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サッシュフレームとは?
業務用刺繍の現場では、「生地が動く」ことが最大の敵です。サッシュフレームは、その敵を潰すためのクランプ式(挟み込みバー式)刺繍枠です。一般的なチューブラー枠(内枠と外枠で生地を“押しつぶして”摩擦で保持する方式)と違い、サッシュフレームは周囲を着脱式のクランプバーで押さえ込み、周辺から機械的に固定します。
動画ではGaryがDurkee Quilt/Border Frame Systemをレビューしています(業界ではまとめて「サッシュフレーム」と呼ばれることが多いタイプです)。ポイントとして強調されていたのが、ただの平板ではないこと。高品質なサッシュフレームは、アルミベースの剛性に加え、クランプの下に細かなリブ(凹凸)があり、クランプを押し込むとその凹凸が生地を“噛む”ように保持します。これにより、何万針という負荷がかかっても生地がじわっと逃げる(クリープする)現象を抑えやすくなります。

互換性と導入時の注意(重要): これらのフレームはBrother PRシリーズ向けに設計されています(6本針・10本針)。また、PRS100(チューブラー系の単針モデル)向けの専用品もあると動画内で触れられています。brother prs100 用 刺繍枠 を探している場合でも「だいたい付くはず」と決め打ちしないでください。取り付け部(アーム/コネクタ)の形状が機種に合わないと、装着不良や作業中のトラブルにつながります。購入前に必ず機種名ベースで適合を確認しましょう。
サッシュフレーム vs チューブラー枠(標準枠)
サッシュフレームが必要になる理由は、「標準枠が悪い」ではなく、ズレが起きやすい条件が物理的に存在するからです。
- チューブラー枠: 面圧+摩擦で保持します。薄手の衣類では扱いやすい一方、キルトブロックのような大きい面では、長辺側でテンションが均一になりにくく、縫製中に生地が“あおられる”状態になりやすいです。
- サッシュフレーム: 周辺クランプで保持します。周囲に対して垂直方向の圧を連続的にかけられるため、保持が安定しやすい構造です。

クランプ構造が効く理由(枠跡/枠ズレの“起点”を減らす)
初心者ほど「ネジをもっと締めれば良かった」と考えがちですが、実際は複数の力が積み重なってズレやシワが出ます。
- 針の引きずり(ニードルドラッグ): 針が刺さるたびに生地を微小に引っ張ります。
- 押し引き(プッシュプル): 高密度のフィルやサテンが生地を内側へ引き込みやすいです。
- 厚物の“スポンジ”挙動: キルトサンド(表布+中綿+裏布)は圧縮されると戻ろうとします。リング枠で強く潰すと、戻りの力で生地が枠の中で逃げ、枠跡や波打ちの原因になりやすいです。
サッシュフレームは「中身を潰して保持する」のではなく「周辺をクランプして保持する」ため、厚物のスポンジ挙動の影響を受けにくい、という考え方になります。
厚手素材の枠張りで毎回端が波打つ/縫い進むほどズレる…といった悩みがあり、刺繍ミシン 用 枠入れ の段取りを見直したいなら、スタビライザーを増やす前に「保持方式(リング vs クランプ)」を変えるのが近道になるケースがあります。
導入判断の考え方(いつアップグレードする?)
サッシュフレームは“安定性”が強みですが、クランプを4辺に付け外しするため、段取りは一定の手数がかかります。
現場の切り分け:
- サッシュフレームが向く: 失敗コストが高い厚物・平物(キルト、厚手パネルなど)で、まず品質を安定させたいとき。
- 量産で疲労が問題になる: 同じ位置に連続で刺す作業では、枠の付け外しがボトルネックになりやすいです。作業者の手首負担も含め、保持方式の見直しが必要になります。
- 色替え時間が支配的: 枠より糸替え・段取りが支配的なら、多針化の効果が大きくなります。
高密度(高針数)デザインでのメリット
動画では200×200のフレームで、バス(魚)の高密度デザインを刺繍しています。これは見栄えのデモではなく、保持性能のテストに近い内容で、約130,000針のデザインが例として出ています。



期待できること/起きやすいこと(現実的な見立て)
高密度を標準枠で回すと、途中から輪郭が合わない(位置合わせズレ)・縁が波打つ・面が反る、といった症状が出やすくなります。
サッシュフレーム側のチェック観点:
- 触って確認: 表面が「ピンと張っている」だけでなく、動画の表現どおり“ドラムみたい”にしっかりしている感触が目安です。
- 見て確認: デザイン外周が浮かず、スタビライザーに対してフラットに保たれているか。
- スタビライザーの使い方: 動画ではこの高密度でもミディアムのカットアウェイを1枚で保持できた例が紹介されています。保持が安定すると、必要以上に積層しなくても結果が出ることがあります。

補足(枠跡について): クランプ圧が強い分、枠跡(押さえ跡)は出やすいです。動画では、仕上げでスチームを当てて落ち着かせる方法が示されています。
張りを作る“順番”が結果を左右する
平らに仕上げるコツは、クランプの強さだけでなく締める順番です。 動画の手順は、片側を固定してから反対側でたるみを抜いて固定する流れでした。
- 片側を先に押し込む
- 反対側で生地(キルトサンド)を少し動かして、たるみを抜く
- そのテンションを保ったまま反対側を押し込む
この「たるみ抜き」を入れずに左右を同じように押し込むと、中央にゆるみが残りやすくなります。
手順:キルトサンドを枠張りする(SOP)
ここからは、動画の流れをそのまま作業手順として再現できるように分解します。



準備(段取り)
対象は「キルトサンド(表布+中材+裏布)」です。厚みがあるため、作業スペースと滑り止めが効きます。
作業環境の要点
- 作業スペース: 大きいフレームほど、周囲に手を回すスペースが必要です(動画でも「散らかさない」ことが強調されています)。
- 滑り止め: シリコン系のノンスリップ枠張りマットの上で作業すると、押し込み時にフレームが逃げず、中心合わせが崩れにくくなります。
商用で段取りを詰めたい場合は、専用の 枠固定台(枠を固定して作業する台)を検討すると、姿勢が安定しやすくなります。
準備チェック(作業前):
- スペース確保: 大枠を置いて手を回せるだけの空間を確保
- 滑り止め: シリコンのノンスリップマットを敷く
- 工具: 青いリリースツール(クランプ外し)を手元に置く
- 向き: クランプのリリースレバーが外側を向く前提で段取りする
注意(挟み込み): クランプは強い力で押し込みます。指をクランプの下や側面に入れないでください。押すときは上から体重を乗せる意識が安全です。
セットアップ 1 — 保管状態のクランプを外す
新品はクランプが装着された状態で届くことがあります。
- 操作: 青いリリースツールをクランプのツメに差し込みます。
- 動作: 上方向に“パチン”と外れるまで、てこの要領で持ち上げます。
- 狙い: 爪や指先で無理に外さないこと(動画でも「爪を痛めない」点がメリットとして語られています)。

セットアップ 2 — フレームを安定させる
アルミフレームをノンスリップマットの上に置きます。
- 理由: 押し込み時にフレームが滑ると、中心合わせがズレやすくなります。

セットアップ 3 — 触って中心を出す(見えない状態での位置合わせ)
厚手のキルトサンドをフレームにかぶせると、枠の輪郭が見えにくくなります。
- 触覚で探す: 生地の上から指先で内周をなぞります。
- 目印: 内側にある小さなノッチ(切り欠き)を触って見つけます。
- 合わせる: そのノッチを基準に中心を合わせます。
セットアップ 4 — 長辺を先にクランプ(テンションを作る最重要工程)
張りは順番で決まります。動画では長辺から入れています。
- 片側: 長いクランプをスライドさせて位置を決め、まっすぐ下に押し込みます。
- 反対側: 反対側では、クランプを押す前にキルトサンドを少し動かしてたるみを抜きます。
- 確認: 張っているが、織り目が歪むほど引っ張っていない状態を目安にします。
- 固定: そのテンションのまま、反対側の長いクランプを押し込みます。
セットアップ 5 — 短辺の隙間を埋めて周囲を固定
残りの隙間をクランプで埋めます。
- 操作: 短辺は大クランプ+小クランプで隙間を埋める構成(動画の説明どおり)で固定します。
- 姿勢: テーブル越しに手を伸ばすより、フレーム正面に立って体重を使うほうが押し込みやすいです。
- 向き: リリースレバーは必ず外側へ。内側を向くと、作業性が落ちるだけでなく干渉リスクになります。


縫い始め前チェック
- 張り確認: 中央を軽く叩くと“ドラム”のような感触
- 裏面確認: 裏側にシワやたるみが噛み込んでいない
- レバー向き: すべて外側を向いている
- 取り外し段取り: 青いリリースツールをすぐ取れる場所に置く
FSL(レース)とワッペンで効く理由
サッシュフレームはキルトだけでなく、位置合わせの精度が要求される仕事で強みが出ます。
FSL(フリースタンディングレース):ズレが致命傷になる
動画で触れられていた典型的な失敗が「洗ったらレースが崩れた」です。 原因がデータではなく、縫製中の微小なズレであることがあります。スタビライザーが動くと、接続すべきステッチ同士が噛み合わず、結果として崩れやすくなります。
- 対策の方向性: クランプ枠で動きを抑え、狙った位置にステッチを落とす。
湿度が高い日のスタビライザー(動画の注意点)
水溶性スタビライザーは湿度の影響を受けやすく、環境によっては腰が抜けたように弱くなります。動画では、湿度が高い地域では2枚重ねを推奨する話が出ています。
ワッペン:面付け(繰り返し)に向く
ワッペン作りでは、シート状の材料に複数個を面付けして刺す運用が一般的です。
- 狙い: 1枚をしっかり固定して、同条件で繰り返し刺す。
また、量産を考えるなら機械側の生産性も効いてきます。例えば brother 10本針 刺繍ミシン のような多針刺繍機は、色替えの手間を減らし、長時間の連続運転に向いたワークフローを組みやすくなります。
まとめ:互換性の要点と導入判断
Durkeeのサッシュフレームは、チューブラー枠で起きやすい「縫製中の生地移動」という物理課題に対して、保持方式そのものを変えてアプローチする道具です。
互換性の要点(動画内容の整理)
- 主対象: Brother PRシリーズ(6本針/10本針)
- 単針: PRS100向けの専用版がある
- 機械側の認識: 360×200などは機械が枠サイズとして認識する。なお200×200は認識の扱いが例外になり得る旨が動画で触れられているため、装着後は画面上で安全縫製範囲の表示を確認してください。
保持方式の選び方(作業タイプ別)
- 厚物・平物(キルトサンド等): サッシュ/クランプ枠
- 精度重視(FSL等): サッシュ/クランプ枠
- 繰り返し作業: 段取りのボトルネックを見ながら、枠・治具・機械の順で改善点を検討
作業後チェック(取り外し〜仕上げ)
運用チェック(作業後):
- 取り外し: 青いツールでクランプを外す(爪で無理をしない)
- 枠跡: すぐに確認し、必要ならスチームで落ち着かせる
- スタビライザー: 仕上がりを見て、次回の積層(枚数)判断に反映する
最後に、他のクランプ枠を検討する場合、durkee クランプ枠 や durkee ez frames クランプ枠 といった選択肢もあります。用途によって向き不向きがあるため、「材料をクランプして保持したいのか」「スタビライザー運用が中心なのか」を基準に選ぶのが現場的です。
