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枠張りがわずかに斜めになる——これはマシン刺繍の現場では「あるある」ですが、仕上がりに直結する厄介なズレです。測って印を付けて、内枠を押し込み、いざ機械に付けたら生地が数度傾いている……。
量産現場だと、こうしたズレは「ドリフト(位置ズレの原因)」として扱われ、以前なら枠を外してやり直し=時間ロス+生地ダメージ(枠跡)につながっていました。そこで役に立つのが、Husqvarna Viking Designer EPIC 2の Design Positioning(デザイン位置合わせ) です。
このガイドでは、動画でDebbieが行っている「斜めに置いた黒い布テープに、文字“PERFECT”をまっすぐ(布の角度に沿って)刺す」流れを、実務で再現できるように工程化します。ポイントは、ウィザードの4ステップを“画面上の操作”と“針位置での実測確認”に分けて確実に行うことです。

Design Positioningが必要になる理由
Design Positioningは、物理的な枠張りの誤差をデジタルで補正するための機能です。刺繍枠(フープ)の軸と、生地(または貼り付けたパーツ)の軸がズレていても、基準点を2点取って角度を合わせることで、刺繍データ側を現物に同期させます。
動画では分かりやすくするために、黒い布テープを大きく斜めに置いています。実務では、次のような場面で特に効果があります。
- 枠のやり直しがリスクになるとき: 枠を締め直すたびに枠跡が出やすい素材・仕上げ(枠跡が残りやすい案件)。
- 四角く固定しにくいとき: 先に作られたパーツや既製品など、完全にスクエアに枠張りしづらい対象。
- 直線・平行が命のとき: 文字やラインなど、少しの傾きが目立つデザインを、裾・テープ・ストライプに平行に走らせたいとき。
刺繍ミシン 用 枠入れ の工程を突き詰めるほど、「毎回100%の物理精度」は構造的に難しいと分かります。Design Positioningは、その現実を前提にして
- 開始位置を固定(アンカー)し、
- 2点目で角度(回転)を決める
という考え方で、ズレを“制御可能”にします。
フローティング(浮かせ貼り)の保険として スタビライザーだけを枠張りし、上に素材を貼って刺す「フローティング」は枠跡対策として有効ですが、貼り付け時のわずかな角度ズレが起きやすい手法でもあります。Design Positioningは、その“わずかな角度”を仕上げ前に吸収するための相棒になります。

EPIC 2の準備:枠サイズと文字データ作成
精度の高い位置合わせは、入力(設定)と前準備の精度で決まります。ソフトが補正できるのは「角度・位置」であって、枠が緩い/素材が動くといった物理問題までは救えません。
動画のセットアップ(見えている範囲)
- 生地: 黒い織物のテープ状生地
- 下の層: 白いスタビライザー(下地として枠張りされている)
- 糸: 赤の刺繍糸
- 機械: Husqvarna Viking Designer EPIC 2
見落としやすい準備チェック(位置合わせの前提条件)
「位置合わせ機能があるから何とかなる」と思いがちですが、枠が緩い状態や素材が浮く状態だと、合わせた瞬間は良くても縫っている途中でズレます。
チェックポイント(作業前)
- 枠張りの張り: スタビライザーがたるんでいないこと。指で軽く押しても波打たない状態が目安です。
- 可動域の安全: 刺繍アームが端まで動きます。機械の背面・左右に物がないことを確認します。
注意(機械安全): Step 2/4で画面の矢印操作をすると刺繍アームが動きます。針位置を確認するために手を近づける場面がありますが、矢印操作中は押さえ周辺に指を入れないでください。挟み込みや針先でのケガにつながります。
文字データを作る(動画と同じ例)
Debbieは画面操作で次のように作成しています。
- Alphabet(文字) を開く
- フォント Clarendon を選ぶ
- 大文字で「PERFECT」と入力
- OK で確定
補足: 文字は傾きが非常に目立つため、位置合わせ精度の確認に向いています(基準線=“目が拾うライン”がはっきり出る)。


正しい刺繍枠サイズを選ぶ(重要)
動画ではメニューから 360 x 260 mm の刺繍枠を選択しています(口頭では「200」と言っていますが、画面上の選択は260です)。
ここがズレると起きること 機械は、選択した枠サイズの座標系(中心・可動範囲)で位置合わせを計算します。枠サイズが実物と違うと、合わせ込み自体が破綻し、最悪の場合は可動範囲の端で無理な動きになり得ます。
husqvarna viking 用 刺繍枠 を追加購入する場合も、機械側の枠設定が実物と一致しているかは必ず確認してください。ここが合っていないと、位置合わせは成功しません。

4ステップ・ウィザードの全体像
EPIC 2では、複雑な位置合わせを4ステップのウィザードに分解しています。刺繍画面下部の Flower Icon(花のアイコン) から呼び出します。
考え方(手順の意味)
- Step 1 & 2: 1点目(開始側)を「画面上」と「実機の針位置」で一致させて固定する
- Step 3 & 4: 2点目(終端側)を使って角度を決め、デザイン全体を回転させて現物に合わせる
つまり、最初の点を“蝶番(ヒンジ)”にして、2点目で回転量を確定させる流れです。

Step 1 & 2:デザインのアンカー(基準点)を固定する
Step 1 — 画面上でアンカーポイントを置く
Step #1を選ぶと、クロスヘア(照準)がターコイズ色になります。
- 操作: Pan(手のアイコン) で拡大・移動して見やすくする
- 操作: Move(矢印) に戻し、ターコイズの「X」を文字「P」の 左下の角 に正確に合わせる
なぜ“角”なのか 中心点は曖昧になりやすい一方、セリフ体の角は「合っている/合っていない」が判断しやすい基準点になります。位置合わせは“曖昧さを減らす”ほど安定します。


Step 2 — 針を生地の狙い位置に合わせて固定する
Step #2を選ぶと、画面の矢印操作が実機の刺繍アーム移動になります。
- 操作: 針が黒い布テープの中心(開始位置にしたい点)に来るように、矢印で枠を動かす
- 確認: 針を下ろして(手動またはニードルダウン操作で)先端が“狙い点”に落ちるかを見る
チェックポイント(視差対策) 座ったまま斜めから見ると、針先がズレて見えることがあります。可能なら目線を上げ、針棒を真上から見る意識で確認します。


枠跡が怖くてStep 2に時間がかかる場合 位置合わせに慎重になるほど、枠の締め直し(やり直し)を避けたくなります。ただし、締め直しのたびに素材が動く環境だと、合わせ込みが不安定になります。
- 対策の方向性: 物理固定の再現性を上げる
- 現場の選択肢: husqvarna viking 用 マグネット刺繍枠 のように、上から均一に保持できる方式は、締め込みによる生地の引きずりを減らしやすい(作業者の手の負担軽減にもつながる)
※ここでは“位置合わせ機能の使い方”が主題のため、枠の種類による差は「ズレの出やすさ」に関係する、という範囲に留めます。
Step 3 & 4:角度を合わせて仕上げ精度を出す
Step 3 — 回転の基準点(2点目)を置く
Step #3で2つ目のクロスヘアが出ます。
- 操作: 画面を移動・拡大し、文字の終端側へ
- 操作: 文字「T」の 下側中央 にクロスヘアを合わせる
コツ:2点目はできるだけ離す 1点目に近い場所を2点目にすると、1mmの誤差が角度誤差として大きく出ます。終端(この例では「T」)のように距離を取るほど、角度合わせが安定します。

Step 4 — デザインを回転して生地の角度に合わせる
Step #4を選ぶと、矢印が回転操作になります。
- 操作: 回転矢印でデザインを回し、2点目(T側)でも針が黒い布テープの中心に来るように合わせる
ここで起きていること 画面上の「PERFECT」が、生地テープの斜め角度に沿うように傾いていきます。これで「データの角度」と「現物の角度」が同期します。


注意(マグネット枠の取り扱い): マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠を使う場合、強い磁力で金属工具が引き寄せられることがあります。位置合わせ中は刺繍ベッド上にハサミ等を置かず、可動域をクリアに保ってください。
判断基準:やり直すべきか/Design Positioningで進めるべきか
Design Positioningは万能ではありません。次の基準で判断します。
- A:生地は斜めだが、平らで張りがある
- 対応: Design Positioningで補正する(やり直しより速い)
- B:斜めの原因が“たるみ・浮き・シワ”
- 対応: いったん止めて物理側を修正(ソフトでは直らない)
- C:量産で毎回補正が必要になっている
- 対応: 1枚ずつ補正するより、投入の再現性を上げる治具化を検討(例:刺繍用 枠固定台 のような 枠固定台 の導入)
最終の縫い出し(刺繍開始)
位置合わせが取れたら、チェック(確認)で確定し、刺繍を開始します。
チェックポイント(縫い始め直前の最終確認)
- 枠の端干渉: 回転させた結果、デザインが枠の端に寄りすぎていないか
- 針落ちの再確認: Step 2(P側)とStep 4(T側)で狙った位置に針が来ているか


仕上がり確認:「まっすぐ」の定義を決める
動画では、刺繍後に枠から外すと、文字が黒い布テープの角度に沿ってきれいに揃っています。
合格の見方(現場向け)
- 基準線の一貫性: 文字列の下端が、テープのエッジ(または想定ライン)と平行に見える
- 基準点の再現: 「Pの開始点」「T側の位置」が、針を落として確認した点と一致している
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 | 再発防止 |
|---|---|---|---|
| 途中から角度がズレる | 縫製中に素材が動いた(押し引き・浮き) | いったん停止して固定状態を見直す | スタビライザーの張りを上げ、貼り付け・固定を安定させる |
| 全体が狙いから数mmずれる | 針先確認時の視差(斜め見) | 画面で微調整し、針落ちで再確認 | 針を真上から見て確認する手順を固定化 |
| ウィザードが見つからない | 刺繍画面の文脈が違う | 刺繍(スティッチアウト)画面に戻る | 花のアイコンは刺繍画面下部から呼び出す |
コメントから見える“つまずき”の正体
コメントでは「ずっと探していた」「この機能は衝撃的」「可能性が広がる」といった反応があり、機能そのものよりも“使い方が分からない”ことが壁になりやすいと分かります。
現場の考え方:機械を“機能の道具箱”として扱う husqvarna viking 刺繍ミシン は、ソフト(位置合わせ)とハード(枠・固定・針落ち確認)をセットで使って初めて安定します。
- たまにズレる → Design Positioningで補正して時間短縮
- いつもズレる → 枠張り工程・固定方法の再設計(枠や治具の見直し)
花のアイコンを押し、2点を正確に取り、針落ちで確認する。これを手順として固定できれば、位置合わせは「勘」ではなく「工程」になります。
