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なぜカスタム枠設定が必要なのか?
多針刺繍機でマグネット刺繍枠を使うと、段取りが速くなり、デリケート素材でも枠跡が出にくく、一定のクランプ圧で作業できます。従来枠のように手首へ負担をかけて締め込む必要も減ります。
ただし重要な落とし穴があります。機械は、いま取り付けた枠を自動で「認識」してくれるわけではありません。
刺繍機の制御は座標(グリッド)です。機械側に保存されている枠プロファイルが、実際に取り付けたマグネット刺繍枠の幾何(中心/サイズ)と一致していないと、次のような損失が起きます。
- センターずれ: ロゴが左右に寄り、見た目のバランスが崩れる。
- 製品ロス: たとえば10mm下にずれるだけで、ジャケットやバッグが不良になる。
- 「クラッシュ」: ソフト上は余裕があるつもりでも、実際は枠が近く、針が金属枠に当たる(針折れ/枠打ち)。
本記事は、現場で再現できる「手順書(SOP)」として、BAI系インターフェースで安全に繰り返し使えるカスタム枠プロファイル(例:C1)を登録する方法をまとめます。流れは以下です。
- 原点復帰:Auto-originで機械を既知の原点に戻す
- 手動位置合わせ:針1を枠の「内側有効範囲」の真ん中へ合わせる
- オフセット記録:PX/PY(中心座標)を読み取る
- 境界定義:枠の内寸をmmで入力し、安全な可動範囲を確定する

事前整理:学べること/学べないこと
- 学べること: BAI/中国系ファームで一般的な操作パス(例:Settings → User → Auto-origin、続いて Settings → Parameter → Frame)に沿って、C1へ中心値とサイズを入力する具体手順。
- 学べないこと: どの機械でも通用する「万能の数値」。動画でも示されている通り、オフセットは機械ごとに異なります。PX/PY(例:104/0)はサンプルであり固定値ではありません。必ず自機で取得してください。
これは単なる「数値入力」ではなく、キャリブレーション(校正)です。物理の枠と、機械の座標系を一致させる作業だと捉えてください。

注意: 挟まれ危険。 Auto-originや自動移動中は、枠駆動(パンタグラフ)が強いトルクと速度で動きます。手・ハサミ・衣類の端などを可動範囲に入れないでください。完全停止を確認してから手を入れます。
手順1:取り付けと位置合わせ(物理側)
Mighty Hoop(マグネット刺繍枠)の取り付け
最初はソフトではなく、取り付け精度がすべてです。マグネット刺繍枠をパンタグラフのドライバーアームに確実に装着します。
取り付けの基準(触感/感覚で判断): ブラケットをドライバーアームへ差し込むとき、きちんと座った感触がある状態にします。ネジは指で確実に締め、ガタが出ないことを優先します(過度な締め込みは避けます)。
なぜ重要か: 取り付けがわずかに斜め(スキュー)でも、中心合わせが対角方向にずれます。以降のジョブがすべて同じ傾きでズレ続ける原因になります。

Auto-origin(原点復帰)を実行
次に、機械の「絶対原点」を作ります。画面操作は以下の順です。
- Settingsへ
- Userを選択
- Auto-originを押し、OKで確定
機械がリミットへ移動してから待機位置へ戻ります。これは座標の地図を「リセット」する行為です。ここを飛ばすと、PX/PYが不定の位置から計算され、再現性が落ちます。

針1を「中心」に手動で合わせる(枠張り前提の位置合わせ)
原点が取れたら、次は機械に「この枠の中心」を教えます。
- 画面のNeedleをタップ
- Needle 1(針1)を選択し、針1がアクティブになったことを確認
動画でも触れられている通り、初期状態では針1が枠中心に来ていないことがあります。
- Other(手動移動/ジョグ)を選び
- 矢印キー等でパンタグラフを動かし、針1が枠の中心に来るまで追い込みます
見た目確認のコツ(視差を減らす): 斜めから覗くと視差で数mmズレます。可能な限り正面から、針の真下を見て「中心」を判断します。

補足:枠の「外形中心」ではなく「縫製有効範囲の中心」
ここが最重要ポイントです。
- 枠(外形):見えているプラ/金属の外周
- 縫製有効範囲:針が安全に動ける、枠の内側の空間(内寸)
マグネット刺繍枠は縁が太いことがあります。中心合わせは、外形ではなく内側の有効範囲を基準にしてください。外形で合わせると、結果的に縫製範囲が枠側へ寄り、枠打ちリスクが上がります。
PX/PYを記録する前のチェックリスト
数値を取る前に、最低限ここだけ確認します。
- 固定確認: ブラケットが奥まで入り、ネジが締まり、局所的なガタがない
- 干渉確認: 背面側へ動いたときに、衣類や枠が本体/壁に当たらない
- 針の状態: 針1が曲がっていない(曲がり針は中心の見え方が狂います)
- 計測準備: メジャー(mmが読めるもの)とメモの準備
- 消耗材: 後でテスト縫いできるスタビライザー(刺繍用の裏当て)を用意(枠サイズは bai 刺繍ミシン 刺繍枠 サイズ を確認)
手順2:機械オフセット(PX/PY)を取得する
針1が枠の内側有効範囲の幾何学中心に来た状態で、メイン画面の座標表示を確認します。
- PX:X方向のオフセット
- PY:Y方向のオフセット
- 動画の例: PX = 104、PY = 0

X/Yオフセットの意味(なぜこれで合うのか)
PX/PYは、機械に対してこう伝える数値です。
「原点(Origin)から、この枠の中心へ行くには、X方向に何mm、Y方向に何mm移動すればよいか」
一度保存すれば、機械は毎回探す必要がなく、同じ座標へ再現移動できます。
補足:PX/PYが動画と違っても正常
画面が PX: 98 や PX: 112 でも問題ではありません。設置水平、パンタグラフの校正状態、機械の個体差で数値は変わります。動画の例より、自機の画面表示を優先してください。
手順3:枠パラメータ(Frame)を登録する
ここから、取得した数値を機械に記憶させます。
Parameter(パラメータ)メニューへ移動
操作パスは次の通りです。
- Settings(歯車)
- Parameter(機種によっては「Proper Setting」等の表記)
- Frame(枠管理のタブ)

カスタム枠スロット(C1)を選ぶ
A/Bが工場プリセットの場合があるため、カスタム枠(C)側を使います。
- C1を選択
続いて、記録した座標を入力します。
- X Centre: PX(例:104)
- Y Centre: PY(例:0)

枠の内寸を正確に測る(枠打ち防止の要)
中心が入ったら、次は「どこまで動いてよいか(境界)」を定義します。
メジャーで、マグネット刺繍枠 の内側の幅(X)と高さ(Y)を測ります。
- 動画の例: X Size = 300 mm、Y Size = 260 mm




注意: マグネットの取り扱い。 マグネット刺繍枠 bai 用 のような強力マグネット枠は吸着力が強く、指を挟む危険があります。縁を持って扱い、勢いよく吸着させないようにします。また、医療機器(ペースメーカー等)への影響があり得るため、近づけないでください。
単位:mmとインチ(ここで崩壊しやすい)
枠は「11x13」のようにインチ表記で販売されることがあります(例:マグネット刺繍枠 11x13)。しかし、刺繍機の枠サイズ入力は基本的にmmです。
サイズ欄に「11」「13」と入れると、機械は11mm/13mmの極小枠だと解釈します。誤入力は衝突リスクにつながります。
ルール: 入力は必ずmm。プログラム時は「11x13」という呼称ではなく、実測した内寸(mm)を使います。
スタビライザー選び(マグネット枠運用の現実)
マグネット刺繍枠は、従来枠と比べて「押さえ方」が異なります。しっかり保持しますが、素材によってはテンションのかかり方が変わり、縫製中のズレやシワの原因になります。そこでスタビライザー(刺繍用の裏当て)の選定が重要です。
- 伸縮が強い素材(ニット系など):縫い縮みや引き込みが出やすいので、保持力のある裏当てを優先
- 薄手で動きやすい素材:バタつき(浮き)やシワが出やすいので、固定方法を工夫
- しっかりした素材(キャンバス等):比較的安定しやすい
※本記事では、動画内で具体銘柄/目付の指定がないため、素材特性に応じた考え方のみ整理しています。
段取り改善(枠張り精度がボトルネックのとき)
枠張りの斜め・位置ズレが頻発する場合、手技だけでなく治具の導入が効きます。
- 枠を毎回同じ位置で固定できる マグネット刺繍枠 用 枠固定台 を使うと、位置合わせの再現性が上がります。
最終確認
新規プロファイル(C1)を選択
入力が終わったら、選択して動作確認します。
- 枠選択画面へ戻る
- 登録した C1 を選択
- Select/Set で確定

自動センター移動を目視確認
機械が、登録した中心(例:X:104、Y:0)へ移動します。
確認ポイント: 針1が、手順1で合わせた「内側有効範囲の中心」に戻ってくるか。大きくズレる場合は、PX/PYの取り方(中心合わせ)からやり直します。

画面のPX/PYを最後に照合
座標表示を見て、保存した値と整合しているか確認します。

補足:再現性テスト(高額素材を守る)
安定しているかを確認するには、次の手順で再現性を見ます。
- 電源OFF
- 電源ON
- Auto-origin
- 枠プロファイル C1 を選択
同じ位置へ戻れば、プロファイルとして安定しています。
セットアップ完了チェックリスト
- 原点復帰: 入力前にAuto-originを完了した
- 数値一致: C1のX Centre=PX、Y Centre=PY
- mm入力: X/Y Sizeがmm(例:300/260)で入っている
- 内寸基準: 外形ではなく内側有効範囲を測った
- 選択確認: C1選択で機械が正しく移動する
運用(保存したプロファイルを実ジョブで使う)
登録ができたら、以降は標準手順として回せます。
- 枠張り: 衣類を bai マグネット刺繍枠 にセット
- 装着: ドライバーアームへ取り付け、確実に固定
- 選択: 枠プロファイル C1 を選ぶ(自動で中心へ移動)
- トレース: 本縫い前にトレース(アウトライン確認)で可動範囲を必ず確認
スタート前チェック
- プロファイル: 画面でC1(または該当スロット)が選択されている
- トレース: 枠の内側に十分余裕がある動きになっている
- 置き忘れ: ハサミ等がベッド上に残っていない
- 裏当て: スタビライザーが適切にセットされている
品質チェック(良い状態の目安)
- 中心精度: テスト用の十字などが枠の真ん中に入る
- 安全余裕: トレース時に枠へ近づきすぎない
- 再現性: 枠交換を繰り返しても中心が安定する
中心が徐々にズレる場合は、取り付け部の緩みやガタを疑い、固定状態を再点検します。
トラブルシューティング
症状1:デザインが毎回センターからズレる
原因の候補:
- 内側有効範囲ではなく、外形を基準に中心合わせした
- Auto-origin前後の手順が崩れ、原点が基準になっていない
対処:
- 手順1からやり直し、内側有効範囲の中心で合わせ直してC1を上書き
症状2:枠に近づきすぎる/当たりそうになる(枠打ちリスク)
原因の候補:
- 外寸を測って入力した
- インチ表記をmmとして誤入力した
対処:
- 内寸を測り直し、X/Y Sizeを修正
症状3:C1選択後、想定外の位置へ移動する
原因の候補:
- Auto-origin後に手動移動を挟むなど、手順の順番が一定でない
対処:
- Auto-origin → すぐC1選択、の順を固定して運用
症状4:どのスロットがどの枠か分からなくなる
原因の候補:
- C1/C2/C3が見分けにくく、現場で混乱する
対処:
- 物理枠側に「C1(300x260)」のようにラベルを貼り、デジタルと現物を紐づける
まとめ(得られる成果)
この bai 刺繍ミシン の手順を押さえると、次が実現できます。
- 安全性: 境界が定義され、枠打ちリスクを下げられる
- スピード: 毎回の手動センタリングが不要になり、段取りが短縮
- 精度: 量産でも位置が再現しやすくなる
つまり、マグネット刺繍枠 11x13(機械入力上は300x260mmとして扱う)を、自機固有の座標系へ正しくマッピングできた状態です。
次のステップとして、段取り時間が利益を左右していると感じたら、消耗材(スタビライザー)や治具の見直し、運用の標準化を進めると、さらに安定した量産フローに近づきます。
