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「Lone Survivor(試し縫いの生き残り)」をどう活かす?
刺繍をしていると、Cathyが「lone survivors」と呼ぶ“試し縫いの残り”が必ず出ます。密度テスト、フォントの試し、技法の実験、あるいはギリギリで回収できた失敗作など、「最終製品には使いにくいけれど捨てるには惜しい」刺繍布です。
現場では、上糸・下糸(ボビン糸)やスタビライザー、そして作業時間がすでに投入されています。そこで本記事では、捨てるのではなく「繰り返し使えるギフト包装」に設計し直す考え方で、動画の3つのワークフローを分解します。端が見えない作り方、角が崩れない縫い方など、“意図して作った”仕上がりに寄せるための構造づくりが主役です。

この記事で身につくこと(現場で効く理由)
単発のギフトから、イベント時期のまとめ作りまで流用しやすい「包装の型」を3種類覚えます。さらに、量産でも手が止まりにくいリボンボウの固定方法も扱います。
特に、初級解説では省かれがちな“縫製の仕込み”として、次の2点を重点的に押さえます。
- 角をシャープに出すための「折り込み角」:角で“回転(ピボット)しない”ことで、表に返したときに角が自然に立ちやすくなります。
- 返し口が整いやすい「L字の縫い止め(折り癖づけ)」:返し口の端で縫い目を“外へ逃がす”ことで、表に返したときに縫い代が内側へ入りやすくなります。
考え方を切り替える:サンプルは「失敗」ではなく素材
試し縫いは、感覚的に「失敗」と見えがちです。ですが実際は、次の用途に向いた“素材”でもあります。
- 硬い(しっかりしすぎた):レース刺繍が硬めに出た場合でも、単体で使わずバッグの飾り(アップリケ的な貼り付け)に回すと活きます(動画内でも「バッグの装飾に向く」と説明)。
- 位置ズレが少しある:影刺繍(シャドーワーク)などでわずかに合っていなくても、ワインバッグのように曲面になる形なら目立ちにくく、用途として成立します(動画の例)。
プロジェクト1:角が決まる風呂敷風ラップクロス
風呂敷は日本の包み布ですが、ここでは「表布(刺繍サンプル)」+「裏布」を合わせた“裏付き”仕様で、角をきれいに出す縫い方を採用します。動画では、角をピボットで回さず、縫い終わりを布端から“縫い抜ける”のがポイントです。

用意するもの(動画ベース)
- 表布:刺繍の試し縫い布、またはカットした布(動画ではバティック系の布)。
- 裏布:薄手コットン/シーチング/モスリンなど。
- ミシン設定:直線縫い(動画では基本の直線)。
- 補足:仕上げに押さえミシンをかけると輪郭が締まります(動画でもプレス+トップステッチに言及)。
この角の縫い方が効く理由(作りの要点)
一般的な「四角く縫って角を落として返す」だけだと、角に厚みが溜まって丸くなりがちです。
動画の方法は、角で止めて回すのではなく、布端から縫い抜ける→次の辺に入る前に縫い代を直角に折り込むことで、角の厚みが“行く場所”を先に作ってしまいます。結果として、表に返したときに角が立ちやすくなります。

手順:角がシャープに出る「折り込み角」
- 重ねる:表布と裏布を中表(RST)で重ね、端を揃えます。
- 1辺目を縫う:直線で端を縫います。
- 角で回らない:角でピボットせず、そのまま布端から縫い抜けて糸を切ります。
- 折り込み(重要):いま縫った辺の縫い代を、次に縫う方向に対して90度に倒すように折ります。
- チェックポイント:指先で触って、ねじれず“平らに重なっている”感触になっているか確認します。
- 次の辺を縫う:押さえを下ろし、折り込んだ縫い代の上をまたぐように次の辺を縫います。
- 4隅すべて繰り返す:同じ動作で四角を一周します。
狙いどおりの状態:表に返すと、角が自然に「カチッ」と立ち、丸まりにくくなります。

返し口の作り方(返したあとに整えやすくする)
裏付き小物で一番ストレスになりやすいのが返し口です。動画では、返し口の端で縫い目を“外へ逃がす”ことで、返したときに縫い代が内側へ入りやすくなる工夫をしています。
- 縫い進める:外周を縫い、スタート地点の手前で止めて返し口を残します(動画では「数インチ」残す)。
- L字に逃がす:返し口の端で返し縫いして止めるのではなく、布端(生地の外側)方向へ90度回してそのまま布端から縫い抜けます。
- 反対側も同様:返し口のもう片側も、縫い始めを縫い代側から入れて布端へ縫い抜ける“L字”を作ってから、外周縫いに戻ります。

なぜ返し口がきれいに閉じやすいのか(要点)
返し口の端にL字の縫い目が入ることで、表に返すときのテンションがその部分で“折れ”になり、縫い代が内側へ倒れやすくなります。結果として、返し口をアイロンで無理に折り込む作業が軽くなります。
メリット
- 返し口の端がガタつきにくい
- 押さえミシンで閉じるときにラインが揃いやすい
仕上げ
- 表に返す
- チェックポイント:縫い目の際を指で転がすようにして、縫い代が均一に寝る位置を探します
- スチームでプレス
- 端から約1/8"で押さえミシン(必要に応じて)
注意:安全面 角の折り込みを針の近くで行う場面は指先が近づきます。動画では指で折っていますが、慣れないうちは目打ちや細い棒で布を押さえ、針元に指を入れないようにしてください。
プロジェクト2:返し口が目立たない裏地付きギフトバッグ
長方形の刺繍サンプル(ボーダー試し縫い等)を、巾着や簡易トートの袋形状にします。動画では、表布と裏布をつないで筒状にし、底の裏側に返し口を作って表に返す流れです。

下準備:動画でやっていること(作業が詰まるポイントも補足)
動画では、外側の布(刺繍サンプル)と裏布をつないで長いパーツにし、筒にしていきます。
作業前チェック(縫い直しを減らす)
- 裏布と表布の向き:裏布が表に出ないよう、縫い合わせ位置(上側)を先に決める
- 縫い代の押さえ:表布と裏布をつないだ縫い代は、片側へ倒してプレスしておく(筒にしたときに段差が暴れにくい)
- ビニールポケットを付ける場合:動画ではノンスティック系の押さえ(Ultra T Foot)を使用。ビニールは滑りが悪く引っかかりやすいので、同等の対策が必要です。
手順:筒を作る
- 上側をつなぐ:表布と裏布を中表で縫い合わせ、縫い代をプレスします。
- 半分に折る:長方形を中表で二つ折りにし、表布と裏布の切り替え位置(縫い目)を揃えます。
- 脇を縫う:長辺の脇を直線で縫い、筒状にします。
手順:底を縫う(裏側に返し口を残す)
- 表布側の底:底を端から端まで縫い切ります。
- 裏布側の底(返し口):裏布の底は、途中で止めて返し口を残します。
- 返し口の端を整えやすくする:プロジェクト1と同じ要領で、返し口の両端で布端へ縫い抜けるL字を作ります。

狙いどおりの状態:返し口は袋の内側(底)に隠れる位置になります。多少縫い目が完璧でなくても外観に影響しにくい構造です。
表に返して仕上げる
- 返し口から表に返す
- 裏布を中へ押し込み、口元を整える
- 必要に応じて口元を押さえミシン
ビニールポケットの注意(動画の作例)
動画ではギフトカード用の透明ビニールポケットを付けています。
- 注意:ビニールは押さえ金に貼り付きやすく、送りが不安定になりがちです。
- 対策:ノンスティック押さえの使用(動画のUltra T Footのようなタイプ)。
プロジェクト3:IQ Designerで作る折り紙風ファブリックボックス
3つの中で最も“設計”要素が強いプロジェクトです。動画ではBaby Lock AltairのIQ Designer(本体内蔵)で、8.5インチの正方形を作り、外周は「縫わない(カットガイド)」として扱い、内側に装飾フィルを入れています。

動画の前提(ここを外すと成立しない)
- サイズ:仕上げの正方形は 8.5インチ。
- 枠:9.5" x 9.5" の刺繍枠を使用(8.5インチ正方形が入るため)。
手順:IQ Designerで正方形を作る
- IQ Designerを開く。
- 形状:四角形(Square)を選び、サイズを 8.5インチ に合わせます(動画では単位をインチに切り替えて調整)。
- 内側の表現:内側領域に装飾フィル(動画ではDecorative Pattern 018)を入れます。
- 外周線:外周のラインプロパティを 「No Sew」 に設定し、縫い線ではなく“カットの目安”として使います。
刺繍する
枠にセットします。動画では刺繍速度 1050 spm の表示もあり、比較的テンポよく縫い進みます。

チェックポイント:縫い進み中に、端に対して模様が引っ張られてズレて見える場合は、固定が弱い可能性があります。正方形は歪みが目立つため、途中で違和感が出たら一度止めて確認します。
カットして折る
- 枠から外す
- 外周のガイドに沿ってカット
- 中心を印して折り、折り紙の箱(動画では折って箱形に)に仕立てます

スタビライザーと枠張り:形を崩さないための考え方
正方形のような幾何学は、少しの歪みが完成形に直結します。動画では詳細な枠張り手順の解説はありませんが、8.5インチに対して9.5インチ枠という“余白の少ない条件”なので、布とスタビライザーをフラットに保つ意識が重要です。
判断の目安:スタビライザー+枠張りの考え方
前提:箱用の面は、折れるだけのハリが必要です。
- 素材は安定している?(コットン等)
- 安定している場合でも、刺繍の入り方によっては歪みが出やすいので、まずはフラットに固定できる組み合わせを優先します。
- 正方形が歪みやすい/枠跡が気になる
- 余白が少ない大きめ正方形では、枠の締め込みやテンションの偏りが歪みに繋がります。
- こうしたケースでは マグネット刺繍枠 のように上から均一に挟み込む方式が、布を引っ張りすぎずフラットに保持しやすい選択肢になります。
- まとめて作る(10個以上など)
- 枠の着脱回数が増えると、作業負担とばらつきが増えます。効率と再現性の観点では 枠固定台、またAltairユーザーなら マグネット刺繍枠 babylock 刺繍ミシン 用 のような運用も検討対象になります。
注意:マグネットの安全 マグネット刺繍枠は強力です。医療機器(ペースメーカー等)を使用している場合は近づけないでください。また、フレーム同士を勢いよく吸着させると指を挟む危険があります。外すときは“引っ張る”より“スライドしてずらす”動作を意識します。
おまけ:ミシンで作るリボン&ボウ(バータック活用)
手で結ぶだけだと形が安定しにくいボウも、ミシンのボタン付けステッチ(バータック)を使うと、一定の間隔で固定できて量産向きです。

動画の材料と考え方
- リボン:太いリボンの上に細いリボンを重ねる
- 仕組み:一定間隔で“留め”を入れることで、あとから細いリボン側を引いてギャザーを作り、ボウ形状にします
手順:リボンを留める
- 重ねる:太いリボンの中央に細いリボンを重ね、クリップで仮固定します(動画ではWonder Clips)。
- ステッチ選択:ボタン付けステッチ(動画では 4-23)。
- 留める:3〜4インチ間隔で留め縫いします。
- チェックポイント:留め縫いが細いリボンの端をしっかり拾っているか確認します(動画でも端を拾う点を強調)。

引いてボウ形状にする
留め縫いの間を、内側のリボンを引いてギャザーを寄せます。留め縫いがストッパーになり、形が作れます。

作業チェックリスト(ボウ量産時)
- ステッチ番号:ボタン付けステッチ(バータック)になっているか(動画:4-23)
- 留め間隔:3〜4インチで揃っているか
- 仮固定:縫い始めにズレないようクリップで固定できているか
仕上がりを“素人っぽく見せない”ための準備メモ
事前に揃えると作業が止まりにくいもの
- 印つけ:箱の中心位置を取るための印つけ用品(動画でも中心を印して折る流れ)
- アイロン(プレス):ラップクロス/バッグともに、最後の見栄えはプレスで決まります
- はさみ:箱の外周をガイドに沿って切る工程があるため、切れ味の良いもの
セットアップチェック
- サンプルの使い分け:硬めの刺繍は“箱”向き、柔らかめは“袋”向きなど、素材感で振り分ける
- 枠や押さえの汚れ:粘着や汚れがあると布に移りやすいので、作業前に確認
- マグネット使用時:針や待ち針が吸い寄せられやすいので、作業台を整理してから扱う(babylock マグネット刺繍枠 を使う場合も同様)
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
1) レース刺繍サンプルが硬すぎる
- 症状:折れない/扱いにくい
- 原因:動画で触れている通り、糸の選択や下糸(ボビン糸)などの条件で硬く出ることがある
- 対処:単体のレースとして使わず、バッグ表面の装飾(貼り付け・アップリケ的運用)に回す
2) 裏地の返し口がきれいに整わない
- 症状:返し口が波打つ、縫い代が内側に入らない
- 原因:返し口の端で“ただ止めただけ”になっている
- 対処:動画の要点どおり、返し口の両端で布端へ縫い抜けるL字を作り、折れやすい状態にしてから返す
3) 影刺繍の位置ズレが気になる
- 症状:重ねの位置が少し合っていない
- 原因:枠張りや工程中のズレ
- 対処:動画の例のように、ワインバッグなど曲面になる形に仕立てて視覚的に馴染ませる
4) ボウの留めが弱く、引くとほどける
- 症状:ギャザーを寄せたときに留めが不安定
- 原因:留めが細いリボンの端を拾えていない
- 対処:留め位置を見直し、細いリボンの端を確実に拾う(動画の注意点)
完成すると得られるもの
この3つの型を押さえると、試し縫い布が「使い切りの残り物」から「見せられる包装資材」に変わります。
- 角がきれいな風呂敷風ラップクロス
- 返し口が内側に隠れる裏地付きギフトバッグ
- IQ Designerで作る、折って形になるファブリックボックス
さらに、ボタン付けステッチ(バータック)を使ったリボンボウは、短時間で数を揃えやすいのが強みです。作業の再現性が上がるほど、仕上がりの“統一感”が出て、ギフト全体の見栄えも一段上がります。
