目次
作業環境とフォントの準備
変形スナップタブ(または変形アップリケパッチ)は、手に取ると「名前+縁取り+スナップ」だけのシンプルなものに見えます。ですが、仕上がりの良し悪しは、ミシンが1針目を打つ前――つまりソフト上の設計でほぼ決まります。
このチュートリアルでは、単に「ソフトを操作する」のではなく、縫製順と停止工程まで含めた“設計図”を作ります。Embirdで、きれいに繋がった連続アウトライン(ランニング系)を作り、それをITH(In-The-Hoop:枠内完結)工程に落とし込んで、ビニールを狙った位置に置いてテープ固定できる状態まで仕上げます。
この流れで学べること(動画の内容に沿って整理):
- フォント選定とサイズ決め: フォント(Samantha)を選び、5x7の作業範囲に合わせてサイズ確認。
- ノードで手描き輪郭: 自動ツールに頼らず、ノードを打って「雲形」っぽい輪郭を作る。
- テンプレート運用: 事前に作っておいたスナップタブテンプレート(.EOF)を読み込み、名前バブルと合体。
- パス設計: 開始点/終了点を調整し、ノードを追加して“橋渡し”し、ジャンプステッチを消す。
- ITHの層(工程)作り: アウトラインを複製+色替えで、配置線と仮止め線(停止工程)を作る。

このプロジェクトで作れるもの(応用先)
動画ではスナップタブとして説明されていますが、ここで身につく「輪郭を一筆で繋ぐ」考え方は、用途を広げる基礎になります。
- スナップタブ(キーホルダー系): 名前入り、学校名、マスコットなど。
- 変形アップリケ: トレーナーやジャケットなどに縫い付けるワッペン風。
- バッグ用ネームラベル: ダッフルバッグ等の識別タグ。
ポイントはフォントそのものではなく、アウトライン(輪郭)の作り方です。文字のサテンを邪魔しない距離感で、見た目がまとまり、かつ縫い割れや詰まりを起こしにくい輪郭を作ります。
なぜ「5x7枠」が重要なのか
動画では、5x7枠で作業し、文字の長さが3.5インチを少し超える程度だと触れられています。これは、スナップタブの“しっぽ”部分(テール)を入れる余白を確保しつつ、枠の限界に近づきすぎないための判断です。
一方で、ビニールや硬めのアップリケ素材を通常のネジ締め枠で強く押さえると、素材によっては枠跡が出やすくなります。特にビニールは表面にリング状の痕が残ることがあります。
作業性を上げる考え方: 家庭用機でこの手のファイルを縫う場合、ハード側の選択が段取りに効いてきます。例えば brother 5x7 マグネット刺繍枠 のようなマグネット式は、ネジ締めの摩擦ではなく磁力で押さえるため、枠跡対策や、ビニールを“置いて固定して進める”工程との相性が良くなります(扱う際は挟み込みに注意)。


手順1 — 名前を入力してステッチ生成
最初はシンプルですが、ここでの確認が後工程の安定につながります。
- フォント選択: Donnaは Samantha を使用(細めのスクリプト系)。
- 文字入力: デモでは「Donna」。
- サイズ確認: グリッド上で長さを確認(約 3.5インチ 付近)。
- ステッチ生成: ベクターを縫いデータとして生成し、見た目を確認。

チェックポイント: ステッチ生成後、文字が細すぎて頼りなく見えませんか?
期待する状態: 読みやすく、見た目の“重み”がある。
現場のコツ: 動画内でも「もう少し太め(chunkier)のフォントの方が良い場合がある」と触れられています。理由は、細いサテンは形が崩れやすく、後でスタビライザーを処理するときに引っ張られやすいからです。
注意:安全面 テスト縫いに移ると、ソフト作業でも一気に“現場作業”になります。針周りに指を入れないこと。マグネット枠を使う場合は、吸着の勢いで挟み込みやすいので、指の位置に注意してください。
ノードで輪郭(アウトライン)を手描きする
輪郭は、この手のデータで勝敗が分かれる部分です。自動アウトラインは形が硬くなったり、ギザついたりしがちです。動画では、ノードを打って滑らかな「雲形」輪郭を作る方法が示されています。

手順2 — ノードを打って輪郭を作る
点を置いていく方法は、形のコントロールが効きます。
- 手動のラン系ツール(Manual Stitch / Run Stitch系)を選択。
- 文字の近くから開始(ただし接触させない)。
- クリックでノードを配置して輪郭を進める。
- 角を立てず、ゆるいカーブで「柔らかい雲」を意識。
- 最後まで回して輪郭を閉じる。

動画内で触れているステッチ種(輪郭線)
Donnaは輪郭線として次の選択肢に触れています。
- シングル(単走り): 配置線など、後で隠れる工程向き。
- レッドワーク(Red Work): 目立つ輪郭に使える、しっかりした走り。
- トリプルビーン(Triple Bean): 摩耗に強く、キーホルダー系に向く(縫い時間は増える)。
「近すぎない」が重要な理由
動画でも「サテンに近づけすぎないで」と注意があります。輪郭を文字に寄せすぎると、見た目と耐久の両方で不利になります。
- 見た目: 輪郭が文字に食い込んで見える。
- 縫い: 文字サテンのすぐ脇に穴が並び、素材によっては弱くなりやすい。
ノードを打ち間違えたとき(動画の対処)
動画では、ノードを誤って置いた場面が出てきます。
- 症状: 線が急に折れたり、意図しない方向に飛ぶ。
- 原因: クリックミス。
- 対処: Embirdでは、右クリック→Delete で「最後に置いたノード」を削除できます。
スナップタブテンプレートの読み込みと合体
名前バブル(輪郭)ができたら、次はスナップタブの“機械的に必要な形”を入れます。動画では、事前に用意したタブのファイルを読み込んで使い回す流れです。

手順3 — スナップタブテンプレート(.EOF)を読み込む
動画の流れ:
- Design → Import を選択。
- ライブラリからファイルを探す(例:Snap Tab.EOF)。
- 現在の作業画面に読み込む。

チェックポイント: タブの輪郭(テール部分)が、名前バブルの横に別オブジェクトとして表示されます。まだ別々です。
期待する状態: 画面上に「カスタム輪郭」と「タブテンプレート」の2つが存在する。
テンプレートを別保存しておく理由(動画の意図)
Donnaはタブ部分を別で保存しておくことを勧めています。これは量産目線では非常に合理的です。
- タブのテールは 固定要素(スナップ位置や形が一定)。
- 名前バブルは 可変要素(注文ごとに変わる)。
タブを.EOFなどでライブラリ化しておけば、毎回スナップ周りを作り直さずに済み、整合性も保ちやすくなります。
タブをバブルに重ねて位置合わせ
動画では、タブを移動してバブルに少し重ねています。

チェックポイント(見た目): 重なりが少なすぎると“首”が弱く、重なりすぎると見た目が重くなります。ここは後でノード編集で滑らかに繋ぐ前提で、適度に重ねておきます。
連続パスにするためのノード編集(開始点/終了点)
ここが本編の山場です。バブルとタブ、2つの輪郭を1本の連続ステッチパスにします。ここができていないと、ミシンが途中で飛んでジャンプステッチが出たり、無駄な糸切りが増えたりします。

手順4 — 開始点/終了点を整え、ノードで繋ぐ
動画の流れを作業手順に落とすと、次の考え方になります。
- 前後関係: オブジェクトの順序(前面/背面、または縫い順の並び)を整える。
- 編集モード: ノード編集に入る。
- 開始点/終了点: 重なり部分の近くに、終点と始点が来るように移動。
- ノード追加: 交差・接続させたい位置にノードを挿入。
- 接続: 片方の線をもう片方に合わせて繋ぎ、不要な内側の線は整理して滑らかに。



「シミュレーションを先に回す」習慣(ジャンプステッチ予防)
動画では、シミュレーションでパス不良(直線が横切る)を見つけています。
- 症状: デザインを横切るジャンプ(画面上の移動線)。
- 原因: オブジェクトAの終点と、オブジェクトBの始点が離れている。
- 対処: 開始点/終了点の編集で、流れが自然になるように揃える(“ペンを持ち上げずに一筆書き”のイメージ)。
補足:連続パスにするメリット
このノード作業は地味ですが、得られるものが大きいです。
- 見た目: 接続部の糸端・結びが減り、きれい。
- 強度: 走り系が連続している方が、接続部が弱くなりにくい。
- 段取り: 不要な糸切りが減り、作業時間が読みやすい。
段取りのボトルネックが「枠張り」になったら
この手のデータを量産し始めると、データ作りよりも枠張りが時間を食うことがあります。
- 量が増えるほど、ネジ枠の締め付け作業が負担になりがちです。
- その場合、刺繍ミシン 用 枠入れ のような段取りの仕組みや、マグネット刺繍枠 のようなマグネット枠で、枠張りの再現性とスピードを上げる考え方があります。
ビニール用:配置(Placement)と仮止め(Tack-down)の層を作る
ITH(枠内完結)として成立させるには、途中で材料を置くための“停止”が必要です。動画では、アウトラインを複製して色を変え、色替え停止を作っています(ミシンは「工程名」ではなく「色替え」で止まるため)。

手順5 — アウトラインを複製し、色替え停止を割り当てる
動画の方法:
- 連続パスになった最終アウトラインを コピー。
- 2回ペーストして、合計3つのアウトライン層を作る。
- 層1(配置): 先頭に移動し、色を変更。目的:ビニールを置く位置を縫う。
- 層2(仮止め): 次に配置し、色を変更。目的:ビニールを動かないように縫い留める。
- 層3(最終): 名前縫いの後に来るようにし、色を変更。目的:仕上げの輪郭線。

ビニールを裏側に貼るための「追加停止」
動画では、最終の輪郭線に入る前に止めて、裏側にビニールをテープで固定するために、3回目または4回目の色替え停止を作る考え方にも触れています。ここを入れておくと、裏当て材(裏ビニール)を貼ってから最終輪郭で一緒に縫い込めます。
ビニールを切るタイミング(動画の判断)
Donnaは、ビニールは最後まで切り落とさない方が良いと話しています。
- リスク: 仮止め後に切りすぎると、最終輪郭がわずかにズレたときに端が露出する。
- 動画のやり方: 大きめのまま最後まで縫い、枠から外してからハサミで仕上げカット。
コメントから見える次の関心
コメントでは、Embirdのツリー機能やAuto outliner(自動アウトライン)についての要望が出ています。自動化は便利ですが、今回のようなノード編集を理解しておくと、自動生成で崩れたデータの修正ができるようになります。

準備(見落としがちな消耗品と事前チェック)
ソフトでうまく見えても、現場で失敗する原因は「準備不足」が多いです。
事前に揃えておきたいもの
- テスト用素材: いきなり本番ビニールを使わず、端材で試す。
- スタビライザー: スナップタブはティアアウェイが使われることが多い。衣類へのアップリケは用途に合わせて選ぶ。
- テープ: ビニール固定用(刺繍用テープ等)。
- スナップ: 仕上げ用。
事前チェックリスト(試し縫い前)
- 枠サイズ: ソフト上で5x7に収まっている。
- パス確認: シミュレーションで不自然な飛び(ジャンプ)がない。
- 輪郭の距離: 文字サテンに近づけすぎていない(動画の注意点)。
- 停止工程: 配置→仮止め→(名前)→最終輪郭、の色替えが組めている。
注意:マグネットの取り扱い マグネット刺繍枠 brother 用 のようなマグネット枠は、吸着力で指を挟みやすいので、開閉時は必ず指の位置を確認してください。
セットアップ
ここからは、作ったデータを実際の縫製段取りに落とし込みます。
ソフト側の設定(動画で確認できる範囲)
- 枠: 5x7
- フォント: Samantha
- 輪郭線のステッチ種: Single stitch / Red work / Triple bean(用途に応じて)
判断フロー:スタビライザー+枠張りの考え方
1. 何を作るか?
- スナップタブ(ビニール):
- 考え方: スタビライザーを枠張りし、ビニールは上に置いて工程で固定する。
- 衣類へのアップリケ:
- 考え方: 素材と製品仕様に合わせて、枠張り方法とスタビライザーを決める。
2. 数量は?
3. 枠跡を避けたいか?
- ビニールなど、枠跡が出やすい素材では、押さえ方の選択が品質に直結します。
セットアップチェック(縫い始め前)
- 色順: 配置線の色→仮止め→(名前)→裏ビニール貼り→最終輪郭、の停止位置が想定通り。
- 裏側用ビニール: 先にカットしてテープも用意しておく。
- テンプレート運用: タブ部分は別ファイルとして保存し、次回に使い回せる状態にする。
運用(ITHスナップタブの縫い順)
動画の流れを、現場で迷わない順番に整理します。
縫い進めの手順
- 配置線(色1): スタビライザー上に配置線を縫う。
- 作業: 停止したら、ビニールを配置線に合わせて置き、テープで固定。
- 仮止め(色2): ビニールを縫い留める。
- 名前(次の色): 文字を縫う。
- 最終輪郭の前で停止:
- 作業: 枠は外さずに裏返し、裏側にビニールを当ててテープ固定。
- 最終輪郭(最後の色): 表ビニール+スタビライザー+裏ビニールをまとめて縫い込む。
工程ごとのチェック
- 仮止め後: ビニールがズレない程度に固定されている。
- 名前後: 文字が想定位置に収まっている。
- 最終輪郭後: 表裏のビニールが縫い込まれ、輪郭が途切れずきれい。
仕上げ確認(QC)
- ジャンプ糸: 不要な飛び糸が出ていない(出る場合は手順4の開始点/終了点を再確認)。
- 接続部: タブとバブルの繋ぎ目が尖っていない。
- 位置合わせ: 文字と輪郭の間隔が均一。
- スナップ位置: 取り付け時に曲がらないよう、中心をマーキングしてから打つ(動画で「まっすぐになるように印を」と言及)。
品質チェック
動画でも「もっと中央に」「尖りを弱めてもよい」といった調整の話があります。仕上がりを安定させるには、次を見ます。
見た目のバランス
全体を引きで見て、雲形が不自然に角ばっていないか確認します。文字の流れに沿って輪郭が“有機的”に見えるのが理想です。
素材の挙動
ビニールは針穴が並ぶと弱くなりやすい素材です。ノードが細かすぎたり、縫いが詰まりすぎると、境界が裂けやすくなります。輪郭線は用途に応じて、Single / Red work / Triple beanを選び、過度に穴を増やさないようにします。
枠張りや固定が甘いと、配置線と最終輪郭がズレて見えることがあります。段取りの再現性を上げたい場合、刺繍用 枠固定台 のような 刺繍用 枠固定台 を使って、毎回同じテンションで枠張りする考え方もあります。
トラブルシューティング
迷ったら「症状→原因→対処」で切り分けます。
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| 輪郭が急に折れる(カクつく) | ノードの置き間違い | 右クリック→Deleteで最後のノードを削除し、カーブを作り直す。 |
| デザインを横切るジャンプが出る | 開始点/終了点の位置が不一致 | 開始点/終了点を編集し、接続部付近で繋がるようにする。 |
| 輪郭が文字に食い込んで見える | 輪郭が近すぎる | ノードを外側へ少し逃がす(動画の注意点に従う)。 |
| ビニールに枠跡が残る | 通常枠の摩擦・圧 | dime 刺繍枠 系のマグネット枠や、互換の マグネット刺繍枠 brother 用 を検討する。 |
| ビニールが中央で浮く/ズレる | テープ固定が弱い、停止工程の段取り不足 | テープを見直し、仮止め工程がすぐ走る順番になっているか確認する。 |
仕上がり
この手順で作るのは、単なる「名前入りタグ」ではありません。テンプレートを使い回せて、停止工程が組まれていて、シミュレーションで縫い順まで確認できる――現場で回せるITHデータです。
最終的には、輪郭が途切れず、接続部が滑らかで、スナップ位置もまっすぐに出せる変形スナップタブが完成します。
