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ボビン周りメンテナンス決定版:「ガリガリ音」の不安を消す
マシン刺繍の現場で、経験年数に関係なく背筋が冷たくなる音があります。突然の「ゴリッ」という感触のあとに続くガリガリ音、そして画面に出るエラー表示。
多くの場合、原因はひとつに集約されます。糸が絡んだ“鳥の巣”状態です。
テンションをいじったり糸を疑ったりしがちですが、根本原因はたいてい「環境要因」——つまり 糸くず(リント) か バリ(傷) がボビン周りにあることです。
マシン刺繍は「経験則+機構理解」で精度が上がります。表面をサッと払うだけでは不十分で、回転釜(ロータリーフック)で上糸がボビンケースの外周を“抵抗なく”回れる状態を作る必要があります。ほんのわずかな引っ掛かり(微小な傷や糸くず)でも、糸切れ・目飛び・異音につながります。
このガイドでは「掃除する」ではなく「点検してから掃除し、組み戻しで確実に復帰させる」ことを目的に、手の感覚(引っ掛かり・抵抗・音)まで含めて手順化します。

準備:作業を“整える”
ドライバーを持つ前に、考え方を切り替えます。これは単なる掃除ではなく、トラブルを未然に防ぐための予防整備です。ボビン周りが清潔だと摩擦が減り、動作の重さ(負荷)や熱のこもり、そして目飛びのリスクを下げられます。
始める前に:「通電したまま作業」ルール
取扱説明書では電源OFFが基本です。一方、動画では見やすさのために電源ONのまま作業しています(内蔵ライトを使うため)。もし同じように通電状態で作業するなら、次の前提を守ってください。
- フットコントローラー(ペダル)を外す/誤作動しない状態にする
- 針の進路に手を入れない(針棒周辺は“危険エリア”として扱う)
用意するもの(“取り出す”ための道具)
ホコリを動かすのではなく、外へ出す道具を揃えます。
- コイン式/短柄ドライバー:ネジ頭をなめにくく、力をかけやすい
- 掃除用ブラシ:ボビン周りの糸くずを掻き出す
- ピンセット:絡んだ糸端の除去に便利
- 掃除機の細口アタッチメント(任意):吸い出し用(キーボード用など)
- 新品の針:清掃後に交換する前提で準備
- ネジを置く場所:落下防止のため、すぐ退避できる場所を確保
注意:安全手順(必須)
分解前に、押さえ金と針は必ず外します。これは妥協不可です。ネジ落下も厄介ですが、針が付いたまま手を入れるとケガや、内部機構の噛み込みにつながります。

手順1 — 作業エリアを分解して視界を確保
次の順番で進めると迷いにくいです。
- 電源の扱いを決める:電源OFFで作業する/通電するならペダルを外す
- 押さえ金を外す
- 針を外す
補足(現場のコツ): 針を外したら、その針は再使用せず交換前提にします。曲がりや先端の傷みは、ボビンケースへの針当たりの“きっかけ”になります。
手順2 — プラスチックのボビンカバーを外す
プラスチックカバーは、後方のくぼみ(指を掛ける部分)に人差し指を入れ、手前にまっすぐ引くのが基本です。

チェックポイント: 「パチッ」と外れる感触があり、機種によっては開放を知らせる電子音が鳴ることがあります。
手順3 — 金属の針板(ニードルプレート)を外す
コイン式ドライバーで、針板のマイナス(フラット)ネジ2本を緩めます。
重要: ドライバーだけで最後まで抜かず、ある程度緩めたら指で回して外すと落下しにくくなります。外したネジはすぐに作業台の安全な場所へ移動し、転がらないように立てて置くと管理しやすいです。

準備チェックリスト(作業開始の合否判定)
- 押さえ金を外した
- 針を外した(清掃後は新品に交換する前提)
- ボビンカバーを外した
- 針板ネジを落下しない場所に退避した
- 針板を持ち上げて取り外した
点検:ボビンケースの“傷”を見つける
縫い不良はテンションではなく、物理的な損傷が原因のことがあります。ここではボビンケース(黒い樹脂パーツ)を点検します。

「爪でなぞる」引っ掛かりチェック
目視だけだと小さな傷を見落とします。糸は小さな段差にも反応するため、触感で確認します。
- ボビンケースを取り出す
- 樹脂の縁(特に針が落ちる側)を爪で軽くなぞる
- 糸道の金属クリップ(糸ガイド)周辺も同様に確認
チェックポイント: 爪が「カチッ」と引っ掛かる箇所があれば、そこは糸を傷めたり引っ掛けたりする原因になり得ます。小さな穴(針当たり)でも糸の流れを阻害し、縫い不良につながります。
針当たり(Needle Strike)が起きる理由
厚物を無理に縫ったり、負荷が高い状態で針がたわむと、針がボビンケースに当たり、樹脂が欠けたり穴が開いたりします。深い欠けや穴がある場合は、掃除で改善しません。交換が必要です。
「自分の機種は印が違う」場合
動画では、ボビンケース側に白い三角/矢印、本体側(釜)に白い点があります。機種によっては色や形が違うことがあります(点ではなく刻みなど)。基本原理は同じで、ボビンケース側の目印と、本体側の目印を合わせることが重要です。
清掃:押し込まず“取り出す”
針板を外したら、回転釜(ロータリーフック)周辺=糸くずが溜まりやすい場所が見えます。

手順4 — ブラシで掻き出し、必要なら吸い出す
ブラシで糸くずを掻き出します。ポイントは、見える場所だけでなくボビンケースが座る下側にも糸くずが溜まりやすいことです。

糸端が絡んで取れない場合はピンセットを使います。
触ってはいけない部位(トリマー周辺)
回転釜の近くに、小さく尖った部品(糸切り刃/保持バネ機構)が見えることがあります。

ここは引っ張らない・曲げない・無理に掻かないでください。外れたり位置がずれたりすると、調整が必要になる場合があります。
注意:エアダスター(缶エア)は使わない
エアで吹くと、糸くずが奥へ入り込みやすくなります。必要なら、細口アタッチメント付きの掃除機で吸い出す方向で行います(吹き込まない)。
送り歯(フィードドッグ)も忘れずに
コメントでも「送り歯の間も掃除した方がいい」という声があります。送り歯の間に糸くずが詰まると布送りが重くなり、作業感が悪化します。ブラシや吸引で、見える範囲を軽く清掃します。
組み戻し:必ず「針板→ボビンケース」の順
組み戻しには順番があります。ここを間違えると「掃除したのに調子が悪い」状態になりがちです。
手順5 — 針板は必ず先に固定
ボビンケースを正しく座らせるには、針板が先に固定されている必要があります。
- 金属の針板を戻す
- ネジは手でねじ山に入れる(斜めに噛ませない)
- ドライバーでしっかり締める


チェックポイント: 手で回し始めた時にザラつきや引っ掛かりがあるなら、斜めに入っている可能性があります。いったん戻してやり直します。
手順6 — ボビンケースは「矢印(△)→白い点」で位置合わせ
次にボビンケースを戻します。
- ボビンケースの白い三角/矢印を探す
- 本体側(釜)の白い点を探す


- 目印同士を正確に合わせて、ボビンケースを落とし込む

チェックポイント: うまく座らないときは、無理に押し込まず、はずみ車を手前(自分の方向)にゆっくり回すと、内部が回って「ストン」と収まることがあります。針板を緩めて入れようとするのは避けます。
最終確認:縫う前に“手回し”で当たりを見る
いきなり縫い始めず、まず安全確認をします。
手順7 — 新しい針を取り付け
新品の針を取り付けます。針は奥までしっかり差し込み、固定ネジを締めます。

手順8 — はずみ車を手前に回して2回転
はずみ車を手前に回して、2回転(合計720度)ほど確認します。
チェックポイント:
- 感触:引っ掛かりや重さがないか
- 音:金属的な「チッ」という当たり音が出ないか(出たら即停止)
- 動き:針がスムーズに上下するか
手順9 — プラスチックカバーを戻して“隙間ゼロ”
カバーを元の位置へスライドして戻します。

チェックポイント: プラスチックと金属針板の間に隙間がないこと。隙間があると布が引っ掛かる原因になります。
清掃後の判断フロー(次に何をする?)
- A:手回しが軽く、異音なし
- 対応:糸をかけ直し、端布で試し縫い
- B:組み戻したら手回しが重い/ザラつく
- 対応:再度分解して、糸くずの噛み込みやボビンケースの座りを確認
- C:清掃したのに糸がすぐ引っ掛かる/切れる
- 対応:針の取り付け状態を確認し、ボビンケースの針当たり(穴・欠け)を再点検。小さな穴でも問題になります
- D:どうしても解消しない/エラーが続く
- 対応:無理をせず、販売店・技術者に相談(コメントでもサポート窓口や販売店での点検を推奨する案内があります)
運用チェックリスト(再稼働前)
- ボビンケースの目印を合わせた(矢印→白い点)
- ボビンケースの前に針板を固定した
- はずみ車を2回転して異音・抵抗がない
- 針を新品に交換した
- カバーが面一で隙間がない
清掃の次:作業効率を上げる“枠”の見直し
ここまでの手順で機械側が健全になっても、糸切れやズレが頻発する場合は、素材の保持(枠張り)側に原因があることもあります。
清掃は機械内部の安定化。枠の見直しは、素材との“相互作用”の安定化です。
従来フープの弱点
一般的な樹脂フープは摩擦と締め付けでテンションを作ります。強く締めすぎると生地が歪み、結果として針の負荷が増え、針のたわみ→針当たりのリスクが上がることがあります。
選択肢:マグネット式の枠張り
薄手やデリケート素材、または本数が多い作業では、magnetic embroidery hoopのようなマグネット式を検討する人もいます。
- メリット:均一に押さえやすく、締め付けムラが出にくい
- 注意:機種ごとの適合があるため、購入前に確認が必要です。Baby Lock向けとしては マグネット刺繍枠 babylock 用 のように機種対応を明記したものを探すと判断しやすくなります
注意:マグネットの取り扱い
babylock 刺繍枠 のような強力マグネットを使う枠は便利ですが、挟み込みに注意が必要です。
1. 指を挟まないよう、クランプ部に指を入れない
2. 医療機器(ペースメーカー等)を使用している場合は距離を取る
いつ見直すべき?
- 枠跡(枠跡)が出やすい素材を扱う
- 手の負担(締めネジの操作)が大きい
- 枠張りの再現性を上げて段取り時間を減らしたい
トラブルシューティング:「症状→原因→対処」早見表
まだ不調がある場合は、症状から切り分けます。
| 症状 | ありがちな物理原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 鳥の巣(下側で糸が絡む) | 上糸のかけ直し不良、またはボビンケースの傷 | 押さえ金を上げた状態で上糸をかけ直す。ボビンケースを爪でなぞって引っ掛かり確認 |
| 縫っているとカチカチ音がする | 針が曲がって針板/ボビンケースに当たっている | 針を交換し、手回しで当たりがないか確認 |
| ボビンケースが浮く/外れそう/回る | 釜のキー溝に正しく座っていない | 目印(矢印→白い点)を合わせて入れ直し、手回しで「ストン」と収まるか確認 |
| 縫い目は問題ないのに音がひどい | 組み戻しのズレ、または点検が必要な状態 | まずは目印合わせと手回し確認。注油については取扱説明書の指示に従う(指示がない場合は自己判断で注油しない) |
| 針板のネジが固くて外れない | 締め過ぎ、ネジ頭の損傷リスク | ドライバーを強く押し付けてから回す。なめそうなら無理をせず相談(コメントでも固いネジの悩みが出ています) |
| 掃除しても動作が遅い | 清掃以外の要因の可能性 | 清掃で改善しない場合は点検が必要(コメントでも「遅い」相談があります) |
まとめ:清掃で“基準状態”に戻す
「針板を先に固定」し、「ボビンケースの目印を合わせ」、「手回しで当たり確認」までできれば、機械の基準状態を取り戻せます。
仕上がりのイメージは次の3点です。
- ボビンケースが水平に座っている
- はずみ車が軽く回り、異音がない
- カバーが面一で、布の通り道がスムーズ
定期的なメンテナンスは修理費を抑えるだけでなく、作業者の判断力も上げます。機械側が整うと、次は枠張りや素材保持(必要なら Baby Lock マグネット刺繍枠 のような選択肢)に集中できます。
こまめに清掃し、正しく枠張りし、指を守って作業を続けましょう。
