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多針刺繍機は量産の主力機——でも「毎日のメンテ」を仕事の一部として回さないと、主力のままではいられません。
多針刺繍機は高速で動きます。金属同士が擦れる箇所は、注油が不足すると摩擦熱が増え、動きが重くなったり、異音や糸トラブルの原因になります。
ここでは、Brother Entrepreneur Proでの実演をもとに、初心者でも迷わない「毎日の注油+基本メンテ」ルーティンを、現場でそのまま使える形に組み直しました。ポイントはシンプルで、回転釜(レース)には“1滴だけ”。そして、必要なときだけ針棒側のフェルトに“含ませる”——この加減が油ジミを防ぎます。


刺繍機メンテに必要な道具
メンテが続くかどうかは「探さなくていい状態」を作れるかで決まります。動画では、必要なものをワゴン(移動式トロリー)にまとめ、作業直前に手元へ寄せ、始めたら刺繍エリアの邪魔にならない位置へスッと退避させています。
動画で使っているもの(理由つき)
- 刺繍機用の透明オイル(ミシン油):必須。動画でも「適切な刺繍機用オイルを使う」ことが強調されています。用途外のオイルは避け、必ず機械に指定されたものを使ってください。
- ニードルオイラー(針先タイプの注油器):先端が細い金属チップで、狙った場所に“1滴だけ”落とせます。回転釜の注油では特に有効です。
- (補助)ペインターズテープ/マーキングペン等:動画内では、位置出しや作業補助としてワゴンに常備していました(メンテそのものの必須品というより、現場の「手元セット」)。
補足:なぜ「多め」より「正確な1滴」なのか
回転釜は高速回転します。付け過ぎた油は遠心力で広がり、下糸(ボビン糸)や周辺部品に移り、最終的に生地へ染み出して油ジミになります。
チェックポイント:
- 目的は“濡らす”ことではなく、摩擦面に薄い油膜を作ること。
- 「1滴で足りる」前提で設計されている機種が多いので、まずは動画どおりの量から始めます。



作業スペース準備と機械へのアクセス確保
動画の最初の一手は「注油」ではなく「見える状態を作る」こと。前側のテーブル(作業台の延長部)を外して、ボビン周りを正面から見やすくしています。
手順1 — テーブル(延長部)を外して視認性を上げる
やること:
- テーブル延長部の固定ネジ(つまみネジ等)を探します。
- ネジを緩め、テーブルを本体からまっすぐ引き抜きます。
- 倒れないように安全な場所へ置きます(ワゴンや壁際など)。
狙い: 下から覗き込む姿勢だと、注油ポイントを外しやすく、手も入りにくいです。テーブルを外して“正面から見える角度”を作ると、作業が一気に確実になります。
チェックポイント: ボビン部のカバー(動画では「口(mouth)」と呼んでいる部分)を、無理な手首角度なしで正面から確認できること。
手順2 — 道具をワゴンにまとめ、作業時は刺繍エリアから退避
必要な道具が手元に揃っていると、注油をサボりにくくなります。また、オイルボトルを刺繍枠の近くに置きっぱなしにしないことで、転倒事故も防げます。
現場のコツ: 「メンテゾーン(道具・注油)」と「刺繍ゾーン(枠張り・縫製)」を分けると、作業が混ざらずミスが減ります。
商用ワークフローの見直しヒント: メンテ道具を整理できたら、次は枠張り工程のムダも見えてきます。往復や位置ズレが多いなら、専用の 枠固定台 を導入して、枠張りを“定位置作業”にすると段取りが安定します。
準備チェックリスト(注油前)
- 電源:停止状態で作業できている(誤作動しない状態)
- 視界:テーブル延長部を外し、ボビン周りが見える
- 手元:ニードルオイラーとオイルがすぐ使える
- 段取り:「始業前の注油」か「ボビン交換タイミング」かを決めている

手順どおりに:回転釜(レース)へ注油する
ここが毎日の要点です。動画でも「始動前」と「ボビン交換ごと」に回転釜(レース)へ注油することが繰り返し強調されています。
「レース」ってどこ?(コメントでの混乱を整理)
コメントでも「レースとはヘッドのスライダー?それともボビンの所?」という質問がありました。
この手順で注油するのは、ボビンが入っている周辺の回転釜(フック)が回る金属部=レース(回転釜の摺動部)です。まずは機械のボビン部カバー内側にある図解(動画でも指差しで確認)を見て、注油ポイントを特定してください。
brother pr 系など機種が違っても、図解の位置指定に従うのが最優先です。
手順3 — ボビン部を開け、注油ポイントを図解で確認
やること:
- ボビン部のカバー/扉を開けます。
- カバー内側の図解(注油位置の表示)を確認します。
- 指定された注油ポイントを目視で特定します。
チェックポイント: 「ここに注油」と示されている場所を、チップ先端で“狙って触れられる”状態になっていること。
手順4 — ニードルオイラーで“1滴だけ”落とす
やること:
- ニードルオイラーの先端を注油ポイントへ当てます。
- ごく軽く押して、1滴だけ落とします。
注意: 付け過ぎは厳禁です。動画でも「1滴で十分」「泳ぐほど入れない」と明確に言っています。
注意(安全):針周り・可動部に手を入れる作業です。誤作動しない状態で行い、可動域に指を入れたまま動かさないでください。
補足:油ジミが起きる典型パターン(防止の考え方)
- 付け過ぎる
- 余分な油が周辺へ回る
- 下糸や布側へ移って染みる
防止の基本:量は「1滴」。そして、注油後は周辺に垂れがないか目視で確認します。




針棒(ニードルバー)とフェルトパッドのメンテ
動画では、回転釜の次に「針棒側の白いパッド(フェルト)」への注油も紹介されています。ただし、こちらは毎回ではなく、使用頻度に応じて“たまに”行う位置づけです。
手順5 — 針棒まわりへアクセスする
やること:
- 針周りの金属ガード(カバー)を下げ、内部が見える状態にします(動画の動作)。
- 針棒付近にある白いフェルトパッドを探します。
チェックポイント: 白い小さなパッドが見えて、先端で触れられること。
手順6 — フェルトに“含ませる”程度に注油(押し出さない)
やること:
- よく使う針番号(稼働の多い針)を意識します(動画でも「使っている針だけ」と説明)。
- ニードルオイラー先端をフェルトに当てます。
- フェルトが油を吸うのを待ちます。強く押して出さない。
成功の目安: フェルトがわずかに色味が変わる程度。垂れるなら過多です。
注意(汚染リスク):ここで油を付け過ぎると、針棒を伝って下に落ち、糸や作品に移る原因になります。フェルトは“湿らせる”だけに留めます。
補足:どの針をやるべき?
動画では「全部ではない」「使っている針番号を確認して」と言っています。針番号表示を見て、稼働の多い針から優先してください。




よくあるミス:付け過ぎを防ぐ
動画の最大の注意点は一貫して「付け過ぎないこと」です。目的は摩擦を減らすことで、油に浸すことではありません。
ミス1 — オイルを付け過ぎる
起きること: 生地への油ジミ、周辺への飛散。 対策: ニードルオイラーで“1滴”。フェルトは“吸わせるだけ”。
ミス2 — 注油ポイントを図解で確認せず、勘でやる
起きること: 狙いが外れて効果が出ない/余計な場所を汚す。 対策: ボビン部カバー内側の図解を必ず確認(動画で実演)。
ミス3 — アクセスが悪いまま作業する
起きること: 見えない・手が入らない→付け過ぎや外しの原因。 対策: テーブル延長部を外してから始める。
現場のコツ:続くスケジュールに落とし込む
コメントでも「メンテのスケジュールを作って、何をやったか記録しよう」と呼びかけがあります。
おすすめの考え方(動画ベース):
- 始業前:回転釜(レース)に注油
- ボビン交換ごと:回転釜(レース)に注油
- 針棒側:使用頻度に応じて“たまに”(機種の取説も参照)
作業チェックリスト(最後の確認)
- 確認:ボビン部カバー内側の図解で注油位置を見た
- 実施:回転釜(レース)に1滴だけ注油した
- 針棒:必要な針のフェルトだけに、押し出さず含ませた
- 目視:垂れ・にじみがない
- 復旧:テーブルを確実に戻した
PR系ユーザー向け(コメント由来の補足)
コメントには「PR655でも同じようにできるか」という声がありました。機種ごとにカバー形状や表示は違いますが、注油ポイントは必ず取説や本体表示の図解で確認できます。まずは明日、ボビン部の図解を見て同じ位置づけのポイントがあるか確認してみてください。
マグネット枠を導入する場合の安全(ワークフロー拡張時)
生産性を上げる目的で マグネット刺繍枠 を使う場合、取り扱いは慎重に行ってください。
注意:マグネットは強力で、指を挟む危険があります。吸着面に指を入れたまま合わせないようにし、ゆっくり位置決めしてください。
針・可動部まわりの安全リマインド
注意:停止状態で作業し、可動部が動く可能性がある状態では拭き取りや注油をしないでください。
最後に、動画の結論をそのまま作業ルールにします:「始動前」と「ボビン交換ごと」に回転釜(レース)へ注油。これを守るだけで、油ジミのリスクを抑えながら、機械の調子を安定させやすくなります。
