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名入れのベビーアイテムは「贈り物で喜ばれる」「リピートにつながる」反面、ミスが一気に目立つジャンルでもあります。12M(12か月)サイズのTシャツでは、1mmのズレが体感で何倍にも見えます。初心者がつまずきやすいのは、位置ズレ、ニットの波打ち(パッカリング)、裏当てがゴワついて肌に当たる問題、そして“あるある”の首元タグをそのまま縫い込む事故です。
このチュートリアルでは、小物・小サイズの不安を「手順化」して解消します。動画で実演されている、枠固定台+マグネット刺繍枠を使った「My First Birthday」ビブと、12か月Tシャツのセット制作フローをそのまま再現できる形に落とし込みます。ポイントは、縫い始める前に“快適さ”と“位置合わせ”を確定させること。プロ現場で当たり前にやっている確認手順を、作業の流れに組み込みます。



必須機材:マグネット刺繍枠が「小物刺繍」を楽にする理由
小さな服が難しい最大の理由は、布を引っ張れる“余白”が少ないのに、刺繍機側の引き込み・押し出しの力は通常と同じだからです。刺繍面がわずかに動くだけで、文字や輪郭がすぐ崩れます。
動画では、HoopMasterの枠固定台と、マグネット式フープ(Mighty Hoop系)を組み合わせた段取りで進めています。この組み合わせは、初心者が悩みやすい 枠跡 と 手の負担 をまとめて軽減します。
まずは「痛みの原因」を切り分ける
ネジ締めタイプの刺繍枠で、薄いベビーニットやデリケート素材を強く締めると、枠跡(繊維が潰れてテカるリング状の跡)が残りやすくなります。また、厚手のビブに内枠を押し込む作業は手首に負担がかかり、量産では疲労が品質に直結します。
解決の道筋:
- レベル1(やり方で工夫): 粘着系スタビライザー等で“浮かせ貼り”をする(位置合わせが不安定になりやすい)。
- レベル2(道具を変える): マグネット刺繍枠 に切り替える。上から挟み込むため、無理な押し込みが減り、枠跡も出にくく、枠張りが速くなります。
- レベル3(量産の再現性): 専用の ミシン刺繍 用 枠固定台 を使い、毎回同じセンターで固定できる状態を作る(測らずに“同じ位置”が出せる)。
注意:マグネットの安全手順
マグネット刺繍枠は強い吸着力があります。指を挟みやすい“スナップゾーン”に指先を入れないこと。特に上枠を下ろす瞬間は、指の腹が挟まれるとケガにつながります。

スタビライザー選び:赤ちゃん服は「肌当たり」が最優先
動画で強調されているのは、ベビー服は“小さいTシャツ”ではなく、まず快適さが最優先だという点です。裏面がザラつく(安価なティアアウェイで起きがち)と、着用時に不快になり、次の注文につながりません。
Romero Threadsは Performance Cutaway を選択しています。カットアウェイの安定性(ニットに必須)を持ちつつ、薄くて柔らかい手触りで、赤ちゃん向けに扱いやすいという理由です。
ニットにカットアウェイが必要な理由
ニットは針が何度も貫通すると伸縮糸が傷みます。ティアアウェイで裏当てを完全に取り去ると、縫い目を支えるものがなくなり、洗濯後に歪みや穴あきにつながることがあります。カットアウェイは縫い目の“支え”を残すため、仕上がりと耐久性が安定します。
判断フロー:何を裏に入れるか
- 生地が伸びる(ジャージ/ロンパース等)?
- YES: ソフト系/Performance Cutaway を使用(歪み防止の基本)。
- NO: 次へ。
- 表面がループ状・凹凸(テリーのビブ等)?
- YES: 裏はカットアウェイ系+必要に応じて上に水溶性トッピング(ループに沈み込みやすい場合の対策)。
- NO: 次へ。
- デザインが極端に高密度(ベタ塗りが多い等)?
- YES: もう少し腰のあるカットアウェイを検討(柔らかすぎると引っ張りに負ける場合があります)。
重ね貼りについて: コメントでも「2枚重ねですか?」という質問が出ています。動画内ではPerformance Cutawayを使う意図として“薄くて柔らかい”点が語られており、ベビー用途では厚みを増やすより、肌当たりの良い裏当てを適切に選ぶのが基本方針です。迷ったら、枠に入れた状態で指で押してみて、必要以上にフニャっとたわむなら見直し、しっかり面が保てるなら過剰に厚くしない、という考え方で整理すると判断しやすくなります。

手順:12か月サイズTシャツをインファント用ボードで枠張りする
動画では、12MのTシャツをHoopMasterのインファント用ボードに通していく動きが分かりやすく映っています。ここは“触感”で覚えるのが近道です。
ステップ1 — 「ニュートラルテンション」を作る
ボードに通して引き下ろすときは、肩線(ショルダーの縫い目)が揃ったところで止めます。
- やりがちなミス: ピンと張るまで引っ張ってしまう。
- 起きること: ニットを伸ばした状態で枠張りすると、枠から外した瞬間に戻って、円が楕円になったり、周囲が波打ったりします。
- 正解: 生地はフラットでも“リラックス”している状態(伸ばし過ぎない)。動画でも「きつ過ぎて伸びるほどではないが、ほどよくフィット」と説明されています。
ステップ2 — 見た目でねじれを潰す
脇線がまっすぐ落ちているかを見ます。ボード上でTシャツがねじれていると、刺繍が斜めに入ります。
ステップ3 — ワークシート確認(紙が品質管理)
Romero Threadsは刺繍前に制作ワークシート(Designs by JuJuのシート)を確認しています。色替え回数やサイズが、使用する枠(例:4x4相当)に収まるかを事前に潰す工程です。
注意:機械まわりの安全
トレースや縫い始めの前に、針板周辺にハサミや糸切りバサミ等を置かないでください。振動で針の動線に入ると、破損や事故につながります。

ビブをマグネット刺繍枠で固定する(厚み・ズレ対策)
ビブは簡単そうに見えますが、厚みがあり、ズレやすい素材です。
ステップ1 — タグ処理(縫い込み事故を防ぐ)
動画で確実にやっているのが、首元のタグを横に逃がす動きです。
- リスク: タグが刺繍エリア側に入り込むと、表に縫い付けてしまい修正が大変です。
- 対策: 枠を閉じる前に、タグが“危険域”に入っていないことを目視で確定します(動画でも「刺繍しないように横へ」と説明)。
ステップ2 — マグネットの「スナップ」で固定を判断する
治具のタブ位置に上枠を合わせ、上から押し下ろします。 チェックポイント(音): しっかり固定できると、1回で明確な“パチン”という感触になります。布が噛んで段差があると、収まりが悪く固定力が落ちる原因になります。
厚手のテリーで枠跡や押し込みの負担が気になる場合、マグネット刺繍枠 は作業性の面でも有利です。


ダブルフープ(2回枠張り)で小さい枠の限界を超える
Tシャツ側は、大きな「1」のアップリケ+下に名前、という構成で、5.5インチ枠の縦方向に一度で収めにくいレイアウトです。動画では ダブルフープ(上を縫う→枠を掛け直す→下を縫う)で対応しています。
ダブルフープが怖い理由と、現場での考え方
掛け直し=ズレる、という心理的ハードルがあります。ただ、小さい服に大きい枠を無理に入れて首周りを引っ張るより、必要な範囲だけを安全に枠張りし直すほうが、結果的に歪みが出にくいことがあります。
安全策:トレースを“毎回”使う
コメントでも「ricomaでmighty hoopをどう設定するか」「Otherの選び方が分からない」といった声があります。Romero Threadsの返答はシンプルで、マシン側では“最も近い枠”を選び、必ずトレースで確認という運用です(例:5.5のmighty hoopではHoop Cを使う)。
- トレース1: 「1」の位置がセンターに入っているか確認→縫う。
- 枠張りし直し: 位置を移動。
- トレース2: 名前がセンターかつ「1」に対して水平が出ているか確認→縫う。
チェックポイント(目線): 2回目のトレースは、立って針棒の動きと生地目(水平)を見比べると、傾きに気づきやすくなります。




準備工程:失敗を減らす「見えない変数」
仕上がりの大半は、縫う前に決まります。動画の流れに沿って、最低限押さえるべき準備を整理します。
準備しておくもの(不足すると止まる)
- 制作ワークシート(印刷物): 色替え・サイズ・停止回数の確認用。
- ハサミ: 仕上げで裏面スタビライザーをカットするため(動画でも使用)。
- スタビライザー: Performance Cutaway(薄く柔らかいカットアウェイ系)。
準備チェックリスト
- デザイン確認: 印刷した情報で、色替えとサイズを事前に確認した。
- 枠サイズ確認: 使用する枠(例:5.5インチ)に収まる前提になっている。
- 作業スペース: 枠や衣類が引っ掛からないよう、周囲を片付けた。
セットアップ工程
ここで“毎回同じ”を作ります。
枠固定台と治具
12か月サイズのような小さめ衣類では、5.5 mighty hoop スターターキット のような小径枠が扱いやすく、首周りを無理に広げずに済みます。
セットアップチェックリスト(枠張りの順番)
- ボード: インファント用ボードを使用(小サイズ向け)。
- スタビライザー: 治具側に先に置く。
- 衣類セット: 肩線を合わせ、伸ばし過ぎない。
- タグ確認: タグが刺繍エリアに入っていない。
- 固定: タブ位置を合わせて上枠を下ろし、しっかり固定できた。
縫い工程(運用の要点)
縫いに入ったら、やることは「確認→開始→最初を見守る」です。
マシン側の枠選択とトレース
- 枠選択: マシン画面では、使用枠に近い枠を選ぶ(例:5.5ならHoop C)。
- トレース: 必ず実行し、枠内に収まることを確認する。
仕上げと品質確認
動画では、縫い上がり後に裏面のPerformance Cutawayをハサミでカットしています。
裏面カットの基準(安全マージン)
スタビライザーは縫い目ギリギリで切らず、約1/4インチの余白を残します。動画でも「少なくとも1/4インチ残す」と明言されています。切り過ぎると、洗濯や伸縮で縫い目の支えが不足しやすくなります。
トラブルシューティング:現場の“即応”表
| 症状 | ありがちな原因 | その場の対処 | 次回の予防 |
|---|---|---|---|
| タグを縫い込んだ | 枠張り時にタグが刺繍エリアへ入った | 可能なら慎重にほどく | 枠を閉じる前にタグを横へ逃がして目視確認 |
| 1回で入らないレイアウト | 5.5インチ枠の縦寸に対して「1+名前」が長い | ダブルフープに切り替える | 事前にワークシートでサイズ確認し、トレース前提で段取り |
仕上がりと次のステップ
完成した「My First Birthday」セットは、位置が揃って見栄えが良く、裏面も赤ちゃん向けに配慮した作りになっています。



この手順を“仕事の速度”に変えるには
趣味ならシングルニードルでも作れますが、受注を増やすなら重要なのは 再現性 です。
- 消耗材: Performance Cutawayのような“薄くて柔らかいカットアウェイ系”を基準にする。
- 治具: マグネット刺繍枠 用 枠固定台 を導入し、枠張りのブレと時間を減らす。
- 運用: 小サイズほど「近い枠を選ぶ→トレースで確認」を徹底し、ダブルフープも手順化する。
赤ちゃんの快適さを最優先に、確認手順で位置合わせを固め、道具で作業負担を下げる——この順番が、失敗を減らしてリピートにつながる近道です。
