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SophieSewでのデジタイズ調整:はじめに
画面上ではピッタリ合って見えるのに、実際に縫ってみると塗り(フィル)と縁取り(アウトライン)の間に、布色がチラッと見える“抜け”が出る——これは珍しい失敗ではありません。特に経験が浅い段階で最も起きやすいポイントです。理由はシンプルで、刺繍はデータではなく「物理」だからです。縫い込みによる引き込み(プル)で布が内側へ寄り、塗りとアウトラインの境界がズレて見えます。
このケーススタディでは、SophieSew上で「Adventure Time」のフィオナ(Fionna)帽子デザインを題材に、仕上がりを“量産に耐える状態”へ詰めていきます。具体的には、サテンアウトラインの形状(Upper/Lower Height)を調整して隙間を潰し、Program Stitch(プログラムステッチ)で質感を付け、最後に3Dモードでオブジェクトの重なり(見え方)を確認します。
狙いは、(1) 塗りに対してアウトラインが物理的に十分かぶさって隙間が出ない、(2) 質感が見えるのに硬くなりすぎない、(3) 3D表示と縫い順の整合が取れている——という「現場で安心して回せるデータ」です。


問題の正体:塗り(フィル)とアウトラインの隙間
隙間は“線がズレている”というより、縫製時の布の動き(プル)を見込めていないサインです。データ上で塗りとアウトラインが面一(ツライチ)になっていると、縫い込みで布が寄った分だけ、ほぼ確実に境界が割れて見えます。
SophieSewでこの症状に効く調整レバーが、サテンアウトラインの Upper Height / Lower Height です。
ここでのイメージは「線の左右にどれだけサテン幅を振るか」です。Upper/Lowerを偏らせることで、アウトラインを塗り側へだけ太らせて“かぶせ”を作ることができます。外側まで太らせるとデザインが野暮ったくなるので、狙いはあくまで“内側へ寄せる”ことです。
帽子案件の現実チェックとして、キャップの曲面は歪み要因になります。データが良くても、枠張りの再現性が低いとズレが増えます。現場では、毎回同じ位置・同じテンションで固定するために専用の枠固定台を使い、人的ブレを減らす運用も一般的です。

Step 1:サテンアウトラインを締める(Upper/Lower Height)
Design and Edit Modeに入る(個別オブジェクトを選択できる状態にする)
- SophieSewでプロジェクトを開きます。
- 上部バーの Design and Edit Mode をクリックして編集モードに切り替えます。
- 拡大縮小: Ctrl + マウスホイールで、ノードや境界が見えるところまで拡大します。
チェックポイント: グリッドが見え、線にカーソルを当てたときに「アウトライン(縁)」なのか「リージョン(塗り)」なのか、狙っている対象が判別できる状態になっていること。

耳のアウトライン:塗り際の“抜け”を消す基本調整
ここが今回の“隙間対策”の核です。アウトラインを塗り側へ意図的にかぶせ、布の引き込みが起きても割れない余裕を作ります。
- 耳の線にカーソルを当て、SophieSewがアウトラインとして認識しているのを確認します。
- 右クリック → Object Properties。
- Outlineタブへ移動。
- 次の値を入力します(動画内の設定):
- Upper Height:0.5
- Lower Height:0.1
なぜ効く?(現場感のある理解) Upper/Lowerを非対称にすることで、サテン幅が片側(塗り側)に寄り、境界に“かぶせ”ができます。結果として、縫い込みで塗りがわずかに縮んでも、アウトラインが塗り端を覆って隙間が見えにくくなります。
見た目での確認: プレビュー上で、サテン柱が片側だけ太くなっている(塗りに接する側が厚い)こと。

デフォルトとの比較(何を直しているのかを目で掴む)
動画では、デフォルト値だとアウトライン幅が中央寄りになり、太く見える割に隙間対策としては効きにくい、という差が示されています。
- Show Stitch(ステッチ表示)でシミュレーションを確認します。
- 0.5/0.1にすると、外側は細く、内側だけが効率よく“かぶさる”境界になります。


耳の塗り(フィル)側:ステッチ種を確認(“直す対象”を間違えない)
アウトラインばかり触っていても、塗り側の設定を取り違えると結果が崩れます。まずは塗りが標準的な設定であることを確認します。
- 耳の塗りリージョンを右クリック。
- Object Properties。
- Stitch Typeが Tatami になっていることを確認します。
補足: 動画では耳の塗りは基本的にデフォルトのTatamiで進めています。必要に応じてピッチや補正を触ることはあっても、今回はアウトライン側のUpper/Lower調整が主役です。

帽子のアウトライン:外側は細く、内側は“橋渡し”で隙間を潰す
同じUpper/Lowerでも、線の役割で狙いが変わります。外周は繊細に、内側(塗りと接する線)は隙間を潰すために寄せます。
外側の帽子アウトライン(見た目をシャープに):
- 外側アウトラインを選択。
- 設定:
- Upper Height:0.1
- Lower Height:0.1
内側の帽子ライン(塗りとの境界を埋める):
- 内側ライン(帽子と顔/髪が接する側)を選択。
- 設定:
- Upper Height:0.1
- Lower Height:0.5
チェックポイント: 内側ラインは、塗り側へ向かって太くなり、境界の“抜け”を覆う方向に効いていること。


注意: テスト縫いでジャンプ糸を手で処理する場合、ハサミは寝かせて扱い、針の動作中に糸を引っ張らないでください。針曲がりは糸切れ・針折れの原因になり、作業者の安全面でもリスクになります。
事前チェックリスト(作業ミスを減らす)
- 対象確認: いま触っているのは「アウトライン」か「塗り」か。
- 拡大確認: 十分に拡大し、アウトラインが塗り側へ“かぶさる”方向に変化しているか。
- 表示確認: Show Stitchで、幅が中央に広がっていない(外側が太りすぎていない)か。
Step 2:Program Stitchで質感を付ける
質感は見栄えを上げますが、ステッチ数が増えやすく、帽子では硬さ(ゴワつき)につながります。ここでは「見えるけど硬くしすぎない」落としどころを、動画の設定に沿って作ります。
顔:ダイヤ柄のProgram Stitchでテクスチャを作る
- 顔のリージョンを選択。
- Stitch Typeを Tatami → Satin に変更します。
- Programを有効化します。
- パターン一覧から、ダイヤ形のアイコンを選択します。
結果: ベタ塗りとは違う反射になり、顔の面が“のっぺり”しにくくなります。


髪:Waveパターン+回転3°で流れを揃える
- 髪のリージョンを選択。
- Programを有効化。
- パターンから Wave を選択。
- Rotationを3 degrees(3°)に設定します。
チェックポイント: プレビューでウェーブが髪の流れに沿って下方向へ整い、違和感のない方向になっていること。

目と口:細部のサテン設定を整える
目:
- 標準の Satin Stitch を使用(動画では基本設定)。
- 3D表示で、顔のテクスチャより上に見える状態を確認します。
口:
- 口のオブジェクトを選択。
- Upper Height:0.2 / Lower Height:0.2 に設定します。

Step 3:3Dモードで重なり(レイヤー)を点検し、必要なら並び替える
刺繍は“積層”です。見た目の前後関係と、縫い順(後から縫うほど上に乗る)が噛み合っていないと、意図しない被りが起きます。
3Dモードで見え方を確認し、Edit Modeで順序を直す
- 3D Modeをクリックして見え方を確認します。
- チェックポイント: 例えば耳が髪の上に貼り付いたように見えるなど、前後関係が不自然になっていないか。
- Edit Modeに戻ります。
- 対象オブジェクト(例:耳)を選択。
- Region/Outline Position → Move to Back を使って背面へ移動します。
補足: 動画でも強調されている通り、3Dモードはあくまで表示確認で、実際の仕上がりは縫い順に依存します。違和感が出たら、編集モードで順序を調整します。

グループ化されている場合:解除してから並び替える
SophieSewでは取り込みデータがグループ化されていることがあります。
- グループを選択。
- ツールバーの Disassociate objects in group(グループ解除)アイコンをクリック。
- 個別オブジェクトを選べる状態にしてから、Move to Back等で順序を調整します。


実行前チェック(縫い始める前に見るところ)
- 重なりの整合: 背景→中景→細部の順に“上に乗る”設計になっているか。
- 隙間対策の適用漏れ: 塗りと接するアウトラインにUpper/Lowerの偏り設定が入っているか。
- 質感方向: 髪のWaveがRotation 3°で狙いどおりの流れになっているか。
まとめ:狙いどおりに“詰まった”データにする
この調整で得られる成功指標はシンプルです。
- 見た目: 塗りとアウトラインの間に布色が見えない。
- 質感: 顔のダイヤ、髪のウェーブが潰れずに読める。
- 構造: 3D表示で違和感がある箇所は、Edit Modeで順序を直して整合が取れている。
最後に、コメントでは「作成した刺繍データを販売・共有しているか」という質問がありました。データ配布の有無は制作者の方針次第ですが、少なくとも本記事の内容は“データを配る/配らない”に関係なく、手元のデザインで同じ考え方(Upper/Lowerでかぶせを作る→Program Stitchで質感→3Dで重なり確認)として再現できます。
