目次
バッグの確認:どこに刺繍する?
ヘビーデューティー系のメッセンジャーバッグは、一見シンプルでも「枠張り」しようとすると一気に難易度が上がります。手に取った瞬間に分かるのが、本体パネルに硬い芯(プラ板のような補強)が入っていたり、裏地側にファスナー開口がなくて内側へアクセスできなかったりする点です。ここに無理やり通常の刺繍枠(ネジ締め・摩擦固定タイプ)を入れようとすると、枠の破損・バッグ構造の変形・刺繍前からの枠跡(枠焼け)など、リスクが先に立ちます。
動画では、判断がとても実務的です。刺繍位置をフロントフラップへ切り替えます。フラップはアクセスしやすく、比較的フラットで、見た目にも「正面」に来るため、名入れやロゴに向いています。

事前整理:この工程で身につくこと(なぜ「場所決め」が重要か)
このフラップ刺繍は、完成品加工の「段取り案件」として進めます。枠張りしにくいアイテムでも再現しやすい流れは次の通りです。
- 現物チェック: 手で触って、刺繍可能な安全ゾーンを見つける。
- 精密マーキング: Tスコヤで信頼できる「十字基準(クロスヘア)」を作る。
- 安全ライン: 上部の厚い縫い代・構造線に針や押さえが当たらない境界を引く。
- マグネット枠の使いどころ: 10x10マグネット枠で厚物を手負担少なく固定する。
- 干渉回避: トレース+ジョグで、縫い代・段差を100%避ける。
現場判断(重要): 本体パネルを握って「中にプラ板/ボール紙みたいな硬さ」を感じたら、そこで止めます。貫通刺繍を狙わず、フラップ・ポケット・ストラップなど、アクセスできる部位に切り替えてください。
注意: 厚手バッグを通常のプラスチック枠(ネジ締め)に「力で押し込む」のは避けてください。無理なテンションで生地が跳ねると、針が逃げて曲がり(針のたわみ)や目飛びにつながります。

必要な道具:マグネット刺繍枠とマーキング用品
刺繍は「準備が8割」です。動画で使っている道具は、厚物・抵抗の強い素材に合わせた構成になっています。
- 10x10マグネット刺繍枠:(Mighty Hoopタイプ)。厚物では作業性と固定力の面で有利です。
- Tスコヤ: 直角を取り、中心の十字基準を作る。
- メジャー: 中心の検算用。
- 白の水溶性ペン: 黒いキャンバス/ナイロンでも見える。
- 多針刺繍機:(動画はRicoma)バッグをアームに通してセットしやすい。
- 補助消耗品:(必要に応じて)スタビライザー、80シャープ針、糸切りばさみ等。

厚手バッグでマグネット枠が効く理由(現場向けに簡単に)
硬いフラップは、素材自体が「戻ろう」とします。通常枠は内枠を外枠に押し込む摩擦固定なので、縫い代の段差や厚みがあると噛み合わず、固定が不安定になりがちです。
一方、マグネット枠は上下からのクランプ力で押さえます。
- 歪ませにくい: 無理に引っ張って押し込まない。
- 枠跡が出にくい: 摩擦で潰す固定ではない。
- 段取りが速い: 差し込んで「パチン」と閉じる。
magnetic embroidery hoopを検討しているなら、「作業者の手首の負担軽減」と「完成品を傷めにくい固定」の両面で投資価値があります。

ステップ1:中心出しと安全ラインのマーキング
量産・業務刺繍では勘に頼りません。ここを丁寧にやると、見た目のセンターは合っているのに刺繍が傾く、といった事故が減ります。
A. 刺繍ゾーンの最終確認
バッグを開き、フラップの内側を手でなぞって確認します。狙いは「フラットで、針を折る要因がない場所」です。面ファスナー、留め具(マグネット等)、厚い内部縫製が隠れていないかをチェックします。

B. Tスコヤ+メジャーで中心を出す(検算込み)
- Tスコヤをフラップに当てる:上辺に対して直角が出るように置き、縦基準がブレないようにします。
- 中央を確認する:動画では中心から左右へ「約6 inchesずつ」見て、真ん中を検算しています。
- 十字基準を引く:縦の中心線と、横の基準線を引きます。
チェックポイント: 織り目のある厚手生地は、薄い線だと後で見失います。白ペンの線が「しっかり白く見える」濃さで入っているか確認し、薄ければ重ね引きします。


C. 「上限ライン(越えてはいけない線)」を引く
この案件の要です。フラップ上部には、バッグ本体とつながる厚い縫い代・構造線があります。
- 押さえ(押さえ金)や針が当たりそうな位置をイメージします。
- その構造線の下側に、越えてはいけないラインを引きます(動画では「ここより上に行かない」目印としてマーキング)。
- ルール: デザインのどの部分も、このラインを越えない。

補足: 縫製の段差に押さえが乗り上げると、押さえが浮きやすくなり、糸調子が崩れて一気に糸が絡む原因になります。安全ラインは、その事故を未然に止めるための「物理的な境界」です。
ステップ2:マグネット枠で厚物を枠張りする
ここが作業性の分かれ目です。動画ではフラップの「ポケット構造」を利用して、下枠を差し込みます。
A. フラップ(ポケット部)に下枠を入れる準備
- フラップをしっかり開きます。
- マグネット枠の下枠を、フラップの内側(ポケット内)へ差し込みます。
- 触感チェック: 上から手でなでて、シワや噛み込みがないか確認します。フラットに感じる状態が理想です。

B. マークに合わせて、迷わず閉じる
- 上枠を十字基準の上に持っていきます。
- 枠の基準(切り欠き等)と、引いた線を合わせます。
- マグネットを噛ませます。
- 音のチェック: 動画のように一発で「パチン」と閉じる感覚が目安です。ぐらつく/浮く場合は縫い代の段差に乗っている可能性があるので、位置をずらしてやり直します。

注意:マグネットの安全
* 挟み込み注意: 工業用レベルの磁力です。閉じる瞬間は指をリング内側に入れないでください。
* 医療機器への配慮: マグネット刺繍枠はペースメーカー等から距離を取って扱ってください(動画では少なくとも6 inchesの距離に言及)。
現場のコツ(コメントより要約):スタビライザーは入れる?入れない?
コメントで「スタビライザーを使っていないの?」という質問が出ています。動画の実演では、このバッグがかなり硬くしっかりしたナイロン素材のため、ホストはスタビライザー(特にティアアウェイ)を使わずに進めています。
判断の目安:フラップのスタビライザー選択(安全側の考え方)
- ケースA:硬くてしっかりした素材+文字など軽いデザイン
- 条件: フラップが十分に剛性があり、デザインがシンプル。
- 判断: 動画のように「無し」で成立する場合があります。
- ケースB:滑りやすい素材/ズレが心配
- 条件: ナイロンが滑る、表面が動きやすい。
- 判断: ズレ対策としてスタビライザーを検討(ただし本動画では使用していないため、採用する場合は自社基準でテスト推奨)。
- ケースC:縫い密度が高いロゴ
- 条件: 面埋めが多い、縫い回数が多い。
- 判断: 生地への負担が増えるため、補強の要否を事前テストで判断します(動画内では具体指定なし)。
マグネット刺繍枠で段取りを安定させたい場合でも、まずは「このバッグは本当に補強なしで耐えるか」を1点テストで確認してから量産に入るのが安全です。
ステップ3:厚物向けの機械セットアップ
バッグを機械に通すのは、ちょっとしたパズルです。
A. フリーアームに通して、枠を固定する
- 枠張りしたフラップを、機械のフリーアームに通します。
- バッグ本体はアームの下に垂らし、機械ボディに押し付けないようにします。
- 枠ブラケットをパンタグラフ側に固定します。
- 音のチェック: 固定が決まると「カチッ」と入る感触があります。軽く揺すってガタがないか確認します。

B. 針と色の選択(動画の設定)
- 針: 80シャープ(厚手素材向けとして動画で指定)
- 使用針番号: 15番(赤糸)

C. トレース→上限ラインを見て→Y軸で下げる
干渉回避の手順:
- トレース(外周確認)を実行します。
- 針(またはトレース動作)が、引いた「上限ライン」を越えないか確認します。
- 越えそうなら停止します。
- 操作パネルでY軸方向にデザインを少し下げ、上限ラインの下に収めます(動画でも「少し下げる」調整を実施)。


完成品への刺繍ミシン 用 枠入れ作業では、トレースが「壊さないための最後の保険」です。毎回必ず行ってください。
アライメント(位置合わせ)道具の選び方(よくある疑問)
コメントではアライメント用ツールについての質問もありました。動画では、レーザーではなくTスコヤで物理的に中心線を作り、最後は機械のトレースで確認しています。
- 準備段階:Tスコヤで「線を作る」
- 機械段階:トレースで「干渉しないか確認する」
この役割分担が、完成品加工ではスピードと確実性のバランスが取りやすい方法です。
準備
マグネット枠を閉じる前に、短時間でできる事前点検を入れます。
忘れがちな消耗品・段取りチェック
- 針の状態: 厚物は針の消耗が早いので、刺繍品質が不安なら新しい針で開始します(動画では80シャープ)。
- 下糸(ボビン糸): バッグをセットした後の交換は手間です。事前に残量を確認します。
- 可動範囲: ストラップ等が刺繍範囲に垂れないよう、必要ならまとめて避けます。
準備チェックリスト(マーキング前)
- 確認: フラップ/ポケット内に紙や硬い異物が入っていない。
- 清掃: 表面のホコリを取り、マーキングが乗る状態にする。
- マーキング: 中心線と上限ラインが見える。
- 枠: マグネット面に金属片などが付着していない。
セットアップ
ここからが勝負どころです。
セットアップのチェックポイント(正しい状態の目安)
- フラット: 枠内が平らで、シワの噛み込みがない。
- クリアランス: バッグ本体がアームに押し上げられていない。
- 安全: 枠ブラケットが確実にロックされている。
マグネット刺繍枠 ricoma 用のような構成を検討する場合は、機械側のブラケット適合(アーム幅・取り付け形状)が合っていることを前提に選定してください。
セットアップチェックリスト(トレース直前)
- 枠: マグネットが確実に閉じている。
- 搭載: バッグの重みで引っ張られないよう、必要なら手で支えられる。
- 針: 80シャープが該当色に割り当たっている(動画は15番針)。
- トレース: デザインが上限ラインの下に収まっている。
運転
縫いの流れ(動画の進行に沿って)
- 最終確認: 文字の向き(読み方向)が正しいか確認します。
- スタート: 運転開始。
- 最初の見守り: 開始直後は離れず、動きと音を確認します。

期待される状態
- 音: 一定のリズムで縫えている。硬い物に当たるような異音がない。
- 見た目: 文字の輪郭が崩れず、ズレが出ていない。
運転チェックリスト(最初の30〜60秒)
- 音: 異音がしない。
- 動き: バッグが引っ張られていない。
- 糸: 糸切れ・毛羽立ちの兆候がない。
- 安全: 可動部に手を近づけない。
マグネット刺繍枠 用 枠固定台で複数バッグを段取りする場合も、マーキング基準が揃っていれば、トレース後の再調整が減らせます。
品質チェック
厚手バッグ向けの簡易品質監査
- 位置合わせ: 予定位置からズレていないか。
- 縫い目: 文字が潰れず、輪郭が読めるか。
- 清掃: 水溶性ペンの線がきれいに落ちるか。
厚物は「シワ」より「針の逃げ」が出やすい
シャツはシワが出やすい一方、バッグは厚みで針がわずかに逃げる(たわむ)ことがあります。音や縫い目が荒れると感じたら、まずは干渉がないか再確認し、必要なら速度を落として安定させます(動画では速度の具体値は提示されていません)。
トラブルシューティング
まずは「すぐできる対処」から当てていくと復旧が早いです。
| 症状 | ありがちな原因 | まずやる対処 | 再発防止 |
|---|---|---|---|
| バッグ本体が枠張りできない | 芯材が硬い/内側にアクセスできない | フラップへ移動。 本体を無理に枠張りしない | 受注前に構造を触って確認する |
| 厚くて通常枠が入らない | 素材と縫い代の段差が大きい | マグネット刺繍枠を使う | Mighty Hoop マグネット刺繍枠 Ricoma 用等、厚物向けの枠を用意する |
| 針が折れる | 上限ラインを越えて縫い代・硬い部位に当たった | 安全ライン厳守。 Y軸で下げる | 毎回トレースする |
| 糸が毛羽立つ/切れる | 厚物に対して針が合っていない/摩擦が増える | 針を見直す。 動画同様80シャープを基準にする | 干渉回避と、無理のない条件で運転する |
| デザインが傾く | 枠が直角に入っていない/バッグの重みで引っ張られる | Tスコヤ基準で枠張りし直す | セット時にバッグ重量を支える |
仕上がり:タフなギアに、くっきり文字刺繍
最終的な仕上がりは、黒いバッグに赤糸の文字が映える、実用的でプロらしい結果です。バッグの「物理」を尊重して、フラップを選び、マグネット枠で固定し、安全ラインとトレースで干渉を避ける。これだけで、難案件が再現性のある作業に変わります。

納品・リピート用メモ
- 記録: トレース後にY軸でどれだけ下げたかをメモしておくと、次回の段取りが速くなります。
- 清掃: 白の水溶性ペンは、必要に応じて湿らせた布で拭き取ります。
ツールのアップグレード(例:「手が痛い/数が多い」)
- 悩み: 「厚いバッグの枠張りがつらい」
- 対策: マグネット刺繍枠で、締め込み作業を減らします。
- 悩み: 「段取りに時間がかかる」
- 対策: 多針刺繍機の運用(動画のようにバッグをアームに通して作業できる)を前提に、工程を標準化します。
初期導入なら、ricoma mighty hoop スターターキットのようなスターター構成で、バッグ・ジャケット・ストラップ系の完成品加工に対応しやすくなります。
