枠を“順番に”置く: 上側のマグネット枠 を一気に落とさず、端から順に置いて磁力で固定していきます。

テンションの「体感チェック」
どの程度張れていればOKかを、作業者の感覚に落とし込みます。
- 触って確認: 上枠が固定できたら手のひらで表面をなで、ピンと張れているか確認します。張りは必要ですが、引っ張って伸ばし切るのはNGです。
- 音で確認: 磁力がしっかり噛むと、はっきりした「カチッ」という感触・音が出ます。弱い場合は、生地が二重に噛んでいる/縫い代や厚い段差を巻き込んでいる可能性があります。
注意: 指はさみ注意。 マグネット刺繍枠は磁力が強いので、上枠を置く“吸着ゾーン”に指を入れないでください。
見落としがちな消耗品と段取りチェック
動画に映るのは最低限の道具ですが、実務では「途中で止まらない」ための準備が効きます。
- ハサミ: アップリケのトリミングに使うため、切れ味が落ちていると生地を引っ張ってズレの原因になります。
- アップリケ用の布: あらかじめ必要サイズにカットして手元に置きます(動画でもピンク/白の布を準備しています)。
段取りチェック(Go/No-Go)
- スタビライザー: 2頭運用に合わせて必要枚数を事前カット(動画は4枚)。
- マーキング: センター十字が見える(枠張り後も確認できる濃さ)。
- 枠張り面: しわ・たるみがない(厚手ほど“ならし”が重要)。
- アップリケ布: すぐ置ける位置に準備済み。
- 安全: 上枠を置くときの指位置を徹底(指はさみ防止)。
位置合わせの再現性を上げたい場合は、作業基準を作りやすい 刺繍用 枠固定台 の導入で、毎回同じ位置に枠張りしやすくなります。
Step 2:S-1502HCの操作パネル設定(フレームJ/トレース)
物理的な枠張りができたら、次は「機械側に正しい条件を伝える」工程です。動画では、両ヘッドに枠を装着し、操作パネルでフレーム選択やトレース、針の選択、色設定、そしてアップリケ用オフセットを設定しています。



枠の装着手順(2頭とも同じ基準で)
- マグネット枠のアームを、パンタグラフ側のブラケットに差し込みます。
- チェックポイント: 左右とも確実に「カチッ」とロックされていること。軽く揺すってガタがないか確認します(ガタはズレの原因になります)。
操作パネルの設定(動画の流れ)
- フレーム選択: メニューから フレーム「J」 を選択します。
- 理由: 実際の枠サイズと機械の認識がズレると、針が枠に近づきすぎたり、最悪の場合フレームに干渉するリスクが上がります。
- センタリング: 矢印キー等で、(動画では)針1をセンターマークに合わせます。
- トレース: デザイン外周をトレースして、枠内に収まるか確認します。
- 色設定: データの色順と糸色が合っているか確認します。



トレースは省略しない(厚手ほど必須)
トレースは、縫わずにデザイン外周をなぞって「当たりそうな場所」を事前に見つけるための機能です。
- 見るポイント: マグネット枠の壁(フレーム)に近づきすぎないか。
- 見るポイント: スタビライザーの範囲からデザインがはみ出していないか。
- 運用ルール: トレースで問題がないことを確認してからスタート。これが最も安い保険です。
刺繍ミシン 用 枠入れ の手順としても、トレースが終わるまでは「枠張りが検証できた」とは言い切れません。
設定チェック(運転前のプリフライト)
- 装着: Head 1/Head 2 とも枠が確実にロックされている。
- フレーム: 画面表示がフレーム「J」になっている。
- 中心: 針位置がセンターマークに合っている。
- 干渉: トレース完了、枠や生地段差に当たらない。
Step 3:アップリケのオフセット設定(7cm)とトリミング
アップリケは付加価値が高い一方で、トリミング時に手元作業が増え、リスクも上がります。そこで動画では「オフセット(枠を手前に出す)」を使い、作業スペースを確保しています。
“安全に切れる位置”を作る
動画ではオフセット値を 7(7cm) に設定しています。
- 動き: 配置縫い(アウトライン)後に停止し、枠が 手前に7cm 出てきます。
- メリット: 針周りから距離が取れるため、無理な姿勢で手を入れずに済み、視認性も上がります。
※アップリケを行わない場合は、動画内の注意どおりオフセット設定は不要です。

アップリケの流れ(動画の順序)
- 配置縫い: まずアウトラインを縫います。
- 枠出し(Frame Out): オフセット設定により枠が手前に移動します。
- 布を置く: アップリケ布を所定位置に置きます。
- トリミング: 余分な布をハサミでカットします(動画では枠が出た状態で切っています)。
- 復帰: 枠が元位置に戻り、刺繍を続行します。


トリミングの基準(切りすぎ/残しすぎを避ける)
- 切りすぎ: 配置縫いの糸を切ると、布が浮いたりズレやすくなります。
- 残しすぎ: 端が残りすぎると、後のサテン(カバー)で隠しきれず毛羽が出ることがあります。
Smartstitch 刺繍枠 の説明で「オフセット等の動作を想定」といった表現がある場合、こうした枠移動時に干渉しにくい枠形状・運用を意識しているケースがあります。
注意: 枠が手前に出ても機械は通電状態です。針棒周辺に手を近づけないこと。トリミング中にスタビライザーや生地を持ち上げすぎると、マグネットが浮く原因になります。
Step 4:縫い進めと品質確認(2頭同時運用)
仕上げはサテン(カバー)などの密な縫いで、アップリケ端を隠し、見た目を完成させる工程です。S-1502HCのような2頭機では、同条件で同時に縫い進みます。
運転中の見方
- 縫い目の出方: 走り始めは特に、縫い目が安定しているかを目視します。
- 糸調子の傾向: サテンが痩せる/荒れる場合は、上糸・下糸(ボビン糸)のバランスや針周りの状態を疑います。


重要な観察ポイント
- バタつき(フラッギング): 生地が針に合わせて上下に跳ねるなら、枠張りが甘い/厚みで押さえが効いていない可能性があります。スキップの原因になります。
- 位置ズレ(位置合わせ): サテンが配置縫いに対してズレる場合、枠が滑っている・生地が動いている可能性があります。

仕上げチェック(完了判定)
- 配置: アップリケ布が必要範囲を十分に覆っている。
- トリム: 余分な布がきれいに処理され、糸くずが針の邪魔をしない。
- 安定: 縫製中にバタつきが出ない。
- カバー: サテンが端をしっかり覆い、隙間がない。
- 2頭一致: Head 1/Head 2 の仕上がりが揃っている。
量産で位置ズレを減らしたい場合、マグネット刺繍枠 は保持力が安定しやすく、枠の締め込みムラによる滑りを抑えやすい選択肢になります。
判断フロー:スウェット刺繍の段取りを最適化する
動画の内容をベースに、現場で迷いやすいポイントを整理します。
- アップリケ作業があるか:
- トリミングが必要 → オフセット(Frame Out)を有効化(動画は7cm)。
- アップリケなし → オフセット設定は不要。
- 量産か単発か:
- 複数枚を回す → 枠張りの再現性と作業負担を優先し、マグネット枠+段取り(事前カット)を徹底。
- 単発 → まずはトレースと中心合わせを丁寧に。
- 位置合わせの標準化:
- 毎回ズレる → マグネット刺繍枠 用 枠固定台 などで基準を固定し、同じ置き方を作る。
トラブル対応:現場で止めないための切り分け
| 症状 | ありがちな原因 | その場の対処 | 再発防止 |
|---|---|---|---|
| 針が折れる/危険な音がする | フレーム選択ミス、または枠のロック不完全で干渉 | 即停止→フレーム「J」を再確認→再トレース | トレースを省略しない/装着時の「カチッ」を確認 |
| サテンが配置縫いからズレる | 枠の滑り、枠張りの甘さ、厚み段差の巻き込み | 一度止めて枠張り状態を確認(必要ならやり直し) | 上枠は端から順に置く/センターマークで合わせる |
| トリミングがやりにくい | オフセット未設定、枠が奥で作業空間がない | オフセットを設定(動画は7cm) | アップリケ工程がある色にオフセットを割り当てる |
まとめ:オペレーター作業を“再現できる工程”にする
動画では、Smartstitch S-1502HCでスウェット2着に同時刺繍を行い、アップリケを含むデザインを安定して仕上げています。ポイントは「段取り」「枠張り」「機械設定(フレームJとトレース)」「アップリケ用オフセット(7cm)」を、毎回同じ手順で回すことです。
安定して同品質を出すための要点は次の3つです。
- 準備を先に終わらせる: スタビライザーは事前に必要枚数をカット。
- 枠張りを楽にする: 厚手には smartstitch マグネット刺繍枠 のようなマグネット枠で負担とムラを減らす。
- 機械の安全機能を使い切る: トレースとオフセットで、干渉と作業リスクを下げる。
刺繍は変数の管理です。枠張り、スタビライザー、そして機械側の設定を揃えるほど、失敗要因は減ります。単頭運用でも多頭運用でも、利益を守るのは「安定」と「位置合わせ」の積み上げです。
