チュールに繊細なスカラップレースを刺繍する:失敗しにくい再現手順(枠張り/縫製/トリミング/水溶性スタビの溶解除去)

· EmbroideryHoop
本ガイドでは、100×100mmの刺繍枠に水溶性スタビライザー(WSS)を1枚入れ、スパークルチュールの上に2色のスカラップレースボーダーをきれいに刺繍する手順を、現場で再現できる形でまとめます。滑りやすいチュールを歪ませずに枠張りするコツ、単針機で安全に縫い切るための事前確認、スタビが硬い“乾いた状態”のうちに輪郭をシャープに切り出すトリミング順序、ジャンプ糸の処理、最後の浸け置き~乾燥まで。さらに、起きやすいミスと回避策も整理します。
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目次

チュール刺繍に必要なもの

チュールにレースを刺す作業は、初めてだと身構えがちです。見た目は「ふわっと繊細」ですが、マシン刺繍の現場ではチュールは“テクニカル素材”寄り。少しのズレがそのまま仕上がりに出て、トリミングのわずかなブレも目立ちます。だからこそ、手順を固定化すると一気に安定します。

このチュートリアルの軸はシンプルです。縫う前に「構造」を作る。 針が何千回も貫通しても耐えられるだけのコシを一時的に作り、最後に水で消せる状態にします。

Video title card displaying '15th Birthday Event Freebie 12'.
Introduction

何を作る?(この方法が効く理由)

スパークルチュールの上に、スカラップ形状のレースボーダーを刺繍します。支持体は水溶性スタビライザー(WSS)1枚、刺繍枠は100×100mm。レースデザイン自体が“骨格”になり、チュールは透け感を残したままデザインを支える「薄い土台」として働きます。フリースタンディングレース(FSL)のように単体で成立させるより、繊細に作りやすい構成です。

チュールの歪み対策として、スタビを増やしたり極端に低速にしたりしがちですが、仕上がりが変わるポイントは主に次の2つです。

  1. 歪ませない枠張り(ニュートラルテンション):チュールの目(穴の並び)を変形させない。
  2. 乾いた状態でのトリミング:スタビがまだ硬い間に切る(濡れて柔らかくなってから切らない)。

動画で使用している主要アイテム

  • 100×100mm 標準刺繍枠:ネジ機構がスムーズなもの。
  • 単針刺繍機:参考映像ではHusqvarna Viking系の押さえが登場。
  • Floriani Wet N Gone:または同等の“繊維タイプ”水溶性スタビライザー(フィルムタイプは穴あきが起きやすいので注意)。
  • スパークルチュール:動画内でも触れられている通り、ブライダル向けの品質が有利です。柔らかすぎるチュールより、ある程度コシのあるものの方が安定します。
  • :40wtのレーヨン/ポリエステル(例:Sulky Rayon 1071)。レーヨンはレース向きの艶、ポリは切れにくさが利点。
  • カーブ(曲線)刺繍はさみ:スカラップの曲線に沿わせやすい。
  • 直線はさみ:下辺の直線カット用。
  • リッパー:裏面のジャンプ糸処理に。
  • カッティングマット/グリッドボード:直線・平行出しに必須。
Hands tightening the screw on a 100x100 embroidery hoop containing water-soluble stabilizer.
Hooping Stabilizer

見落としがちな消耗品&事前チェック(“原因不明の失敗”を減らす)

2色程度のシンプルなデザインでも、チュール×レースは小さな条件差が結果に出ます。刺し始める前に、最低限ここだけ確認します。

  • 針の状態:動画では針番手の指定はありませんが、チュールは引っ掛けが致命傷になりやすい素材です。少しでも不安があれば新品針に交換し、引っ掛かり(糸引き)が出ないか試し縫いで確認します。
  • 糸掛けのやり直し:上糸が不安定だと、裏で糸溜まり(鳥の巣)が起きやすくなります。上糸は一度抜いて掛け直し、縫い始めの数十針を必ず観察します。
  • ボビン周りの清掃:前工程の糸くずが残っていると、突然の糸調子崩れにつながります。
  • はさみの切れ味:チュールは切れ味が悪いと“噛む”ように切ることになり、輪郭が毛羽立ちます。
  • 作業面の清潔:チュールは静電気でゴミを拾いやすいので、グリッド面は軽く拭いてから使います。

ツールのアップグレード(枠張りがボトルネックになったら)

ネジ式の刺繍枠で、締め込み中にチュールが逃げたり、締めたつもりでも均一に張れなかったりする場合、枠張り工程そのものが不安定要因になります。

この段階で検討されやすいのが マグネット刺繍枠 です。ネジでねじりながら固定するのではなく、上から均一に押さえるため、デリケート素材の枠跡やズレを抑えやすく、微調整もしやすくなります。

注意
カーブはさみやリッパーは刃物です。利き手ではない方の指は必ず刃の進行方向から外し、体に向けて切らないでください。また、刺繍枠を機械に付けたままのトリミングはしないでください。誤って機械ベッドや可動部を傷つけるリスクがあります。

準備チェックリスト(枠に触る前に)

  • :引っ掛かりが出ない状態(必要なら新品)
  • 糸掛け:上糸を掛け直し、縫い始めを観察する準備ができている
  • ボビン:セットが安定、周囲が清掃済み
  • 照明:透け素材のシワやズレが見える角度
  • スタビ:湿気でフニャついていない(乾いてコシがある)

デリケート素材の枠張り手順(チュール向け)

枠張りはチュール×レースの成否を決めます。ここでテンションが偏ると、ボーダーが歪んだり、チュールが波打ったりします。参考動画では、スタビだけを枠張りしてチュールを入れ忘れるという“あるある”が出てきます。これは逆に、正しい段取りを覚える良い教材です。

View of the hoop with both stabilizer and sparkly tulle properly secured and taut.
Fabric Preparation

手順1 — 水溶性スタビライザー(下層)を枠張りする

刺繍枠の下枠に、水溶性スタビライザー(WSS)を1枚置き、上枠をはめます。

チェックポイント: 指で軽く弾いたとき、面がたるまず均一に張れていること。シワや波が見えたらやり直します。

狙いの状態: 平らで、作業中にヨレない土台。

手順2 — チュール(上層)を重ね、2枚一緒に枠張りし直す

動画では、チュールを入れ忘れたことに気づき、いったん外してスタビの上にチュールを重ねて枠張りし直す流れが示されています。これが正解です。チュールとスタビは必ず同時に枠に噛ませます。

なぜ“浮かせ(フロート)”にしない? タオルなどでは有効でも、ボーダー系レースは輪郭をなぞるため、わずかなズレが形崩れに直結します。枠の中でチュールの目が機械のX-Yに対して安定するよう、固定しておく方が安全です。

The embroidery hoop loaded onto the machine, ready to stitch, illuminated by machine lights.
Machine Setup

生地選びの補足(動画より)

チュールは硬さに差があり、動画ではブライダル向けの入手先が勧められています。柔らかすぎるものより、ある程度しっかりしたチュールの方がこの用途では扱いやすくなります。

現場のコツ:張るが、伸ばさない

狙うのは「ピン」と張れている状態で、引っ張って伸ばすことではありません。

  • 見た目の目安: チュールの目(穴の並び)が潰れていないこと。引っ張り過ぎると形が変わります。
  • 触感の目安: 中央が落ち込まない程度に張れているが、無理なテンションで枠が外れそうになっていない。

手張りで再現性が出にくい場合は、外枠を固定して両手でならしながらセットできる 刺繍 枠固定台 を用意すると、テンションのブレが減ります。

手順3 — 枠を機械に装着し、縫い始め前の確認をする

枠をアームに装着し、確実に固定されていることを確認します。

Embroidery machine needle stitching the first gold/cream colored scallop element onto the tulle.
Stitching Color 1

チェックポイント:

  1. 干渉:枠の下にチュールが巻き込まれていない。
  2. 破れ:装着時にスタビが裂けていない(裂けがある場合はやり直し)。

狙いの状態: 枠が水平で、キャリッジがスムーズに動く。

マグネット枠を検討するタイミング(判断の目安)

量産や反復作業では、ネジ式枠の締め外しが疲労につながり、後半ほど枠張り精度が落ちやすくなります。一定数を連続で作るなら マグネット刺繍枠 のような方式が作業を安定させやすい、という考え方になります。

  • 標準枠:導入しやすいが、締め込み時にズレやすい。
  • マグネット枠:デリケート素材で枠跡が出にくく、固定が安定しやすい。
注意
マグネットの取り扱い。強力な磁石は指を挟む危険があります。取り外しはゆっくり行い、指を挟まない持ち方を徹底してください。

2色スカラップデザインを縫う

このデザインは、1色目で“骨格”、2色目で“装飾”を重ねる構成です。

補足
参考動画では速度(SPM)の具体値は示されていません。チュールは熱や摩擦の影響が出やすい素材なので、糸切れや目飛びが出る場合は速度を落として安定側に寄せ、最初の縫い出しを観察しながら調整します。
Machine stitching the intricate white border and loops overlaying the first color.
Stitching Color 2

手順4 — 1色目(スカラップの土台)を縫う

最初の色で、スカラップのベース形状が形成されます。動画では「シャドーワーク要素をボーダーに展開した」と説明されています。

チェックポイント: 最初の数十〜100針は必ず注視します。

  • 見る点: 生地が針に引き上げられるような動き(フラッギング)が強い場合、枠張りが甘い可能性があります。
  • 音: いつもと違う打音や引っ掛かり音がしたら一旦停止し、糸絡みや枠の緩みを確認します。

狙いの状態: チュールが波打たず、糸が面に素直に乗る。

手順5 — 2色目(アイビーのループと縁取り)を縫う

2色目で密度が上がり、細部が仕上がります。

Detailed view of the complex looping stitch pattern being formed on the tulle.
Stitching details

チェックポイント: 裏面が見える用途なら、下糸(ボビン糸)の色も意識します。今回のようなボーダーで裏が目立ちにくい場合は、白系の下糸で問題になりにくい構成です。

補足:異音・糸溜まりは即停止

動画でも、縫い上がり後の整理に触れていますが、縫製中に違和感が出たら早めに止める方が被害が小さく済みます。糸溜まりが進むと、チュールが針板側に引き込まれやすくなります。

The completed lace design still in the hoop attached to the machine.
Stitching Complete

手順6 — 機械から外し、すぐに糸端を整理する

縫い終わったら枠を外します。この時点では、まだ枠から外さないでください。

Hand trimming a loose thread from the finished design immediately after removal from machine.
Cleanup

チェックポイント: 枠を裏返し、裏面のループや飛び糸があれば、張りがあるうちに軽く処理しておきます。

狙いの状態: 次のトリミング工程に入れる“安定した刺繍面”。

浸け置き前にやるべきトリミング(仕上がりを決める順序)

プロっぽく見えるレースの差は、ほぼ「順番」です。

  • よくある失敗: 先に水で溶かす → 柔らかい状態で切る → 端がガタつく
  • 安定手順: 硬いうちに切る → 溶かす → 乾かす

水溶性スタビライザーが“厚紙”のようなコシを作ってくれる間に、輪郭を決め切ります。

手順7 — グリッドに合わせて下辺を直線カットする

枠から外し、カッティングマット(グリッドボード)の上に置きます。刺繍の直線部分をグリッドに平行に合わせます。

Cutting a straight line along the bottom of the tulle using the blue grid board as a guide.
Trimming Straight Edge

作業: 直線はさみで、下辺を一気にまっすぐ切ります。片手で押さえてズレを防ぎます。

狙いの状態: ベースラインが真っ直ぐで、ボーダーとして使いやすい。

現場のコツ

透け素材は“まっすぐ”が見えにくいので、グリッドを基準にするのが最短です(動画でもグリッド合わせが示されています)。

手順8 — スタビが硬いまま、カーブはさみでスカラップ上辺を切り出す

カーブ(曲線)刺繍はさみに持ち替え、スカラップの曲線に沿って余分なチュールを落とします。

Using curved embroidery scissors to carefully cut the tulle along the scalloped top edge.
Precision Trimming

手順の要点(動画の流れに合わせた実務ポイント):

  1. 刃先の向き:縫い目を切らないよう、縫い線から少し逃がす角度で入れます。
  2. 切る対象:チュールとスタビを一緒に切ります(スタビのコシがある方が切りやすい)。
  3. 刻み方:長く一気に切らず、曲線は小刻みに進めます。

狙いの状態: スカラップのカーブが途切れず、ギザつきが少ない。

補足:なぜ“先に切る”のか

動画でも「浸け置き前の方がトリミングが楽」と明言されています。スタビが溶けるとチュールが頼りなくなり、狙ったラインで切りにくくなります。

手順9 — 水に入れる前に、形を最終確認する

透かして見て、切り残しやガタつきがないか確認します。

The lace piece fully trimmed of excess tulle but with stabilizer still intact (stiff).
Trimming Result

チェックポイント:

  • 切り込み過ぎ:縫い糸を傷つけていないか
  • 切り残し:チュールの余りが目立つ箇所がないか

狙いの状態: 水に入れる前の時点で、すでに“完成形”に見える。

仕上げ:ジャンプ糸処理→浸け置き→乾燥

最終の浸け置き前に、裏面を整えます。

手順10 — 裏のジャンプ糸を外す

裏返して、長い渡り糸(ジャンプ糸)を処理します。動画では、カーブはさみで結び目付近を切り、必要に応じてリッパーで糸を引き抜いています。

Using scissors to snip a jump stitch on the reverse side of the embroidery.
Backside Cleanup

チェックポイント: チュールを切らないこと。動画でも「切るならチュールではなくスタビ側」と説明されています。刃先は糸の下に入れ、素材をすくわないようにします。

狙いの状態: 裏が引っ掛からず、見た目もすっきり。

手順11 — 浸け置きでスタビを溶かし、平干しする

ぬるま湯に浸けて水溶性スタビを溶かします。

  • チェックポイント: 触ったときにヌメリ感が残る場合は、スタビが残っているサインなので、すすぎを追加します。
  • 乾燥: 伸びやすいので吊り干しは避け、タオルの上で平干しします。
Displaying the back of the lace significantly cleaned up with no loose threads.
Cleanup Inspection

チェックポイント: 乾いた後、端が気になる場合はごく軽く追加トリムします。

狙いの状態: 柔らかく、透け感のあるレースボーダー。

Comparison showing two finished lace pieces, one two-tone and one off-white, after soaking and drying.
Final Showcase

仕上がりの目安(動画で見せている色違い)

参考動画では、2色で立体感を出したものと、オフホワイト単色(糸色1071)の2パターンが紹介されています。用途に合わせて色数を変えると印象が大きく変わります。 また、コメント欄では「シードパールを合わせたい」というアイデアも出ています。装飾を追加する場合は、土台のチュールがしっかりしたものだと扱いやすくなります。

トラブルシューティング(症状 → 原因 → すぐできる対処)

症状 ありがちな原因 すぐできる対処
波打ち(端がうねる) 枠張りでチュールを引っ張り過ぎ、戻りで歪む 目(穴の並び)を潰さないテンションで枠張りし直す
端がギザギザ/毛羽立つ 浸け置き後に切ってしまい、素材が柔らかい 必ずスタビが硬い状態でトリミングする
糸溜まり(鳥の巣) 上糸の掛けミス/ボビン周りの不調 いったん停止し、上糸を掛け直し、ボビン周りを確認する
枠跡が出る ネジ式枠を強く締め過ぎ 枠の締めを見直す/必要に応じて マグネット刺繍枠 を検討
ボーダーがズレる 縫製中のわずかな滑り チュールとWSSを同時に枠張りする。再現性を上げるなら ミシン刺繍 用 枠固定台 の導入も検討

判断フロー:スタビ+枠張りの組み立て

  1. 素材が透ける/目が粗い(チュール等)?
    • YES: 水溶性スタビライザー(WSS)を使う(溶かして消せる前提で組む)。
    • NO: 通常の素材別ガイドに従う。
  2. 枠が滑る/枠跡が気になる?
    • YES: マグネット刺繍枠 を検討(上から均一に固定しやすい)。
    • NO: 「チュール+WSSを一緒に枠張り」できているか再確認。
  3. 趣味レベルか、反復作業(10点以上)か?
    • 反復作業: 枠張りの再現性が生産性に直結するため、ミシン刺繍 用 枠固定台 で工程を安定させる。
    • 趣味: 手作業でもOK。手順を固定して丁寧に。

小規模工房向け:効率の考え方

この手のレース作業が増えると、単針機は色替えや段取りに時間が取られがちです。ただし、いきなり設備更新より先に、まずは枠張りの物理(ズレない固定と、乾いた状態で切る順序)を体に入れるのが、最も確実な投資になります。

セットアップ確認(縫い始め前)

  • スタビ:繊維タイプWSS 1枚、均一に張れている
  • サンドイッチ:チュールが“枠の中”に入っていてシワがない
  • :引っ掛かりが出ない状態(必要なら新品)
  • 確認:縫い始めの数十針を観察する準備ができている
  • 安全:枠下の巻き込みがない

作業順チェック(成功の並び)

  • 1色目(骨格)→ 縫い始めの挙動を確認
  • 2色目(装飾)→ 糸溜まりの兆候がないか確認
  • 枠を外す(まだ外枠からは外さない)
  • 裏の糸端・ジャンプ糸を先に整理
  • 枠から外す → グリッドで下辺を直線カット
  • スタビが硬いまま、上辺スカラップを曲線カット
  • 浸け置き → すすぎ(ヌメリが消えるまで)→ 平干し