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1 プロジェクトの概要(何を・いつやるか)
本プロジェクトの目的は、画像をソフト上で正確にデジタイズし、広い面積を均一で安定したタタミ塗りで満たすことです。題材は円と三日月の2色構成で、最終的に3DのTrue Viewでも整った見た目になるよう、角度と下打ちを最初に設計します。
- 何をやるか:画像のインポート、サイズの確定、タタミ塗りの仕様作成(密度/長さ/最小値/エッジ挙動/カスタムパターン/下打ち)、2色のフィル作成。
- いつやるか:本稿は「前編」。最終的なアウトラインや残りの要素は後編以降に分ける想定です。
- 適用範囲:広い面積をフラットにカバーしたいロゴやアイコン、バッジ風のモチーフに向きます。
注意:本稿はソフト操作に限定し、実機刺繍・フーピング・糸色管理などは扱いません。なお、現場では刺繍用 枠固定台やhoopmaster 枠固定台などの補助治具を使う体制を整える場合がありますが、ここでは手順説明の範囲外として触れるみに留めます。

1.1 完成像のイメージ共有
完成像は、円(オレンジ)とその隣に重なる三日月(ブラウン)の2色タタミです。両エリアとも45°前後の角度で均一に塗られ、True View(3D表示)でステッチの向きと面の張りが確認できます。

1.2 本稿で扱う具体的値
- スケール:120%(幅69.49mm×高さ51.50mm → 約8.3cm×6.2cm)
- タタミ密度(Stitch Distance):0.4mm
- ステッチ長(Stitch Length):3mm
- 最小ステッチ(Minimum Stitch):0.5mm
- カスタムパターン:Offset Count 3、割合 0/30/60
- 下打ち(First Underlay):Tatami、Space 2mm、Length 3mm、Angle 90°、Edge Space 0.3/0.3/0.2/0.2
これらは動画で確認できる具体値です。必要に応じて後から再編集も可能です。

プロのコツ:角度は45°を初期値とし、面の広がり方や光の反射で“ムラ”に見えるなら±5〜10°の範囲で再検討すると整いやすくなります。
2 準備するものと下ごしらえ
- 環境:EmCAD Dahao Embroidery SoftwareがインストールされたPC
- ファイル:画像(例:richard002.bmp)
- スキル:基本的なマウス操作(左/右クリック、ドラッグ)
作業はあくまでソフト内のデジタイズであり、実機刺繍は含みません。現場の運用では、素材や用途によってマグネット刺繍枠やマグネット刺繍枠 brother 用のような周辺機材を選ぶこともありますが、本稿の達成には必須ではありません。

クイックチェック:
- ソフトが起動し、キャンバスが表示されているか。
- 対象画像が用意でき、読み込みパスが分かるか。
- マウスの左/右クリックで“直線/曲線”を切り分ける操作に慣れているか。
3 初期セットアップ:キャンバスとタタミ塗りの仕様づくり
3.1 画像の読み込みと表示域の確認
手順:Image > Insert Image から画像を取り込みます。キャンバス上に表示されたら選択状態を確認し、Zoomで全体が見渡せるように合わせ込みます。これにより、後のトレース時に輪郭が判断しやすくなります。

注意:画像が表示されない場合はファイル形式やパスを再確認します。bmp等の一般的フォーマットであれば読み込み可能です。
3.2 サイズ調整:120%にスケール
選択状態で寸法(例:幅69.49mm/高さ51.50mm)を確認し、スケール欄に120%と入力してEnter。縦横比ロックは必要に応じて開閉します。結果は約8.3cm×6.2cmとなり、左胸ワンポイントに適したサイズ感となります。

プロのコツ:ワンポイントなら8×6cm前後、フロント全面なら幅20cm程度といった“用途基準”で先にゴールサイズを決めると、その後のタタミ設定も判断しやすくなります(動画では左胸想定)。
チェックリスト(サイズ調整)
- 縦横比ロックの状態を確認したか。
- スケールを120%に設定し、更新された寸法がUIに反映されたか。
- 目的の配置(左胸/前面)に対して、サイズが妥当か。
3.3 タタミ塗りの仕様設定(Complex Fill)
- Complex Fillを選択し、右クリックでObject Propertyを開く。
- Fill StitchでStitch TypeにTatamiを選択。
- Stitch Distance 0.4mm(密度)、Stitch Length 3mm、Minimum Stitch 0.5mmを入力。
- エッジ挙動(Back Trace Edge)は“middle outline”を選択。
- CustomパターンでOffset Count 3、本数に対してOffset割合を0/30/60と設定。
- EffectタブでFirst Underlayを有効化し、TypeはTatami、Space 2mm、Length 3mm、Angle 90°、Edge Space 0.3/0.3/0.2/0.2 を指定。
- OKで確定し、設定を保存します。

なぜこの数値か: - 0.4mmの密度は面を均一に覆いながら、過密すぎない実用的バランスです。

- 3mmのステッチ長は大面積の走行に向き、表情が硬くなりすぎない加減です。
- 0.5mmの最小ステッチで“極小針落ち”を抑え、糸切れや生地ダメージのリスクを軽減します。
- 0/30/60のオフセットは、規則性の出す“縞”を緩和し、ソフトでなじむ表情を作ります。

- 90°の下打ちTatamiは、上層タタミの角度(45°)と直交させ、面の安定とカバーリングを助けます。

注意:数値入力ミスや保存忘れはよくある失敗です。必ずOK前に値を見直し、OK後にもう一度ダイアログを開いて反映を確認しましょう。
4 実践手順:円と三日月を2色フィルで仕上げる
ここからは実際のクリック順とEnterのタイミング、角度設定、True Viewの確認、Shapeでの後修正までを順に行います。
4.1 円(1色目)をタタミで塗る
1) Complex Fillを有効化し、Enterで描画開始。

2) 輪郭の打点は「直線=左クリック、曲線=右クリック」。円のカーブは右クリック中心で滑らかに追い、終点は左クリックで閉じる。 3) Enterで形状確定→さらにEnterで開始点→さらにEnterで終了点を指定。 4) 角度ハンドルが三角表示になったら、左クリックでドラッグして45°に合わせ、離して確定。 5) カラーパレットからオレンジを選択し、True Viewで3Dプレビュー。
期待結果:円は45°のタタミで均一に塗られ、はみ出しやスカスカがない。

プロのコツ:角度は“面の長辺に対して斜め”に入れると目が揃い、段差が目立ちにくい印象に。必要に応じて45°±数度で再調整します。
参考メモ:実際に縫う段になって素材が柔らかい場合、現場ではマグネット刺繍枠 11x13のような保持面積の広いツールでテンションを安定させる配慮もありますが、本稿の到達点(デジタイズ完了)には直接関与しません。
4.2 三日月(2色目)をタタミで塗る
1) Escapeで選択を解除し、Complex Fillを再度選択→Enterで描画開始。 2) 三日月の輪郭は曲線が多いため、要所で右クリックを使い丸みを丁寧につなぐ。

3) Enterで形状確定→Enterで開始点→Enterで終了点→角度を45°に合わせて確定。 4) パレットからブラウンを選択し、True Viewで全体の見え方を確認。
期待結果:円と三日月が隣接しても密度・角度が調和し、2色の面が均質に見える。

クイックチェック:
- 円・三日月とも輪郭トレースに“ギザつき”がないか。
- 角度は双方とも45°付近で揃っているか。
- True Viewで陰影のムラや縞が出ていないか。
4.3 形状の後修正(必要なときだけ)
選択→Shapeでアンカーポイントを微調整します。曲率の合わない箇所を少しずつ動かし、Enterで確定。過度に点を増やすとエッジが不自然になるため、最小限で整えるのがコツです。
補足:現場によっては、薄手素材に対する保持の工夫としてマグネット刺繍枠やマグネット刺繍枠 babylock 用の導入を検討することもありますが、ここではソフト操作の確実性を優先してください。
5 仕上がりチェックと期待できる結果
- 見た目:True Viewで円・三日月とも面が均一。角度の流れが自然で、縞が目立たない。
- 数値:Distance 0.4mm、Length 3mm、Min 0.5mm、Offset 0/30/60、Underlay Tatami/2mm/3mm/90°/EdgeSpace 0.3/0.3/0.2/0.2 が設定済み。
- 形状:輪郭に段差がない。重なり部分に不自然な隙間や過剰なオーバーラップがない。
プロのコツ:最終プレビューの直前に、一度True Viewを解除してワイヤフレームで“始点/終点/角度ハンドルの位置”を再チェックすると、運針の流れがより読み取りやすくなります。
参考:実機で縫製する運用まで見据える場合、フーピングの整合も品質に影響します。例えば左胸ワンポイントの狙い出しではhoop master 枠固定台で安定した位置決めを行う現場もありますが、本稿はデジタイズの品質設計にフォーカスしています。
6 トラブルシューティングとリカバリー
症状→原因→対策の順に整理します。
- 症状:面に縞が出る/方向性が強くてムラっぽい
- 原因:角度が模様と合っていない、オフセットのばらつき不足
- 対策:角度を45°基準に±5〜10°微調整、CustomのOffsetを0/30/60で再評価(必要なら割合の順序も試し比較)。
- 症状:極小ステッチが多くなり、データが粗い
- 原因:Minimum Stitchが低すぎる、輪郭点が過密
- 対策:Minimum 0.5mmを守る、Shapeで余計な点を削減。
- 症状:面のスカスカ/過密
- 原因:Distanceの不適合
- 対策:0.4mmを基準に、カバー不足なら0.35mm方向、過密なら0.45〜0.5mm方向へ再調整。
- 症状:Edgeがガタつく/段差が目立つ
- 原因:Back Trace Edgeの選択が不適/輪郭点の配置が粗い
- 対策:middle outlineを再確認、曲線部は右クリック主体で打点し直す。
- 症状:縫い重ね境界の浮き
- 原因:下打ち角度が上層と同じ/下打ちの密度不足
- 対策:Underlayを90°に固定して直交関係を維持、Space 2mm・Length 3mmの見直し。
クイックチェック:修正前後でTrue Viewとワイヤフレームを切り替え、角度・密度・始点/終点の位置が意図どおりか確認しましょう。
注意:コメント欄には機材の勧誘と思われる投稿がありましたが(連絡先記載)、本稿の目的・範囲(ソフト内デジタイズ)には関係しません。外部連絡や購入を促す内容は、本プロセスの品質には寄与しないため無視して構いません。
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コメントから:
- 一部の投稿で機材購入を促す外部連絡先が提示されていましたが、手順の理解や品質向上には情報の整合性が重要です。設定値と操作順の復習を優先し、不確かな外部誘導は採用しない判断が安全です。
補遺:素材や運用でフーピングの工夫が必要な場合でも、データ側の完成度が高ければ現場対応は容易です。必要に応じてマグネット刺繍枠 tajima 刺繍ミシン 用やマグネット刺繍枠 brother prs100 用のような選択肢が話題に上ることはありますが、ここでは“正確なデジタイズが最優先”である点を改めて強調しておきます。
