目次
必要な道具・材料
「材料が少なく、縫製も短時間で、用途が明確」——ITH(In-The-Hoop)方式のビニール製リップクリームホルダーは、作業効率と商品性のバランスが取りやすいアイテムです。ただしビニールは布と違い、針穴が残ります。やり直しが効かない前提で、段取りと位置合わせを丁寧に進めるのがコツです。
ここでは、現場で再現しやすい流れ(スタビライザーで土台を作る→ガイド縫いで位置を出す→各パーツを仮固定→装飾→裏当てで封止)に沿って解説します。

スタビライザーとビニール
きれいに仕上げるには「支える(スタビライザー)」と「ズラさない(仮固定)」の組み合わせが重要です。 基本セット(動画の流れに合わせた構成):
- スタビライザー: カットアウェイ(切り落とし)
- 素材: 刺繍用ビニール(本体用/裏当て用)
- 仮固定: 一時接着スプレー(例:KK100系)
- 糸: 刺繍糸(上糸)+下糸(ボビン糸)
補足(カットアウェイを使う理由): ビニールは伸縮や繊維の「逃げ」が少ないため、縫い目の負荷が一点に集まりやすい素材です。カットアウェイで土台を残すことで、ITHのように「縫い代=外周」が強度になる構造でも安定しやすくなります。

枠張りを楽にするマグネット刺繍枠
動画では 4.25" x 5.5" のMighty Hoopを使用し、刺繍面積を確保するためにデザインを 45° 回転して縫っています。
枠跡(枠焼け)対策としての現実: 一般的な押し込み式フープは、内枠を押し込む圧で素材表面に跡が残りやすく、ビニールではそれが戻りません。マグネット刺繍枠は上下から挟み込むため、素材を歪ませにくく、枠跡のリスクを下げながら枠張りをスピードアップできます。

注意: マグネットの取り扱い。 マグネット刺繍枠は強力な磁力で急に吸着します。指を挟まないよう、接触面(合わせ面)に指を入れないでください。
スナップと金具
仕上げは「縫い」ではなく「金具の精度」で品質が決まります。用意するもの:
- スナップ: プラスチックスナップ(KAM系など)
- 穴あけ: 目打ち/穴あけポンチ(動画では小型の穴あけ工具を使用)
- 打ち具: スナップ用プライヤー
- 金具: キーリング

刺繍機の準備
刺繍は「縫う前の準備」で仕上がりが決まります。データを呼び出す前に、枠サイズと干渉の有無、そして素材固定の段取りを確認します。
データの読み込みと位置確認
- データは事前に刺繍機へ読み込み(動画でも事前ロード済み)。
- 枠内に収まるかを必ず確認します。
適切な枠サイズの選定
この手順は 4.25" x 5.5" の枠を前提に進みます。
- 制約: デザインは標準的な4x4枠だとギリギリ(または収まらない)になりやすい。
- 解決: 45°回転して対角方向の有効範囲を使い、枠内に収めます(動画の設定)。

現場のコツ: 縫い始める前に、刺繍機の「トレース/枠内確認(外周チェック)」相当の動作が使える場合は実行し、枠や治具への干渉リスクを先に潰します。
手順(ITH構造の組み立て)
ここからは、各工程で「何を見て」「どこを確認するか」を中心にまとめます。
ガイド(配置)縫い
手順1 — スタビライザーを枠張りして、ガイド縫いを入れる。
- 枠張り: カットアウェイをマグネット刺繍枠で枠張りします。
- チェックポイント: スタビライザーがたるまず、均一に張れていること。
- ガイド縫い: 最初のガイド(配置)縫いを、スタビライザーの上に直接縫います。
合格ライン: ガイド線がはっきり出ていて、波打ちやズレがない。

ビニールの仮固定(本体+フラップ)
手順2 — 土台となるビニールを固定する。
- 仮固定: ビニール裏面に一時接着スプレーを軽く吹きます。
- チェックポイント: べたつきが出る程度でOK。濡れるほど吹くとズレやすく、汚れの原因にもなります。
- 配置: ガイド線を完全に覆うようにビニールを置き、中央から外へ空気を逃がすように押さえます。
- タックダウン: 次の工程でビニールを押さえ縫い(タックダウン)します。

注意: ビニールは厚みが出やすい素材です。縫製中は針周りに手を近づけすぎないようにし、必要に応じて安全カバー等を活用してください。
手順2B — フラップ(ベロ)パーツ。
- 次のガイド縫いで、フラップ位置が示されます。
- 小さなビニール片(フラップ)を所定位置に置きます。
- タックダウンで固定します。
- チェックポイント: フラップがタックダウン線の内側に入り込んでいないこと(固定線より外側に余裕を残す)。

装飾刺繍と裏当て(封止)
手順3 — 装飾(花)を刺繍する。
ここで花のデザイン(装飾部分)を縫い進めます。
- チェックポイント: 縫い中に素材が浮いたり跳ねたりする場合は、固定不足(仮固定が弱い/枠張りが甘い)を疑います。

手順4 — 裏当てビニールを貼って、最終ランで封止する。
仕上がりの見栄えを左右する重要工程です。
- 枠を外す: 刺繍枠を刺繍機から外します(素材は枠から外さない)。
- 裏面へ: 枠を裏返し、下糸側(裏面)を出します。
- 裏当てを貼る: 裏当て用ビニールに一時接着スプレーを使い、縫いエリアを覆うように枠の裏側へ貼ります。
- チェックポイント: 縫いエリアが完全に隠れるサイズで、端がめくれていないこと。
- 最終縫い: 枠を戻し、最後のビーンステッチ/トリプルランで外周を縫って表裏を一体化します。

補足: 動画では最後にビーンステッチ(トリプルラン)で外周をしっかり縫い、表のビニール・スタビライザー・裏当てビニールをまとめて固定しています。
仕上げ
縫いが良くても、トリミングと金具で失敗すると商品になりません。ここは「丁寧に速く」を目標に。
トリミング(外周カット)
- 枠から外す: マグネットを外して取り出します。
- 外周をカット: 縫い目の外側を一周カットして整えます。


スナップの取り付け
- 穴あけ: フラップと本体の所定位置に穴を開けます(動画では小型の穴あけ工具を使用)。
- 圧着: スナップをセットし、プライヤーで確実にかしめます。


チェックポイント: スナップは位置ズレがあると閉まりにくくなります。取り付け後に開閉して、引っ掛かりがないか確認します。

なぜマグネット刺繍枠を使うのか
ITHのビニール工程では、一般的なフープよりマグネット刺繍枠が作業に合いやすい場面があります。
- 厚みへの対応: ビニール+スタビライザーは厚みが出やすく、押し込み式だと枠張りが重労働になりがちです。
- 枠跡の低減: ビニールは枠跡が残りやすく、戻りません。
- 枠張りの時短: 量産時は枠張りがボトルネックになりやすく、マグネット刺繍枠 用 枠固定台のような治具を組み合わせると、位置合わせと枠張りの再現性が上がります。
補足: 業務用の多針刺繍機(Barudanなど)で使う場合は、機種に合った取付仕様のbarudan マグネット刺繍枠やmighty hoops barudan 用のように、対応フィッティングを確認して選定します。
デザイン調整
45°回転で枠内に収める
枠サイズに対してデザインがギリギリな場合、45°回転で対角方向の有効範囲を使えるため、収まりが良くなることがあります(動画ではこの方法で 4.25" x 5.5" 枠に合わせています)。
また、mighty hoop 5.5 マグネット刺繍枠のような検索語は、このサイズ帯の枠を探す際の手がかりになります。
判断フロー:トラブル対応と設備アップグレード
- 症状:裏側で糸が絡む(鳥の巣)。
- チェック: 上糸がテンション皿に正しく入っているか(上糸かけ直し)。
- チェック: ボビンの向き・セットが正しいか。
- 症状:針折れ/糸切れが増える。
- チェック: 厚みが出る工程で無理が出ていないか(素材の重なり位置を確認)。
- チェック: 縫い中に素材が動いていないか(仮固定や押さえ縫いの状態を確認)。
- 状況:販売用に週50個以上など、量産したい。
- ボトルネック: 単針機だと色替え・段取りに時間がかかる。
- 解決: 多針刺繍機なら色をセットしたまま枠交換中心で回せます。
- ボトルネック: 枠張り時間。
- 解決: mighty hoopシステムやhoopmaster 枠固定台などで位置合わせを標準化します。
- 症状:位置ズレ/中心が合わない。
- チェック: スタビライザーが滑っていないか。
- チェック: ビニールがズレていないか(スプレー量や固定方法を見直す)。
準備チェックリスト(事前確認)
- データ: 刺繍機に読み込み済み?
- 枠: 4.25" x 5.5"で干渉なく動く?
- デザイン: 45°回転が必要か確認した?
- 材料: カットアウェイ、ビニール、仮固定スプレー、スナップ工具が揃っている?
セットアップチェックリスト(枠張り)
- スタビライザー: たるみなく枠張りできている?
- マグネット: 指を挟む位置に手を入れていない?
運転中チェックリスト(縫い中)
- 配置: ビニールがガイド線をしっかり覆っている?
- フラップ: 位置がまっすぐで、タックダウンで確実に固定できた?
- 裏当て: 最終ラン前に、枠の裏側へ確実に貼れている?
最終の現場メモ: トリミングで出るビニール端材は捨てずに保管しておくと、テンション確認や小物の試し縫いに使えて作業効率が上がります。
