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フェイクシェニール刺繍に必要な材料
フェイクシェニールのバーシティレターは、従来のシェニール(ループパイル)専用機がなくても「それっぽい立体感」を出せるのが強みです。今回の考え方は、現場で言うところの“積層アップリケ(アプリスタック)”。土台にグリッターHTVを置いて輪郭をきれいに作り、中央にタオル素材を入れてシェニール風の質感を再現します。
動画ではPatriceが、多針刺繍機でバーシティジャケットの左胸に直接縫い付けています。工程を安定させるには、「各層が何のためにあるか」を理解しておくのが近道です。

動画で使用している主な材料
- バーシティジャケット: 左胸位置に配置(ヒートプレスに耐えられる素材か事前確認)。
- グリッターHTV(熱転写ビニール): 外周の土台。通常のビニールより表面の粒感があるため、タックダウンの小さなムラが目立ちにくい。
- タオル/パイル素材: 「フェイクシェニール」の芯。中程度の毛足のタオル生地が扱いやすい。
- HeatnBond Lite: タオル裏に貼る両面接着芯。ほつれ・ズレの抑制に有効(貼ったら紙を剥がしてから枠へ)。
- ポリエステル刺繍糸: 40wt相当が一般的。
- ヒートプレス+テフロンシート: 最終接着の必須セット。
- カーブアップリケはさみ: 縫い線ギリギリを攻めやすい。
見落としがちな消耗品&事前チェック(“保険”)
材料が揃っていても、失敗の原因は「見えない条件」にあることが多いです。開始前にここだけは確認してください。
- スタビライザー(下支え): 動画はクランプ(マグネットで挟む)中心ですが、厚手ジャケットは縫い密度が高くなりやすいので、内側にスタビライザーを入れておく前提で考えると安定します。
- 針の状態: 厚手は針への負荷が大きいので、使い古しは避け、必要なら新品に交換します。
- 水溶性トッピング: 必須ではありませんが、タオルの毛足にサテンが沈みやすい場合は、上に水溶性フィルムを置くと「毛を剃らなくても済む」ことがあります(コメントで提案あり)。
- 糸くず対策: タオルは毛羽が出ます。リントローラー(粘着クリーナー)を手元に置いて、工程の区切りごとに掃除できる状態に。
判断の目安:素材別の考え方(現場用メモ)
| 服の素材・構造 | まず疑うポイント | 注意 |
|---|---|---|
| バーシティジャケット(厚手・キルト裏地など) | 枠張り時の噛み込み/ズレ | 裏側を縫い込むと致命的。毎回“裏確認”。 |
| フーディー/スウェット | 伸び・沈み | サテンが沈む場合はトッピングが効く。 |
| ナイロン系 | 針穴が残る | 位置合わせのミスが取り返しにくい。 |
この積層がうまくいく理由(要点)
- グリッターHTVの“ちぎり取り”性: 針目でミシン目状に穴が開くため、余分をハサミで切らずに剥がしやすい(動画の重要ポイント)。
- 毛羽管理が仕上がりを決める: タオル端の毛がサテンから出ると一気に素人っぽく見えます。後半の「際のトリム/必要なら毛足を落とす」工程が品質の分かれ目です。
厚手バーシティジャケットをマグネット刺繍枠で枠張りする
厚手アウターの失敗原因で一番多いのは枠張りです。無理に通常枠で締めると枠跡が出たり、縫っている途中でズレたりします。動画では5.5インチのマグネット刺繍枠を使い、力技を避けています。

厚手を枠に入れると何が起きるか(現象の整理)
バーシティジャケットは厚み・段差・裏地があり、平らに押さえ込むこと自体が難しい素材です。一般的なネジ式フープで無理に固定すると:
- 締め付け過多→枠跡: 摩擦を稼ぐために締めすぎて、生地表面がテカったリング状の跡が残りやすい。
- 戻ろうとする力→歪み: 厚みが反発して、縫い中に生地が動き、文字が楕円っぽく見える原因になります。
マグネット刺繍枠は、横方向の摩擦ではなく“上下から挟む力”で保持するため、必要以上に潰さず固定しやすいのが利点です。
「マグネット刺繍枠」が厚物の定番として語られるのは、枠を置いて“パチッ”と固定し、すぐ縫いに入れる段取りが作れるからです。

動画どおりの枠張り手順(チェック付き)
- 準備: ジャケットのファスナーを全開にし、作業台に平らに置きます。
- 下枠(内側リング)を入れる: ジャケットの内側に下枠を差し込み、左胸の下に来るよう位置決め。
- 触って確認: 下枠の上に来る部分がシワになっていないか、手でならします。
- 上枠を合わせる: 左胸の狙い位置に上枠を置きます。
- 感覚の目安: 無理に押し込む必要はなく、磁力で自然に吸い付く感触になります。
- 張り具合の確認: 指で軽く叩いて、極端にたるんでいないか確認(引っ張りすぎて伸ばさない)。
- 最重要:裏側確認: 枠を持ち上げて、裏側に背中側の生地や袖が噛み込んでいないか目視します。
注意: “縫い閉じ”事故
縫い始める前は毎回、枠の裏側を確認してください。重みでジャケットの別パーツが枠の下に入り込みやすく、背中側や袖を一緒に縫うと修復がほぼ不可能です。
ツール見直しの目安(現場判断)
枠張りで手が痛い/時間がかかるなら、作業方法か道具がボトルネックです。
- 目安: 1着の枠張りに2分以上かかる、または枠跡が出る。
- 対処の方向性: 厚物は「力で締める」より「安定して挟む」ほうが再現性が出ます。動画のようにマグネット刺繍枠を使うと、枠張りのムラが減りやすいです。
手順:ダブル・アップリケの流れ(色替え=作業停止)
この方法は「ダブル・アップリケ」です。機械が“止まるべき場所”で確実に停止するよう、色替え(ストップ)を作業の合図として使います。
機械側の段取り(動画の要点)
PatriceはUSBからDSTを読み込みます。DSTは基本的に座標と停止命令(ストップ)を持つ形式で、現場では色替え=停止として運用することが多いです。
基本のリズム:
- 配置線(置き位置のガイド)
- 停止
- タックダウン(仮止め)
- 停止
- 2層目も同様に繰り返し
アップリケに慣れていない場合は、刺繍ミシン 用 枠入れと「色替えで止める」運用をセットで理解すると迷いにくいです。
Step 1 — 枠を機械に装着
- 枠をパンタグラフ(駆動アーム)に確実に固定します。
- 最終確認: 枠の下に手を入れて、背面生地が針板側に入り込んでいないか確認。
Step 2 — 枠サイズ選択&データ読み込み
- 操作パネルで使用枠(例:Mighty 5.5)を選択し、枠干渉の事故を避けます。
- USBからデータを読み込み。
Step 3 — トレースで位置合わせ
- 「Trace(トレース)」を実行。
- 目視チェック: 押さえが左胸の狙い位置をなぞり、ファスナーや前立てに対して傾いていないか確認。

Step 4 — 停止動作の確認(自動/手動の切替)
Patriceは、色替えごとに止まるモード(動画内ではAutomatic/Manualの切替)に変更しています。アップリケで連続運転にすると、素材を置く前に次工程へ進んでしまうので不可です。停止コード(ストップ)を有効にしてから進めます。
Step 5 — 1層目:配置線を縫う
- ジャケット上にランニングで外形が入ります。
Step 6 — 枠を手前に出して素材を置く
- 「枠出し(Frame Out / Hoop Out)」で手元へ。
- 可能な限り枠をアームから外さずに作業すると、位置ズレ(位置合わせ不良)を防ぎやすいです。
グリッターHTVをアップリケ土台に使う
グリッターHTV(熱転写ビニール)は、輪郭を強く見せつつ、布のようにほつれないのが利点です。

グリッターHTVの置き方(ここが肝)
- キャリアシートを剥がす: 透明のキャリアはプレス用で、縫う前に必ず剥がします。

- 上に“置く”(フローティング): 配置線の上にビニールを重ねます。
- 補足: 動画ではスプレー糊なしで進め、ズレないように様子を見ながら作業しています。
刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠が厚物で評価される理由の一つは、こうした「上に置く素材」も安定させやすい点にあります。
タックダウン→余分を剥がす
- タックダウンを縫います。
- ちぎり取り(tear-away): 針目でミシン目状になった部分から、余分をゆっくり剥がします。

注意: 勢いよく引っ張らない
余分HTVを剥がすときは、上に引き上げず、縫い線に沿って“低く・ゆっくり”横方向に逃がします。
感覚の目安:* ミシン目の紙を破るようにスッと切れていくのが正常。抵抗が強いなら無理をせず止めます(縫い目を持っていかれる危険)。
外周サテンを縫う
ビニール端を覆うように、密なサテンで外周を仕上げます。

補足:サテンの密度について
動画内に具体数値の指定はありませんが、厚物+サテンは負荷が上がります。糸切れや針熱が出る場合は、まず速度を落とす/針を新しくするなど、物理側の負荷を下げる方向で調整します。
タオル芯(フェイクシェニール)をトリムして仕上げる
ここが仕上がり差の出る工程です。タオルの“厚み”と“毛足”をコントロールできると、サテンがきれいに立ちます。
HTVの内側を抜く(厚みを減らす)
Patriceは、HTVの文字内側部分を取り除いています。いわゆる“ドーナツ抜き”で、積層の高さを下げるためです。

理由: HTV+タオル+ジャケットのまま全面積層すると、針が通る抵抗が増え、糸切れや縫い不良の原因になります。内側HTVを抜くことで負荷を軽くします。
タオル側の準備
タオル裏にはHeatnBond Liteが貼られています。
- 手順: 紙の台紙を剥がしてから枠内に置きます(動画で明言)。

内側の配置線にタオルを置く
- 内側の配置線が縫われます。
- その上にタオルを重ねます。

内側タックダウン
- タオルを固定するタックダウンが入ります。

縫い線ギリギリでタオルをカット
カーブアップリケはさみで、タックダウンのすぐ外側を狙って切ります。

- 狙いの幅:
- 離れすぎ: 後のサテンから毛が出やすい。
- 攻めすぎ: タックダウン糸を切って剥がれの原因。
- 目安: “縫い線が見えるか見えないか”のギリギリを、糸を切らない範囲で。
毛羽(繊維)対策
- カット中は毛羽が出ます。動画でもリントローラーを手元に置くことを推奨しています。
- さらに、サテンから毛が出るのが気になる場合は、縁だけ毛足を落とす(軽くトリムする)と改善します。
- もう一つの選択肢として、コメントで提案があったように水溶性トッピングを上に置くと、サテンが沈みにくくなり、毛を“剃る”作業が減る場合があります。
最終:内側サテンで封止
最後に内側サテンでタオル端を押さえ込み、見た目を締めます。ここで毛が出る場合は「トリムが甘い」サインなので、次回は縁のカット精度を上げるのが改善ポイントです。
ヒートプレスで最終固定する(接着を完成させる)
刺繍は機械的固定、ヒートプレスは接着の固定です。HeatnBondとHTVは熱で接着が完成します。
動画でのプレス条件
- 温度: 325°F。
- 時間: 25秒。
- 圧: しっかり。
- 当て布: テフロンシート(焦げ・貼り付き防止)。


ボタン/金具の安全対策
Patriceはボタン(スナップ)を熱の当たる範囲から避けています。
- 補足: ボタンがプラスチックの場合、溶けやすいので要注意。段差があると圧が逃げるため、可能ならプレス用のクッション(Pressing Pillow)で刺繍面を持ち上げ、均一に当てます。
mighty hoop 左胸 位置合わせを考えるとき、X/Yの見た目だけでなく「プレス時にボタンやファスナーを避けられる位置か」まで含めて設計すると、後工程が楽になります。
マグネット刺繍枠の取り扱い注意(現場の安全)
業務用のマグネット刺繍枠は磁力が強いので、扱いは慎重に。
注意: 指を挟まない
* リングの間に指を入れない。
* 上枠は“側面”を持って合わせる。
* ペースメーカー等の医療機器には近づけない。
このチュートリアルで身につくこと(対象者)
この手順は、マシン刺繍の中級者〜小規模受注の事業者が、スピリットウェア(学校・チーム系)メニューを増やすのに向いた内容です。フェイクシェニールは、専用機がなくても高単価に見せやすいのが魅力です。
身につく実務スキル:
- 厚み管理: 厚手アウターを無理なく枠張りする。
- 停止制御: 色替え(ストップ)を作業合図として使う。
- 素材の使い分け: HTVを“縁の土台”として活用する。
- 質感の整え: タオル素材のトリムでサテンの見え方を作る。
準備(Prep)
成功は「スタートを押す前」に決まります。
事前チェックリスト
- 素材確認: ジャケットがプレス温度に耐えられるか。
- 針の確認: 曲がり・摩耗がないか。
- 下糸(ボビン糸)残量: サテンが多いので余裕を持つ。
- HeatnBond: タオル裏に貼れている/台紙を剥がした。
- HTV: キャリアシートを剥がした。
- 道具配置: はさみ、ピンセット、リントローラーを手元に。
高回転で縫う機種の場合、厚物+サテンは負荷が上がります。糸切れが出るなら、まず速度を落として安定優先で進めます。
セットアップ(Setup)
動画の機材設定(要点)
- 枠: Mighty 5.5(マグネット)。
- データ: DST(停止を使う前提)。
- モード: 色替えで停止する設定(アップリケ用)。
なぜ停止設定が重要か
多針刺繍機は連続運転ができるため、設定次第では止まらずに進みます。アップリケは「置く→止める→縫う→止める」の反復なので、停止が効いていることが前提です。マグネット刺繍枠 ricoma 用のような組み合わせで運用する場合も、色替え設定(停止処理)が有効かを先に確認します。
運用手順(Operation)
層が増えるほど迷いやすいので、現場用のランシートとしてまとめます。
ステップ別ランシート
- ジャケットを枠張り:
- 確認: ファスナー全開/下枠は内側/裏側の噛み込みなし。
- トレース:
- 確認: ファスナーや襟に当たらない/傾きなし。
- 1回目(配置線):
- 外形のガイドを縫う。
- 停止→HTVを置く:
- キャリアを剥がし、配置線の上に置く。
- 2回目(HTVタックダウン):
- HTVを固定。
- 停止→余分HTVを剥がす:
- 縫い線に沿ってゆっくり。
- 外周サテン:
- グリッターの縁を仕上げる。
- 停止→HTV内側を抜く:
- 中央のHTVを取り除き、厚みを減らす。
- タオルを置く:
- 台紙を剥がしてから配置。
- 内側タックダウン:
- タオルを固定。
- 停止→タオルをトリム:
- 縫い線ギリギリでカット。毛羽はリントローラーで除去。
- 内側サテン:
- 端を封止して完成形へ。
- 枠外し→ヒートプレス:
- 325°Fで25秒、テフロンシート使用。
仕上がりチェック(Post-Run)
- サテンとタオル/HTVの間に隙間がない。
- 枠跡が目立たない。
- 毛羽やビニール片が残っていない。
- 接着が甘くなく、端が爪で浮かない。
品質チェック(Quality Checks)
良品の見え方
- 位置合わせ: 外周と内側の間隔が均一。
- 毛羽の封じ込め: サテン下からタオル繊維が出ていない。
- 清潔感: 糸くず・ビニール片が残っていない。
- しなやかさ: 中央HTVを抜いているため、板状に硬くなりにくい。
トラブルシューティング
まずは「物理(枠張り・素材・針)」から疑うと復旧が早いです。
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 枠跡(テカり・リング跡) | 厚物をネジ枠で強く締めた | 可能ならスチームで整える | マグネット刺繍枠で締め付け過多を避ける |
| サテンで糸切れ | 厚み・摩擦で負荷が高い | 針交換/速度を落とす | 厚みを減らす(内側HTVを抜く) |
| タオルの毛がサテンから出る | トリムが甘い/毛足が高い | 縁を追加でトリム | 水溶性トッピングを使う(コメント提案)/縫い線際を丁寧にカット |
| ジャケットを縫い閉じた | 裏側確認不足 | その場で停止(被害最小化) | 縫い始める前に毎回“裏確認” |
| サテン下に隙間が出る | 素材がズレた | 進行中なら停止して直す | 停止ごとに位置を確認し、ズレたら即対応 |
仕上がり(Results)
完成形は、見た目はシェニールワッペン級なのに、工程は「段取りの良い積層アップリケ」で再現できるのがポイントです。ダブル・アップリケは手数が多いぶん、停止の使い方とトリム精度が品質を左右します。
結論: 単針機でも不可能ではありませんが、色替え停止と手作業が増えます。
- 仕上がりが安定しない場合: まず枠張り(位置合わせと裏側確認)を見直します。厚物ではマグネット刺繍枠が作業ムラを減らしやすいです。
- スピードが出ない場合: 停止工程が多いので、段取り(道具配置・枠出しの手順)を固定し、同じ流れで回せるようにすると生産性が上がります。
